[220] 乙姫、ひさびさに失踪!? 投稿者:daiya◆K・たに 投稿日:01/09/18(Tue) 20:37
 2001年9月9日。

 WWPLの興行にスポット参戦するため、巡業先である熊本市にやってきた稲葉ましろ。

稲葉ましろ 「おはようございまーす。今日はよろしくお願いします」
望月登子  「おっ、ましろ。おはよう。お手柔らかに頼むよ」

 会場に入り、挨拶をしてまわる稲葉が、見慣れた後ろ姿を見つける。

稲葉   「おはよう、里見ちゃん」
里見恵理 「え、あ、ああっ!? 稲葉はん! お、おはようござ……うひゃあ!?」

 あわてて振り向いて挨拶しようとし、勢い余ってコケたのは、“明るい不幸少女・里見ちゃん”こと里見恵理である。

里見 「あ、あいたたた……」
稲葉 「あはは。相変わらず元気そうだね、里見ちゃん」
里見 「はい〜! それはもう、元気なのはウチの取り柄ですから!」
稲葉 「ははっ。良かった。ちょっと安心した。……ところでさ、乙姫って、まだこっちにいる?」
里見 「はえ? お、乙ちゃんですか? いえ、会ってませんけど……」
稲葉 「……え?」
里見 「ま、まさかまた、乙ちゃんに何かあったんですか?」
稲葉 「う〜〜ん……いえね、私たちちょっと今月頭、旅行行ってたんだけど、その途中で、乙姫がまたいなくなっちゃったのよ」
里見 「ええっ!?」
稲葉 「……ただね、今回は書き置きがあったの。『里見ちゃんのところへちょっと行ってきます。心配しないでください』ってね」
里見 「……で、でも、こっちには一度も来てないですよ?」
稲葉 「あっちゃ……困ったなあ。乙姫、あなたがいなくなってからずーっと寂しそうでさ。それで、絶対に里見ちゃんのところに行くんだ、って言ってたあげくの書き置きだったから、まさかウソってことはないと思ってたんだけど……」
里見 「……乙ちゃん……」
稲葉 「とりあえずさ、電話貸してもらえるように言ってくれないかな。社長に連絡しないと」
里見 「は、はいぃ! 昌……違う、しゃ、社長は〜ん!?」

 とてとて、と走り去って(当然途中でコケて)行く里見ちゃん。

稲葉 「最近、乙姫もしっかりしてきたから大丈夫だって思ってたんだけど……まさか、こっちに来てもいないなんて……やっぱり、道に迷っちゃったのかなあ……心配……」

〜続く〜

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※badmanさん、阿僧祇さんの了承済です。

[221] 乙姫失踪の真相? 投稿者:daiya◆K・たに 投稿日:01/09/18(Tue) 20:38
 WWPL興行に出向いた稲葉によって、乙姫がWWPLに行ってもいなかったことが判明した、その4日前こと、9月5日夜。
 じつは、乙姫は大日本海女子勢が巡業に出かける直前に、確かに鳥取に来ていた。
 ところが……。

乙姫 「やっと……鳥取についたぁ……」

 過去にも鳥取の大日本海女子プロレスを訪れたこともあることもあり、乙姫は珍しくすんなりと鳥取にたどりついていた。
 そして、里見ちゃんに会うべく大日本海女子プロレスの事務所前まで来ていたのである。
 しかし、さすがに入口から少し離れた場所で戸惑っていた。

 ガチャ。

 その時、扉からなんと里見恵理が現れた。

乙姫 「あっ! 里見ちゃ……」

里見恵理  「なーなー、昌哉はん、はよ行こうな〜」
大田垣社長 「ちょ、ちょっと里見ちゃん、そんな引っ張らないで……」

 日海の大田垣社長の腕に抱きつき、とても嬉しそうに微笑みながら大田垣社長にじゃれつく里見ちゃん。
 その姿を見て、前に進みかけていた乙姫の足が、止まった。

乙姫 「あ……」

 踏み出せなかった。
 里見ちゃんのとても嬉しそうな様子。
 そこに入ることはできなかった。
 そこに自分の居場所は、なかった。
 少なくとも乙姫は、そう感じてしまったのだ。

乙姫 「そう……なんだよね……里見ちゃんには……もう……」

 あわてて振り返り、逃げるように走り去っていった乙姫。
 どこに逃げるとか、そんなことはどうでも良かった。
 とにかく、この場所を離れたかった。

大田垣社長 「……あれ? 今、誰かそこにいたような……」
里見恵理  「ええっ? ……気のせいやって。それより、な……」

 ・
 ・
 ・

乙姫 「やっぱり……私は……ひとりなんだ……ひとり……ううっ……うわああん!!」

 涙を浮かべながら、どこともなく走り去る乙姫。
 その姿は、鳥取の暗闇に消えていった……。

〜つづく……はず。〜

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※badmanさん、阿僧祇さんの了承済です。

[219] あるオフの風景 〜新しい流れの予兆〜 投稿者:daiya◆K・たに 投稿日:01/09/18(Tue) 20:36
 2001年9月8日昼、横浜・DIA-J事務室

 9月上旬の慰安温泉旅行も終わり、DIA JAPANとしては久々の長期オフに当たる期間に入っていた。
 DIAでは長期オフの行動はまったく規制していないため、実家に帰ったりどっかいなくなっても構わないことになっている。
 しかし、空白いずみ、星野真琴、浜岡奈々緒、霞月いおりといったAngel☆Force公式戦参戦組や、善女継続参戦中の蒼樹玲奈、そしてKIZUNAファクトリーの天野真琴との世界タッグ挑戦を明日に控えた宮本陽子など、ほとんどの選手は道場に入って普段と変わらぬ練習を続けている。
 道場にいない者と言えば、里見ちゃんのところへ行く、と書き置きを残して消えた乙姫と、原点を確かめに行く、とプエルトリコへ旅立ったカモンとルナくらい。
 もっとも、普段はオフとなると行き先も言わずにどこかへ行ってしまうルナだけに、これもかなり珍しいことである。

 そんななか、たに社長もまた忙しい日々を送っていた。
たに社長 「はい、はい……いえ、こちらこそ……それでは、よろしくお願いします」
 緊張した面持ちで電話を切った社長が、ふぅ、と息をつく。
社長 「なんとか、なりそう……かな?」
 温泉旅行中にルナと話し合った結果、やはりルナの気持ちはQOJトーナメントで敗れた金森麗子を次期三冠ジュニア戦挑戦者として指名する、というままで変わっていなかった。
 もしそれができないならベルトを返上する、とまで言ったルナの気持ちを社長も汲み、とりあえずどさんこ女子のほうへと話を切りだしたところである。
社長 「うう……しっかし、あの上原選手……今は上原さんか。とまでこういうビジネスな話をすることになろうとはね……なんか、旗揚げ当時からすれば夢のような話だよなあ」
 ここ数日続く、相変わらずはっきりしない曇り空を見上げ、社長はぼーっとたたずんでいた。

 コンコン。

柊深雪 「……あの、社長? お手紙が届いてますけど、いいですか?」
社長  「あ、はいはい。入ってきちゃって〜」

 “永遠の眼鏡っ娘練習生”柊深雪が、ジャージ姿で手紙を持って事務所に入ってくる。

深雪  「どうぞ」
社長  「ありがとう。で、誰からかな……って、き、菊池理宇ぅ!?」
深雪  「……菊池理宇、って、あの菊池選手からですか!?」

 社長が軽い興奮状態になったまま、手紙を妙に丁寧にはさみで切り取って開封する。

菊池理宇 「ども、菊池理宇です。実は、ユニット『TWENTY−ONE』の発展的解消に伴い、あたしも再び団体契約でリングに上がろうと考えています。TMLLさんからもお声がかかっているんですが、弟子の相川ユリがどちらかというとDIAJAPANに行きたがっていますので、もしよろしければ彼女と共に団体契約を結ぼうと考えています。DIA JAPANの社長さんと、この件でお話ししたいと思います……(後略)」

社長  「……う、うわ……なんてこったい」
深雪  「どうしたんですか?」
社長  「……菊池選手と相川選手が、ウチと契約したいって」
深雪  「え、ええ〜〜っ!?」
社長  「まだ決まったワケじゃないけどね。とりあえず、話し合いはこれから、だけど」
深雪  「す、すごいですね」
社長  「……うん」
深雪  「……社長?」
社長  「ごめん、ちょっと緊張してる(苦笑)。……あ、これはまだ決定事項でも何でもないから、まだ他の人には秘密ってことにしといてね」
深雪  「は、はい……それでは、失礼します」

 用事を終えた柊深雪が部屋を去った後、社長がまた大きな息をつく。

社長  「なんか、大変なことになってきちゃったかも……ルナが聞いたら、なんて言うかな。……いや、それより、相川ユリ……むしろ彼女のほうが、面白いかもしれないな」

 と言いながら、軽く笑い、そして電話機を取るたに社長なのであった。

社長  「あ、もしもし……はい。私、DIA JAPANのたにですけど……」
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※エピソードの一部に、井手たかしさんの協力を頂いています。

[213] お疲れ天野さん 投稿者:TAKU 投稿日:01/09/18(Tue) 13:30
 天野真琴さんは最近、ホントに忙しい。
 ざっとあげるだけでも、プロレスラーとしての本業であるトレーニング、DIA、真女での興行参加。そのほかにも、KIZUNAファクトリーの母体である『サザントレーニングジム』での週3回のインストラクター(天野はカンフービクスというオリジナルの教室を持っている。5歳からずっと学んできた中国拳法、八極拳と長拳をベースにボクササイズやカラテビクスと同じような有酸素運動をおこなうためのメニューを指導している。ちなみに神田はボクササイズ、中原、荒谷、永原はマシントレーニング、高村はエアロビクスを担当している)の仕事、さらにKIZUNA事務所での事務手伝い、団体アピールのための主にバラエティー番組などへのテレビ出演にプロレス誌の取材、それにDIAや真女などKIZUNA勢が上がっている団体との打ち合わせ、荒谷たちの言うことなかなかきこうとしない大塚雪緒の練習を見ることなどなど毎日仕事がいっぱいある。それに加えて最近は歌手デビューをするためのボイストレーニングに、ダンスレッスンが天野のスケジュールに追加されている。
 朝早くから夜遅く(ときどき朝)まで、天野は毎日毎日、日によっては分刻みのスケジュールで走りまわっている。基本的にイヤと言えない性格の天野は、断ることができずに取材や出演依頼をほいほい受けてしまうため、その忙しさは日を追って増していく。いつのまにかマネージャー役となっている都鳥美貴嬢もついていくのがやっとらしい。
 あまりの過密スケジュールぶりに南や高村が心配しているが、天野はにこやかに微笑みながら「大丈夫です」と言っている。が、最近は半日休みが月に1日か2日取れるか取れないかという状態になっているため、過労で倒れるのも時間の問題とKIZUNA内部ではひそひそとウワサされている。

 そんなある日の朝。
 みんなでわいわいと朝食を取ったあと、食堂に残って高村と一緒に当番の食器洗いをしている途中、高村の目の前で、天野はまるでコメディーのようにふらっとそのままの姿勢で真横に倒れた。
「ま、まーちゃん! まーちゃん!!」
 驚いた高村の声を聞きながら、天野はゆっくりと気が遠くなっていった‥‥。

「すみまふぇん‥‥」
 自分の部屋のベッドに横になり、電子体温計を口にくわえた天野が、真っ赤な顔をしてベッドサイドの南に謝っていた。
 ピピピと電子音を発した体温計を、天野より先に南が手に取り表示画面に目を落とす。
「39度2分‥‥。どうやら夏風邪みたいだけど、こんなに熱を出すまで、なんでだまってたの?」
「すみません‥‥」
 ばつが悪そうに、タオルケットを口元まで引き上げながら、天野はもういちど謝った。と、そこへアイス枕とホットレモネードがたっぷりと入ったポットを持って、高村が部屋の中へ入ってくる。
「まーちゃん、大丈夫?」
「大丈夫です。すみません、高村さん、お皿割れてませんでした?」
「お皿は全然大丈夫だけど、ホントびっくりしたよ。いきなりふらって倒れるんだもん」
「すみません‥‥」
 さらに真っ赤になりながら、天野はまたまた謝っていた。
「謝らなくて言いから、今日はゆっくり休みなさい」
 南の言葉に天野が慌てて、起きあがろうとする。
「いえ。そんな休むなんて‥‥」
「いいから。今日は全部、オフ。いいわね」
 そんなやりとりを聞きながら、高村が天野に疑問を口にした。
「ねえ、まーちゃん。休んでられないって、今日はなにがあるの?」
「今日は試合がありませんからそんなに多くはないんですけれど。午前中にジムでのカリキュラム作成と雪緒との練習。それとKIZUNA事務所で広報資料作成して、午後から週間エンジェルスの取材があって、夜からボイストレーニングとダンスレッスンです」
 指折り数えながら今日のスケジュールを暗唱する天野にそこにいる全員が呆れてしまう。
「‥‥毎日そんなことやってるの?」
 呆れたように言う高村が言う。
「え? でも、今日は試合がないし、いつもに比べたら全然少ないほうですけれど‥‥」
「まーちゃん、1日何時間寝てるの?」
「えっと‥‥6〜7時間くらいは寝てると思います。わたし、電車のなかとか移動でけっこう寝ちゃうから‥‥」
「ベッドには何時間くらい入ってるの?」
「う〜〜んと‥‥日によっては2時間ないかも‥‥。あ、でも試合がある日はちゃんと前の日に6時間はベッドで寝て、疲れないようにしてます」
 それを聞いた南が呆れたように言った。
「天野になんでも頼んでいた私たちにも問題があるみたいね‥‥。今日は取材以外、全部お休みにすること、いいわね」
「でも‥‥」
「倒れるほどの過密スケジュールを続けてるほうがよっぽど問題よ」
 と、そのとき、天野の部屋の内線が鳴った。
 起きようとする天野を制して、南が受話器を取る。
「‥‥ええ、わかったわ。つないであげて、天野に代わるから」
 南が、天野に受話器を示す。
「ご両親から電話だそうよ。起きられる?」
「あ、はい。すみません」
 ベッドから腰を上げ、天野は南の手から受話器を受け取る。
「‥‥はい、真琴です。‥‥なんね? ん、どげんもこげんも‥‥熱でとるだけ。‥‥そげん、わるかなかとよ。大丈夫やけん、そげんふうに言わんで、ね。熱も、ちょっと風邪ばひいただけやけん‥‥はい。ん、はい、はい、じゃ、また、ね」
 電話を置いた天野に高村が言った。
「まーちゃんが金八先生になっちゃった‥‥」
「? ‥‥ああ、すみません。わたし、家族と話すときって方言がでちゃうんです。母親が今だに方言でしゃべるので‥‥。でも、わたし半分以上忘れてるんで、逆におかしい言葉になってるんですけれど‥‥」
「そう言えば、天野の出身は福岡だったのよね」
「はい。生まれは福岡市で、すぐに大宰府天満宮のすぐそばに引っ越したんです」
「へえ、そうなんだ。あかねも高校受験のとき親戚の叔母さんにお守り送ってもらったよ」
「歩いていけるところに天満宮があったんで、よくそこで遊んでました。おやつに梅ヶ枝餅ばっかり食べてましたから」
「梅ヶ枝餅かあ。あれ、美味しいんだよね。焼きたてのあつあつを頬張るのがたまんないんだ」
「冷めると美味しくなくなっちゃいますから。梅ヶ枝餅は、屋台でその場が基本ですから」
 思いきりローカルな話題で盛り上がる天野と高村。
 高村は山口県宇部市の福岡寄りの出身で、行こうと思えば天満宮まで約3時間ほどでいけるのだ。
「梅ヶ枝餅の話はいいから、天野は横になりなさい。今のあなたにいちばん必要なのは休むことよ」
 南に言われて、ベッドに入る天野。
 高村が、天野の額に熱さましシートを貼りつけ、ベッドの側に運んできたミニテーブルにホットレモネードの入ったポットとマグカップをセッティング。
 薬を飲んだ天野に、あつあつのホットレモネードを注いだマグカップを手渡す。
「ありがとうございます」
 ふー、ふーと息を吹きかけてさましながら、天野はマグカップに口をつける。
 一口飲むと、お腹のなかからじ〜〜〜んと温かくなってくる。
「風邪引いてるときはあったかいもの飲んで、寝るに限るからね」
「すみません‥‥」
 天野はホットレモネードを飲み終わると、ベッドに横になった。
「取材が来たら起こしてあげるから、少し寝てなさい」
「はい‥‥」
 南に言われ、天野はタオルケットと夏布団を被った。
「あとで、おかゆ作って持ってくるね」
「あ、ありがとうございます、高村さん‥‥ですけど‥‥」
「あ、そっか、ゴメンゴメン。まーちゃん、普通のおかゆ苦手だったっけ。じゃあ、中華風の雑炊にしたげるね」
「すみません‥‥わがまま言って‥‥」
「いいから、いいから。風邪引いたときくらい好きなもの食べなきゃね。桃のシャーベットも作ったげるから」
 そう言って高村と南が部屋を出て行き、天野はそっと目を閉じた。
 南の言うとおり、今の天野に必要なのは休息なのだろう。
 ホットレモネードの効果もあったのか、5分もしないうちに天野はすーすーと規則正しい寝息をたてはじめる。
 明後日にはまた試合がある。
 今日は、今日だけはみんなの気持ちに甘えてもいいだろう。
 天野はそのまま夢のなかへとおりていった。

[212] 竜巻スパーリングの余波(笑) 投稿者:TAKU 投稿日:01/09/10(Mon) 13:29
 深沢社長が電話をもらった石川さんに言ってしまった一言が、今KIZUNAで問題となっている(笑)。武田晴歌と相川ユリの2人をあずかって、KIZUNA式実戦竜巻スパーリングをおこなうことになんら問題はない。
 竜巻スパーリングとは、高村命名のKIZUNAファクトリーにおけるもっとも過酷な実戦スパーリングのことだ。ひとりの選手に対し、KIZUNA所属選手が連続でかかる、時間無制限の地獄のスパーリングの過酷さはかなりのもので、タフネスでならす永原、荒谷、高村でさえ胃液を吐いて悶絶するほどだ。
 この間、中原千早希がチャレンジしたときに、偶然その場に居合わせ、その様子をみた蒼樹玲奈が雑誌にインタビューのなかでついでてしまったコメントと、その中身を伝え聞いている武田の怯え具合と相川のリアクションがファン、関係者の間で大注目されてしまったのだ。妙に盛りあがってしまったがために、相川と武田に対して対戦を要求しているセリア・エンジェルが面白くないとヘソを曲げたほどだ(笑)。
 しかし‥‥。
 この異様な一部の盛りあがりが問題なのだ。

南 利美  「困ったわね‥‥」
天野真琴  「困りましたね」
南 利美  「だいたいただの道場でのスパーリングに、取材申し込みがこんなにあって、ファンや関係者からのあるはずのないチケットの問い合わせがこんなにくるのかしら」
天野真琴  「ほとんど道場マッチ的なノリで公開されちゃいましたから」
南 利美  「どうしたらいいのかしら」
天野真琴  「高村さんは『ワンマッチの道場公開でいいんじゃない?』って笑ってましたけれど」
南 利美  「公開なんてできるわけないでしょう。プロとしての試合じゃないんだから、お金なんてもらえるわけないし。ファンがどんなイメージもっているか知らないけれど、本当にただのスパーリングなんだから」
天野真琴  「ですけど、今までの武田さんや相川さんとのこと見てると、リンチって言われてもしょうがないような‥‥」
南 利美  「どうして私が武田や相川をリンチにかけなきゃならないの?」
天野真琴  「いえ、わたしが言ってるんじゃなくて、そういう風に見ている人も多いらしいですし‥‥」
南 利美  「わかってるわよ、そんなこと。でもね、私は別に武田や相川をどうこうしたいから引きうけたわけじゃないわよ」
天野真琴  「え? 違うんですか?」
南 利美  「天野〜〜〜〜〜」
天野真琴  「じょ、冗談です」
南 利美  「武田に関してはああやって、売り言葉に買い言葉で追い詰めればイヤでも選手として成長するでしょう。相川はビッグマウスに対する責任と背負うものの大きさを理解してもらいたいのよ」
天野真琴  「でもホントにどうします? この感じだと取材もファンも入れないようにすると、ものすご〜〜く問題になる気がしますけど」
南 利美  「入れれば入れたで問題になるだろうし、入れなければ入れないでそっちも問題だなんて‥‥。ああ、頭が痛い‥‥」
天野真琴  「でも、そろそろどうするか決めないとマズイですよね」
南 利美  「ホントに‥‥頭が痛いわ‥‥」

 さてさて一部で盛りあがりつつある竜巻スパーリング。
 どんな公開形式になるのか、南利美は頭の痛い日々が続くようです(笑)。

[211] もてもて千早希ちゃん 投稿者:TAKU 投稿日:01/09/07(Fri) 11:58
 中原千早希は最近、少々困っている。いや、困っているというよりも、困惑しているというほうが正しい。
 デビュー当時からその気はあったのだが、最近一部(あくまで千早希は一部だと思っている)のお姉さまファンからのラブコールが異様に盛り上がっているようなのだ。
 真女の会場に自分の入場のときに黄色い声を上げる女性の一団が『中原千早希LOVE』という大きな文字の周囲にハートマークが乱舞している横断幕をつくってくれている。それに付随して、だんだん黄色い声を上げている女性たちが増えたような気がする。
 最近は、DIAの会場でも黄色い声が聞こえ始めている。
 どうやら、そのお姉さまファンたちの目には千早希は、紅顔の美少年系として捉えられているようなのだ。
 星野真琴の一言から始まった青樹玲奈を巡る問題の時など、そのときの凛々しい千早希の姿(笑)に黄色い声援が会場に響き渡った。
 8月30日におこなわれたTWENTY−ONE自主興行『アドゥレセンス黙示録』のときもそうだった。もちろん自分以外にも男装でキャラを演じている選手も多かったのだが、なぜか千早希は自分への声援がものすごく気になっていた。
 常連の男性ファンや女子プロレスのファンたちは千早希のことを「中原〜〜!」、「千早希ちゃ〜〜〜ん!」と声援を送ってくる。なのになぜか、黄色い声援を送ってくるお姉さまたちは「千早く〜〜〜〜ん!」、「千早希く〜〜〜ん!」と『くん』付けで声援を送ってくるのだ。この日も、千早希が演じている薫幹への「幹く〜ん!」、「薫く〜〜ん!!」という声援に負けないくらい「千早希く〜〜〜〜ん!!」という声援が飛び交っていた。
 それに、真女での岡嶋千尋の目も最近、なんとなく気になる。
 6月3日ディファ有明大会でシングル戦のあと、「中原さんって、元気があっていいわね。今度対戦するときはもっと色々手取り足取り教えて上げる(ウフッ)」と記者団に語っていたと週間エンジェルスで読んだ。その後、真女会場で練習しているとき、ストレッチなどいろいろアドバイスをくれるのだが、なぜか密着度が高いことが多い。
「あたしは、女だし、ノーマルだい!」
 といっている千早希にKIZUNAいちそっち系に詳しい荒谷さんがつぶやいた。
「あのね、岡嶋さんはわかんないけど、腐女子のみなさんに目をつけられた以上、千早希はもうにげらんないんだから」
「腐女子? それなんなんです?」
「世の中のすべてを『攻め×受け』で判別する種族のことよ。腐女子の前ではアニメキャラも芸能人もスポーツ選手も、仮●ライダーもウルト●マンもみんなみんな『攻め×受け』で語られるの!」
「そ、それってやおいの話でしょう! 絶対そうだ! だとしたら、あたし女なんだしあてはまらないじゃないですか!!」
 そんな千早希の目の前で、ちっちっちと人差し指を振りながら荒谷さんは言った。
「そんなの関係ないわよ。腐女子のみなさんの脳内では中原千早希は、美少年なのよ!!」
 が〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!
「そ、そんな‥‥」
「いい? 性別さえも超越する、それが腐女子なのよ! ふぁんたじーなのよ!!」
 目が血走るほど力説する荒谷さん。
 ショックを受けまくる千早希さん。
「あ、あたしって‥‥」
「きっと腐女子のみなさんの脳内では、中原千早希は『総受け』!! だって、この間のコミケでも、隠し撮りした千早希のジムでの練習風景&学ランCD−ROM写真集、1000枚完売したもの!!」
「い、いつのまにそんなものを‥‥」
「ねえ、冬は強化外骨格零とか葉隠覚悟のコスしない? コナンとかでもいいんだけど。そうだな、この間の薫幹と今度の斎藤はじめもいいな。いやあ、お遊びで第2集だしますって予告チラシ作ったらめちゃめちゃ反響あったのよ」
「絶対イヤです! でも岡島さんはその、荒谷さんの言う腐女子のみなさんとは違うんですよね。少し避けるような感じにしちゃってわるいことしちゃったな‥‥。今度謝りに行こうっと」
「でも私が聞いた話だと、岡嶋さんって女のコが好きらしいよ。永田さんとそういう関係だって、もっぱらの評判らしいけど」
 が〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!
 大ショックを受ける千早希(笑)。
 里見ちゃんのお見合いや、西町さん、南さんのようなノーマルな恋愛話は中原千早希で作られる事はあるのだろうか?(爆笑)

[210] タイトル:A☆F新人王戦での、南の悩み 投稿者:TAKU 投稿日:01/08/31(Fri) 13:10
 KIZUNA社長室。あまり明るくない表情で南利美が、コーヒーメーカーからできたてのコーヒーをカップに注ぎ、顔をだした天野真琴の前に置いた。

天野  「あ、すみません、南さん‥‥」
南   「いいのよ。練習中にあなたを呼んだのは私なんだから」

 応接セットのソファに座り、南はブラックでコーヒーに口をつけた。
 天野も、コーヒーに角砂糖を2つとクリームを入れて一口飲む。
 重苦しい沈黙の後、思わずため息をついた南に、天野は声をかける。

天野  「‥‥やっぱり、千早希のことですか?」
南   「ええ。頭が痛いわ」

 こめかみにすらりと伸びた人差し指をあて、南は天野に目を向けた。
 その性格からか天野は選手たちの相談役のような位置にいる。
 深沢社長の頃から、なにかあればさまざまな相談を受けていたのだが、最近はその傾向がどんどん強くなり、南にもよく社長室に呼ばれ、話し合っていることが多い。
 高村など、そんなようすを「まーちゃんってKIZUNAのお母さんだよね」と言ってからかっている。

天野  「A☆F2001年度新人王戦、千早希が出ることに問題はないんですか?」
南   「善女新人王に出た鳥嶋もエントリーしているようだから、特に問題はないみたいなんだけど‥‥。ただ、中原の場合は真女の新人王になっているでしょう? いくら柱となる規定が違うとはいえ、同じ冠を持つ若手リーグ戦だもの。マスコミやファン、それに主催のA☆Fからみると中原のエントリーはどうなのかしらと思ってしまうわ。‥‥特にクレームや批判もきてないとはいえ、ね」

 A☆F2001年度新人王戦。8月22日のDIAにおいて、KIZUNAではエントリー選手を決めるため、代表枠争奪戦をおこなっている。
 中原千早希対ブラック・ブリザード。
 その試合で中原は船木亜矢の変身であるブラック・ブリザードからフォールを奪い、代表権を勝ち取ったまでは良かったのだが‥‥。

天野  「南さんは亜矢のエントリーを考えていたと思ったんですけど‥‥」

 確かに南は当初、船木亜矢のエントリーを考えており、その旨をA☆Fに伝えていた。

南   「その船木から電話があって、中原との代表枠決定戦をやりたいって言ってきたの。選手の自主性はなにを差し置いても尊重するというのが深沢さんの意向でもあったから、DIAさんに決定戦のお願いをしたんだけど‥‥」
天野  「試合をする以上、千早希が勝つのは半分の確立ですから」
南   「今の船木にこそ、ああいう大舞台は必要だと思っていたんだけれど、私は」
天野  「わたしは会場で見たわけではないですけれど、荒谷さんや高村さんたちから、かなり良い試合だったと聞いてますし、そういう意味ではファンも納得してくれるんじゃないでしょうか」
南   「私はこのリーグ戦エントリーが、KIZUNAに船木が戻るためのいいきっかけになるんじゃないかって思っていたんだけれど。でも、あのコにとって、中原との決定戦をおこなうことが自分なりのケジメだったのかも知れないわね‥‥」
天野  「そうですね、亜矢は千早希と試合をすることで、新しいステップに立ったんだと思います。それに、今の千早希のエントリーは再出発として申し分ないと思いますし」
南   「今さら中原に出るなとは言えないし‥‥。言ったとしても、素直に聞くようなコじゃないけれどね」

 そういって苦笑を浮かべると、南はコーヒーを一口飲んだ。

天野  「千早希はリーグ戦とかトーナメント戦、大好きですから」
南   「あのコの場合は自分の同期全員をライバル視してるものね。試合をしたことのない選手と試合ができるチャンスは、どんなことをしても手に入れようとするんだから」
天野  「そこが千早希の良いところですよ」
南   「美点は逆を返せば欠点よ」
天野  「う〜ん、そうですか?」
南   「まあ、中原に周囲を見て行動しろってほうがムリだものね」
天野  「一直線に全力疾走が千早希ですから」
南   「ホントね。‥‥ホントに、どうして中原みたいなコが、私のことを師と呼んでくれるのか、時々わからなくなるわ」
天野  「南さん‥‥」

 少し寂しげに、南はつぶやくように言った。

南   「中原が本当なら師と呼ぶ相手は、祐希子だってことは私にだってわかってるわ。あのコのまっすぐな瞳、ハートの強さ‥‥。私とは正反対だものね」
天野  「そんなことありませんよ。千早希は、南さんが育てたんじゃないですか」
南   「私が育てたんじゃなくて、あのコは自分で育っていったの。私はほんの少しだけその手伝いをしたに過ぎないわ。だからかしら、あのコがスランプに陥っているのに、私はアドバイスのひとつもできない‥‥」
天野  「‥‥‥‥」
南   「わたしはなにもしてあげられなかったのに、『TWENTY−ONE』での祐希子の指導で、中原はあっという間にスランプ脱出したでしょう。船木だって、スランプから脱したのは『Sitto団せぴあ』に入った途端だものね」

 南はコーヒーカップを揺すり、残ったコーヒーをクルクルと回している。

天野  「南さんは、本当にそう思っているんですか?」
南   「‥‥そうね。ある日、いきなりあのコたちがKIZUNAを辞めて、他団体へ移籍したいって言い出すんじゃないかって思うときがあるわ」
天野  「そんな、そんなことありません! 千早希たちもわたしも、KIZUNAを辞めるなんて‥‥」
南   「選手をひとつの団体に縛ることはできないわ。私自身がそうだったように、ね」
天野  「‥‥‥‥‥」

 南の言葉に黙るしかない天野。

南   「デビューしてから14年。これまで私は、ひとりで闘い抜いてきたから。新女からWOLFに移ったのもそう。誰かと手を組んだり、自分が率いたりなんて考えもしなかったもの、KIZUNAが立ちあがるまでは。設立した後も、会社や選手間のことはすべて深沢さんに任せていたから‥‥」
天野  「‥‥‥‥」
南   「代行として社長業をやってみて、深沢さんの苦労がよくわかったわ。設立直後によく深沢さん、胃が痛いって言ってたんだけど、胃も痛くなるわね」

 冗談めかして言いながら南は、カップに残ったコーヒーを飲み干した。

天野  「そうですね。わたしも覚えてます。わたしが最初に社長に挨拶にいったときも、胃薬を飲んでましたから」
南   「まだ私は胃にはきてないんだけれど。だからかしらね、中原たちへ私がなにをしてあげられるのか、今だにわからない。団体のトップとして、あのコたちの師匠としても‥‥」

 そう言うと南は立ちあがり、コーヒーメーカーから空になったカップにコーヒーを注ぐ。

天野  「‥‥わたしは南さんから教わったこと、たくさんあります。特別なアドバイスや指導がなくても、南さんのそのプロとしての生き方やスタイルから、わたしは‥‥いえ、わたしだけじゃありません。永原さんも、荒谷さんも、神田さんも、高村さんも、千早希も、亜矢も、それに雪緒だっていろいろなことを学んでいます」
南   「天野‥‥」
天野  「どうして千早希たちを信じてあげられないんですか? どうしてそんな弱気な言葉が出てくるんですか? 中原千早希と船木亜矢は誰がなんと言おうと南利美が育て、南利美の遺伝子を受け継いでいます。千早希のファイトスタイルがどうだって関係ないじゃないですか。KIZUNAファクトリーは南利美のコピーをつくる団体じゃなくて、絆を作り上げる工房だって、南さんと社長がわたしに言ったんですよ。だからわたしはKIZUNAを愛してるんです、KIZUNAを守りたいって思っているんです、だから‥‥」

 いつしか感情の高ぶりが抑え切れなくなった天野が、南に訴えかける。

南   「ありがとう‥‥」
天野  「あ、す、すみません。わたし‥‥」
南   「天野の言うとおり、私らしくないわね」
天野  「南さん‥‥」
南   「やっぱり、疲れてるのかしらね。こんな愚痴を天野に聞かせるなんて‥‥」
天野  「昨日も帰れなかったんですか?」
南   「昨日もおとついも。あの人が帰れなかった理由がやっとわかったわ。あとからあとからやらなきゃならないことが出てくるんですもの。ホント、家に帰るヒマなんてないわ」
天野  「そんなに大変なんですか?」
南   「団体経営ってものが、こんなに大変だなんて思ってもみなかったわ。というより、KIZUNAの経営基盤が弱いのが根本的原因ね」
天野  「高村さんが好きなゲームみたいにはいきませんから」
南   「リセットは効かないものね‥‥。それはそうと、雪緒のほうはどう?」
天野  「ちゃんと練習してます。技をかけるタイミングとかの飲み込みはすごく早いんですけど、身体がまだ追いついてませんから。もっときちんと身体をつくらなきゃならないんですけど、雪緒は基礎よりもスパーリングのほうが好きみたいで‥‥」
南   「中原よりも雪緒のほうが、よっぽど頭痛のもとだわ‥‥」
天野  「雪緒には新女式の練習は逆効果ですから。努力と根性は、雪緒にとって反発材料でしかないんです。雪緒は興味さえ持ってくれればその練習はちゃんとやりますから」
南   「いまどきの新人はどこもそうなのかしら?」
天野  「宮本さんの話だと問題児ぶりでは霞月さんもいい勝負みたいですけれど‥‥。ただ、DIAさんの場合、乙姫さんという前例があるのでみんなあんまり気にしていないみたいですけど」
南   「どっちにしても頭が痛いわ。‥‥それにしてもA☆Fニューフェイストーナメントのあの1回戦、狙って組んだのかしら。勘ぐりたくなるわ」
天野  「QOJと同じで抽選らしいですけど‥‥」
南   「QOJと言えば残念だったわね。荒谷と神田に聞いたけれど、雪緒の練習にずっと付き合っていて、自分の練習ができてなかったそうじゃない」
天野  「いえ。あの負けはわたしが弱かっただけのことですから」
南   「天野、あなたもそろそろ自分のために動いてもいいのよ」
天野  「自分のために、ですか‥‥」
南   「そう。KIZUNAのためじゃなくひとりのプロレスラー天野真琴としての闘いに集中してもいい頃だと思うわ。もうKIZUNAのための話題作りじゃなく、個人としてジュニア戦線でトップ取りに挑みなさい」
天野  「わたしは、自由に闘わせてもらっています。スイサイドガールズとしてDIA、真女、A☆F‥‥さまざまな団体に上がらせてもらって、愛沢さん、宮本さんというライバルとも出会えましたし、マリ姉さん、永田さん、梓実さん、菊地さん、豊田摩さんといったジュニアトップ選手にもチャレンジさせてもらっています。『新魔陣』との共闘も南さんたちに快く送り出してもらえましたし‥‥。これ以上、わがままを言うわけには‥‥」
南   「天野はもう少しくらい自分のためのわがままを言いなさい。そのくらいはかなえてあげられるんだから」
天野  「はい」
南   「‥‥もう、練習にもどりなさい。時間を取らせてわるかったわね」
天野  「いえ。わたしでよければいつでも言ってください」

 練習に戻る天野を見送り、南は冷めてしまったコーヒーに口をつけた。
 天野に一喝されるとは思いもよらず、思わず苦笑がでてしまう。
 大きくなった。
 いまや、KIZUNAファクトリーの大黒柱は自分や永原ではなく、天野真琴のことではないのかと、南も思うときがある。
 それだけ天野の存在を永原たちだけでなく南自身も信頼しているということなのだろう。
 自分もまだまだ老け込むわけにはいかない。
 南はそう思いながら再度、苦笑していた。

[209] 出たいですぅ(苦笑) 投稿者:井手たかし 投稿日:01/08/30(Thu) 23:23 <URL>
セリーヌ・カモン・ミール「社長〜、何かご用〜ん?」
 8月27日。セリーヌ・カモン・ミール、ドラグーン双葉、ドラグーン
木葉、空白いずみの4人は、『DIA JAPAN』の社長の元に集まっ
てきた。

たに社長「マイティ祐希子のユニット『TWENTY−ONE』が、最近
月1回の割合で自主興行を開いているのは知ってるな?」
ドラグーン木葉「ああ、あのレビューとプロレスを一緒にやるって、変な
興行ね」
ドラグーン双葉「母様にビデオを見せて貰ったんだけれど、かっこよかっ
たよね」
空白いずみ「それが、あたし達と何か関係あるんですか?」
たに社長「オファーが来てるんだ。出演依頼がね」

 たに社長の口から飛び出した思わぬセリフに、双葉と木葉が飛び上がっ
た。
双葉「やったぁ!」
木葉「社長、あたしそれ、出たい出たい!!」
たに社長「おいおい、プロレスだけじゃなくて、レビューもやらなくちゃ
ならないんだぞ?大丈夫なのか?」
木葉「そんなの、学校休めば大丈夫!」
双葉「あのねぇ木葉……9月興行でしたよね? ということは……ネタは
『行殺』かぁ」
木葉「それだったらゲームしたことあるから、知ってるよ」
たに社長「おまえ、あれは18禁ゲームだぞ?! やったことあるのか?」
空白いずみ「ね、ね、『TWENTY−ONE』の自主興行って、面白い
の?」
木葉「コスプレしてファイトすることになるから、いずみ先輩向きだと思
うよ」
空白いずみ「出る出る! いずみちゃんも参加するですぅ!!」

 珍しく、セリーヌ・カモン・ミールが冷静な態度で、たに社長に問う。
セリーヌ「もしかしたら、配役の指定もされているのかしら?」
たに社長「ああ……君は『カモミール芹沢』役」
木葉「そのまんまじゃない(苦笑)」
たに社長「双子は、『永倉新/原田沙乃』。いずみちゃんは『おまちちゃ
ん』」
双葉「あはは、いずみ先輩、はまり役かも」
空白いずみ「そうなの?」
木葉「うん、あたしもそう思うよ」
たに社長「……反対意見はないんだね」
木葉「ない、ない」
たに社長「わかった。じゃあ、9月27日のスケジュールは開けておくよ。
9月には何回か舞台稽古があるらしいから……」

[208] 亜矢の闘い・千早希の思い ――8月22日試合前―― 投稿者:TAKU 投稿日:01/08/28(Tue) 12:45
控え室の鏡を前に、船木亜矢は思いつめた表情で座っていた。
 今、亜矢の前に、2つのマスクが置かれている。
 ひとつは、銀色に輝き紅と黒のふたつのVが額を飾っているマスクド・ジェラシーXのマスク。
 もうひとつは、瞳にメッシュが入り、本来ならば赤い部分が黒く染められたブラック・ブリザードのマスク。
 その2つのマスクを亜矢は、そっと撫でていた。
 プロレスをはじめた1年前。自分がマスクを被ることになるなんて思いもしなかった。
 KIZUNAファクトリーでは、そのファイトスタイルから南利美の正統な後継者とまでよばれた亜矢が、今はマスクウーマンとしてKIZUNAを離れて活動をしている。
 亜矢はマスクド・ジェラシーXに変身してから、マスクド・ジェラシースーパーMICOに変身しブレイクした雪風綾乃とともにSitto団せぴあとして、シュトローム乙姫をメインターゲットにDIA若手戦線で闘ってきた。
 Sitto団せぴあの影の実力者と呼ばれ、コメントをほとんど出さないことをキャラクターとして、その実力を誇示してきた。
 プロレスラーとして1歩も2歩も成長するため、亜矢はこの半年、必死で闘ってきた。
 千早希が真女に上がり試合数を増やしている間に骨法を学び、立ち関節技、グラウンドでさらに優位に立つための武者相撲、そして今までの自分になかった浴びせ蹴りを代表とする独特の打撃技を会得した。
 KIZUNA1周年記念自主興行にも素顔で、船木亜矢としてリングに上がりたいという気持ちがあったが、あえて深沢社長に無理を言い、謎のマスクウーマン、ブラック・ブリザードとしてリングにあがった。その時も、深沢社長以外の誰とも会わず、誰とも話をせずに自分の試合が終わったあとすぐに、そのまま会場を後にしている。
 深沢社長がKIZUNAから失踪することとなったときも、駆けつけたい心を必死でこらえて、雪風の前で涙をこらえながら耐えていたのだ。
 今日、8月22日。
 亜矢にとって、最大の試練とも言えるカードが組まれた。
 A☆F新人王戦KIZUNA枠選抜試合。
 中原千早希対マスクド・ジェラシーX。
 自分が、プロレスラーになるきっかけとなった幼なじみ、中原千早希とのシングル戦。
 自分の選択が間違っているとは思わない。
 ことのおこりはなんであれ、Sitto団せぴあへの参加は、プロレスラー船木亜矢にとって必要であり、必然なことだった。
 しかしこの闘いは、千早希との今日のシングルだけは、Sitto団せぴあとは関係ない。
 亜矢は、Xのマスクを手に取り頬によせ、一言「ごめんね」とつぶやいた。
 Xのマスクをそっと、愛用のスポーツバッグのなかにしまうと、ブラック・ブリザードのマスクを手に取った。
 船木亜矢は、まだプロレスラーではない。
 それは、亜矢にとって哀しいまでの事実。
 しかし、皮肉なことにマスクド・ジェラシーX、そしてブラック・ブリザードはプロとしてのオーラ放つことのできる真のプロレスラーだった。
 そして対戦相手となる中原千早希もまた、真のオーラを放っているプロレスラーだった。
 KIZUNAファクトリー所属のプロレスラーとして千早希と闘わなければならない。
 亜矢は、ブラック・ブリザードのマスクを鏡の前で被ると、つぶやいた。
「‥‥わたしはブラック・ブリザード。わたしは中原千早希のすべてを知っている‥‥」
 負けない。
 負けたくない。
 亜矢は千早希と出会ってから初めて、心の底から千早希に勝ちたいと思っていた。
 
 中原千早希は、複雑な思いでアップのためストレッチを続けていた。
 今日、8月12日の第1試合。
 A☆F新人王戦KIZUNA枠選抜試合が組まれている。
 対戦相手の名はマスクド・ジェラシーX。
 幼なじみであり、KIZUNAファクトリーの同期である船木亜矢とのシングル戦だ。
 千早希にとって、亜矢は特別な存在だ。
 小さい頃から一緒で、小学校、中学校、高校とずっと同じ学校に通い、プロレスラーになりたいという千早希の夢をただひとり笑わなかった亜矢。
 一緒に南利美のジムへ通い、プロレスラーとしてのデビューも一緒だった。
 今はたもとをわかち離れているが、その心と心は深い絆で結ばれているふたり。
 千早希にとって、亜矢との試合は特別なものだった。
 蒼樹玲奈、星野真琴、空白いずみ、雪風綾乃、武田晴歌‥‥。
 これまで千早希は、さまざまなライバルたちとの切磋琢磨のなかでプロレスラーとしての自分自身を高めてきた。
 そのなかでも亜矢は千早希にとってかけがえのない親友であり、特別なライバルだった。
 警察官である父親に習っていた柔道をベースにサンボを学び、関節技のスペシャリストとして、そして南利美の後継者と呼ばれ鳴り物入りでKIZUNAに入団した亜矢。
 なんのバックボーンもなくKIZUNA道場に入り、今の千早希にとって最大の武器であるキックをキックボクシングジムで基礎だけ習い、その後、血の滲むような努力のもと必死の思いで身につけ、デビューまでこぎつけた千早希。
 エリートである亜矢と雑草でしかない自分。
 亜矢に負けたくない一心で、千早希は道場での練習に明け暮れていた。
 いつしかKIZUNAいちの練習魔とあだ名されるほど、少しでも時間があればサンドバックを蹴り、ブリッジワーク、マシントレーニング、スパーリングを続けていた。
 亜矢がSitto団せぴあに入ったとき、その選択が信じられなくて、悩み苦しんだこともある。だが、今は、亜矢のその選択肢が結果として正しかったのだと思えるようになった。
 Xに変身してからの亜矢は、それまでがウソのようにプロレスラーとして輝き、その実力をリングで見せつけていた。
 そして、KIZUNA1周年記念自主興行で亜矢が変身したブラック・ブリザード。
 千早希が真女に上がって試合数を増やしている間、DIAのみを主戦場にしていた亜矢は古武道のいち流派でありプロレス界、格闘技界にてブームともなった骨法を学んでいた。今まで亜矢が身につけた関節技にプラスして武者相撲、立ち関節、そして浴びせ蹴りを代表とする独特の各種蹴り技を会得して、あの成長著しいブリザードYukiを相手に1歩も引かないファイトを繰り広げた。
 あのときリングにいたのは、確かに千早希の幼なじみである亜矢が変身した姿ではあったが、千早希の知らないプロレスラー、ブラック・ブリザードだった。
 自分の知らない間に、亜矢は1歩も2歩もプロレスラーとして成長している。
 その事実は千早希にとって衝撃だった。
 真女2001年度新人王となり新たなステップへと進もうとしていた矢先に、巨大なカベが立ちふさがりスランプへと陥っていた千早希にとって、亜矢のマスクド・ジェラシーXとしての確実なステップアップ、そして鮮烈なブラック・ブリザードへの変身に、千早希はショックを隠せなかった。
 そんななか深沢社長の失踪も輪をかけ、千早希の心を大きく乱していた。
 しかし、今の千早希には確固たるプロレスラーとしてのプライドと自信が甦っていた。
 ユニット『TWENTY−ONE』への1ヶ月という短い期間ながら、その修行が千早希を大きく成長させていた。憧れだったマイティ祐希子のマンツーマンの集中指導が、今までの千早希にはなかったいくつもの引き出しを作り上げている。
 今の中原千早希を亜矢は知らない。
「‥‥あたしは、負けない」
 迷いを振りきった千早希は、立ち上がるなり空に思い描いた亜矢へ向かって、鋭いハイキックを放った。
 亜矢はとても大事なかけがえのない親友だ。しかし、倒さなければならないライバルだ。
 お互いがプロレスラーである以上、リングで向かい合うのなら遠慮はしない。
 今の自分のすべてをたたきつけてやる。
 勝つのはあたしだ。
 千早希は鏡の前でいつものハチマキを額に絞めた。
 勝利を誓って。

[207] 雪緒、負けない! 投稿者:TAKU 投稿日:01/08/28(Tue) 12:44
 A☆Fニューフェイストーナメントの組み合わせが発表され、一部で騒然となっていた。
 そんななか、大塚雪緒はいつものようにひょうひょうと道場へと練習に現れた。

高村  「あ、ゆき、ゆき! トーナメントの組み合わせがきたよ!」
大塚  「組み合わせ?」

 ハテナマークを頭に浮かべながら雪緒は、中原、高村、荒谷、天野が見ているFAX用紙をのぞきこんだ。
 その紙には、雪緒の1回戦の対戦相手が、DIAの霞月いおりと記されていた。

荒谷  「まるで、去年の千早希と蒼樹さんみたいね」
中原  「なんでこう去年、今年と因縁カードが毎回決まるんですかね?」
高村  「ホントだね」

 そんな周囲の雑音のなか、当の雪緒はニッと笑みを浮かべていた。

大塚  「やりっ! 1回戦でいおりのヤツやっつけられるじゃん!」
中原  「そんな簡単にいかないって。雪緒、まだまだキックに弱いじゃない」
大塚  「そんなことないよ。もう、いおりんなんて呼ばれてるヤツになんか負けないもん!」
荒谷  「雪緒はもう少し試合で気持ちを出して行かなきゃ。今の雪緒じゃまだまだ霞月さんには勝てないんじゃないの?」
大塚  「勝てるって! 勝てるったら勝てるんだから!!」

 中原、荒谷にからかわれて、ムキになる雪緒。

高村  「でも、トーナメントは単純に実力じゃ計れないからね。去年も、予想を裏切ってDIAのいずみちゃんが優勝したじゃない。KIZUNAはリーグ戦に強いけど、DIAはトーナメントに強いから」
大塚  「わたしはトーナメントに強いかもしれないじゃん! どうしてそんなこと言うの? 少しは激励してくれてもいいじゃない!!」
天野  「大丈夫ですよ。雪緒はきっと勝てますから」

 千早希たちにしてみれば雪緒をからかいながらも激励しているつもりなのだが、ムキになっている雪緒には通じない。そんなようすを見かねた天野が、雪緒にフォローをいれる。

大塚  「ホント? わたし、霞月いおりに勝てる?」
天野  「ええ。トーナメントまでの間、キチンと神田さんと荒谷さんが組みたててくれた練習カリキュラムをこなしていけば、きっとトーナメントで良い結果になりますよ」

 藪をつついてどでかいアナコンダが飛び出してきた。

大塚  「え‥‥? あの練習を毎日やるの?」
天野  「はい」
中原  「そういうことなら、あたしも協力してあげるよ」

 KIZUNAいちの練習魔である中原との練習なんて、雪緒にとっていちばんシャレになっていない。

大塚  「霞月いおりには負けたくないけど、あんな練習なんてしたくない〜〜〜!」
高村  「楽して勝てたら練習いらないって。さ、みんなで雪緒の練習につきあおっか」

 KIZUNA選手の絆は固い。
 雪緒にとっては、良い迷惑なのかもしれないが、KIZUNA選手全員の愛のたっぷり詰まった練習カリキュラムをこなすことになってしまった。

 さて、雪緒はいおりんに勝つことはできるのか?

[206] 大塚雪緒からの挑戦状! 投稿者:秋草(UP:◆K) 投稿日:01/08/26(Sun) 06:05
 WWPL(西日本女子プロレス連盟)主催の新人王戦に出場し、惜しくも決勝では敗れたものの、堂々の準優勝を獲得してきた霞月いおり。
 長い巡業を終え、久し振りにDIA道場に戻ってきた。
 と、その日……。
郵便屋 「速達でーす」
深雪  「はーい」
 入り口付近でスクワットをしていた深雪が手紙を受け取る。
深雪  「あ、いおり宛だ。苗字が霜月になってるけど……。いおり、速達がきてるよ」
 深雪の声を聞いたいおりは深雪に視線を向けると、縄跳びを一時中断した。
いおり 「……速達?」
深雪  「KIZUNAの大塚さんから」
 深雪から手紙を受け取るいおり。
 それに気付いたのか、他の選手たちも練習の手を休め、いおりに視線を送る。
 いおりは手紙の封を切ると、一枚しかない便箋を開いた。
 それを読んだいおりだが、何か考えるところがあるのだろうか、
 少し不思議そうな顔をして宙を眺めた。
深雪  「なんて?」
 深雪が尋ねるが返答はない。
いずみ 「なになに? いっただき〜〜、ですぅ!」
 そのとき後ろから、いきなり空白いずみが手紙を取る。
 しかしいおりは固まったまま。
いずみ 「……ふむふむ。『最近新人王戦だとかなんとかでDIAを休みやがって! しかも準優勝とかいっていい気になってるみたいだが、私を忘れたとは言わせないぞ! ニューフェイストーナメントがお前の命日だ!』……だってさ」
深雪  「ちょ、挑戦状ですか!?」
 道場内がざわつく。
いずみ 「なんかあの娘らしいですぅ〜」
奈々緒 「実力もないくせに偉そうに……」
ルナ  「かまへん、返り討ちにしてやりや」
 しかし、いおりはまだ呆然と立っている。
陽子  「どうしたの、いおり?」
 我に返るいおり。
いおり 「大塚雪緒って……、誰だ?」
一同  「……はあ?」
 いおりの言葉に大きな脱力感が、DIA道場を襲ったのであった。

(作:秋草様。一部daiya◆K・たにが加筆修正してます)

[201] 雪緒の特訓‥‥明日のためにそのいち 投稿者:TAKU(代理UP・◆K) 投稿日:01/08/17(Fri) 22:36
● KIZUNAファクトリー 道場

 全身にウレタン製のガード用の防具を身につけた大塚雪緒に、神田の容赦ないキックが襲いかかる。

大塚  「いた、痛いってば! 神田さん、タンマ、タンマ!」

 始めて1分もたたないうちに、雪緒が悲鳴を上げてリングから逃げ出した。
 呆れたようにロープにもたれ、レッグガードを外し始める神田。

神田  「やる気がないのならやめるぞ」
大塚  「ちょ、タンマ。そんな短気になるのよそうよ」
神田  「何回逃げた? 練習にならつきあうが、鬼ごっこに付き合う気はない」
大塚  「鬼ごっこするなら、リングでなんかやんないよ」
神田  「だいたい、防具でガチガチに固めてどうする。キック対策が身につくわけがないだろう」
大塚  「だって、神田さんマジなんだもん。防具くらいつけなきゃ死んじゃうよ」
神田  「くらいもしないで、キックの対抗策が身につくとは思えないがな」
大塚  「当たりたくないからキックの避けかた教えてって言ってるのに!」
神田  「そんな方法あるわけないだろう。だったら、リングに上がるな」

 神田の言葉に思わず言い返す雪緒。

大塚  「そんなにわたしの練習に付き合いたくないなら、神田さんになんか頼まない!」
神田  「そうか。なら、私は自分の練習に入らせてもらうか」

 と、言ってリングを降り、縄跳び用ロープを手に取る神田。

大塚  「もういいよ!」

 黙々と縄跳びを始める神田に、むっとした表情で捨て台詞をのこし道場を出て行く雪緒。
 そんな雪緒を無視し、神田は縄跳びを続けていた。

● KIZUNAファクトリー 道場側の公園

 神田との練習が失敗に終わり、道場を飛び出した雪緒が公園のブランコに座り、地面を行進しているアリに、スニーカーのつま先で砂をかけている。

大塚  「みんなキライだ‥‥」
天野  「‥‥雪緒?」
大塚  「天野さん‥‥」

 いきなり天野に声をかけられて、雪緒はあわてて、目をこすった。

天野  「どうしたんです? 神田さんとの練習は終わったんですか?」
大塚  「練習なんかできないよ。神田さんもみんなも‥‥」

 ぶちぶちと文句を言い出す雪緒に天野は苦笑し、隣のブランコに腰掛けると、手に持っていた駅前のケーキ屋のロゴが入ったビニール袋からシューアイスを取り出し、雪緒に差し出した。

天野  「食べます?」
大塚  「‥‥なに味?」
天野  「これはバニラですけど、あとチョコと抹茶とストロベリーがありますよ」
大塚  「チョコとストロベリーがいい」
天野  「はい」

 遠慮もしないで2種類を求める雪緒に、天野は微笑んで、チョコとストロベリーの2個のシューアイスを手渡す。袋から取り出したシューアイスを頬張っている雪緒の隣で、天野もバニラ味のシューアイスを一口かじった。

天野  「美味しいですね」
大塚  「‥‥うん」
天野  「わたし、シューアイスって大好きなんです。日本に帰ってきて初めて食べたんですけど、その時、ホントに美味しくて、わたしきゃいきゃい騒いじゃったんです」
大塚  「‥‥」
天野  「いろいろなお店で食べましたけど、駅前の手作りケーキ屋さんのこのシューアイスがいちばん美味しいって、わたし思うんです」
大塚  「‥‥‥‥」
天野  「シュー皮もアイスクリームも手作りで、買いにいくとその場でシュー皮にアイスクリームをいっぱいにつめてくれるんですよね。‥‥雪緒は、シューアイス嫌い?」
大塚  「好きだよ」

 たわいの無い話をしながら、雪緒と天野は2人して、シューアイスを食べた。
 天野がバニラと抹茶を1個ずつ食べている間に、雪緒は全部で5個のシューアイスを食べていた。

天野  「‥‥最後の1個なんですけど、溶けちゃうから雪緒、食べます?」
大塚  「うん」

 最後の1個を口一杯に頬張る雪緒。

天野  「‥‥少しはイヤな気分が晴れました?」

 雪緒は口のなかのシューアイスを飲みこみながら、また暗い目になった。

大塚  「‥‥‥‥」
天野  「いったい、どうしたんです?」
大塚  「みんなヒドイんだもん‥‥」

 雪緒はせきを切ったように、不満をぶちまけ始めた。
 そんな雪緒の不平不満を天野は黙って聞いていた。
 そして、ひととおり雪緒がまくし立て終わったとき、天野が口を開いた。

天野  「じゃあ、雪緒はどんな風に教えてもらいたかったんです?」
大塚  「もったいぶらないで霞月のキックをやっつける方法教えてくれればいいんだ」
天野  「でも、それを教わったとして、それがすぐに身につくと思います?」
大塚  「思うよ! 避けかた教えてくれれば、そうすれば霞月に勝てるもん!」

 雪緒の言葉に、天野は少し哀しげな表情を浮かべた。

天野  「‥‥雪緒は、どんなプロレスがしたいんです?」
大塚  「‥‥わかんない。でも、もう負けるの、やだ‥‥」

 いつしか涙目になっている雪緒。天野はそんな雪緒を優しい瞳で見つめていた。

天野  「そうですよね。負けるよりは勝ちたいですよね」
大塚  「もう、ホントにわかんないよ。ねえ、どうすれば勝てるの?」
天野  「そんな方法があるのならわたしも知りたいって思います」
大塚  「みんなそう言って、わたしに教えてくれないんだ」
天野  「ほんとうにわからないんですよ、みんな。だから一生懸命練習するんです」
大塚  「ウソだよ! 天野さんチャンピオンになったし、神田さんなんてあんなに強いじゃない。南さんだって、永原さんだって‥‥」
天野  「わたし、ころころ負けちゃいますよ」
大塚  「でも、天野さんはかっこいいよ。ジュニアのトップにいるんだもん」
天野  「わたしはかっこいいですか?」
大塚  「うん。でも、試合はあんまりかっこよくないと思う」
天野  「わたしの試合スタイルは好きキライが激しいですものね。雪緒はどんな試合が好きなんです?」
大塚  「KIZUNAだったら荒谷さんみたいな試合が好き。ボンバー来島さんとか、サンダー龍子さんとか、パワーで一気に試合するのがかっこいいよ。天野さんは最後に勝つからかっこいいと思うけど、最初のほうとかやられちゃうし、グラウンドでぐるぐる回ってるから、よくわからないよ」
天野  「そうですね。わたしの試合は派手じゃないですからね」
大塚  「わたし、パーンってやっつけたいんだ」

 そういって、雪緒はまたうつむいて、足元のアリの行進に砂をかけた。

天野  「だから、タイガードライバーなんですか」
大塚  「うん」
天野  「やっと、雪緒のしたいプロレスがなんなのかわかってきました」
大塚  「でも、そういう風に試合するとみんな怒るんだ。南さんも、荒谷さんも、中原さんも‥‥」
天野  「ごめんなさい。今までわかってあげられなくて‥‥。でも、言葉で伝えないと伝わらないことって多いんですよ」
大塚  「どうしたらいいのか、もうわかんない! なんか、辞めたくなっちゃった‥‥」

 雪緒がそうつぶやいたとき、天野の語気が初めて強くなった。

天野  「雪緒、それは言っちゃダメ。それを言ったら、本当に負けちゃいますよ」
大塚  「でも、そうじゃない。浜岡とか霞月もそうだけど、KIZUNAのみんなもわたしのことキライなんでしょ。だから、すぐ怒るし‥‥」
天野  「そんなことありませんよ。わたしも、南さんも、永原さんも、荒谷さんも、神田さんも、高村さんも、千早希もみんな雪緒のこと好きですよ」
大塚  「ウソだ!」
天野  「ウソじゃありませんよ。それに、あなたはまだちゃんと会ったことがないと思いますけど、今はSitto団せぴあにいる亜矢もあなたのこと、いつも気にしてますよ」
大塚  「じゃあ、なんでみんな意地悪するの? わたしのすることみんな怒るじゃない」
天野  「それはあなたのことが好きだから。心配だから怒るんです」
大塚  「そんなの信じられないよ」
天野  「わたしも信じられません?」
大塚  「天野さんは優しいよ。でも‥‥」
天野  「ね、雪緒。雪緒はどうしてプロレスラーになろうと思ったの?」
大塚  「え?」
天野  「ただ勝つだけなら、アマチュアでも格闘技でもいいでしょ。雪緒はなんでプロレスを選んだんです?」
大塚  「プロレスってかっこいいって思ったから。見ててホントにわくわくした。だから、わたしもそんな試合ができる選手になりたいって‥‥」
天野  「じゃあ、雪緒はファンをわくわくさせるような試合をしてますか?」
大塚  「‥‥わかんない」
天野  「プロレスの試合ってすごく難しいんです。空手でも、柔道でもなんでもいいんですけど、その試合にでるためにはその競技のルールと技術を身につければいいですよね。もちろん、それが簡単っていう意味じゃないですけど、プロレスは相手がどんな攻撃をしてくるかわかりませんよね。パワーでくるかもしれないし、飛び技が得意かもしれない。
神田さんみたいにボクシングでくるかもしれないし、霜月さんみたいにキックでくるかもしれないですよね」
大塚  「‥‥‥‥」
天野  「相手が誰であれ、その攻撃に耐えてやり返さなきゃ勝てない。それにお客さんがいる以上、お客さんを満足させなくちゃいけませんし。プロレスの相手は、対戦相手だけじゃないんです。お客さんとも勝負しなきゃいけないんです」
大塚  「お客さんと勝負‥‥?」
天野  「そう。雪緒も、会場ではじめて見た試合で、リングの上の選手たちに魅了されちゃったから、好きになったんでしょ」
大塚  「うん、そのとき見た龍子さんの試合、かっこよかった‥‥」
天野  「雪緒は龍子さんみたいな激しい試合が好きなんですよね。でも、龍子さんたちがなんであんなに激しい試合ができるのか考えてみたことがありますか?」
大塚  「大技でどーんって試合するから?」
天野  「そうですね。それもありますけれど、龍子さんや荒谷さんのスタイルって、攻撃するのと同じくらい相手の技を受けているんです。そのギリギリの緊張感がお客さんたちにも伝わるんですよ。でも、受けるためには、それだけ練習で身体を鍛えて、スタミナをつけて、受け身をものすごく練習して身につけないと技を受けられないし、逆に相手が受け身とか、身体ができていないと大怪我をさせちゃいますから、思い切った大技をかけることができないでしょう。わかりますよね」
大塚  「うん‥‥」
天野  「雪緒の試合のあと、南さんたちがなんで、怒るのかわかります?」
大塚  「わかんない‥‥キライだから?」
天野  「基本をおろそかにしてほしくないから。雪緒には強くなって欲しいから、だから怒るんです」
大塚  「怒られるのはキライだよ」
天野  「怒られるのが好きな人はあんまりいないですよね。でも、怒られたことをちゃんと理解して、練習に反映させるといいんですけどね」
大塚  「基本練習って、筋トレとか受け身とか腕立てとかでしょ。わたし、好きくない」
天野  「でもその基本をおろそかにすると大技も決まりませんよ」
大塚  「そうかなあ‥‥」
天野  「そうですよ。パワーボムを完璧に決めるには、やっぱり相手を持ち上げるパワーが必要だし、ジャーマンスープレックスを決めるにはしっかりしたブリッジができないとダメでしょう?」
大塚  「それはわかるけど‥‥」
天野  「雪緒は一生懸命、練習してますか?」
大塚  「練習はしてるよ」
天野  「一生懸命練習した結果だけが、試合にでるんですよ。雪緒は身体も大きいし、技もいろいろすぐに覚えていきましたよね。だから、その技をすぐに使いたいっていう気持ちはわかります。でも、その技を試合で完璧に使うためには、やっぱり練習が必要なんですよ。技を受けるのも同じです。逆に言えば、その技を受けることで痛い思いをするから、受け身が身につくし、避けかたがわかっていくんですよ」
大塚  「でも、痛いのやだよ」
天野  「痛いから、少しでも痛くないような避けかたや受け身が身につくんですよ」
大塚  「それは、マゾって言わない?」
天野  「マゾですか? う〜〜ん、それはないと思いますけど」
大塚  「マジメに答えなくていいよ」
天野  「そうですか?」

 気持ちが落ち着いてきたのか、雪緒の顔に笑顔が戻る。

大塚  「じゃあ、どうすれが霞月に負けないようになるの?」
天野  「そうですね。まずは、首を鍛えなくちゃいけませんね」
大塚  「首?」
天野  「そう。体力をつけて、ちゃんと身体が出来上がっていれば少々のキックじゃ倒れる事はありませんから。そうなると狙うのは首から上になります。ハイキックでKOされないようにするには、首を鍛えるんです。首が強くなると、頭が揺れにくくなりますからKOされにくくなるんですよ。それに、スープレックスやパワーボム、ほかにも頭から落とすような技を受けても大事故になるようなケガの予防にもなります。首をちゃんと鍛えて、受け身をちゃんと身につければ浜岡さんのアトミックジャーマンも跳ね返せますよ」
大塚  「首か‥‥。ほかには? ローとか蹴られたときはどうしたらいいの?」
天野  「そうですね、ローキック対策はじつはほとんど無いんです。スネでガードする方法を、受けながら身をもって覚えるしかないんです」
大塚  「そっか‥‥」
天野  「でも、打撃全般を抑えつける秘策はありますよ」
大塚  「ホント! それ、教えて、教えて!!」
天野  「知りたいですか? でも、キチンと練習しないと身につきませんよ」
大塚  「するよ! 練習するから、教えて!」
天野  「それは、練習してスタミナと身体をつくることが前提ですよ」
大塚  「ちゃんと練習するよ。だから、もったいつけないでよ!」
天野  「約束ですよ。キックとか打撃でくる選手を相手にする場合は、身体をキチンとつくった上で、前にでるんです」
大塚  「前にでるって、それだけ?」
天野  「そうですよ」
大塚  「そんなの秘策でもなんでもないよ」
天野  「でも、前にでるのってけっこう怖いし、思いつかないでしょう?」
大塚  「そうだけど‥‥」
天野  「打撃系の選手との試合では、雪緒みたいに身体の大きい選手は下がったらいけないんです。下がってしまうと、すぐロープに追い詰められてしまうから。そうなったらサンドバックと同じで蹴られるだけになってしまうんです。いいですか、キックはある程度の距離があいてないとその威力を発揮することはできないんです。足の内側に入られたら、膝蹴りくらいしかなくなるでしょう? 特に霞月さんみたいなタイプのキッカーは、距離をとって攻めてきますから、霞月さんのベストな間合いから1歩でも踏みこめば、最大パワーのキックを放つことはできなくなってしまうんです」
大塚  「そっか‥‥」
天野  「でも、ミートポイントをずらしたからと言って、ダメージがないわけじゃないですから、キチンと身体をつくった上で体力もキチンとつけとかないと、最後にはやられちゃいますよ」
大塚  「うん!」
天野  「それじゃ、一緒に道場にもどって練習しましょうか。わたしも一緒に神田さんに謝ってあげますから」
大塚  「え、今から‥‥? 明日からじゃダメ?」
天野  「ダメです。思い立ったが吉日って言うでしょ。今日できる練習は今日しましょう。雪緒は1回くらいオーバーワークな練習をやったほうがいいですから。もうダメだと思ったあとからが練習なんですよ」
大塚  「え〜〜〜〜〜〜〜〜」
天野  「約束しましたよね。霞月さんや浜岡さんにまた負けてもいいんですか?」
大塚  「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜、わかったよ‥‥」
天野  「返事は、はいです」
大塚  「はい‥‥」
天野  「よろしい。では、行きましょうか」
大塚  「う〜〜〜〜〜〜〜」

 乗り気じゃない雪緒の手を引き、道場に戻る天野。
 
 明日のためのそのいち。
 大塚雪緒のこれからは、今、スタートした。

[205] 雪緒の特訓‥‥明日のためにそのいち 投稿者:TAKU 投稿日:01/08/24(Fri) 13:31
タイトル:雪緒の特訓‥‥そのに

KIZUNAファクトリー 道場

 天野真琴の仲介で、神田幸子との打撃特訓に入った大塚雪緒。
 神田幸子に天野も一緒に頭を下げ、もういちど特訓に入って1週間になる。
 同時に、基礎練習も天野の指導のもと、端から見た目には真面目に練習している。
 現在は、DIAの霞月いおりのキックスピードに対応するために神田のキックではなく、パンチで打撃への特訓をおこなっている。

神田  「霞月のキックのスピードに対応するつもりなら、目を閉じるな!」

 パン、パン、パンとヘッドギアをつけた雪緒の顔に、神田のジャブからストレートのコンビネーションが叩きこまれる。
 ジャブ。肘から先を使って放つノーモーションのこのパンチは早い。これを目で追うことは世界チャンピオンクラスでも難しい。ジャブで距離をはかりストレートを叩きこむのは、ボクシングの基本にして、神田のもっとも得意なコンビネーションだ。

神田  「私のパンチが見えないようなら、霞月のキックも見ることができないぞ!」
大塚  「‥‥って、ジャブなんか見えっこないじゃん!!」
天野  「雪緒、さがっちゃダメ!」
神田  「さがるな!」

 天野と神田の激が飛ぶが、当の雪緒の耳には入ってはいない。
 今度は、神田の左右のフックがボディに突き刺さる。

大塚  「いった‥‥、痛いっての!」

 なんだかんだと文句を言いながらも、雪緒は逃げ出しそうになるのを必死でこらえていた。が、やっぱりこらえきれなくなり、背中を見せて逃げ出した。

大塚  「もう、やだ!」
神田  「また逃げるのか、お前は」
大塚  「に、逃げるんじゃないもん! ちょっとトイレいくだけだよ」
神田  「トイレ? まだゴングは鳴ってないぞ。それになんでさっきの休憩のときに行っておかなかった」
大塚  「さっきはそんなになかったの。いいじゃん、もれそうなんだから!」
神田  「休憩あけてから10分もたってないだろう」
天野  「あ、あの、神田さん、トイレ休憩ということで‥‥」

 つい、天野が口をだす。

神田  「天野‥‥。わかった、行って来い」
大塚  「じゃ、行ってくるね」

 脱兎のごとくかけだし、道場から出て行く雪緒。
 そんな雪緒を見ながら、神田は天野に言った。

神田  「天野、お前は甘すぎるぞ」
天野  「すみません‥‥。でも、雪緒には厳しく言うのは逆効果だと思うんです」
神田  「べつに根性論を振りかざすつもりはないが、大塚にはそっちのほうが必要じゃないのか?」
天野  「そうじゃないんです。雪緒は、言われたことをやるというのがすごく苦手なんです。自分で興味を持ったこと、それが目的に必要だと理解できたことはちゃんとできるし、努力できるんです。南さんも、荒谷さんも、千早希もみんな、雪緒に頭ごなしにこれをやれ、あれをやれって抑えつけてしまったから反発しちゃったんです。雪緒の主体性を尊重してあげれば、あのコは伸びるんです」
神田  「主体性ねえ‥‥」
天野  「神田さんも経験ありませんか? 『今、やろうと思ったのに言われたからやる気なくなっちゃった』っていうの」
神田  「‥‥つまり、私たちのほうが大塚の練習ペースにつきあえということか」
天野  「はい」
神田  「しかし、それでは組織としては成り立たないだろう」

 神田の言葉に天野が驚いた。

天野  「神田さんから組織論がでるとは思いませんでした」
神田  「冗談をいっている場合か? QOJも近いというのに大塚の練習につきあって、自分の練習がほとんどできていないだろう、天野は」
天野  「そんなことはないですよ。雪緒と一緒に基本から自分を見直してますし」
神田  「‥‥大塚が自分で走り出すまでは、ということか」
天野  「今、雪緒は本当のプロレスラーになるための岐路にたってるんです。わたしも経験ありますけれど、こういうとき後押しをしてくれる先輩の存在って大事だと思うんです。メキシコで菊地さんと出会い、イギリスでジェニーに学び、神田さん、永原さんに背中を押してもらうことで、わたしは今、こうして日本でQOJにまで出場できるようになりましたから。雪緒ははじめて自分の道をカベに阻まれてしまってとまどってるんです」
神田  「‥‥天野の考えはわかった。しかたがない、つきあってやるか」
天野  「神田さん‥‥。ありがとうございます」
神田  「天野が礼をいうことじゃないとは思うが‥‥。しかし大塚のヤツはどこまでいったんだ?」

 その頃、トイレにいった雪緒は‥‥。

大塚  「だいたい神田さんって、手加減しらないんだよ‥‥」

 ぶつくさと文句を言いながら、トイレではなく道場側の公園で、ブランコに腰掛けながら、雪緒は腕にできた青タンをつついては、顔をしかめていた。

大塚  「霞月はキック使うのに、なんで神田さんパンチで殴ってくるんだよ‥‥」

 せっかくの神田の好意も雪緒にはまだまだ通じてないようだ。

大塚  「今日はもう終わりにしちゃおっかな‥‥」

 今日は終わりにするとは、逃げるということだ。

大塚  「でも、天野さんいるからな‥‥」

 さすがに逃げ出したら、天野に悪いと言う気持ちがではじめているようだ。
 戻ろうか戻るまいか。
 なんだかんだと30分近く、ブランコに揺られている。

大塚  「しかたないなぁ。戻るか‥‥」

 ふっと、頭のすみに自分を見下ろす浜岡奈々緒と霞月いおりの顔が浮かんだ。

大塚  「‥‥ぜったい、ぶっ倒してやる」

 雪緒がライバルという言葉に気づくまで、もう少し時間がかかりそうだった。
 自分のペースかもしれないがだんだんと、練習から逃げようとする後ろ向きな自分から、負けたくないという前向きな自分へ。
 今はまだ、理由がないとその気持ちは練習へと向かないが、明日にはまた少しだけプロレスラーに変わっているだろう。
 明日のためのそのに。
 きっと明日には‥‥。

[204] KIZUNAファクトリー暑気払い! 投稿者:TAKU(UP:◆K) 投稿日:01/08/24(Fri) 06:22
 最近、天野真琴はある少女マンガにはまっている。
 先日、DIAに参戦してきていたAngel☆Forceの愛沢美奈子に薦められた『フルーツバスケット』だ。
 ちょうど、高村あかねからも薦められていたこともあり、コミックスを高村に借りるという手もあったのだが、なんとなく書店で既刊6冊を全部買い込み、読み始めたのだ。
 最初は「愛沢さんや高村さんが好きになる理由がわかるなあ」、などと第三者的な感想を持っていたのだが、今では、「杞紗さんがカワイイ!」、「透くんって癒されますよね」などと高村としゃべり、放送が始まったテレビアニメをビデオ録画しながらリアルタイムで欠かさず見はじめ、しかも、原作で杞紗というキャラクターが大好きという理由で夕食にニラ玉を高村に作ってもらうなど、完全にはまりきっている。
 高村もその天野のはまり具合には驚いたようで、「まーちゃんって、ずっと外国にいたから日本のアニメとかコミックに免疫ないからね」と、荒谷と話し笑っている。きっと、コスプレ試合が天野に組まれたら『フルバ』のコスプレするだろうと言う意見が濃厚だ。さらに最近は、深夜枠の『NOIR(ノワール)』にもはまりはじめているというウワサもある。
 
 この日天野は、駅前の書店で『フルーツバスケット キャラクターブック』と『花とゆめ』の最新号、そして高村に頼まれた『宇宙船』と『電撃大王』の最新号と、荒谷に頼まれた『富士見2丁目シリーズ』の最新刊を小脇に抱え、CDショップに予約していた『フルバ』OPシングルCDを手に日が夕方、KIZUNA寮へと戻ってきた。

天野  「‥‥ただいま」
中原  「あ、天野さん、お帰りなさい!」

 帰ってきた天野を、中原千早希がバーベキューセットを抱えながら、出迎えた。
 道場前の小さな駐車場に、バーベキューセットと氷水がなみなみと入れられた大きなプラスチック製のボックスが並べられている。プラスチックボックスの氷水のなかには、ペットボトルのウーロン茶にコーラとジュース、それに缶ビールに、缶チューハイなどのアルコール類が放りこまれ、冷やされている。
 今日は、KIZUNAファクトリー選手、事務員揃っての暑気払いがおこなわれる日だった。

天野  「もう、準備してたんですか?」
中原  「なんとなく、やることなくて。で、どうせあとでやれって言われるんだから早いうちに準備しとこうと思って」
大塚  「あとでやることならあとにすればいいのに‥‥」

 ぶつぶつ言いながら、大塚雪緒が炭の入った大袋を抱えてやってきた。

中原  「ぶつぶつ言わないの。みんな集まってから突貫でやるよりもひまなうちにやっといたほうが後で楽だって」
大塚  「こんなことなら、昨日、自分の部屋に帰ればよかった。そうすれば準備ができた頃に来ることできたのに‥‥」
中原  「帰れる時間に練習終わったのに、帰るのめんどくさいって言って、泊まったの雪緒じゃない」
大塚  「せっかくの休みなのに‥‥」
中原  「準備手伝わないんなら、雪緒には食べさせないからね」
大塚  「だからやってんじゃん!」

 なんだかんだいって雪緒は中原と仲がいい。先輩後輩というよりも姉妹みたいな感じで、付き合っている風に見える。まあ、身長は中原のほうが頭半分ほど低いのだが‥‥。

天野  「荒谷さんと高村さんは?」
中原  「荒谷さんはジムのほうにいましたけど。高村さんは南さんと一緒に車で買い物に行きました」

 KIZUNAの料理番である高村は、料理の腕だけでなく、買い物上手としても知られている。きっと、予算内で全員が納得するだけの肉や野菜などを買いこんでくるのだろう。

荒谷  「あ、真琴、お帰り!」
天野  「荒谷さん、頼まれてた文庫本買ってきましたよ」

 と、紙袋からがさがさと出し始める天野。取り出した文庫にカバーがかけられていないのを見るや、荒谷が慌ててひったくるように受け取った。

荒谷  「わ、悪かったね、買い物たのんじゃって!」
天野  「はあ、それはいいんですけど‥‥」

 一瞬だけ見えた、美少年が描かれた文庫の表紙を見た中原がため息をついた。

中原  「‥‥ぜったいやおいだ‥‥」
荒谷  「なに? 千早希、なにか言った?」
中原  「いえ、なんにも!」

 中原の脳裏に先日の悪夢が甦った。なにが哀しゅうて、荒谷のやおい本のベタとトーンを徹夜で手伝わなきゃならないんだ、と、やりばのない怒りが今更沸いてきて、目の前でおざなりに荷物を放り出している雪緒の頭を引っぱたいた。

大塚  「いった〜〜〜‥‥。なんで叩くの!」
中原  「うっさい! マジメにやんないからだ!」
大塚  「中原さんの暴力女!」
中原  「なんだと〜〜〜〜〜〜!」
天野  「あの、千早希も雪緒も仲良く‥‥」

 見かねた天野が声をかける。しかし、口ゲンカはおさまるどころかさらにひどくなる。

荒谷  「いいかげんにしなさい!」

 荒谷の一喝に、千早希と雪緒が首をすくめる。

大塚  「中原さんのせいでわたしまで怒られた‥‥」
中原  「うっさい‥‥」

 そんな雪緒と中原に、天野が苦笑する。
 ついこの間まで、自分の道を悩んでいた雪緒が今は中原とじゃれあっている。その姿が嬉しくもあり、悩みの種にもなっているのだが。

荒谷  「ケンカしてるヒマがあるんなら、準備終わらせなさい!」
中原  「は〜〜〜〜〜い‥‥」
大塚  「わかったよ‥‥」

 ぶつくさいいながら、準備を続ける中原と雪緒。
 そんなやりとりをしていると、南と高村が、大荷物を抱えて戻ってきた。

高村  「たっだいま! お肉いっぱい買ってきたよ!!」
南   「荒谷、ちょっと手を貸してくれない? 車にまだダンボールが2箱のこってるから」
荒谷  「あ、はい。雪緒、荷物運びにいくよ」
大塚  「え〜〜〜〜」
荒谷  「ぐずぐず言わない。行くわよ」
大塚  「は〜〜〜〜〜〜〜〜〜い‥‥」

 やかましくも楽しく、準備が進んでいる中庭。
 そこにDIAから、宮本陽子、蒼樹玲奈、空白いずみの3人が顔をだした。
 
宮本  「どうも、ご招待ありがとうございます」
蒼樹  「こんにちわ」
空白  「どうもですぅ〜〜」

 3人とも手には、コンビニのビニール袋を下げている。

天野  「遠いところ、大変だったでしょう?」
宮本  「いえ。そんなには‥‥。これ、差し入れです」

 と、手にしたビニール袋を差し出す宮本。
 中身は差し入れの1.5リットル入りのジュースやウーロン茶のペットボトルだ。

天野  「ありがとうございます。今日は、楽しんでいってください」
宮本  「ええ」

 いつしか日も暮れ始め、高村が大皿いっぱいに、お肉と野菜を持ってきた。

南   「それでは、始めましょうか。今年は暑いけれど、それ以上に熱い試合をみんな、がんばって」

 南の音頭で、集まったみなが紙コップを手に乾杯する。
 思い思いのグループになり、バーベキューを楽しむ面々。
 中原と蒼樹は永原、荒谷と談笑し、雪緒は、高村、空白、都鳥と肉の奪い合いをしている。
 そんな、和気あいあいとしたなかで、天野は少し離れた場所で宮本と話しこんでいた。

天野  「‥‥一回戦、宮本さんとになりましたね」
宮本  「ですね。シングルは去年の9月だったからだいたい一年ぶりかな」
天野  「はい。この一年でのわたしの成長、宮本さんにだったらぶつけられます。だから‥‥」
宮本  「私、一回戦すごく楽しみなんです。他の誰でもない、天野さんとのシングルなんだから。私、QOJの一回戦の相手が天野さんで良かったって、本当に思ってます。だから、最高の一回戦にしましょう。勝ったほうが優勝できるっていう気持ちで」
天野  「はい」
高村  「まーちゃんもよーこちゃんもおいでよ! 食べないとみんな、雪緒と美貴ちゃんのおなかにはいっちゃうよ!」

 天野と宮本を、高村が呼ぶ。
 その声にお互いに笑みを浮かべ、輪の中に戻っていく2人。
 暑い夏はこれから。そして熱い闘いの前に、ほんの少しだけ、安らぎを感じる2人だった。

[203] 衝撃のA☆F新人王戦組みあわせ! その時、彼女は!? 投稿者:daiya◆K・たに 投稿日:01/08/22(Wed) 03:05
2001.8.20 夜 DIA-J寮内事務室

たに社長 「うう……やっと終わったあ。さ、今日は帰ろ帰ろ……ん? ファックス?」

 事務室の電話兼ファックスから、1枚のファックスが送付されてきた。
 9〜10月にAngel☆Forceで開催される、新人王戦とニューフェイストーナメントの組みあわせのお知らせのようである。

社長   「おお、決まったんだ……どれどれ……ぶっ!?」

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Bブロック
  空白いずみ(DIA)
  鳥嶋くるみ(善女)
  高岩あゆみ(真女)
  永田佐和子(日海)
  武田晴歌(WARS−R)
------------------------------------

社長    「な、なんじゃこりゃ……今度出てくる話題性の高い選手が全員集合デスカ?」
空白いずみ 「ふむふむ。おおう、これはすごいです」
社長    「……のわあああああ!!?? い、いつの間に俺の後ろに!?」
空白いずみ 「ふっふっふ。いずみちゃんは神出鬼没なのですぅ。……でも、すごいですね」
社長    「そんな他人事みたいな」
空白いずみ 「だって、ニューフェイストーナメントの組みあわせですよぉ?」
社長    「……え?」

------------------------------------
 ┌─ 大塚雪緒(KIZUNA)
─┤
 └─ 霞月いおり(DIA)
------------------------------------

社長    「ぶーーーーっ!?」
空白いずみ 「いやあ、因縁って凄いですね〜。去年の玲奈ちゃんと中原ちゃんを思いだすですぅ」
社長    「……確かに。しっかし、どうしてこうなるかなあ(苦笑)」
空白いずみ 「いおりんは、どうせ(いおりの真似をして)「……そう」としか言うだけだと思うですけどぉ」
社長    「……そうだろうなあ」

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WWPL巡業中のとある宿泊所にて

霞月いおり 「…………」(←噂されたくらいではくしゃみはしないらしい)

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社長    「奈々緒は去年のいずみちゃんみたいな場所だね」
空白いずみ 「奈々緒ちゃんも頑張ってほしいですぅ!」
社長    「……って、アナタのほうが問題なんですけど?」
空白いずみ 「なにがですか?」
社長    「……新人王戦の組みあわせ」
空白いずみ 「そうですねぇ。これだけのメンバーが揃うとぉ……」

 珍しく真剣な表情を見せるいずみちゃん。

空白いずみ 「……目立たないまま終わってしまう可能性が強いですぅ! マズイです!」

 ドタドタドタ。
 なぜかオーバーにこけるたに社長。

社長    「……って、そっちの心配かい!」
空白いずみ 「……社長」(真剣な表情で)
社長    「うん?」
空白いずみ 「目立つか目立たないかは、勝敗よりも重要ですよ?」
社長    「ま、まあ、プロとしては、確かにそういう面も重要だが……」
空白いずみ 「ニューフェイスの時やPPDの時は、いずみちゃんはノーマークだったから、勝てばそれだけで目立てたですぅ。……でも、カモンちゃん先輩にも勝ってしまったいずみちゃんじゃ、勝っただけじゃ目立てないです」
社長    「…………いずみちゃん」
空白いずみ 「善女の鳥嶋選手は、今月何度か見たけど、今まさに飛翔しようとしているのがわかるです。それに、話題性なら十分の、永田桃子の妹、永田佐和子……」
社長    「…………」
空白いずみ 「そして何より、武田晴歌ですぅ!! ……オイシイところだけでは必ず好勝負を展開し、負けたら負けたで勝者よりいつもいつもオイシイところを奪っていく。彼女こそまさに、プロのなかのプロ。最大の敵ですぅ」
社長    (こんな真面目な表情のいずみちゃん、初めて見たような……)
空白いずみ 「残る高岩選手さえ、メキシコ帰りのメジャーエリート……。これは、何か考えないとまずいですぅ……むむむむむ」
社長    「……」(←かなり戸惑ってしまっているようだ)
空白いずみ 「社長!」
社長    「は、はい!?」
空白いずみ 「ものは相談なのですぅ〜〜(にっこり)」
社長    「な、なにかな?(やばい! いずみちゃんのこの甘えた態度は、かつて誕生日プレゼントをねだっておジャ魔女の衣装代を出させた時と同じ!?)」
空白いずみ 「じつはぁ、お願いがあるのですぅ〜〜(上目遣いでうるうる)」
社長    (う、う、うわあああああ(泣)、逆らえない、逆らえないぃぃぃ!?)

 かくして、またDIAの数少ない予算がいずみちゃん予算と化してしまうのであった。

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【おまけ】
星野真琴 「どうせ、あたしは地味ですよぉ……組みあわせだって話題性も何もないよーだ。話題にしてくれなくたって、いいもん。……ちぇっ」
 ひざを抱えて、人さし指で「の」の字を書いてすねる星野真琴なのであった。

[202] 深雪といおり 〜とある朝の話〜 投稿者:秋草(UP:◆K) 投稿日:01/08/22(Wed) 02:21
 とある月曜日。
 柊深雪はいつものように、同室の浜岡奈々緒より早く目を覚ました。
 眠い目をこすりながら練習場に向かう。
 体力不足は練習で補うしかない。一日も早くデビューするためにも…。
 そしてちぇるに追いつきたい。
 ジムに入ったとき、深雪は人影を感じた。
深雪  「……誰?」
  練習場に姿を現すのは、いつだって深雪が一番のはずである。
  それは一種の日課といってよかった。
深雪  「霞月……さん? どうしたの、こんなに早く……」
 その人影は霞月いおりだった。いおりが少しだけ振り向く。
いおり 「今日は休刊日だから……」
 そういやいおりは新聞配達のバイトをしてるって言ってたっけ。
 深雪はいおりがDIAの寮に入っていないことが不思議だった。
 寮に入っていたら、今以上にもっと練習に打ち込めるし、
 家賃を稼ぐなんてこともしないですむし、
 マットに上がってるんだから小遣いくらい稼げるし……。
 いおりはいおりで深雪の存在など気にも止めない様子で
 ランニングシューズの紐を丁寧に結んでいる。
深雪  「これからランニング?」
いおり 「まあ……」
 いおりに対して比較的いつも平気で話し掛けてくるのは
 深雪くらいのものだった。
 いおりはそれが不思議に感じたこともある。
 たに社長に到っては、いおりの顔を見ると適当な挨拶だけして
 いつも腰が引けてコソコソと社長室に逃げ込んでいるというのに……。
深雪  「私も一緒していいかな?」
 いおりのそばに深雪が腰を降ろして自分も靴を履く。
 いおりはちらっと深雪を見やると腰を上げた。
いおり 「好きにするさ……」
 一呼吸間があっていおりが答える。
 そして二人は、夏の陽射しが照りつけるDIA道場をあとにした。

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 1キロも走らないうちに、深雪はおいてけぼりをくらっていた。
 それは体力差からみると至極当然のことだったと言えるだろう。
 しかし深雪は、必死にいおりの背中に追いつこうと試みる。
 だがその距離は次第に離れていくばかり。
 ついにはいおりの姿は深雪の視界から消えていた。
 一緒に走らせてくれなんて、おこがましかったのだろうか?
 これがマットに上がってるものと練習生の違いなのだろうか?
 そんな雑念が、頭の中で交錯する。
 深雪は体力を使い果たし、小さな交差点で立ち止まる。
 いおりはどっちに行ったのだろう……。
 深雪が左右に頭を振ると、50メートルほど先の公園で
 いおりがストレッチしている姿が目に入った。
 深雪はふらふらになりながら公園に近付く。
 公園の入り口までやってきたとき、いおりはやっと深雪の存在に
 気付いた。
いおり 「……お疲れ」
 まさに千鳥足の深雪に、珍しくいおりは声をかけると、
 缶ジュースを一本、深雪に放った。
深雪  「あ、ありがとう……」
 深雪はそれだけ言うのがやっとだった。そしていおりを見上げる。
 いおりは薄っすらと汗を滲ませているくらいで疲労の色は全くない。
深雪  「い、いつもこんなに走ってんの……?」
いおり 「……今日は少ないくらいだ」
 深雪は愕然とした。これで少ない? 
 いおりはいつもどれくらい走っているのだろう……。
深雪  「ね、ねえ、つまんないこと聞くと思うんだけどさ、
  私ってプロレスラーには向いてないのかなあ……」
 深雪は思い切って、親友の奈々緒にさえ聞けないことを
 いおりに聞いてみた。
いおり 「……自分のペースでやればいい。他人は関係ない」
深雪  「自分の……、ペース……」
 深雪は言葉を繰り返した。いまいち納得がいかないようにも見える。
深雪  「それで私はマットに上がれるのかしら……」
 いおりはすぐには答えなかった。言葉を探しているのかもしれない。
いおり 「先のことはあまり考えない方がいい。現実を見ると夢は終わる」
 深雪はいおりの言葉の意味がすぐには分からなかった。
いおり 「……先に行く」
 走り始めようとするいおり。
深雪  「あ、霞月さん……」
いおり 「……いおりでいい」
深雪  「えっ…と、じゃあ、いおり。今度遊びに行っていい?」
いおり 「……好きにするさ」
 先程と同じ言葉を残して、いおりは走り始めた。
 奈々緒といおりは今、ライバル関係にある。
 特に新人王戦の出場権を逃した奈々緒は尚更だ。
 がんばろう。早くデビューして二人の間に割って入ろう。
 深雪はとりあえず、そのことだけを考えることにした。
 現実を見ると夢は追えない……。
 深雪は呼吸が整ったことを確かめると、
 おそらく道場に向かっているであろう、いおりのあとを追った。
_______________________________
※霞月いおりプレイヤー・秋草さん作。柊深雪プレイヤー・NOGさん承認・修正済みです。

[200] QOJトーナメント公開抽選会 投稿者:TAKU(代理UP・◆K) 投稿日:01/08/17(Fri) 22:35
天野真琴  「1回戦の相手は、宮本さんなんですか‥‥?」
南 利美  「ええ、そうよ。天野の1回戦の相手は、DIAの宮本陽子」

 KIZUNAファクトリー事務所で、QOJトーナメントの公開抽選会から戻ってきた南にそう伝えられた天野真琴は、思わず絶句していた。
 シングルのトーナメントである以上、お互いが勝ち進めばいつかは必ず対戦することになる。だが、まさか1回戦からとは‥‥。

南 利美  「あなたにとっては1回戦が最大の試練なのかも知れないわね」
天野真琴  「‥‥‥‥‥‥」

 南の言葉に天野は複雑な表情を浮かべた。
 DIAにおいての正タッグパートナーという関係上、試合が組まれることはまれだったが、組まれたとき天野真琴がどうしても勝てない相手、それが宮本陽子だったのだ。
 シングル、タッグ、6人タッグ。そのすべてで天野は宮本に敗北していた。

南 利美  「天野がこの1年、唯一負けつづけているのが対宮本陽子ですものね」
天野真琴  「‥‥はい」

 神田幸子が天敵リタ・モレナになぜか負け続けているのと同じことなのか。天野にとって天敵とも言える存在、それが宮本陽子なのだ。
 これまで、どんなに強い対戦相手にも雪辱を果たしてきた。
 一流のジュニア戦士たち‥‥、ルナ・マリーナ、リタ・モレナ、ディアナ・アームストロング、永田桃子、梓実さくら、愛沢美奈子、越後しのぶ‥‥。相手が誰であれそのレスリングパターンを見つけ、リズムを崩し、最後には勝つことができる。しかし、対宮本戦だけは天野にそれができなかった。
 しかし、いつかは越えなければならない。困惑しながらも天野は、自分がこのカードを待ち望んでいたことを知っていた。
 実力が劣っているとは決して思わない。それは、この1年の激闘のジュニアヘビーと言う勢力図のなかで生き残り、天野真琴という自分の名を、全団体、全選手に刻み付けることのできたことが証明している。
 だが、不安もある。
 強い、強くなったと思うこと。それが落とし穴なのではないか、と。
 自分の実力を過大評価しているのではないか。
 自分で思うほど、自分は強くないのではないか。
 いつも、自分は迷ってばかりいる。天野はそう思う。
 同じくQOJに出場する神田幸子は、南から1回戦の対戦相手が大日本海女子の豊多摩奈美だと聞いたあともほとんど表情を変えずにいた。今は4月22日におこなわれたNWWA世界ジュニアヘビー級シングル選手権での借りを返すため、サンドバックにその拳を叩きこんでいるはずだ。
 そして、その拳には一片の迷いもない。
 天野は、キッと瞳を南に向けるときっぱりと言った。

天野真琴  「‥‥もう、負けません」
南 利美  「そう。QOJ参加メンバーを見ても、天野真琴は見劣りはしないわ。大きな舞台で思いきり、試合を楽しんでらっしゃい」
天野真琴  「はい」

 宮本陽子を超えることが、天野真琴が新たなステップに立つためには絶対に必要だ。
 1回戦突破。
 それが、自分に課せられた最大の目標だ。
 2度は負けない。
 天野は、決意を秘めた瞳で、トーナメントへ向けて練習をはじめていた。

[199] 南さん、怒る? 投稿者:TAKU(代理UP・◆K) 投稿日:01/08/17(Fri) 22:34
KIZUNAファクトリー事務所 社長室

 なぜかご機嫌斜めな南利美さんがずかずかと社長室に戻ってくると、いきなり受話機を手に取り、プッシュホンに北斗百烈拳ばりに人差し指をたたきつけた。
 まるで電話を粉砕するかのようなその音は、事務所に響き渡り、事務仕事をさぼってファッション雑誌を読みながらしょうゆせんべいをかじっていた都鳥美貴嬢の肝を冷やした。
 
 閑話休題。

 数回のコールのあと、受話機から聞こえる聞きなれた男の声。
 それは、失踪中の深沢拓海元社長の携帯電話だった。

深沢  「‥‥はい。もしもし?」
南   「社長! いったいどういうことなんですか!!」
深沢  「はあ? な、なんなんですかいきなり?」
南   「石川のことです!!」
深沢  「石川さん?」
南   「龍子のところの石川です!!」
深沢  「ああ、石川選手!」
南   「なんで石川があなたに直接電話がかけられるんです!!」
深沢  「え? あの、なんのことです?」
南   「どうして、石川があなたの携帯の番号知ってるんですか!!」
深沢  「あの、話が見えないんですけど‥‥落ちついて、話しをしましょう」
南   「石川からたった今、電話があったんです。私の出場の件は今回は見送らせて欲しいって。それは別にいいんですけど、その時、『深沢社長にもそう伝えてありますので、ごきげんよう』とか言うから問いただしたら、さっき携帯にかけて直接話をしたって言うじゃないですか!!」
深沢  「確かに、南さんの電話の前に石川さんから電話がありましたけど‥‥」
南   「いつ、石川に携帯番号を教えたんですか!!」
深沢  「いや、あの‥‥」
南   「私にはついこの間まで教えなかったくせに、石川には教えていたんですね!!」
深沢  「ついこの間まで、いつも顔付き合せて仕事してたじゃないですか! 電話で話すことじたいがおかしいでしょう!!」
南   「だからと言って、石川に教えることないじゃないですか!」
深沢  「あの、番号通知でのこった着信記録だと思うんですけれど」
南   「は? ということは、あなたが石川の携帯にかけたんですね!」
深沢  「WARS☆Rの事務所に中原の新入団テスト試験官の件で電話してくれって言ったのは南さんじゃないですか! で、かけたら龍子さんがその件は石川にしてくれって、携帯番号教えてくれたんです! 急ぎらしかったから、失礼だとは思ったんですけど、石川さんの携帯に電話したんです!!」
南   「‥‥あ、そう‥‥だったんですか‥‥。私はてっきり石川に‥‥」
深沢  「石川に‥‥なんです? ボクが石川さんにモーションをかけてるとでも言いたいんですか。そんなことするわけないでしょう!」
南   「‥‥ですけど‥‥」

 なんとなく気まずくなり、語気が弱くなる南さん。

深沢  「南さん、少しくらいボクのこと信用してくださいよ。なんでボクが石川さんを口説かなきゃならないんです。今のボクにそんなことをする余裕なんてあるわけないじゃないですか! そりゃ石川さんはステキな女性だとは思いますが‥‥」

 その瞬間、深沢がつついた藪からツチノコが飛び出してきた。
 最後のセリフにカチーンときた南のテンションが一気にレッドゾーンに突入する。

南   「‥‥ステキって、そういうセリフがさらりとでるからあなたのことが信用できないんです! 信戦組の社長さんや枕崎さん、それに日海の太田垣社長と、あなたはキャラが被ってるんです!!」
深沢  「なっ‥‥、どういう意味ですか!」
南   「言ってほしいんですか」
深沢  「ええ! ぜひ聞きたいですね!! ボクのどこが枕崎さんや信戦組社長、それに太田垣さんと被ってるって言うんですか!」
南   「いいですか、私が言うのもなんですがあなたの都鳥さんの一件とか、信戦組社長と西町、枕崎記者と飯塚と山上あかね、それに、太田垣社長の松井と里見さんのとか完全に被ってるんですよ!」
深沢  「なっ‥‥! み、都鳥さんの件とそれは関係ないでしょう」
南   「後ろめたい事でもあるんですか。語気が弱くなりましたね」
深沢  「そ、そんなことあるわけないでしょう!!」

 お互いに自分で自分の墓穴を掘ったことに気付かない、南さんと深沢。

南   「だいたいなんで私が、西町にあなたと老いらくの恋とか言われなきゃならないんです!!」
深沢  「老いらくの恋ネタと今回の石川さんの件は関係ないでしょう!!」
南   「石川のことをかばいましたね。だから信用ができないって言うんです。私の携帯番号なんて聞こうとしたこともないくせに、石川の携帯番号聞けてラッキーとか思ってたんじゃないんですか!」
深沢  「そんなことあるわけないでしょう!」
南   「じゃあ、石川の携帯番号消したんですね」
深沢  「えっと‥‥携帯にメモリーしました‥‥」
南   「ほら、やっぱり! 石川のこと食事にでも誘おうと思ってるんでしょう!! そして、そのあとホテルにでも‥‥、私のことを誘ったこともないくせに!!!」
深沢  「なに妄想じみたこと言ってるんですか! それに南さんには年末に、ほかの選手たちに内緒で、ばか高い神戸牛のステーキ奢ったじゃないですか!!」
南   「誰が妄想してるですって! それにあの時の食事は、あの辞める辞めない事件でのペナルティだったじゃないですか!! それに、経理に打ち合わせって名目で領収書出したの知ってるんですよ!!!」

 お互いにいくつ、自分の墓穴を掘ったかわからなくなる南さんと深沢。
 もう、足の踏み場も無い状況だ(爆笑)。

深沢  「ペナルティだろうが打ち合わせだろうが、ごはん一緒に食べたのは変わりないでしょう! それにあの領収書、最後の最後に却下したの南さんじゃないですか!!」
南   「当たり前です、経費になんて認めてたまるもんですか! それにあんなムードのない食事で満足しろと? 話題、全部KIZUNAのことだけじゃないですか!!」

 もう完全に論点が変わっていることに気付いていない2人。

深沢  「ムードってなんですか、ムードって!」
南   「男と女が2人っきりで、食事してるんだから、少しは気を使いなさいってことです!!」
深沢  「そんなことしたって、冗談ですますじゃないですか!!」
南   「少しはその気があるのなら、リードしてみたらどうですか!」
深沢  「南さんのほうの世間体ってものがあるでしょう!」
南   「世間体ですって、それを考えてるんなら、失踪なんかしないでください!」
深沢  「そ、それを言ったらお終いでしょう。ただでさえ、追い詰められているのに、崖っぷちにいるボクの背中押して楽しいですか!!」
南   「楽しいわけないでしょう! 自分ひとりで背負うとかカッコつけていなくなったのはあなたの方じゃないですか!! 残った私がどんな気持ちでいるか‥‥」
深沢  「‥‥南さん‥‥」

 と、そのとき、社長室のドアがノックされ、高村が顔を出す。

高村  「あ、あの〜〜〜南さん‥‥」
南   「な、なに高村。今、電話中‥‥」
高村  「その電話なんだけど‥‥レクレーションルームに筒抜け‥‥」
南   「‥‥え?」
高村  「あのね、南さん、電話かけるとき一緒にレクレーションルームへの内線もつなげたでしょ? だから、社長と南さんの会話、レクレーションルームに筒抜けだったよ」
南   「ど、どこから聞いてたの?」
高村  「『いったいどういうことなんですか!』から、ステーキ食べに言ったとこまで聞いたところで、あかねがこっち来たの」
南   「‥‥ほかには誰がいたの?」
高村  「雪緒と千早希。すっごく楽しそうにどっかに電話かけてるけど‥‥。きっとDIAの蒼樹ちゃんにじゃないかな。蒼樹ちゃんならいいけど、いずみちゃんとかカモンちゃんの耳に入ったらただじゃすまないと思うけど‥‥」

 その瞬間、脱兎のごとくかけだし、社長室を飛び出して行く南さん。
 ほっておかれた受話器を取り、話しはじめる高村。

高村  「社長?」
深沢  「あかねか? 久しぶり。しかし、まいったな‥‥まさか、内線に混線してるとは‥‥」
高村  「南さん、雪緒と千早希のところに行っちゃったから、あかねと少し話そ」
深沢  「そっか‥‥。あかねたちはがんばってるみたいだな。週間エンジェルスでここんとこ毎試合、大きく扱ってもらってるじゃないか」
高村  「うん。まーちゃんもね、がんばってるよ。あかねも、さっちゃんも、千早希も、亜矢も、ちづるさんも、久美ちゃんも、雪緒も、美貴ちゃんも、南さんも、みんなみんながんばってるから、社長も負けないでね」
深沢  「‥‥」
高村  「ぜったい、負けちゃダメだよ。社長があかねに言ったんだからね。あきらめなかったら負けないって。だから、絶対に負けちゃやだよ。みんな待ってるから、早く戻ってきてね」
深沢  「ああ。ボクの帰る家はKIZUNAだけだからね。KIZUNA以外でプロレスに関わるつもりはないし。戻ることを認めてもらえるのなら、ボクはKIZUNAに戻りたい」
高村  「絶対だよ。あかねたち待ってるからね」
深沢  「約束だ」

[197] 7/29の相川vs西町デスマッチ後日談〜(汗) 投稿者:阿僧祇 投稿日:01/08/14(Tue) 06:44 <URL>
2001/08/10

 >信濃町、リトルマーメイド
相川ユリ「…また、やぼったいカッコで来たわねえ」
信戦組社長「ゴメン、やぼったいオトコなんです。(ペロッ)」
相川ユリ「珠理も、こんな男のどこがよかったんだか…」
信戦組社長「どこもよくなかったんじゃないですか? だから最後まで否定してた
でしょう。」
相川ユリ「本気でそう思ってるワケ?」
信戦組社長「ええ。」
相川ユリ「社長さん…『嫌よ嫌よも好きのうち』っていうオンナゴコロ、わかってる?」
信戦組社長「さあ? でもそれがすべての場合に適用できたら、本当の『嫌』がわからなくなっちゃいますしね。」
相川ユリ「・・・・・(考えてる)」
信戦組社長「・・・・・?」
相川ユリ「…出ようか。」
信戦組社長「…うん。」

   その二人を追うように、こそこそ着いていく陰。

 >JR信濃町駅
相川ユリ「あそこは落ち着かないし(心の声:尾行になってないんだよね(苦笑))」
信戦組社長「相川さんも気付いてました?」
相川ユリ「ん?」
信戦組社長「…いや、なんでもありません。」
相川ユリ「・・・・・。(心の声:気がついてるんなら、アイツの所に行ってやりゃいいのにさ。だから、ダメなんだよね、この二人)」
信戦組社長「・・・? 何か?」
相川ユリ「…これって、一応デートなのよね?」
信戦組社長「ええ。」
相川ユリ「…ってことは、あんたは私の彼氏ってことになるのよね?」
信戦組社長「…そうですね。」
相川ユリ「じゃ、おカタい『ですます』調はやめなさい! ムードぶち壊し!」
信戦組社長「そうですか?」
相川ユリ「違う違う、『そうか?』」
信戦組社長「そうか?」
相川ユリ「そうそう。」

 >水道橋、某ゲーセン
相川ユリ「ま、いいけどさ。ここで何をしろと?」
信戦組社長「ゲーム…ですか。」
相川ユリ「…違うでしょ!」
信戦組社長「…ゲームでもしろってんじゃないの?」
相川ユリ「そうそう。それで社長さん、何か得意なゲームある?」
信戦組社長「いや…僕は、シミュレーションとかならともかく、反射神経ものは苦手で。」
相川ユリ「駄目だなぁ。(溜息) 次行こうか、次。」

 >水道橋、文京区役所最上階
相川ユリ「…ま、いいけどさ。昼飯は美味しかったし。」
信戦組社長「ははは…(汗)」
相川ユリ「でも、昼来る所じゃ無いね…ここは、夜景を見る所だよ。」
信戦組社長「そうですね。」
相川ユリ「…違うでしょ!!」
信戦組社長「え? あ! そ…そーだね。」

 >池袋、西武デパート屋上
相川ユリ「…ま、いいけどさ。ペットコーナーの豆柴やシェルティは可愛かったし。」
信戦組社長「ははは…(汗)」
相川ユリ「このコースって、珠理が考えたんでしょ?」
信戦組社長「うん。」
相川ユリ「賭けてもいいよ。あいつ、オトコとつきあった経験、まだ無いね。」
信戦組社長「そうかなあ…?」
相川ユリ「そうだよ。あまりにセンス無さすぎ。」
信戦組社長「・・・・・・。」
相川ユリ「・・・・・・・。」
信戦組社長「・・・・・・。」
相川ユリ「・・・・・コラ!」
信戦組社長「はい?」
相川ユリ「私とデートしてる最中に、珠理という他のオンナのこと考えてるわね?すごく失礼じゃ無いの!」
信戦組社長「そ、そんなコト言ったって…そっちから振った話じゃないか!」
相川ユリ「あれ? そーだったっけ?(汗) …とにかく、デート中にそんな顔するのは失礼だぞ!」
信戦組社長「…そうで…そうだね。せっかくなんだから、楽しまなきゃ!!」

  >夕方、上野公園
相川ユリ「で、この後の予定は?」
信戦組社長「・・・・・。」
相川ユリ「メモがあるんでしょ。」
信戦組社長「…うん。その…鴬谷になってる。」
相川ユリ「(顔を覗き込むように)…『ラ』のつくホテル?」
信戦組社長「・・・・・(コクン)」
相川ユリ「(苦笑)珠理のやつ、ヤキが廻ったな。」
信戦組社長「まさか、そこまではつき合わないよね。」
相川ユリ「さあ? (くるりと振り向き)どうしようかな〜〜〜?(妖笑)」
   信戦組社長、戸惑いの表情。
   ユリ、ずずいっと信戦組社長に近寄る。
相川ユリ「…行きたい?」
信戦組社長「行きたくないって言ったら嘘になるな。」
相川ユリ「…じゃ、誘ってみれば?」
信戦組社長「なんて?」
相川ユリ「女を誘うとき、なんて言う?」
信戦組社長「…君を、抱きたい。」

   遠くの方で、木の枝が折れる音。

相川ユリ「…なんてストレート!(爆笑)」
   しばらく爆笑。
信戦組社長「(憮然として)…そんなに笑うこと無いでしょ。真面目に言ったんだから。」
相川ユリ「ごめんごめん、、、(笑)。どうしようかな〜?」
信戦組社長「・・・・・。」
相川ユリ「…私を抱きたい?」
信戦組社長「…今、そう言ったろ。」
相川ユリ「…私のこと、好き?」
信戦組社長「…ああ。好きだよ。」
相川ユリ「私を愛してる?」
信戦組社長「え〜と…これから、全力で愛するようにする。」
相川ユリ「バカ正直! そういうのなんて言うか知ってる?」
信戦組社長「なんて言う?」
相川ユリ「(急にキツい表情になり)『野暮天』て言うんだよ、このスットコドッコイ!」
   相川ユリ、急に飛び下がる。二人の間に開く距離。
   相川ユリ、表情を緩める。

相川ユリ「今日は楽しかった。ありがと。でも、私はあんたを好きになることはできません。あんたってサイテーよ。愛してもない女と一日つきあって、楽しそうにしてるんだもん。珠理の言ってたとうり、とんでもない浮気者のようね。」
信戦組社長「いや、それは…僕はユリさんを…まだ愛情とまではいってなくてもどっちかといや好きだし、せっかく二人で歩いてるんだから、楽しもうと…」
相川ユリ「私は今、あんたの彼女よね?」
信戦組社長「え? ああ。」
相川ユリ「それなら私の言うこと、聞いて。」
信戦組社長「う…うん。」
相川ユリ「じゃあ言うわ。珠理のことが好きなら、今夜、あいつの部屋を訪ねること。そして今日から毎晩、同じベッドで寝ること!」
   驚愕する信戦組社長。

   後ろの木陰に隠れ、目を見開いて呆然としてる…
西町珠理「ユ、ユリってば…(どっきん、どっきん、どっきん、どっきん…)」

相川ユリ「だけど珠理より好きなやつが誰かいるのなら、…(声を荒く)私の大切な同期に思わせぶりなマネして傷つけるのは、何があっても許さない!」
   夕方の風が吹きぬけていく。

西町珠理「…(どきんどきんどきんどきんどきん…)」

   信戦組社長を睨み付けている相川ユリ。
社長「珠理くんは…俺にとって絶対に必要なアシスタントで、すごく大切な選手なんだ。傷ついてなんかほしくないし、傷つけようとも思わない。」
相川ユリ「どうすれば傷付かないと?」
社長「…俺は、珠理くんの提案を採用して選手達に三禁を強いた。こういう場合…本来なら、俺自身もその決まりを守らないといけないよな。」
相川ユリ「まさか…自分に三禁を科す気? ギャンブル禁止、酒禁止だけでなく、恋愛まで一切できなくなるんだよ!?」
信戦組社長「…でもそれで、珠理くんの気はいくらか楽になるんじゃないかな」
相川ユリ「…本当に、そんな約束できるの? 私や珠理に対して誓える?」
信戦組社長「ああ。男と男の約束だ。」
相川ユリ「…誰が『男と男』だっ!」
   CRASH!!
   前蹴り一撃、ぶっ倒れる信戦組社長。
相川ユリ「…バカヤロー。充分受け流せるくせに、わざとモロに食らいやがって…」

   立ち去りかけるユリ。
   しかし、珠理が隠れている木の側まで来ると、足を止める。

相川ユリ「…あの男、あんたなんかとベッドを共にする気は金輪際ないってさ。」
   ぐっ、と拳を握り締め。胸に抱く珠理。
相川ユリ「でも、絶対に必要なアシスタントですごく大切な選手なんだって。…それでいいの?」
西町珠理「私は…プロレスラー。選手として求められてるなら、全力で戦うだけだわ。」
相川ユリ「おーおー、熱血こいちゃって…後悔しても知らないからね?」
西町珠理「試合で私にかなわなかった負け犬に、説教する権利はありませんっ!」
相川ユリ「言ったな、こいつー!」
   ふざけてとびかかるユリ。たちまち始まる取っ組み合い。
   何事かと通行人の視線が集まる。
   ユリがスリーパーに入りかけたとき、ふと、珠理の目に涙が。
相川ユリ「…あんた、やっぱ…」
西町珠理「違う! ユリの肘が目に当たっただけ! もう、道は決ったんだから…決めたんだから! あんな男、こっちから願い下げよ! 私はプロレスラー! 引退するまで三禁、恋愛なんかしてるヒマはないのダ!」
相川ユリ「よーし、その意気! 今日はとことん付き合え!」
西町珠理「え?」
相川ユリ「私たちふたりしていっぺんにオトコ作るチャンスを失ったのよ! まあ、私にも珠理にもとても釣り合わないどうでもいいヤツだったけどさ〜、でも口を開かなければそれなりにイイ男で、ちょっとだけ勿体無かったじゃん? これが飲まずにいられますかってーの! さー、今夜は倒れるまで飲…むのは三禁でダメか。じゃ、倒れるまで歌うわよ〜〜〜!」
西町珠理「ちょ、ちょっとぉ〜〜〜! (心の声:…気を使ってくれてるんだ…ありがとね、ユリ!(涙))」

   かくして二人は、鴬谷のカラオケボックスに消えていった。

 >蛇足(カラオケボックスにて)

西町珠理「(絶唱)♪いっま〜〜〜大っ地をっ駈け〜〜、いっま〜〜〜飛っびっ立〜つとき〜〜っ、果てし〜ない〜青空を目指して〜〜〜〜っっっ、す・く・らん・ぶる〜〜〜〜ぅっっっ…!!」
相川ユリ「珠理…その歌、23回目・・・・・・(心の声:だ、誰か止めて…(泣))」

================================

(黒猫さま添削済み☆)

[195] 天野真琴デビュー!? 投稿者:TAKU(UP:◆K) 投稿日:01/08/12(Sun) 22:50
● KIZUNAファクトリー事務所 社長室

天野  「は? わたしがCDで、歌手デビューですか?」
南   「ええ。そうよ。あなたがデビューするの」

 社長室に呼ばれた直後に、いきなり言われた南利美の言葉に、目をまんまるにして驚いたままの天野真琴。
 深沢社長のころから、この社長室にひとりで呼ばれるときは驚かされることが多いのだが、今回のは久しぶりにクリティカルヒットクラス以上の衝撃だった。

天野  「あ、あの‥‥わたしが歌うなんて、冗談ですよね?」
南   「冗談だと思う?」

 南からの逆の問いかけに、天野の目がさらに丸くなる。
 そうだ、こういうパターンで呼ばれたときの話はウソや冗談だったためしがない。
 天野は、南の顔をみながらそう思った。
 実際、今までもそうだった。
 深沢社長に神田幸子の入団を相談されたときも、旗上げ戦をやるときもそうだった。
 いつも相談と言う形をとっていたが、実質は決定事項の報告でしかなかったことに、天野はようやく気がついた。

天野  「(だ、だまされちゃダメ、ながされちゃダメ、いやですっていえなきゃダメ‥‥)」

 呪文の様に心のなかで唱えながら、天野は南に向かってもういちど、言った。

天野  「‥‥冗談、ですよね?」
南   「冗談じゃないの」

 南の言葉に、天野の目の前は真っ暗になった。

南   「私もよくは知らなかったんだけれど、芸能部門での仕掛けだったみたいなのよ、深沢さんの。『乙姫さんとかエルフィンかおり選手みたいに、ウチの選手もデビューしなきゃ!』って言ってたんだけど」
天野  「だからって、なんでわたしなんですか? 高村さんピアノ弾けるし、永原さんだって、荒谷さんも上手だし。それに、神田さんだってバラード系すごく上手だし、千早希に雪緒も歌上手いじゃないですか。南さんだって‥‥」

 めずらしく勢いよくまくし立てる天野。
 
南   「つまり、自分以外の人間にやらせたいのね」
天野  「え? ‥‥いえ、あの、そういう意味じゃないんですけど‥‥。でも、なんでわたしなんですか?」
南   「現実に、今、天野真琴という名前が持っている力というのが大きいわね」
天野  「そんな‥‥。わたしなんて南さんや永原さんに比べたら‥‥」
南   「そう思ってるのはあなただけよ。実際に、天野真琴という名前はプロレスファン全体に浸透しつつあるし、この間でたテレビとかでけっこう反響があったみたいだし」

 先日、天野はスイサイドガールズから離れた形で、南と一緒にゴールデンタイムのバラエティー番組に出演した。その時のことを南は言っているのだ。

天野  「あのときだって、わたしなんにもしてないじゃないですか」
南   「レスラーに見えないところが受けたみたいね。ジュニアヘビー級のトップにいるカンフー使いの美少女レスラーって見出しになってたわ」
天野  「わたしなんかよりもキレイで、カワイイ人いっぱいいるじゃないですか。永田さんとかさくらさんとか愛沢さんも、あとYukiさんもそうだしセラフィム・レイさん。蒼樹さんだって、あと空白いずみさんも。それにわたし今年で23ですよ、少女なんて年じゃありません」
南   「全員、他団体ね」
天野  「え、そ、そうじゃなくって‥‥だいたい、わたし歌なんて‥‥」
南   「かなり歌えてるっていう話がきてるけど」
天野  「いつ、わたしの歌なんて‥‥」
南   「雪緒の歓迎会の2次会でカラオケボックスに行ったでしょ」
天野  「あ‥‥」

 天野の頭に、4ヶ月ほど前の出来事が甦った。
 大塚雪緒が入団して2週間ほどたった日。
 深沢社長の音頭で歓迎会がいつもの焼肉屋で開かれた。みなお腹一杯、焼肉を食べ、ほどよくアルコールが回った頃(ちなみに南、神田、永原、荒谷、高村と酒好きが続く。南は洋酒、日本酒問わずに飲み、神田はどちらかというと日本酒系が好みだ。永原、荒谷は生ビールをジョッキでぐいぐいと空けている。高村はアルコール量を少なくした甘めのチューハイを好んで飲む。中原と雪緒は未成年のくせに生ビールを頼もうとして南のゲンコツをくらいコーラを飲んでいた。まったくの下戸は天野ひとりで、グラスビールを半分も飲むと真っ赤になってしまう)、翌日がオフで、しかも祝日ということもあり、2次会としてカラオケボックスで朝までの宴会が続いた。
 なぜか、全員が最低一曲歌うことが義務付けられ、まずは新人からいうことで最初に雪緒がマイクを渡され、浜崎あゆみの「M」を熱唱した。続いて中原がTOKIOの「ハートを磨くっきゃない」を、高村が酒井法子の「アクティブ・ハート」を歌った。次に歌うのが誰かで少しもめ、ジャンケンに負けた荒谷がAikoの「ボーイフレンド」を、続けて神田が鬼束ちひろの「月光」を、永原が懐かしの中山美穂の「色・ホワイトブレンド」を歌っていた。ちなみに中原と高村はアニメソングだ(中原が「飛べ! イサミ」、高村が「トップをねらえ!」)。
 続けて南がマイクをとり竹内まりあの「真夜中のナイチンゲール」を、最後まで抵抗していた天野だったが、深沢社長に押し切られ、しかたなくマイクを握りジョン・レノンの「イマジン」を(みなから最初はブーイングがでていたが)綺麗なクイーンズイングリッシュで歌い上げた。その後、高村や永原に押し切られる形で矢井田瞳やタンポポ、さらに高村に観せられたアニメの主題歌の数々‥‥「サ・ク・ラ・サ・ク(ラブひなOP)」、「Love Destiny(シスタープリンセスOP)」、「おジャ魔女カーニバル(おジャ魔女どれみ第1シーズンOP)」、「Feeling Heart(To Heart OP)」などなど10曲以上を歌わされ‥‥いや、楽しそうに歌っていた。最初は嫌がっても、無理矢理にでもやらせてしまえば結局、楽しんでしまう天野の性格を見抜いた、永原や高村の策略ともいえる(笑)。

南   「‥‥どうも、その時のテープをサンプルにしてレコード会社と打ち合わせを進めていたみたい。まあ、ジョンレノンにタンポポ、それにアニメソングあれこれ‥‥、あそこまで歌えたらってことかしら」
天野  「わたしなんて、歌、下手じゃないですか」
南   「そう言いながら、いちばんマイク持ってたの天野だった気がするけど?」
天野  「わたしじゃなくて、あれは、高村さんと永原さんに‥‥」
南   「歌わされていたわりには、レパートリー多かったわね」
天野  「わたしのレパートリーじゃなくって、あれはリクエスト‥‥」
南   「それにしては、楽しそうに歌ってたじゃない」
天野  「わたしに歌なんてムリですよ〜〜〜」

 ついに泣きが入る天野。
 だが、冷静に南が天野の逃げ道をふさいで行く。

南   「先方のプロデューサーは天野真琴でならって言っているし、もう逃げられないんだから、あきらめたら?」
天野  「南さ〜〜〜〜〜〜〜〜ん!」
南   「どうしてもやりたくないのならしょうがないけれど、深沢さんのやりたがってたことなんだけれどね‥‥。そう、いやならいいんだけど」
天野  「‥‥南さん。卑怯ですよ、その言いかた」
南   「そう?」
天野  「KIZUNAで、深沢社長に『こういうことしたいから頼む』って言われて、イヤだって逃げていくの雪緒くらいです」
南   「そうね。少なくとも、私たちはその10倍以上のお願いを深沢さんにはしてるものね」

 その瞬間、天野真琴の負けは決定した。

天野  「‥‥わかりました。わたしはどうすればいいんですか?」
南   「とりあえず、来週、打ち合わせがあるから一緒に行く事になるわね」

 南の言葉に改めてべそかき顔になる天野。

天野  「ほんっと〜〜〜〜に、わたしなんですか?」

 天野真琴、つににCDデビュー決定か?

[194] QOJトーナメントに向けて〜天野真琴インタビュー〜 投稿者:TAKU(UP:◆K) 投稿日:01/08/12(Sun) 22:49
 ――29日のルナ・マリーナ戦を終えて、今の気持ちは?
天野真琴 「気持ちもなにも完敗でしたから。天野真琴ってなんて弱いんだろうって、ホントにそう思いました」
 ――あの、そこまで言わなくても‥‥
天野真琴 「でも、事実ですから」
 ――今まで、ランサー天川選手、永田桃子選手、梓実さくら選手を破ってきたわけですから。逆にそういう自分を過小評価する言い方は対戦相手が気を悪くするのでは?
天野真琴 「そういうつもりはないんです。ですけど、1回や2回勝ったからといって、わたしが永田さんや梓実さんをこえたことにはなりませんよね。それがプロレスじゃないですか。その選手のまとっているオーラのすべてを飲みこんでこそ、はじめて追いぬくことができる。わたしにはそれができていない、だから、わたしはチャレンジャーなんです」
 ――確実にジュニア界でその位置を上げているとは思うんですが。
天野真琴  「わたしが1歩進んでも、永田さん、天川さん、梓実さん、宮本さん、マリ姉さんたちみんな‥‥2歩も3歩も先に進んでいくんです。折り返しなんて待ってられませんから」
 ――なにが天野真琴をそんなに焦らせてるんですか?
天野真琴  「わたしはいちばん出遅れているんです。日本に戻ってくるまで、プロレスラーとしての欲を良くも悪くも持ってませんでしたから。わたしが無名の時に、豊田摩さん、梓実さん、永田さん、天川さん、マリ姉さん、宮本さん‥‥今、ジュニアトップグループとして括られている選手たちはみな、実績をつくりトップレスラーとして認知されていましたから。わたしが同じスピードで歩んでも、先を歩いている人たちには追いつけないんです。永田さんたちが1歩進むときにわたしは2歩、3歩と進まないと‥‥。なのに、永田さんたちは一気に2歩も3歩も進んでいくんです。わたしは全力疾走じゃないと追いつくこともできないんです」
 ――日本マットに登場してから天野真琴は確かに全力疾走でしたね。
天野真琴  「息切れしてしまってインディージュニアタッグもNWWAジュニアタッグも両方とも奪われてしまいましたけど(笑)」
 ――とはいえインディージュニアタッグの防衛記録は破られる気配はなさそうですね。
天野真琴  「今のわたしは記録とか過去のことを気にしていられる状態じゃないですから。今の状態から1歩でも先に抜け出さないとこのまま中堅選手で終わってしまう。日本から戻ってきたときはそれでもいいなとは思ってましたけれど」
 ――今は、違う。
天野真琴  「欲がでてきましたから(笑)。天野真琴はジュニアヘビーのなかでトップを取りたいと、そう思っています」
 ――トップを取るための近道として、「QUEEN ОF JUNIОR TОURNAMENT」がありますね。天野選手はかなり早い時期に出場が決まっていましたけれど。
天野真琴  「KIZUNAからは一番にわたしの名前が上がったことは本当に嬉しかったです。ですけど、全参加メンバーが揃った今、一番弱いのが自分だってわかってしまいましたから。1回戦が正念場だと思っています。誰と戦うにしてもベスト8に残れないと。次の4人、そして最後の2人に残りたいですけれど、まずは8人に残れないと意味がありませんから」
 ――なにかトーナメント用の秘策はあるんですか?
天野真琴  「え? 秘密です。‥‥なんて言ってみたりして(笑)。でも、なにもないですよ、ホントに。わたしの武器は、サイクロンクラッチと欧州式ツームストンパイルドライバーの2つですから」
 ――みな、新技とか用意してるんじゃないんですか?
天野真琴  「考えてないわけじゃないんですけど、まだ実戦に使えるレベルじゃないんです。技って実戦で使いこんでその信頼性を増して行くものだと思うんですね。自分の中で信頼性の薄い新技を使うくらいなら、対戦相手に多少読まれていても、自分の中で信頼できる技の方が絶対威力もあるし、フォール、ギブアップを取れるとわたしは思ってます」
 ――それだけ自信を持っていると?
天野真琴  「そうですね。サイクロンは永田さん、梓実さん、マリ姉さんからギブアップを取ってますし、欧州式はわたしの試合になくてはならない技になってますから。決まれば取れる技だと思ってます。なら、その技が決まるような流れで試合を組みたてていけばいいんですから。技じゃなくて流れ。試合は点じゃなくて線ですから」
 ――大技を連発すればいいわけではないと?
天野真琴  「なにをもって大技とするかはその選手の個性だと思いますけれど。人によってはパワーボムを連発したり、投げっぱなしにしたり、そういうレベルの技でもつなぎにされている選手もいらっしゃいますし」
 ――KIZUNAだと荒谷選手や高村選手にそのイメージがありますよね。
天野真琴  「そう思われている人も多いですけれど、そんなことはないですよ。荒谷さんの場合は、ヘビー級ということもあって、大技一発で終わることは少ないですから。要所要所の大技という点をつないで線にすることで最後にムーンサルトにつないでいくという形ですから、大技連発というスタイルじゃないんです。高村さんは、ラフファイトとファイアーボンバーのイメージが強いですけど、実際には序盤はサブミッションでじっくり攻めて行くということが多いですよ。南道場のなかでは模範生ですから。DIAでの香月選手との試合でもグラウンドで渡り合ってますし」
 ――KIZUNAスタイルは大技の連発を嫌いますからね。
天野真琴  「べつに大技を否定しているわけではないんです。ファイトスタイルっていうのはその選手の個性ですから、ただ、KIZUNAではナイフをたくさん持つよりも、バズーカ砲をひとつ持ちなさいという教えかたなんです。南さんを始めとして、KIZUNAでは自分がみがきあげた技を大技まで昇華している選手が多いと思います。雪緒はまだまだその辺りをきちんと身につけてないみたいですけれど。まあ、わたしのスタイルはKIZUNAのなかでも極端だと言われます(笑)」
 ――今のマット界ではツームストンパイルはつなぎ技のイメージがありますよね。天野選手はそれを、あえて必殺技にしている。
天野真琴  「わたしにとっては欧州式ツームストンってものすごい大技なんですけど‥‥。最近は、受け身がすごく発達してるからツームストンを2回、3回と連発してしまうのをなんとかしないといけないなと思ってます。本当は一発必倒が理想なんですけど」
 ――必殺技の本当の復権ということですか?
天野真琴  「そんな大げさなことじゃないんです。ただ、わたしは非力なので、パワーボムとか効果的に使えないんです。だから非力なわたしでも使える技を、効果的に使いたい、それだけなんです。試合の流れしだいでは、ボディスラムも大技にできると思いますし、永原さんみたいにジャーマンをみがくことで、それを最強の大技にできる。そのなかでも今の時代にバックドロップホールドを大技にできる、永田さんのスタイルなんてすばらしいと思います」
 ――このトーナメントへの意気込みをお願いします。
天野真琴  「優勝‥‥と言いたいんですけれど、参加メンバーを見ているとわたしが勝てる見こみは薄いなというのが実感です。きっと、永田さんや宮本さんなら優勝って言われると思うんですけれど、わたしは‥‥。でも1勝でもできるようにがんばります」

[191] 8月12日に向けて ――荒谷久美の隠された趣味―― その1 投稿者:TAKU 投稿日:01/07/29(Sun) 16:42
 KIZUNAファクトリー、深沢拓海社長がダマされて負債を抱え、KIZUNAフロントから姿を消してから1ヶ月。
 7月も中旬に入り、やっと選手たちの動揺も収まってきた。
 14日のDIAの試合を境に、いちばん動揺していた高村あかねもふっきれたようで、『あかねたちががんばってれば、社長もすぐ帰ってくるよね!』と、試合を楽しみ始めている。
 南利美はフロント業務に忙殺されながらも真女に参戦し、永原も荒谷と共に真女を足がかりに女子プロレス界のトップ取りを目指し闘いを続けている。中原千早希は迷宮から抜けるために新たな道を模索し、船木亜矢はマスクウーマンとしての道を確実に歩き始めた。
 天野真琴、神田幸子、高村あかねのスイサイドガールズもジュニア戦線で旋風を巻き起こし始めていた。その中でもリーダー格であり、実質的にKIZUNAファクトリーのエースといえる天野真琴は、シングルで永田桃子を破るなどシングルプレイヤーとしての実績を積み始め、これまでのタッグ屋のイメージを払拭し、名実ともにジュニア戦線での台風の目へと成長を遂げていた。
 この1ヶ月間で、KIZUNAファクトリー選手たちは、以前のテンションに気持ちをもっていっていた。
 そんななか、最近、荒谷の様子がおかしいと永原が心配をしていた。
 練習が終わると、部屋に引きこもり遅くまでなにかやっているようだった。
 たまに徹夜までしているようで、眼の下にクマをつくりながら、雪緒の練習を見ているときもある。永原が問いただしても、「あ、大丈夫です。ちょっと趣味のものがあって‥‥」と、曖昧に笑みを浮かべて誤魔化していた。

[192] 8月12日に向けて ――荒谷久美の隠された趣味―― その2 投稿者:TAKU 投稿日:01/07/29(Sun) 16:44
 その日の夕食は、あかねが腕を振るったお肉たっぷりのちゃんこ鍋だった。
 レスラーは身体が資本という考えから、KIZUNAでは他の経費を押さえても食事の経費をケチる事はない。しかも買い物上手で料理が得意なあかねが、低予算でおいしく、しかもボリューム満点の食事を作るため、選手たちに加えて経理からも喜ばれている。
 KIZUNAでは、基本的に全員がそろってから食事となる。永原、神田、高村、中原、大塚と事務仕事を終えた都鳥美貴が先に食堂に顔をだしてテーブルにつき、続けて天野と荒谷、最後に南が姿を見せ、食事が始まった。
 1ヶ月前にはここに深沢社長の姿もあったのだが‥‥。
 トリガラスープをベースにした中華風の味付けのちゃんこ鍋から、美味しく煮えたブタバラ肉や野菜を中原と都鳥が先を争うように口一杯に頬張っている。煮えるそばから肉を取る都鳥から、自分の分を守ろうと中原のハシも大量の肉を常に掴む。
 少しでも身体を大きくしたい中原は、自分自身で丼メシ大盛り5杯をノルマにしていた。なぜか、都鳥も昔取った杵柄というわけではないのだろうが、中原並に丼メシを頬張っている。それでいてなぜか太ったとかプロポーションが崩れたとかいうことがなくスタイルを維持しているから不思議だ。大塚雪緒も、中原といい勝負ができるほどよく食べる。しかも要領がよく、大量の肉を自分のお椀に常にキープしている。
 その次に、永原、荒谷、高村と大食漢が続く。南、神田はプロレスラーとしては人並みで(それでも丼でごはんを食べているのだから充分量を食べる方なのだが)、天野は胃そのものが小さいためもありKIZUNAではいちばんの小食で、普通のお茶碗で2杯も食べると苦しそうにしている(だが、練習で運動するぶん、栄養とエネルギーは必要だ。そのため、天野は量ではなく回数でその分を補っている。3度のごはんのほかに、果物やホットケーキ、うどんなどを小腹がすいたと感じたら、すぐに取ることにしている。多いときには1日に8〜9回もなにか食べていることがあるのだ)。そのためか、鍋物が夕食になると必然的に天野が食材を管理する鍋奉行となる。とはいえ、仕切るのではなく、お鍋の中から食材が無くならない様に、2つのお鍋のなかにローテーションよく肉や野菜を追加して回るというのがその役目だ。
 大暴れな食事も終わり、あかね特性のフルーツババロアをデザートにいただいているとき、荒谷がなにやら中原をつかまえ、何事かを小声で話していた。
 それが、中原にとっての悲喜劇の始まりだった‥‥。

[193] 8月12日に向けて ――荒谷久美の隠された趣味―― その3 投稿者:TAKU 投稿日:01/07/29(Sun) 16:46
 その夜。言われたとおり、荒谷の個室へと中原はやってきた。
 KIZUNA選手寮の個室は広い。普通のプロレス団体の合宿所では、6畳に2人という場合が多い。が、KIZUNAの場合、ワンルームマンション形式のジムの職員寮をそのまま選手寮(選手たちは南のジムのインストラクターも兼任しているので、上手く税金対策として機能しているのだ)として使用していて、各選手に個室(約10畳)が与えられている。ちなみに、現在、選手寮に住んでいるのは永原ちづる、荒谷久美、神田幸子、高村あかね、天野真琴、中原千早希、そして都鳥美貴の7名だ。
 南利美はバイクで30分ほど離れたところにある3LDKの高級マンションにひとり暮し。だが、社長代行になってからというもの、まともに家に帰れなくなり、先日、寮の空き部屋に着替えと化粧品、そして一部の生活用品を持ち込み仮眠部屋をキープした。
 まだ現役高校生でもある大塚雪緒は、生意気なことに大田区六郷土手の高級マンションにひとり暮らしをしている(しかも賃貸ではない!)。南埼玉のかなり田舎にあるKIZUNA道場での練習が遅くなることが多いので、週に4日は寮の空き部屋に泊まっているが、基本的には通い扱いだ。とはいえ、ほとんど自分の部屋と変わりなく、その部屋には30インチのテレビセットにMDコンポ、クマのプーさんの絵柄がカワイイカーテンに、キティちゃんの蒲団セットなどなど、雪緒のこれまた高そうな生活用品が持ちこまれている。

 夜9時。毎週なんだかんだいって楽しみに見ている、『ガチ○コ! ファイ○クラブ』をビデオにセットして、中原は荒谷の部屋をノックした。
 しかし、返事がない。
 ドアノブを握ると、なんの抵抗もなく回転したので、ドアを開けそっと覗きこんで見る。
「荒谷さん‥‥来ましたけど‥‥。なんですか、用って?」
 そんな中原の声も聞こえていないのか、大きな身体で机に向かいながら、なにかを一心に削っている荒谷の姿が中原の目に入る。
「よっ‥‥。ここをもちょっと削って‥‥。やっぱり、今度MAC買おう。MACだったらトーンとかもっと楽だもんね。う〜〜〜ん、ホワイトはどんな風に飛ばそうかな‥‥」
 すいすいと部屋のなかには入り、ぶつぶつと呟いている荒谷の肩越しになにをやってるのかと、覗きこむ中原。
「いったい、なにやってるんですか?」
 なにげなく覗いた中原の視界いっぱいに、人気アニメキャラの美少年と美少年がくんずほずれつしているクライマックスシーン‥‥しかも何気にホワイトが散乱しているいわゆる『やおい』なマンガが描かれた原稿用紙が飛びこんできた。
「あ、荒谷さん! こ、これは‥‥」
「ち、千早希! いつの間に‥‥。ノ、ノックくらいしなさい!」
「ノックはしましたよ! 気づかなかったの荒谷さん‥‥って、そんなことより、あ、あたしは見てません! なにも見てませんから!!」
 そう言うやいなや、部屋から脱兎のごとく逃げ出そうとする中原。
 しかし、逃げる中原の数倍のスピードで、荒谷は部屋を出る前に中原の両肩をがっちりとホールド。そのままフルネルソンに固めて逃げるのを阻止した。
「いだだだだだ!」
「見ちゃったのなら話は早いわね。千早希、逃げられると思ったら大間違いよ」
「ひ〜〜〜〜〜〜〜〜!」
 まるで、ゾンビのように千早希の身体を引っ掴んだ荒谷に、下手なホラー映画よりも、恐怖を感じながら中原は、そのまま部屋の奥へと引きずられて行ったのだった‥‥。

[190] 雪緒、マジです!! 投稿者:TAKU 投稿日:01/07/29(Sun) 16:25

● KIZUNAファクトリー 南道場

大塚  「たっだいま〜〜〜〜〜〜」

 18日のDIA横浜定期大会で霞月いおりとのシングルに負けた翌日から1週間。連絡しても捕まらないと言う完全失踪モードに入った大塚雪緒。
 おかげで、南利美のこめかみには青筋が浮かび、しばらくの間、雪緒の話題はご法度となっていた。その南の怒りも収まりつつあった気温が38度もある日の午後、間の抜けた挨拶をしながら、旅行鞄を手にした雪緒がKIZUNA道場に入ってきた。

中原  「雪緒! あんた‥‥」
大塚  「あ、中原さん、おひさ。元気だった?」

 失踪前とまるで変わらない様子で、荷解きを始めている雪緒に中原が詰め寄るが、柳に風とばかりに、鞄の中から紙包みを取りだし、中原に手渡した。

大塚  「はい、お土産」
中原  「お土産って、いったい何処に行ってたの! みんな心配してたんだよ!」
大塚  「心配しないでって、手紙残しといたのに。どこに行ったのかって言うと韓国なんだけどね。それにしても、こっち暑いね。あ、お土産、キムチなんだけど冷蔵庫に早く入れないと痛んじゃうかも」
中原  「あ、そうだね‥‥って、違うでしょうが!」
大塚  「最近、ノリツッコミ上手いね」
中原  「あんたね〜〜〜〜〜!」

 そこに騒ぎを聞きつけて、どやどやとやってくる高村、天野、永原の3人。

高村  「あ、ゆきがいる!」
大塚  「あかねさん、チャオ!」
永原  「チャオじゃないでしょ、チャオじゃ! 南さんめちゃめちゃ怒ってるのよ、どこに行ってたの!」
大塚  「だから、韓国」
天野  「韓国って‥‥」
永原  「あんたね‥‥」

 その瞬間、どこから聞きつけてきたのか、南が道場へ駆けこんできた。

南   「雪緒!」
大塚  「南さん、うっす!」
南   「うっすじゃない! いったいどこに‥‥」
大塚  「その質問、3回目」
南   「雪緒!!」

 もし、南にシワが見え始めたとしたらそれは絶対に雪緒のせいだ。
 その場にいる者すべてがそう思った。

● KIZUNAファクトリー 食堂

大塚  「いたい‥‥」

 南から強烈なゲンコツをくらった雪緒が頭をさすりながら、テーブルに突っ伏している。
 カリカリしている南が、テーブルをこつこつと右手の人差し指で叩いている。
 そんな様子に、同席している永原、荒谷、天野、中原も気が気じゃない。
 とりあえず、リラックスさせようと高村がアイスミントティーを入れている。

南   「‥‥で、韓国に行ってなにをしていたの」
大塚  「本場のプルコギとキムチとクッパと、ビビンバとユッケ食べてきた」
南   「雪緒!!」
中原  「雪緒、真面目に答えなよ! みんな心配してたんだから!!」
大塚  「だから、心配しないでって手紙残しといたのに‥‥」
南   「いい加減にしなさい! あの人がいないときにそんな勝手な事ばかりしないで」
大塚  「別に勝手なことしてるつもりはないんだけど」
荒谷  「南さんも落ちついてください。雪緒、いったい韓国になにしに行ってたの? 遊びにいってたのならそれでいいから、それならそう言いなさい」
大塚  「別に遊びに行ったわけじゃないよ」
荒谷  「だったらなにしに行ったの?」
大塚  「‥‥だって‥‥」
荒谷  「だって?」
大塚  「‥‥霞月いおりが蹴るから」
荒谷  「はあ?」
永原  「霞月選手がキックを使うのと韓国に行くのとどんな関係があるの?」
大塚  「わたし、キックってよくわかんないし。で、キックだとムエタイかテコンドーかなって思って。で、とりあえず近場に行ってみようかなって思って‥‥」
全員  「は?」

 雪緒の言葉に思わず呆ける全員。キックがわからないから、とりあえず韓国に行ってテコンドーを見に行ってきたと、雪緒はそう言っているのだ。

高村  「キックだったら、千早希かさっちゃんがいるじゃん?」
大塚  「中原さん、『TWENTY−ONE』行くって忙しそうだったし、神田さん、ジムでの夏季ボクササイズのインストラクターの仕事が忙しいから、用があるのならその後でって言われたから」
高村  「それで、自分でキック研究するために韓国に行ったんだ」
大塚  「うん‥‥」
中原  「だいたい、あたしにでも言えばいいんだよ。言ってくれれば一緒に練習するのに。でも、変ですね、神田さんが練習見てくださいっていうお願い、断るなんて」
永原  「神田が後でって言ったのは、1時間か2時間くらい後でってことじゃないの?」
大塚  「あ、そうだったのかも!」
南   「その猪突猛進な性格なんとかしなさい!」
大塚  「よかれと思って自腹で行って来たのに‥‥」
南   「自腹ならいいってわけじゃないでしょう!」

 いきりたつ南を慌てて取り押さえる永原と荒谷。

大塚  「んじゃ、これで帰るから! 明日また来るね!!」

 いきなりとんずらする雪緒。

南   「待ちなさい! こら、離しなさい、永原、荒谷!!」
永原  「み、南さん、落ちついて!!」
荒谷  「南さん!!」
南   「離さないとあなたたち、ヒドイ目にあうわよ!」
中原  「南さん、正気に戻って!!」
南   「なんですって!!」
 
 いつもと変わらないKIZUNAの景色に、思わず微笑んでいる天野真琴。
 高村も一緒になって、笑いながら肩をすくめている。

高村  「なんだかんだ言って、雪緒も今回ばっかりはマジみたいだね」
天野  「‥‥負けて初めて、プロレスの難しさ、奥深さに気付いたみたいですから」
高村  「明日来たときに、『霞月いおりが蹴るから』って言ったときの目のままだったらいいね」
天野  「どうでしょう。でも、目が違いましたから大丈夫じゃないですか。でも、本当のプロレスラーになるには、まだまだ時間が必要みたいですけど」
高村  「そだね」

 練習ギライの大塚雪緒が自分から初めて動いた。
 霞月いおりとの再戦では、今日と違う自分を見せてやる。
 今まで、なんでもできてきた。少し練習すればいくら先輩とはいえ、中原たちにもすぐに勝てると思っていた。デビューが同じやつになんて負けるわけがないと思ってた。
 でも、負けた。敗北が、雪緒のなかで小さなタマゴに変わった。

大塚  「とりあえず、明日からかな」

 そのタマゴが雪緒の心のなかでかえるまで、まだまだ時間がかかりそうだった。

[185] 南の決断 投稿者:TAKU(UP:◆K) 投稿日:01/07/20(Fri) 02:37
 マイティ祐希子の発言を受け、KIZUNA事務所で、どこかに電話している南利美。

南   「……で、祐希子が中原を『TWENTY−ONE』で一ヶ月という限定ではあるんですけれど、預かりたいと……」
?? 「いい話じゃないですか。中原は二つ返事でしょう?」
南  「ええ。ですが……」
?? 「南さん。あなたの気持ちもわかりますけど、中原もデビューして、一人前なんです。本人の意思にまかせるのがいいんじゃないですか? きっと、大きくなって帰って来ますよ」
南  「……そう、そうですよね」
?? 「ぼくがいれば、南さんの心労、減らすことができるんですけど……」
南  「そんな……。今のあなたに比べれば私の苦労なんて……」
?? 「すみません。今すぐにでも戻りたいんですけど……」
南  「ごめんなさい……」
?? 「とにかく中原の件は、本人に任せましょう。また、連絡しますし、なにかあれば携帯にください」
南  「ええ。それじゃ。よければ、顔だしてください。みんなも会いたがってますし」
?? 「……そうですね……。それじゃ」

 軽いため息とともに受話器を置く南。
 続いて、内線で中原を呼ぶ。

南   「……で、あとはあなたの考え次第。どうする?」
中原 「あたし、行きたいです! 行って、もっともっと強くなりたいです!!」
南  「そう。じゃあ、私のほうから祐希子には話しておくわ」
中原 「あの、このことは……」
南  「大丈夫。あの人も応援してるって言ってたわ。だから、がんばってらっしゃい」
中原 「はい!!」

 期間限定ながら『TWENTY−ONE』への修行が決定した中原千早希。
 新たなる船出で、己の殻を破ることができるのだろうか?

[184] 宮本陽子さんの事情 投稿者:daiya◆K・たに 投稿日:01/07/16(Mon) 01:06
2001.7.9 DIA-J事務室にて。

宮本陽子 「あの、社長。お願いがあります!」
たに社長 「ん? どうした、宮本ちゃん」
宮本陽子 「マリ姉と愛沢さんが、IWWF世界ジュニアタッグに挑むそうですね」
たに社長 「あ、あれね……。いや、私もびっくりしましたよ。本当は、そろそろキミとマリ姉のタッグを解禁してもいいかな、と思ってたんですけど」
宮本陽子 「それはいいんですけど……私だって、天野さんと組んでここまで来てますから。ただ、私たちだって世界タッグを狙っているのは事実です」
たに社長 「それはわかってる」
宮本陽子 「ですから……確か18日、愛沢さんが上がりますよね」
たに社長 「ああ。そうだけど……」
宮本陽子 「やっぱり、マリ姉と愛沢さんのタッグは組まなければならないでしょう? その相手、私と天野でやらせてもらえませんでしょうか!?」
たに社長 「……確かに、そうだよな。……わかった。いいでしょう」
宮本陽子 「ありがとうございます! よろしくお願いしますね。それでは、失礼します!」

 深々と礼をして、事務室を去る宮本陽子。
 ジュニアタッグリーグ戦、KIZUNAファクトリーの天野真琴とのタッグで決勝まで全勝で勝ち進んだものの、決勝で永田桃子&梓実さくら組に敗れてしまった。
 その2人は、その後NWWA世界ジュニアタッグベルトも戴冠している。
 一方の宮本&天野は、保持していたインディージュニアタッグベルトもディアナ・アームストロング&リタ・モレナ相手に防衛失敗し、無冠に。
 あの後の両チームの勢いは対照的となってしまった。
 しかも、天野は最近、A☆F6・30で永田桃子相手にシングルで勝利し、真女ではランサー天川からタッグながらフォールを奪うなど、そのステータスを上げている。
 それに比べ、宮本は豊多摩奈美に挑んだNWWA世界ジュニア戦にも敗れ、KIZUNA興行で神田幸子にシングル2敗目を喫するなど、ここのところ目立った成績を残していない。
 一度は並んだと思ったルナも今は先に行かれてしまい、パートナーの天野に比べてもぱっとしない。

 ……このままでは、自分は置いていかれてしまう。

 ルナ&愛沢戦を志願したのは、そんな思いからだった。
 今やジュニア界でメジャーになってきた越境タッグ。この試みによって、ジュニアタッグ界が活気づいているのは事実である。
 でも、最初にそれを本格的に始めたのは自分たちだ、という思いがあった。
 だからこそ、負けたくない。
 それに、今のままじゃ、夢にだって遠く届かない。

宮本陽子 「私の夢は……こんなところじゃ終わらないんだから!」

 道場へ向かう廊下で、ひとりつぶやく宮本陽子なのであった。

[179] 彼女をリングに呼べなかった理由 投稿者:daiya◆K・たに 投稿日:01/07/13(Fri) 11:51
2001.7.6、横浜・DIA-J寮内事務室。

たに社長 「あ、はい……いえ、本当にありがとうございました。それでは……」

 カタン。

たに社長 「ふう……怒ってたなあ。そりゃそうだよなあ……」

 緊張した面持ちで電話を切る社長。そこに新人の浜岡奈々緒がやってくる。

浜岡奈々緒 「あの、社長……」
たに社長  「……ん? あ、浜岡くん。ちょうどよかった。たった今、11日のカードが決まったんだ」
浜岡奈々緒 「私のですか?」
たに社長  「うん。いずみちゃんと組んで、KIZUNAの中原&大塚組とやってもらうから」
浜岡奈々緒 「大塚……って、あの生意気な新人ですか!?」
たに社長  「そう。やっと、連絡がついたらしくてね。11日には出られるらしいので、ぜひに、と」
浜岡奈々緒 「ようし。一生懸命、頑張ります!」
たに社長  「うん。その意気その意気。頑張ってな!」
浜岡奈々緒 「はい!」
たに社長  「……ところで、何の用?」
浜岡奈々緒 「……え、あ……そうです、明日の興行の笹なんですけど……」

 一通り話をしてから、浜岡があいさつして部屋を出ていく。
 残された社長は、ひとりため息をつく。

たに社長  「……しっかしなあ……そりゃ、怒るよな。KIZUNAさんも。デビュー戦勝ったからって、勝手に休み取って今日までハワイ行ってました、って理由で興行に上がってなかったなんて……なあ」


〜ひとまず終わり〜

[178] 走りつづける先には ――天野真琴インタビュー ―― 投稿者:TAKU(代理UP・◆K) 投稿日:01/07/13(Fri) 01:32
 ――久しぶりの単独インタビューなんですけど‥‥。
天野 は、はい‥‥。よろしくお願いします‥‥。
 ――インディータッグチャンプ戦、NWWA世界ジュニアタッグと連続で‥‥。
天野 負けてます。
 ――あ、そういう意味じゃないんですけど。
天野 いえ、負けたのはわたしが弱かったからですし。高村さんと宮本さんには本当に謝っても謝りきれないと、今でも思ってますから。
 ――実際、その辺りから天野真琴の勢いが止まったというか、最近だとコメント自体がないことが多いですよね。まあ、KIZUNAの現状を考えると仕方のないことかもしれませんが‥‥。
天野 ‥‥すみません。わたしの勢いが止まったのならそれが事実だと思いますから。KIZUNAの現状については、オープンにしていることでもありますし、こんなことだと、社長にも心配かけているでしょうから。でも、そのことは‥‥。
 ――ああ、すみません。では、話を変えて。半年前と比べて、現在、天野真琴という名前はジュニア戦線のなかで、かなり重要な位置にいると思うんですよ。
天野 自分ではよくわからないです。でも、わたしの名前がジュニアのなかで重要な位置にいるといっても、マリ姉さんに永田さん。それに梓実さん、宮本さん、愛沢さんたちと比べれば、吹けば飛ぶようなものですから。今のわたしはそこから1歩踏み出すことができなくて‥‥。
 ――カベを越えることができないと?
天野 それがカベなのか、わたしの限界なのかは‥‥。カベならいいんですけれど。カベなら乗り越えることができると思うんです。でも限界だったら‥‥。それを考えると1歩もすすめなくなるので、できるだけ考えないようにしているんですけれど。
 ――限界と思っているファンや関係者はいないと思いますけど。4月の愛沢選手とのタイトルマッチは天野真琴のこれからを印象付けたと思いますし。
天野 ありがとうございます。でも、次が続いてませんから。
 ――この間の真女(7月8日)では、ランサー天川選手からフォールを奪ってますし。
天野 自分では運だと思ってます。でも、北都選手と天川選手とのタッグチームに勝てたのは大きいです。やっぱり、天川選手はジュニアという枠で収まらないほどスケールの大きな選手ですし。その選手から3カウントを取れたという事実はわたしにとって、自信につながりましたし、これからも戦っていけるっていう気持ちになりましたから。
 ――試合後、天川選手が判定に対してクレームをつけ、シングルを要求してましたが?
天野 あの勝ちで満足かと言われたら、勝ちは勝ちですから。でも、天川選手とのシングルは望むところです。わたしが普通にアピールしたとしてもシングルが組まれることはありませんから。
 ――天川選手の目は市ヶ谷選手とかヘビー級戦線に向いてますからね。
天野 わたしも対ヘビー級をかかげていますけど、わたしのそれとは天川選手のは全然ちがいますから。それに実際に天川選手は実績を残されてますし。そう言う意味ではすごいなと素直に思います。
 ――スイサイドガールズとしての今後も含めて、プロレスラー天野真琴の今後はどうしていきたいと?
天野 そうですね。実際、今のKIZUNA選手はやっぱりショックから抜けてないんです。わたしも含めて。特に高村さんの落ち込みぶりは試合にもでてますから。今後、というよりも、今、現在の団体の維持が急務ですから。
 ――確かにそうかもしれませんね。
天野 レスラーとしては個人としての行動が多くなっていくと思います。わたし自身は、タッグよりもシングルでの実績作りが急務だと思ってます。今回の天川選手のシングルアピールを良い形で次に活かせればと。機が熟せばまた愛沢さんとのシングルもアピールできますし。永田選手とのシングルも必ず実現させたいですし。
 ――近々ジュニア戦士を集めての大きな大会があるという話もありますしね。
天野 はい。生涯ジュニアで戦っていくつもりですから。ジュニアの大会にはなんとか、出場資格をもらえることができればいいんですけれど。
 ――がんばってください。
天野 はい。きっと社長も見てくれていると思いますから。わたしたちががんばっていれば、きっと。

[177] KIZUNAファクトリー 苦難の夏 投稿者:TAKU(代理UP・◆K) 投稿日:01/07/13(Fri) 01:31
・6月中旬 KIZUNAファクトリー オフィス

 自主興行も無事(?)終えた(実は無事でも何でもなかったのだが‥‥)KIZUNAファクトリー。
 しかし、この日、全選手と事務担当の都鳥美貴嬢が南の指示でオフィスへと集まった。

南   「みんな、集まったわね」

 南の声は沈んでいる。どうやらあまり楽しい話ではないらしい。

高村  「どしたの? 南さん。なにかあったの?」

 高村の言葉に、少し顔を曇らせながら南が続ける。

南   「‥‥5月31日付けで、私、南利美がKIZUNAファクトリー代表取締役社長代行になりました。今後しばらくの間は、私以下、ここにいるメンバーでKIZUNAファクトリーの運営をおこなって行く事になります」

 予想もしなかった南の言葉に呆気に取られる一同。
 ざわつくメンバーに南が悲しげな瞳を見せる。

天野  「社長は‥‥、どうしたんですか?」

 当然とも思える疑問を天野が口にした。

南   「社長だった深沢さんは、今‥‥」

永原  「‥‥南さん」

 言いよどむ南に、声をかける永原。どうやら永原は事情を知っているらしかった。

高村  「いったい、どうしたの?」

中原  「南さん、教えてください!」

南   「‥‥あの人ね、莫大な負債を背負うことになって、会社に迷惑をかけたくないからって‥‥」

高村  「はあ?」

 予想外といえば、予想外な南の言葉に高村が素っ頓狂な声を上げる。

永原  「あの人、みんなも知ってのとおり、人を疑うことをしない人でしょう。3月くらいに、自主興行の準備と平行して興行会社としてのKIZUNAを盛りたてようとしてたのよ。はっきり言って、あたしたちの今のギャラは低いでしょ。なんだかんだいって、ジムでのインストラクターの収入って大きいじゃない。そのことにいちばん頭を悩ませてたのね、社長は。で、興行会社としてのKIZUNAファクトリーにいくつかの顔を持たせて、あたしたちの収入と引退後のためにって、いろんな準備してたらしいのね。芸能部門とか」

南   「で、そんななか、出会った人のなかで、あの人にあるビジネスを持ちかけた人がいたの。私は手を出さないほうがって言ったんだけど‥‥。結局ダマされる形になって、その人がらみの負債と、それに関わったせいであの人の実家とかまで巻き込んだ負債を背負う事になってしまったの。いきなり相手側の弁護士から訴訟状と内容証明の勧告書が送られてきて、いろいろ調べたら、相手はいない、すべての負債の名義が深沢拓海という名前になってたの。最初は裁判で徹底的に争いましょうって言ったんだけど、それをすることによって迷惑をかける人がでるからって、背負うことにしてしまって‥‥」

高村  「だったら自己破産とか‥‥」

南   「自己破産すると、社長として戻る事はできないし、あの人が自己破産すると保証人にすべていってしまうから、それもできないって言って‥‥」

永原  「‥‥それで、会社の迷惑をかけられないって、KIZUNAを辞めるって。止めたんだけど、この前の時とは状況が違うって言って、出て行っちゃったの」

 永原と南の言葉に無言になる一同。そんななか、天野が口を開く。

天野  「今、社長はどこにいるんですか」

南   「毎日、裁判所と相手側の弁護士の所に呼び出されてるみたい。なんとか示談にしようと話し合いしているって連絡が昨日あったわ。とりあえず、元気みたいだったけど‥‥」

荒谷  「でも、会社としてなにかできなかったんですか?」

南   「私も最初は、KIZUNAでなんとかできるように考えましょうって言ったんだけど‥‥。とにかく、KIZUNAは私が社長代行していきます」

神田  「社長就任ではなく、代行?」

南   「ええ。あくまでも私は代行です。あの人が帰ってくるまでのね」

 KIZUNAファクトリーに突如おこった災難。
 はたして社長は帰ってくる事ができるのだろうか?

                 ※8割がたノンフィクション入っています(苦笑)

[171] 悩める中原とKIZUNAの試練その1 投稿者:TAKU(代理UP・◆K) 投稿日:01/07/13(Fri) 01:25
4月20日  KIZUNAファクトリー 事務所

 午後いちから、社長室にこもってなにやら話し合っている深沢社長と南利美。
 深刻そうな顔つきで社長室に入っていった2人に、なんとなく面白くない都鳥美貴嬢が、聞き耳を立てていたりするが(笑)、この場ではあまり関係がない。

深沢  「‥‥やっぱり落ちこんでますよね」
南   「ええ。ダメージそのものは心配するほどのことはないんですけれど。スランプとも違う心の問題ですから‥‥」

 DIA主催のジュニアタッグリーグに蒼樹玲奈とのタッグで出場した中原千早希。
 しかし、結果は、全試合中原がフォールを取られての全敗に終わり中原は抜けられない迷宮へと足を踏み入れてしまった。

深沢  「序盤は別として、タッグリーグ公式戦での試合内容そのものは悪くないと思うんですけど。選手としては納得いかないものなんですか?」
南   「キャリアが長くても短くても試合に負けるというのは、結局心のどこかにしこりを残します。しかも、今回はああいうことが起きた上で、中原が全部取られてますから」
深沢  「そうですか‥‥。選手心理は、やはりボクには掴みきれないのか‥‥」
南   「そんなことありませんよ。あなたはよくやってくれています、中原の問題は、どうしようありません。中原自身が立ちあがらなきゃならないんです」
深沢  「‥‥中原はライバルとの切磋琢磨の中で生きてきましたからね。星野選手のアメリカ行き、蒼樹選手のJC参戦がかなりこたえてるみたいですし」
南   「海外に行くことだけが変わるための手段ではないですから。中原もそのことはわかっていると思ったんですけれど‥‥」
深沢  「それはしょうがないんじゃないですか。荒谷、天野、高村、神田‥‥、ただでさえ、ウチは海外経験者しかいないんですから」
南   「でも‥‥」
深沢  「ウチが海外にだしてやれるだけのしっかりした経営になってればよかったんでしょうけれど‥‥」
南   「しっかりした経営になっていたとしても、海外なんて私が許可しません」
深沢  「なら、JCへのエントリー、考えてみても良かったかもしれませんね」
南   「中原には必要ありません。出るのなら自分自身でその資格を得るでしょうし。DIAがどんな形で選手を選定していようと、ウチにはウチのやり方があります」
深沢  「ですが‥‥」
南   「確かにJCに出ること自体がレスラーとしての経験になりますし、成長も促すかもしれませんけれど、その方法が中原にあっているかといえば、必ずしもそういうわけではないでしょう?」
深沢  「でも、蒼樹さんは出る。それが中原には置いていかれたという気持ちにさせてます」
南   「蒼樹選手は大舞台を経験することで成長する選手です。ゆくゆくはDIAの、いえ、女子プロレス界のエース候補になれる逸材だと思います。でも、蒼樹選手と同じ道を歩ませたからといって、中原が同じ位置に立てるわけではないでしょう?」
深沢  「南さん‥‥」
南   「WWPLのセラフィム・レイ、真女の畑中将子、藤田さつき、善女の鳥嶋くるみ、島津姫久‥‥、中原と同期になる選手たちがそんな不平不満を言っています?」
深沢  「でも、出たいとは言うでしょうね」
南   「でも、出られないことで文句は言いませんよね」
深沢  「中原も不平不満や文句を言ってるわけではないじゃないですか。ただ、出してあげたいですねと、ボクが言っているだけです!」
南   「私は甘やかすことが、成長にはつながらないと言っているんです!」
深沢  「ボクが中原を甘やかしてるっていうんですか!」
南   「あなたの場合は、選手全員に甘いでしょう!」
深沢  「なっ‥‥」
南   「選手の希望をかなえるのはいいことです、自立性を養うという意味では。ですが、それで、口に出したことは社長がなんとかしてくれると思いはじめたら、大変なことになるでしょう!」
深沢  「じゃあ、誰がそんなこと思ってるんですか! 誰だか言ってくださいよ!!」
南   「特定の誰かなんて、言ってませんよ。そうなったら、大変だと言ってるんです! だいたい都鳥さんの件だって‥‥」
深沢  「都鳥さんはここでは関係ないでしょう!」

 なぜか、口論になり始め、しばらく言い争う南と深沢社長。
 南と深沢社長は15分近く言い合ったあと、一旦言葉をきり、息を整えた。
 まあ、こんなことは日常茶飯事、KIZUNAファクトリーでは、レクリエーションみたいなものではあるのだが‥‥。

深沢  「‥‥とにかく、ボクと南さんで言い争うのは止めましょう。すごく不毛な気がしてきた」
南   「そうですね‥‥」

 建設的な話がまったくでないまま終わってしまった中原を議題としたKIZUNAトップ会談だった。
 その頃、当の中原千早希は、道場でサンドバックを蹴りまくっていた。

[172] 悩める中原とKIZUNAの試練その2 投稿者:TAKU(代理UP・◆K) 投稿日:01/07/13(Fri) 01:26
悩める中原とKIZUNAの試練その2

KIZUNAファクトリー 南道場

 軽快なリズムで響くサンドバックの音。
 道場でひとり、中原千早希はTシャツにスパッツ姿で、なにかを振り切るかのようにキックを打ち込んでいた。

中原  「はぁっ、はあっ、はあっ、はあっ‥‥」

 荒い息をはきつつ、千早希は、側に置いた氷水の入ったバケツに放りこんである、1.5リットル入りのミネラルウォーターを頭からかぶった。
 冷たい水が、熱を持った頭を一気にクールダウンさせる。

中原  「なんで、あたしってこんなに弱いんだろ‥‥」

 ジュニアタッグリーグ全敗。その結果になんの文句もつけられるわけではないけれど、公式戦全戦、自分がフォールを取られたことが悔しかった。
『蒼樹の足を引っ張った』という思いが、中原の心に渦巻いていた。
 と、同時に星野真琴からリング上で言われた言葉が輪をかけて、千早希の心を暗くしていた。

中原  「‥‥ええいっ! 悩んでもしょうがない!!」

 中原は頬を両手でパシーンとはたいて、自分で自分に気合を入れると、またサンドバックを蹴り始めた。まるで、なにかを忘れたいかのように‥‥。
 そんなシリアスしている中原のもとに、のーてんきな高村と、天野が顔をだした。

高村  「千早希、そろそろ切り上げたら? あんまり根つめても、ケガするだけだよ」
中原  「‥‥あたし弱いから。人の何倍も練習しなきゃ強くなれないじゃないですか。キックだって、もっともっと練習しないと、武田さんたちに勝てないって証明されちゃったし」
高村  「あの試合は、キックが強いとかそんなの関係ない気がするけどなあ」
天野  「高村さん」
高村  「あ、ゴメン。とにかく、今日は練習もうやめ。シャワー浴びといでよ」
中原  「‥‥でも‥‥」
高村  「いいから、いいから。イチゴのタルト作ったからみんなでお茶にしよ」
中原  「‥‥はい‥‥」

 別にイチゴタルトに釣られたわけではないが、中原はとりあえず練習の手を止めた。
 どちらかと言えば体育会系の性格をしている中原は、先輩の言葉は素直に聞く。もっともKIZUNAでは理不尽なことを言ってくる先輩自体がいなかったが。
 しかし、基本的に放任主義の高村が止めに入るくらいなのだから、かなりのオーバーワークでサンドバックを蹴っていたのだろう。
 まだ、気持ち的には身体を動かし足りない中原だったが、シャワーを浴びに、道場を出ていった。

天野  「やっぱり、ムリしてますね‥‥」
高村  「そだね。でも、どうしようもないし‥‥。あかねたちにできることって、オーバーワークになる前に止めるくらいだよ」
天野  「そうですね‥‥」
蒼樹  「あの‥‥」

 と、そこへDIAの蒼樹玲奈が姿を現した。

高村  「あれ、蒼樹ちゃんじゃない」
天野  「蒼樹さん‥‥」
蒼樹  「あ、すみません、突然‥‥」
高村  「それは別にいいけど‥‥どしたの?」
蒼樹  「あ、あの、ウチの社長から頼まれて、深沢社長にこれを届けに来たんですけど‥‥、あと、中原は‥‥」
高村  「千早希? 千早希なら今、シャワー浴びに行ってるけど‥‥」
蒼樹  「あ、そうですか‥‥」
天野  「これからわたしたち、お茶にするんですけど、よかったら蒼樹さんもいかがです?」
蒼樹  「あ、ありがとうございます。でも‥‥」
高村  「急ぎの用でもあるの?」
蒼樹  「いえ、そういうわけじゃないんですけど‥‥」
高村  「千早希もシャワー浴びたら、すぐ来ると思うしさ。とりあえず、事務所に一緒に行って用事すませてから、お茶しよ、決まり!」
蒼樹  「は、はい‥‥」

キ KIZUNAファクトリー 事務所 

 どやどやと、事務所へとやってくる蒼樹玲奈、高村あかね、天野真琴の3人。
 事務所のドアを開けると、奥の社長室へと続くドアに、思いっきり空のコップを当ててなかの様子を盗み聞きしようとしている都鳥美貴嬢の姿が(笑)。

高村  「‥‥あの、美貴ちゃん。なにやってるの?」
天野  「‥‥犯罪ですよ、それ」
蒼樹  「‥‥‥‥」

 思いっきり取り乱しかけた都鳥だったが、すぐに平静を装った。

都鳥  「え、あの、これは‥‥そう‥‥、いきなり深沢さんと南さんが言い争う声が聞こえたから、いったいどうしたのかなあ〜〜〜〜、なんて思って‥‥」
天野  「‥‥思って、空のコップで聞き耳を立てていたわけですか?」
都鳥  「え、その、ねえ‥‥、ってそれよりも、どうしたの?」
高村  「えっとね、社長にお客さま。DIAの蒼樹ちゃんがお届けものですって」
都鳥  「あ、それじゃ、すぐに深沢さん、呼ばないとね!」

 嬉々として、社長室のドアをノックして入っていく都鳥。
 と、同時にドアが開き、南が社長室より出てくる。

南   「‥‥では、社長。この件についてはまた。あ、蒼樹さんいらっしゃい。なにしてるんですか! 蒼樹さん、待ってますよ!」

 社長室へ少々怒気を含んだ一声をかけてから、蒼樹に挨拶し、事務所を出てジムのほうへ戻って行く南。

蒼樹  「なんか、中原に聞いた話より何倍もスゴイですね。都鳥さんって‥‥」
高村  「まあ、実害ないからみんな、あんまり気にしないようにしてるんだけどね」
天野  「社長が毅然とした態度で接していればなんの問題もおきません」
高村  「まーちゃん‥‥ちょっと目、コワイ‥‥」

 都鳥に手を引かれるようにして、社長室からでてくる深沢社長。
 
蒼樹  「あの、これ、預かってきました」
深沢  「ありがとう。郵送でいいとは、たに社長には言っておいたんだけど、わざわざ悪かったね」
蒼樹  「いえ、早いにこしたことがないですから。それに、直接、手渡しのほうが確実ですし」
深沢  「じゃあ、また電話しますとたに社長に伝えて。今日は、すぐに戻るのかい?」
高村  「これから、あかねたちとお茶するんだよ」
深沢  「そうか。中原も練習を終えてるころだし、ゆっくりしていくといい。あかねの作るケーキは美味しいから」
蒼樹  「えっと‥‥はい」
高村  「社長と美貴ちゃんと南さんの分は取っとくからあとで食べてね」
深沢  「ああ。一息入れるときにでももらうよ」

 と、事務所をあとにする高村たち一行だった。

キ KIZUNAファクトリー 選手寮 食堂

 3人で食堂へと向かい、高村がお茶の用意を始める。

高村  「今日はね、とっときのオレンジぺコ入れるね!」
蒼樹  「天野さん、おれんじぺこってなんですか?」
天野  「紅茶の種類です。高村さん、最近、お茶がいちばんの趣味なんです」
蒼樹  「へ〜〜、すごいんですね‥‥」

 ティーポットを用意し、紅茶の葉を入れ、お湯を注ぐ。そしげ、よく蒸らしてから1杯目を大ぶりのカップに注ぐ。
 さわやかな香りが食堂いっぱいに広がっていく。

蒼樹  「いい香りですね。おいしそ」
高村  「おっまたせ〜〜、お茶うけにどうぞ!」

 イチゴをはじめとした季節のフルーツが盛りつけられた、大きなお皿いっぱいのタルトがテーブルの上に置かれる。タルトとはフランスの焼き菓子のことで、パイ生地またはビスケット生地を型に入れて焼き、クリームや果物をのせたものだ。高村の得意お菓子のひとつでもある。

蒼樹  「これ、高村さんが作ったんですか?」
高村  「そ。おいしくできてると思うんだけど、まあ食べてみてよ」

 生クリームとバニラの香りがいっぱいのカスタードクリーム、それにシロップがたっぷりと塗られたイチゴが山盛りにのせられている市販のものよりも少し大きめのタルトを一口、頬ばる。
 甘さを抑えた生クリームとカスタードクリームのバニラ風味のあと、そして、ちょっと酸味効いたイチゴの甘さが口一杯に広がる。

蒼樹  「美味しいです! すごいなあ」
高村  「ありがと! たくさんあるから、遠慮なく食べてね! はい、まーちゃんも」
天野  「いただきます」

 蒼樹、高村、天野の3人がとりとめのない話をしていると、シャワーを浴び、着替えてきた中原が食堂に顔を出した。

中原  「‥‥蒼樹‥‥」
蒼樹  「中原‥‥」
高村  「千早希、遅いよ!」

 そういって、高村が中原の分の紅茶をいれ始める。こだわっているだけあって、誰にもティーポットを触らせない。

中原  「来てたんだ。どうしたの、今日は?」
蒼樹  「あ、深沢社長に届けものがあって。あと、中原にちょっと‥‥」
中原  「あたしに?」
蒼樹  「うん。あとででいいから少し時間もらえるかな?」
中原  「いいけど‥‥」
高村  「まあまあ、シリアスはそのくらいにしてさ、お茶の時間はリラックスして楽しくおしゃべりしなきゃ!」
天野  「そうですね」

 と、その場の雰囲気を明るくしようと高村と天野が話題を変えようとしたとき、永原ちづると荒谷久美のふたりがジム練習を終えて、食堂へと顔をだした。

永原  「おいしそうなの食べてるわね」
荒谷  「あかねが午前中から作ってたのコレ?」
高村  「そだよ。永原さんも久美ちゃんもお茶する?」

 と言って、三度、お茶の用意をする高村。

蒼樹  「あ、お邪魔してます」
永原  「いらっしゃい、蒼樹さん。今日はどうしたの?」
蒼樹  「あの、深沢社長に届け物があって‥‥」
荒谷  「わざわざ遠いところゴメンね」
蒼樹  「いえ、そんな‥‥」

 蒼樹にしてみれば、ものすごく緊張するお茶会が始まった。
 両サイドを永原、天野、対面のサイドを高村と荒谷が囲み、唯一、ほっとするのが正面に座っている中原の顔という状況で、それでもイチゴタルトを3つ、紅茶を2杯おかわりしていた。
 どちらかと言えば重い空気が支配しているお茶会の雰囲気を変えようと、永原が話題を振った。

永原  「そう言えば蒼樹さんって、JC出場が決まったんだってね。トーナメントで当たったときは、お手柔らかにね」
天野  「永原さん!」
永原  「え? あ! そうか‥‥」

 天野の言葉に、自分の失言に気づく永原。さっきよりも重い空気が、場の雰囲気をさらに暗いものにする。

中原  「‥‥別に、あたしなんかに気を使わなくてもいいです」
永原  「あ、ご、ゴメン。そんなつもりで言ったんじゃないんだけど‥‥」
荒谷  「そう。千早希にだって、すぐにチャンス来るし、ねえ?」
高村  「そうだよ。うん、絶対!」

 中原の状態が、叱責や励ましで戻るようなものではないことを理解している永原たちが、なんとかその場をフォローする。が、その場の雰囲気を変えるまでには至らない。

蒼樹  「あ、中原‥‥」

 声をかけようとした蒼樹の言葉を遮り、中原が言葉を発した。

中原  「あの、お願いがあるんです。ずっと考えていたことなんですけど‥‥」
永原  「頼み?」
高村  「なに? あ、海外にでも行きたいとか? だったら、あかねがプエルトリコ紹介してあげようか?」
南   「高村!」

 高村の言葉を、いつの間にか、深沢社長とともに食堂へと、顔を出した南が叱責して止める。

天野  「南さん‥‥」
南   「海外なんて中原にはまだ早い。それは皆、わかっているはずよ。それに、そんな話、決めてきたって私が許しません」

 きっぱりと言い切る南の言葉に、水をうったかのように静かになる食堂。
 そんな沈黙を破ったのは、当の中原だった。

中原  「海外にいきたいわけじゃありません! そりゃ行きたいとは思いますけど‥‥。そうじゃなくて、KIZUNA竜巻スパーリングをお願いします!」
蒼樹  「竜巻スパーリング‥‥?」

 竜巻スパーリングとは、高村命名のKIZUNAファクトリーにおけるもっとも過酷な実戦スパーリングである。
 ひとりの選手に対し、KIZUNA所属選手が連続でかかる、時間無制限でおこなわれる地獄のスパーリングのことだ。
 KIZUNAではまだキャリア的に未熟で不安のある中原、船木のふたりを除いて、全員がおこなっている。南の関節技、永原の投げ、神田の打撃、荒谷のパワー、高村のラフ、天野のレスリング。その全てに対応できてこそプロという信念のもと、連続で5試合をおこなうのと同じスパーリングを1ヶ月に一度、所属選手同士で行っているのだ。
 その過酷さはかなりのもので、タフネスでならす永原、荒谷、高村でさえ胃液を吐いて悶絶するほどだった。しかし、全員が全員との実戦スパーリングを、リタイアすることなく終えている。

荒谷  「まだ千早希には早いと思うけど。もう少し実戦積んでからでも遅くないし‥‥」
高村  「そうだよ! 千早希がチャレンジする日だって、秋にって決まってるんだし、今やらなくっても‥‥」
中原  「今だからチャレンジしなきゃいけないんです! あたしが今のあたしを乗り越えるためには、少しくらいの練習じゃダメなんです!!」

南   「社長、どうします。私、個人としては前から言っているように、今の中原では少し早いと思います。秋くらいが適当だとは思いますけれど」
深沢社長「‥‥‥‥」

 中原をはじめとした、その場の瞳すべてが深沢社長に注がれる。

深沢社長「あの‥‥、ボクを見てもどうしようもないとは思いますけど‥‥」
南   「‥‥あなたはどうしたらいいと思います?」
深沢社長「そうですね。経営者としては認めたくはないです。けれど、いち個人としては、中原がチャレンジしたいというのならば止めることはできないでしょう。できるのか、中原?」
中原  「はい!」

 中原のその言葉で全てが決まった。

[173] 悩める中原とKIZUNAの試練その3 投稿者:TAKU(代理UP・◆K) 投稿日:01/07/13(Fri) 01:27
KIZUNAファクトリー 南道場

 30分後。リング上では、臨戦体制を整えた中原が柔軟をおこなっていた。
 ことの次第を見届けるため、蒼樹もそのまま道場内でリング上の中原を見つめていた。
 反対側のコーナーでは、神田幸子がオープンフィンガーグローブを着け、軽いフットワークでシャドーをおこなっている。

南   「それではルールはいつもどおり。一番手は神田。いいわね、中原」
中原  「はい!」
神田  「‥‥‥‥」
 
 マウスピースを口に入れ、構える神田幸子。
 その瞬間、ゴングが鳴り、スパーリングが始まった。

◎第1番手:神田幸子戦

 リング中央へ進み出た中原と神田。ガードを固め、ローキックで様子を見ようとした中原の顔面に、神田の左ジャブが叩きこまれる。
 鼻の頭を思いっきりジャブで打たれ、ツーンと鉄の香りがする。
 アウトボクシングスタイルでフットワークを駆使し中原を翻弄する神田。
 パン、パン、パンと軽快なリズムでジャブが中原の顔面に叩きこまれる。
 情け容赦ない本気の神田幸子のパンチだった。
 その様子に、蒼樹が慌てて南に詰め寄る。

蒼樹  「み、南さん、これ、スパーリングじゃないんですか!?」
南   「スパーリングよ。KIZUNA式のね」
蒼樹  「神田さん、あんなパンチ、リングじゃ見せないじゃないですか!」
南   「ボクサーとしての神田幸子で、中原と戦ってるみたいね」
蒼樹  「そんな‥‥それじゃ、中原は‥‥」
南   「蒼樹さん、申し訳ないけれど、黙って見ていてくれる?」
蒼樹  「南さん‥‥」

 ボクシンググローブとは違う、薄いオープンフィンガーグローブでのパンチで、中原の顔が、みるみるうちに腫れあがる。
 どうしても顔面のガードが甘い中原に対して、非情にも顔面へと、パンチを連続で叩き込んでいく神田。中原は、ほとんどサンドバックのように、殴られまくっていた。
 なんとかパンチをかいくぐってタックルに行っても、タックルが入る前に膝蹴りや、関節をとられてそのタックルが潰される。そして、そのまま連続でパンチが叩きこまれる。
 蒼樹がDIAのリングで見たことのない、冷酷なまでにメ怖いモ神田幸子の姿がそこにあった。
 もうすぐ3分が経とうとしたとき、神田がスパートをかけた。
 左右のワンツーで、ガードを頭に集中させてからのボディアッパーが中原のみぞおちに叩きこまれる。

中原  「げほっ‥‥」

 油汗を流し、悶絶しかける中原の身体を軽く押し戻し、神田は、左フックを叩きこんだ。そして、そのまま連続で放たれる強烈な右ストレート!。
 受け身もなにもない、無防備なまま後ろに倒れる中原。
 わずか2分56秒の、戦慄のフィニッシュ。
 そのまま終了のゴングがならされ、タオルを手に神田がさっさとリングを降りる。
 半分、気を失っている中原を、エプロンへと引っ張ってきてから、中原の頭にバケツ一杯の水をぶっ掛ける南。

南   「目を覚ましなさい、中原!」
中原  「うっ‥‥」

 パンパンと、中原の頬を南が平手で打つ。

南   「気を失ってるヒマがあるのなら立ちなさい! まだ始まったばかりよ!」

 目の前でちらつく星を振り払うかのように、頭を振りゆっくりと立ちあがり、コーナーにもたれかかる中原。
 頭の中身がまだ揺れている。

南   「次、高村! いいわね」
高村  「おっけーだよ!」

 非常のゴングがまた打ち鳴らされた。

キ 第2番手 高村あかね

 膝が完全に笑っている中原が、背にしたコーナーから立ちあがろうとした瞬間。
 突っ込んできた高村が、コーナー串刺しでラリアートをぶち込む。

中原  「ぐっ‥‥」
高村  「どした、どしたあ! 立て、千早希!!」

 試合時のテンションそのままの高村がそこにいた。
 しかも明るく楽しい部分を完全に消した、メ激しく強いモ高村あかねが。

蒼樹  「高村さん‥‥。中原っ! 南さん、もうムリですよ!」
南   「蒼樹さん、これは中原が自分でやるって決めてチャレンジしていることなの。邪魔をしないでくれる?」
蒼樹  「そんな‥‥」

 机やイスを使うことはないが、試合と同じテンションの高村が道場のリングで中原を痛めつけていた。
 中原もなんとか返そうとするが、いつもと違いまったく受けないプロレスで、中原の攻撃すべてを潰し、ラフで、パワーで中原に攻撃を叩き込んでいく高村。
 エルボーでふっとばし、顔面にヒザを叩きこみ、ヘッドバットで額を割る。
 フォールを取ろうと思えばいつでも取れるこの状態で、高村はフォールを取ることなく、中原に次々と技を叩き込んで行く。
 まるで、今のお前はこの程度でしかないんだ、と中原に思い知らせるかのように。

高村  「そんなもんなの、千早希! 真女新人王がきいて呆れるよ!」
中原  「うああああああっ!」

 高村の挑発に、怒りの感情をあらわにジャンピングハイを放とうとする中原。
 いきなりの大技。フェイント効果もあり、決まるかと思われたが、まるでその攻撃がくることがわかっていたかのように、中原のジャンピングハイははたき落とされ、ヒザをついたその顔面に、高村のサッカーボールキックが叩きこまれた。

中原  「ぐっ‥‥‥」
高村  「ワンパターンなんだよ、千早希は! すぐにジャンピングハイで流れ変えようとする!」

 割れた額から流れる血が、視界をふさぐ。
 立ち上がりかけた、中原の顔面にまたサッカーボールキックが叩きこまれる。

高村  「いじめるのに飽きたから、そろそろ決めたげる!」

 高村はそう叫ぶやいなや、中原の身体をパワーボムの要領で肩に一気に担ぎ上げる。
 そして、担ぎ上げる勢いを利用してそのままジャンプ! 
 高村あかね必殺のファイアーボンバーだ。
 一気に叩きつけられ、中原の体がくの字に曲がる。
 2度目のゴングが鳴ってから、6分35秒。
 中原は、高村の手で完全KO状態となった。
 そのまま、高村は中原の身体をエプロンまで運んだ。

高村  「はい、南さん。でも、もうムリかも‥‥」

 高村がエプロンまで運んできた中原の頭に、もういちど冷水をぶっかける南。
 かすかに、目を開ける中原。

中原  「う‥‥‥‥」
南   「目が覚めたなら立ちなさい。次の荒谷がもう待ってるわよ!」

 まだうつろな瞳でさまよっている中原の頬を、平手で打つ南。

中原  「‥‥‥ううっ」

 開始からわずか10分。中原はほぼグロッキーだった。
 普通の試合でもここまでぼろぼろになることは珍しいのに。

南   「立ちなさい、中原!」

 南の声に、反応してよろよろと立ちあがる中原。
 対戦相手の荒谷は、少し、曇った表情でそんな中原を見ている。

南   「荒谷! 手加減は無用よ!」
荒谷  「はい!」

 非常な南の宣言に、神田がゴングを打ち鳴らした。

[174] 悩める中原とKIZUNAの試練その4 投稿者:TAKU(代理UP・◆K) 投稿日:01/07/13(Fri) 01:28
・第3番手 荒谷久美


真女への参戦も定期化し、ヘビー級としてその評価をあげつつある荒谷久美。
 先ごろおこなわれた、ビューティ市ヶ谷とのシングルでもその評価をさらにあげた、KIZUNAヘビー級の最大のホープだ。練習生である大塚雪緒、そして中原のコーチを担当しているだけあって、その練習にかける厳しさは南も一目置いている。

荒谷  「千早希! 気、引き締めないとケガじゃすまないよ!」

 そう叫ぶやいなや、ふらふらの中原の身体を抱え上げハイアングルのボディスラムにとる。受け身をとることもできずに、もろにマットに叩きつけられて、息が止まる中原。
 受け身が取れなければ、ただのボディスラムでも大ダメージとなる。

中原  「ぐっ‥‥」

 全身に鋭い痛みが走り、息が詰まる。だが、逆にそのおかげで、朦朧としていた意識がしっかりとしたものになった。

中原  「うわあああああああああああああああっ!」

 立ちあがり、腹の底から吼え、めちゃくちゃにキックを放っていく中原。それまでのダメージのためキレもパワーもないが、勢いだけはあった。
 が、荒谷にダメージを与えるまでにはいかない。
 強烈なショートレンジラリアートで吹き飛ばされ、投げっぱなしパワーボムで叩きつけられる。

蒼樹  「も、もうムリですよ! 中原を壊すつもりなんですか! だいたいスパーリングなんて名ばかりじゃないですか! 中原のタックルもキックも、当たる前に潰されてるんですよ。こんなのただのリンチじゃないですか!」
南   「蒼樹さん。静かにできないのなら、出ていってくれるかしら」
蒼樹  「南さん!」
南   「あなたがどんなことを考えているかはわかるけど、少なくとも私も、永原も、天野も、神田も、高村もみな同じルールでこの実戦スパーリングをリタイアせずに2ヶ月にいちどクリアしているわ」
蒼樹  「‥‥でも、中原は‥‥」
南   「中原もKIZUNAファクトリーの一員よ。それに自分の意思でチャレンジを決めた以上、リタイアするということは、KIZUNAを辞めるとき。その覚悟があるから、チャレンジしているのよ」
蒼樹  「‥‥‥‥」

 荒谷のパワー殺法に翻弄され続ける中原。
 完全なコンディションでの試合ならば、まだまともな攻撃ができた中原だったが、わずか10分とはいえ、神田幸子、高村あかねの2人に完全KOを連続でくらっているなかでは、立っているのもやっとだった。
 荒谷の重爆ニールキック、WARスペシャル、そして充分な助走をつけたラリアートと、必殺のフルコースを浴びふらふらと、どころか、立ちあがることさえできなくなる中原。
 そんな中原を引きずり起こし、強烈な投げっぱなしパワーボムで、コーナー近くに大の字にさせる。そして、一気にコーナーに駆け上り、必殺の低空高速ムーンサルトプレス!
 まるで、車につぶされたカエルのようなうめき声をあげ、気を失う中原。
 そんな、中原にまたもや南の手で、冷水がぶっかけられた。

南   「起きなさい!」

 強烈な平手が再度、中原の頬を打つ。
 うっすらと目を開ける中原。
 中原が限界なのは、誰の目にも明らかだった。

南   「まだ、半分しか終わってないわよ。それともリタイアする気なの!」

 南のリタイアという言葉に反応し、よろよろと身体を起こす中原。
 その様子を見て、南は反対コーナーにいる永原に声をかけた。

南   「次、永原!」
永原  「‥‥‥」

 その声を合図に、ゴングが打ち鳴らされた。

◎4番手 永原ちづる

 永原の切れ味の鋭いタックルが中原の足を刈る。
 ふらふら状態の中原にとって、タックルを切るどころかふんばることもできない。
 KIZUNAの中では重量級となる永原に乗られて、息が詰まる。ほとんどないスタミナが最後のひとしずくまで搾り取られて行く。

永原  「いくよ!」

 永原がひとこえ吼える。
 次の瞬間、中原の身体は空を舞っていた。
 フロントスープレックス、ダブルアームスープレックス、裏投げ。
 永原がキレのあるスープレックスで中原を連続で投げる。
 そして、満を持してのジャーマンスープレックス!!
 ホールドせずに、すぐに立ち上がり、くの字の中原を引きずり起こす。

永原  「まだまだ! こんな程度でグロッキーになるなんてまだ早いよ!」

 憎々しげな言いようだが、永原の顔は苦渋に満ちていた。
 リングを見つめる南の瞳も。
 相手を終えた神田、高村、荒谷、そして天野の顔も。
 皆、厳しいことを言いながらも、中原のことを心配し、中原のためにあえて厳しい壁となっている。
 それが、どれだけ辛く苦しいことなのか、蒼樹玲奈はやっと気づいた。

蒼樹  「‥‥中原! 立って!」

 いつしか蒼樹は、リング上の中原に対して、激を飛ばしていた。
 しかし、風に舞う木の葉のように永原のスープレックスで中原の身体はリングのなかを吹き飛ばされる。
 わずか5分間ほどしか経っていなかったが、その間に中原は二桁もマットに叩きつけられた。

永原  「これで終わり!」

 バックを取った瞬間、ハイブリッジで中原の身体を一気に引っこ抜く永原。
 必殺の高角度ジャーマンスープレックスが炸裂し、中原の意識が吹っ飛ぶ。
 そして、また南の手で中原に冷水がぶっかけられる。

中原  「う‥‥」
南   「起きなさい。まだまだ相手は残ってるのよ!」

 そして、コーナーに控える天野真琴に声をかける。

南   「天野、準備はいい?」
天野  「はい‥‥」

 天野の返事に呼応してゴングが打ち鳴らされた。

[175] 悩める中原とKIZUNAの試練その5 投稿者:TAKU(代理UP・◆K) 投稿日:01/07/13(Fri) 01:29
・5番手 天野真琴

 ジュニア戦線に、まったくの無名状態からトップグループを狙える位置までわずか1年で駆けあがってきた天野真琴。クラシカルテクニックを駆使し、派手な大技をあまり使わない玄人ウケするレスリングで頭角を表している。
 日本のジュニアトップグループを引っ張る選手2人、Angel☆Forceの梓実さくらをシングルで、真日本女子の永田桃子をNWWA世界ジュニアタッグで破るなどの実績もつくり、ジュニア戦士として確固たる評価を得つつあるのだが、本人にはその自覚があまりなく、常にチャレンジャーとして激しい戦いへと身を投じていく。

天野  「‥‥いきます」

 中原の目を見据えながら、予備動作もなく間を詰めると、あれよあれよという間に、中原の腕を取り、ハンマーロックからテイクダウンを奪い、上に乗る天野。
 その流れるような動きに、蒼樹も思わず目を奪われる。
 プロレスラーとしては50キロ台前半とジュニアとしても軽い部類に入る天野の身体が、中原の上に鉛のように重くのしかかってくる。
 腕を取り、重心を合わせてピンポイントで体重を乗せると、下にいる者はその重さで動けなくなる。逆にポイントが少しでもずれれば、たとえどんなに体重差があろうとも、下にいる者を抑えつけることができない。

中原  「ううう〜〜〜〜〜〜〜〜!」

 じたばたともがくが、中原の上でくるくると回転し、中原が逃げる方向を確実にひとつひとつ潰していく天野。
 DIAマットでの天野はルチャ式の動きと立ち技で攻め、今、中原を攻めているような欧州式レスリングの動きは要所要所でしか見せない。じっくりとしたその攻めを初めて目の当たりにして、蒼樹は驚きを隠せなかった。
 そして、自分の気持ちに初めて気がついた。
 今、リングの上で神田、高村、荒谷、永原、天野と本気の勝負をしている中原千早希に嫉妬にも似た感情をもっていることに。
 DIAでの自分たちの練習が劣っているとは思わない。が、潰される寸前までリング上でぼろぼろにされていく中原の姿を見、激を飛ばしながら、自分ならこう動く、自分ならこう攻めると頭のなかでシミュレーションしている自分がいた。

蒼樹  「中原! 返せ!!」

 蒼樹の言葉に必死でもがき、天野の下から逃れようとする中原。
 しかし、天野はそれを許さない。ポジションを維持しながら、中原の動きをコントロールし、いつしかその身体を複雑なストレッチに固めていた。欧州式のレスリングとルチャムーヴを合体させた天野の得意技だ。
 首、腕、足を同時に結び目のように固める変形のエル・ヌド(結び目固め)。
 動けば動くほど絞まり、関節が悲鳴を上げる。

南   「天野!」

 南の言葉に、天野はうなづくとエル・ヌドをほどき、中原の上体を起こした。
 座らせた中原の顔面に強烈なキックを叩きこみ、必殺のサイクロンクラッチに捉える。
 腕をロックした変形ストレッチプラム。梓実さくら、永田桃子をギブアップにきってとった天野真琴の必殺技だ。
 身体の柔らかい方ではない中原にとって、拷問にも等しいストレッチ技。
 天野が自分のパワーの少なさをカバーするために開発した技だけあって、腕をロックされ完全にその型にはまってしまうと、その方向に身体を流すしかない。
 中原は悶絶しながら、その意識を深い闇の渕へと沈ませていった。
 そして、お約束のバケツ一杯の冷水。
 やっとの思いで意識を取り戻した中原の目に、反対コーナーに立ち、凛とした瞳で自分を見つめる南利美の姿が入った。

 日本女子プロレス界に燦然と輝く巨星、マイティ祐希子とともに新日本女子を支えてきた関節の女王、南利美。
 その相対するものを圧倒する、真のプロレスラーのオーラに中原は一瞬、飲まれかかった。しかし、自分の両頬を挟むように、両手でバチンと気合を入れ、立ちあがった。
 神田幸子、高村あかね、荒谷久美、永原ちづる、天野真琴。この5選手の容赦のない実戦スパーリングで、本当ならば立ちあがりたくないくらい疲れていたし、足腰もガクガクと震えている。
 それでも中原は立ちあがった。南利美と戦うために。

蒼樹  「中原!」

 立ちあがった中原に声をかけながら、蒼樹は思った。自分がもし、このスパーリングをおこなっていたとしたら。
 目の前で見た、神田幸子、高村あかね、荒谷久美、永原ちづる、天野真琴のあの猛攻を、受けて立ちあがることができるだろうか。
 そして、南利美と戦うことができるのだろうか。

 ゴングは鳴り響いた。

[176] 悩める中原とKIZUNAの試練その6 投稿者:TAKU(代理UP・◆K) 投稿日:01/07/13(Fri) 01:30
・6番手 南 利美

 立ちあがる事さえ困難なほど、スタミナを消耗し大ダメージを受けている中原だったが、最後の相手である、南を鋭い眼光で睨みつけ立ちあがっていた。
 今年でキャリア14年を迎え、人気、実力ともに日本女子プロレス界のトップグループの一角にいる南と、デビューしたばかりのひよっこでしかない中原との勝負。スパーリングとは言え、その結果は明白だった。

 中原の鋭い眼光を、まるでそよ風のように受け流しながら南は、リングを歩いてくる。
 いきなり中原の頭を引っ掴むと、リングの中央へ放り投げる。
 倒れた中原の前に仁王立ちになり、見下ろす南。

中原  「くっ‥‥」
南   「立ちなさい」

 南のオーラに飲み込まれまいと、南の顔を再度、睨みつける中原。

中原  「だあああああああっ!」

 ふらふらとなりながらも、南の身体にしがみつくようにタックルにいく中原。
 キレもタイミングもなにもない抱きつくような中原のタックルを受けたが、微動だにしない南。必死でしがみつく中原を剥ぎ取るように、リングの中央へと突きとばす。
 掴まれては放り投げられるが繰り返され、いつしか中原は立ちあがることもできなかった。それでも必死で顔をあげ、視線だけは南へと向けていた。
 それは、関節の女王として華麗なテクニックは微塵もなかった。力でルーキーをねじ伏せる怖い南利美の姿がそこにあった。
 南の身体にしがみつく様に立ちあがった中原の身体を大外刈りで投げ飛ばすと、サブミッションの洗礼が始まった。
 グラウンド式のヘッドロック、アームロック、リストロック、脇固め、腕固め、腕ひしぎ逆十字固め、裏十字固め、腹固め、アンクルホールド、ヒールホールド、アキレス腱固め、膝十字固め、レッグロックアキレスホールド‥‥。まるで魔法のように中原の身体に南の手足が絡むとその場所が極められる。
 中原の悲鳴が響くなか、それでも蒼樹は南のそのテクニック、そしてキレのある関節技に見惚れていた。

中原  「あああっ!」

 南の腕がするすると中原の顔面にからみつく。
 強烈なフェイスロックが中原の顔面を絞めあげる。
 頬骨に南の親指の付け根がくいこみ、痛みで中原の意識が真っ白になる。
 そのまま、南は腕を頬骨から喉へとずらし、スリーパーへと移行した。

中原  「‥‥‥‥‥‥っ」

 頚動脈を締め上げられた中原は数瞬のうちに意識を失った。

蒼樹 「な、中原!」

 蒼樹が中原に駆け寄ろうとしたが、南に抱き上げられた中原の身体は荒谷と高村にあずけられ、道場のすみに置いてあるベンチに寝かす。
 リングに上がろうとした蒼樹に南が声をかける。

南  「‥‥そういえば蒼樹さん。今度のJCタッグに出場するそうね。中原が目を覚ますまでしばらく時間がかかりそうだし、せっかくだから私から餞別をあげるわ。天野、予備のウェアを出してあげて」
天野 「でも、いいんですか?」
南  「まあ、DIAさんには私から話しておくから。どちらにしろ、蒼樹さん次第だけど」

 南の言葉に蒼樹は迷わず返事をしていた。

蒼樹 「よ、よろしくお願いします!」

 10分後。
 蒼樹玲奈は南利美とリング上で対峙していた。

キ KIZUNAファクトリー 選手寮 屋上

 腫れあがった顔に湿布をべたべた貼った中原と、その横で同じくほっぺたに湿布を貼った蒼樹が、満天の星空を見上げていた。

中原  「電車なくなっちゃったね、ごめん」
蒼樹  「別にいいよ。泊めてもらうし」

 そんな他愛のない話をしながら、星を眺めている2人。
 実際は、腫れあがった顔が痛くて、冷たい夜風に当たっているのが正解なのだが。

中原  「ところで、話って?」
蒼樹  「ん? なんか、もういいみたい」
中原  「そう」
蒼樹  「うん」

 しばらくだまって星空を眺めていた中原が口を開いた。

中原  「蒼樹さ、JCがんばんなよ」
蒼樹  「うん‥‥」
中原  「しばらくしてさ、あたしがまた、蒼樹に追いついたらまた、タッグ組もうよ。あたし、またイチからやり直すから」
蒼樹  「‥‥ボクは強くなりたい。今日、南さんと初めてスパーリングしてみて、手も足もでなくて‥‥。自分の弱さがよくわかったよ」
中原  「今日いきなり南さんとスパーして、いい勝負されちゃったらあたしの立つ瀬がないよ。だいたい、蒼樹はあたしが勝てたことのないあかねさんに勝ってるんだよ。それこそ冗談じゃないよ」
蒼樹  「高村さん、プロレスで勝ち負けに全然こだわんないじゃない。だから‥‥」
中原  「確かに」
蒼樹  「高村さんに勝ったことがあるっていったって、誰もボクが高村さんを越えたなんて思ってくれないよ。それがプロレスの上下だし、勝ち負け以外の部分でも越えなきゃ、ボクたちは上に上がれない」
中原  「そうだね」

 中原の言葉に蒼樹がうなづく。
 2人は、そしてまた星を見上げた。
 新たなる決意のもと、ファイティングロードを歩みだす。
 夜空に輝くあの星々を越える輝きを自らが放つために‥‥。

[169] お見舞い 投稿者:badman 投稿日:01/07/12(Thu) 08:56
 日海事務所。PWPの松井や芹沢もここのスペースを借りて事務処理をしている。
松井香織「おはよう」
山名秘書「おはようございます」
松井香織「あれ?社長はまだ?」
 日海社長の席には誰も座っていない。いつも一番早くから来ている彼にしては珍しい。
山名秘書「社長からは、風邪で休みたいと連絡を受けています」
戸倉広報「まあ、今日は特に社長がいなきゃ出来ない仕事はないですし、ここらで1日ゆっくり休んでもらって疲れを取ってもらいますよ」
松井香織「そう、休み…なんだ」
芹沢すずな「お見舞いにでも行けば?」
 一緒に来ていた芹沢すずな。
松井香織「え?…ま、そうね、時間があったら。すずなも行くんでしょ」
芹沢すずな「私?お邪魔しちゃ悪いから」
松井香織「な、じゃ、邪魔って、何が?」
芹沢すずな「いいからいいから。行くなら一人で行ってきなさい。私は私で用があるから」
松井香織「あ、ああ、そう、それなら仕方ないか」
芹沢すずな「さて、取りかかりましょうか」
松井香織「そうね」

 鳥取市街地の一画。
松井香織「確かこのあたりだったわよね」
 日海社長、太田垣の家は市街地にある和菓子店、「白兎屋(はくとや)」である。
松井香織「そういえば、家に行くのは始めて…」
 そして家の前までやって来た。
松井香織「う…なんか緊張する…た、ただのお見舞いなんだから…」
 インターフォンのボタンを押すと、『どうぞ』と女性の声がしたので玄関の中へ。
 すると、2歳くらいの子供を抱いた女性が迎えた。
女性「どちら様ですか?」
松井香織「(あ、あれ?社長って、独身だったはずじゃ)………。あ、す、すみません、私ピュアレスリングプロモーションの松井と申します。日海の社長さん…昌哉さんががご病気だと伺ったのでお見舞いに」
女性「ああ、昌哉のお見舞いに来てくださったんですね。わざわざありがとうございます。どうぞお上がりください」
松井香織「それではお邪魔します」
女性「松井さん、でしたね。昌哉からお話しを聞いてます。レスラーとしても指導者としても優秀な方だって」
松井香織「あ、そうでしたか」
 部屋の前まで来ると、ノックする女性。
女性「昌哉、お見舞いのお客さんよ。お通しするわね」
太田垣昌哉「え?誰?」
女性「松井さんよ」
太田垣昌哉「はあ!?え、いや、この部屋に通すのか!?」
女性「もちろん」
太田垣昌哉「ゆう子姉さん、居間に通してくれ!すぐ行くから!」
太田垣ゆう子「あなた風邪でしょう。起きあがらない方が良いわよ。それに、居間は母さんがいるし」
太田垣昌哉「この部屋に通されるよりはましだから…。もう調子も大分よくなったし、いいから頼む」
太田垣ゆう子「わかったわ。松井さん、すみません、こちらへどうぞ」
松井香織「あ、いえ。…やっぱりお邪魔でしたか…?」
太田垣ゆう子「そんな事はありませんよ。部屋に女性をあまり上げたがらないのはいつもの事ですから」
松井香織「そうでしたか」

太田垣昌哉「悪いね、松井君。わざわざ見舞いに来てもらって」
松井香織「いえ、それより大した事なさそうで安心しました」
太田垣昌哉「もうほとんど治ったし、明日からはまた出られるとおもうから」
松井香織「ええ。でも、戸倉さんは『出て来ても仕事が無いぞ』みたいな事をいってましたよ」
太田垣ゆう子「戸倉君も、ゆっくり休ませようとしてそんな事をいってくれているのねきっと」
太田垣昌哉「本音だったらすごく悲しいぞ…」
太田垣母「しかし昌哉。見合いの話をみんなけっとるのはなんでだとおもっとったが、こんな別嬪さんがそばにおるからか」
太田垣昌哉「え?いや、前々から言ってるけど、俺はまだそんな気がないだけだって。仕事が充実してるし、余裕もないしな。松井君は仕事仲間であって、そういうのとは関係ないよ。なあ?」
松井香織「え、ええ、社長とはあくまでも…仕事上のつきあいです…」
太田垣母「そうですか。とにかく息子がお世話になっとります」
松井香織「いえいえ」
太田垣昌哉「(ここに通したのはやっぱり失敗だったか…)松井君、どうせだからその辺の喫茶店にでも行こう」
松井香織「え?でも、無理はしないほうが」
太田垣昌哉「いいって。ここにいると精神的に悪いよ(苦笑)。じゃあ、ちょっと出てくる」
太田垣ゆう子「はい、いってらっしゃい」
太田垣昌哉「さ、松井君」
松井香織「はい」


喫茶店の店長「いらっしゃい。おお、太田垣さんとこのまーくん」
松井香織「まーくん?」
太田垣昌哉「…しまった、店を選び間違えたか…」
店長「デートか?」
太田垣昌哉「仕事仲間ですよ。ほら、松井君、座って」
松井香織「あ、はい」
店長「そうか。そういえば社長さんだもんなあ、あのまーくんが」
太田垣昌哉「…まーくんはいい加減やめてくださいよ店長」
店長「ははは、悪かった。注文は?」
太田垣昌哉「コーヒー。松井君は?」
松井香織「あ、じゃあ同じで」
 コーヒーが運ばれてきたあと。
太田垣昌哉「しかし、悪いね、出会う人にことごとく恋人扱いされて…」
松井香織「いえ、かまいませんよ。むしろ光栄ですよ(微笑)」
太田垣昌哉「おいおい、からかうなって。松井君なら他に付き合っている人とか、好きな人とか、いるだろ?その彼に失礼だよ」
松井香織「そんな事はないですよ。(小声)確かに、好きな人はいるけど…」
太田垣昌哉「へえ、やっぱりな。まあ、プライベートの事には首突っ込まないから安心してくれ」
松井香織「…ええ」
太田垣昌哉「そういや、こういう話をするのって初めてだな。もう2年近くになるのにな、初めて会ってから…」
松井香織「そうですね。もう2年か…」
太田垣昌哉「いろいろ苦労かけたね」
松井香織「ううん。声をかけてもらって、弟子の二人を拾ってくれた恩返しだもの…」
太田垣昌哉「(しかし、こういうところで二人きりで話すって照れくさいな。店長の目が光ってなきゃもっといいムードになっちまいそうだ…)」
太田垣昌哉「いや、本当に感謝している。ありがとう」
松井香織「どういたしまして。これからも、頑張ります」
 一瞬顔を見合わせて吹き出す両者。
太田垣昌哉「やっぱ、合わないな、こういう会話は」
松井香織「そうね。それじゃ、そろそろ帰るわ」
太田垣昌哉「ああ、そうだな。…また明日」
松井香織「ええ、また明日。ちゃんと治してね」
太田垣昌哉「もちろん。明日からもよろしく頼む」

[170] Leave a Message 投稿者:阿僧祇 投稿日:01/07/12(Thu) 09:38
>信戦組事務所

西町珠理「ただいま〜。」
信戦組社長「あっ、珠理くん…留守中に君に電話があったよ。」
西町珠理「ん? 誰から?」
徳川亜理寿「えっと、これです(メモを渡す)」
西町珠理「…また、珍しい。何の用だろ?」
信戦組社長「だいたい想像つく気がするけど」
西町珠理「なんとなくはね…どれ、さっそくかけてみますか」
徳川亜理寿「いえ、後で向こうからかけてくるそうですから…」

[181] 「西町さん、お電話です。」 投稿者:阿僧祇 投稿日:01/07/13(Fri) 12:54 <URL>
 >電話〜
西町珠理「…はい、お電話、変わりました」
里見父「ああっ、西町はんでっか? 恵理がいつもお世話んなってま。」
西町珠理「あ、これは里見恵理ちゃんのお父さん。どうも御無沙汰しまして。」
里見父「どうでっしゃろ、あいつ、元気にやってますかの?」
西町珠理「えっ、ええ。つい先日も、後楽園ジオポリスのリングで大活躍して、お客さんの拍手喝采を受けてましたよ。(汗)」
里見父「さいでっか〜(満足そう)。…その、プロレス、たらやってるんでしたな、うちの恵理は。」
西町珠理「…はい?(汗)」
里見父「どうでっしゃろ。あいつ、バンバン勝ってるんでっしゃろか?」
西町珠理「そうですね…いつも惜しいところまで行くんですけど、残念ながら去年からずっと連敗してます。」
里見父「えっ、負け続けてるんでっか!?」
西町珠理「はい。」
里見父「い、一度も勝ってないんでっか!?(悲鳴)」
西町珠理「ええ、まあ…勝負事ですから、運が悪いと、こういうこともあるんですけどね」
里見父「(聞いてない)さいでっか…勝ってないんでっか…(涙)」
西町珠理「まあ、本人は楽しく試合してますし、目標もあるみたいで、仲良し
 の友達もいて、元気で楽しくやってますから、ご心配は要らないと思います。」
里見父「(聞いてない)さいでっか…負けてるんでっか…いや、有り難うございました。」
西町珠理「はい。ではまた。」
   電話を切る。
西町珠理「…大丈夫かしら? そうとう気にしてる様子だったけど…」

 >茨城県某所、里見ちゃんの実家(夜)
里見父「・・・・・。」
里見母「あんた、何考え込んどるんや? おとついからずーっとむっつりして…」
里見父「お前、知らんのか、このどアホ。恵理のやつ、プロレスの試合で負けつづけてけてんねん!」
里見母「あらまあ…でも、スポーツやから勝ち負けは…」
里見父「何のんきなこと抜かしてけつかる! プロレスやぞ? 顔面流血やぞ? 電流爆破やぞ? 全身24針で骨折して入院やぞ! 恵理のやつが毎日毎日そんな目に遭うとるのに…」
   (いや、毎日そんな目に遭ってたらとっくに死んでますって(汗))
里見父「…娘がそんな目に遭うとるのにお前はそんな澄ましてられるんか! それでも母親か! この人非人っ! 極悪人っ! 奴隷商人っ!!(涙)」
里見母「ほらほら…そう興奮せんと。それであんたは何したいんや?」
里見父「ドアホ! 決っとるやんけ! プロレスなんぞやめさせて、恵理を家へつれ戻すんじゃい!」
里見母「恵理を引退させる気やね、あんた?」
里見父「当然じゃい! かわいい一人娘を、そんな修羅畜生の最凶最悪の阿鼻叫喚の瞑府魔道の無間地獄の中に、いつまでも置いとけるかい!」
里見母「あんた…プロレスは、恵理が自分で選んだ道やで。それを無理矢理に辞めさせて、恵理が喜ぶとでも思うてはるんか?」
里見父「ウッ…喜ばんかな?」
里見母「…恵理は、大学を休学してまでプロレスに打ち込んどるんやで。もうあれが生き甲斐なんや。生き甲斐を取り上げて、そのあと何をしろと言うてはるん?」
里見父「ふ、普通に大学へ行って普通に就職すればええやんか。」
里見母「それがあの娘の、新しい生き甲斐になるなんて頓馬なこと思うとるんとちゃうやろな?」
里見父「だ、だめかな?」
里見母「そないなことしてみい。あの娘、もう無気力になって、な〜んにも手がつかなくなるやろね。もしもアルバイトでもする気になるか本でも読み始めたらまだマシなほうや。そのまま家に篭ってしまい、何ヶ月も外へ出ることも無く、夜も昼ものべつまくなくボーーーーーッと布団の中で過ごして、時々思い出したように泣く…そんな生活になってまうで。下手したら、結婚もできず、一生そのままや。」
里見父「そ、そんな…(涙)」
里見母「わかったやろ。あんたがどう思うと勝手やけど、まず第一に考えないといけないのは、あの娘が生き甲斐を持って幸せに生きられるかどうかやで。」
里見父「生き甲斐…生き甲斐か。」
里見母「わかってくれはった?」
里見父「わかった。つまり何やろ、生き甲斐があれば恵理は幸せになれるんやろ。」
里見母「せやけど?(汗)」
里見父「簡単なこっちゃ。女の生き甲斐は結婚して子供を育てること。これにつきるで。」
里見母「あんた…あの娘を結婚させるつもり? まだハタチやで?」
里見父「こういうことは早い方がええんや。第一、『結婚は人生最大の幸せ』言うやないか。それとも何か? 恵理が幸せになるのが何か気に入らんのか?」
里見母「…気に入らんわけやないけど。」
里見父「それなら決まりや! プロレスはとっととやめさせて所帯持たす! よし、さっそくムコはん捜さな!(立ち上がる)」
里見母「どこ行くんや?」
里見父「決っとるがな! 知り合いの家を片っ端から訪ねて、どこぞに若くて真面目で家族に恵まれてていい大学出てて気立てがよくて体が丈夫で金持ちで二枚目で働き者で親孝行で身長180cmの独身男がおらんか、尋いてまわってくるんじゃい」
里見母「…こんな真夜中に?」

 >路上(夜中)
  だれもいない街路。月が出ている。
野良犬「あおーーー・・・・・ん」(心理描写)

 >茨城県某所、里見ちゃんの実家
里見父「…明日にしよか。(汗)」
里見母「それがええわ。」

[182] 回り出す歯車 投稿者:badman 投稿日:01/07/13(Fri) 15:26
 某日。太田垣家の居間。
太田垣社長「え?料亭で?」
太田垣父「ああ。実業家で前に世話になった事のある人でな。還暦の祝いにお前にも来て欲しいと」
太田垣社長「俺に?何で?」
太田垣父「何でも直接話をしたいそうなんだが、ほれ、プロレスのスポンサーについてくれるとか融資してくれるとか、そういう話かも知れん」
太田垣社長「ああ、なるほどね」
太田垣父「もちろん儂も行くから、必ず出席してくれ」
太田垣社長「分かった。それじゃあ、それ用の資料をまとめないとな」


 翌日、事務所
山名秘書「その話が本当でしたら、ぜひまとめたいところですね」
太田垣社長「そうだな。ただ、今回は内輪の集まりらしいんで自分で説得する必要があるんだよな〜。最近は渉外関係を山名君に任せっきりだったから、ちょっと不安だな」
山名秘書「お供しましょうか?」
太田垣社長「いや、大丈夫だろう」
松井香織「頑張って来てね」
太田垣社長「頼むからプレッシャーかけないでくれよ」
松井香織「あはは、そんなヤワじゃないでしょう」
太田垣社長「御期待に添えるように努力するよ。…あ、そうだ」
松井香織「なに?」
太田垣社長「松井君も来るか?もしよければ、PWPの事も話しておこうかと思うんだけど、君が居た方が都合がいいかも」
松井香織「でも、内輪のお祝いの席なんでしょう?」
太田垣社長「良いんじゃないかな?仕事の話があるなら、関係者だし。まあ、時間があればだけど」
松井香織「う〜ん…その日は試合もないし…。それじゃあ、御一緒させて頂きます」
太田垣社長「よし、決まりだな」


 そして…
太田垣社長「うお〜、資料まとめてたら徹夜になっちまった…」
 当日、駅のロビーに立つ眠そうな彼は、目の下に隈を作り手にはしっかりとプレゼンが出来るだけの資料を携えている。
 待ち合わせをしていた松井と合流する。
松井香織「あんまり無理しない方が良かったのに」
太田垣社長「いや、移動中に寝るから。そのかわり、起こしてくれると助かる」
松井香織「わかったわ。ゆっくり休んでて」

[183] 話は一週間ほどさかのぼる… 投稿者:阿僧祇 投稿日:01/07/15(Sun) 19:41 <URL>

 >横浜、某所

>7/9

里見恵理「わざわざ遠くまで、よえ来てくれはったなぁ、おかやん(はーと)。でもおとついやったら試合も観れたのに。」
里見母「しゃあないわ、いろいろと。でもまあ、元気そうで良かったわ。」
里見恵理「そうでもないんや、これが。おとついの試合でも、あちこち痛めてもうてなぁ…」
里見母「負けつづけとるんやて?」
里見恵理「うーん…一時調子良くなりかかったんやけど、また悪うなってきたわ。」
里見母「…おとやんが心配してたで。恵理がいつも怪我したり痛い思いしたりしてるんやないかって。」
里見恵理「せやね…プロレスたらやってると、人間が痛めつけ合うとこを見せるショーやから、どうしても痛い思いはするもん。負けたらとくにそうや。」
里見母「…そんなんやってて、楽しいんか?」
里見恵理「…正直、やめたくなるときはあるでぇ。」
里見母「それで、なんで続けとるんや?」
里見恵理「やめたいたら思うのはウチ一人や。しかし、ウチには試合を続けて欲しいたら思ってはるパートナーやお客はんがおる。ウチはその人達に応えなあかん。」
里見母「…たいへんな仕事やねえ。けど恵理、あんた、ひとのこともええけど、自分のことも考えなあかんで。」
里見恵理「自分のこと? …いや、大学を勝手に休学したのは悪かった思うとる。」
里見母「まあ、それは恵理の考えがあってやったことやからしかたないやろ。せやなくて、自分の幸せのことや。」
里見恵理「(自嘲気味)まあ、レスラーいうたら、キツいクサいキタナいの3K仕事やしな〜。」
里見母「ほれ見い。おとやんが心配してるのはそこや。」
里見恵理「あっ、でも…今は友達もライバルもおるし、なかな楽しくやってるで。ほら、前ウチにつれてった乙姫ちゃんとか、いつも仲良うしてくれはる雪風(スーパーMICO)先輩とか、こないだ電話で話した沢田(MJストロンガー)とか霞月はんとか…」
里見母「…あのな、恵理。おとやんの心配はな、並みの心配とはもうちゃうんや。」
里見恵理「?」
里見母「寝ても醒めても、外を歩いててもごはん食べてても、『恵理が痛い目に遭うとる、恵理がつらい思いしとる』とぶつぶつ呟いててな、」
里見恵理「(苦笑)おおげさや。」
里見母「…だけどな、ああいう状態の人は長生きせえへんで。」
里見恵理「またてんごー(冗談)…」
里見母「笑い事ちゃう。心労で早死にってのはちょくちょくあることや。」
里見恵理「…そんなひどいんか?」
里見母「病気になるのは、そう遠いことやないやろな。」
里見恵理「嫌やな…おとやんには元気でいつまでもがんばって欲しいで。」
里見母「でも、恵理が心配でならんのや、おとやんは。」
里見恵理「(困惑)…どうしたら安心してくれるやろ? 時々電話するとか、会いに行くとかしたらいいんやろか?」
里見母「そのくらいじゃ不充分やろな…」
里見恵理「…ほな、茨城の選手寮へ帰ったら安心してくれるやろか? ここよりずっと近くで、その気になれば電車でいつでも帰れるし…」
里見母「あんたがプロレスやってる限り、おとやんの心配はなくならへんやろ。」
里見恵理「…! ほな、ウチにプロレスやめろ言うんか!!」
里見母「せやねぇ…」
里見恵理「嫌やで! せっかく、だんだん強くなってきて、お客さんにもいろんな強い人にも名前と顔を憶えてもろうてきたんや。これからってとこやないか!(涙)」
里見母「おとやんが心配してるのはな、恵理の将来のことや。プロレスやってたら、間違いなくチャンピオンになってたくさんお金儲かるって、確実に言えるんか?」
里見恵理「そ、それは…」
里見母「難しいやろ? それに、若いうちにそうやって体を痛めてると、年取ってからきついで。」
里見恵理「・・・・・。」
里見母「それでな、恵理。おとやんを安心させるために、あんた…結婚してくれへんか?」
里見恵理「結婚!? ウチ、まだハタチやで!?」
里見母「おとやんがな、そうしてくれれば安心や言うて、見合い相手を見つけてきてしまったんやわ。」
里見恵理「ちょ、ちょっと待ったらんかい! ウチの意志はどうなるん!?」
里見母「ウチもな、『焦ったらあかん』言うたんやけどな。恵理も知っとるようにあの人、こうと決めたら頑固やんか。」
里見恵理「ウチは行かんで、そんなもん!」
里見母「まあそこは恵理、おとやんのメンツを立てて、会うだけでええから…」
里見恵理「嫌や! そんな話するなら、帰る!」

 >DIA-J 選手寮の一室、夕方
シュトローム乙姫「里見ちゃん、今日のお昼にお母さんと会ってきたんだって?」
里見恵理「う、うん。まあ。それで…」
シュトローム乙姫「…いいな、家族がいるって。」
里見恵理「うっ…(心の声:あかん…あのこと、言い出しにくい雰囲気や…(汗))」
ファルコン香月「里見、いるか?」
里見恵理「あっ、香月はん!」
ファルコン香月「電話だぞ。お母さんからだ。」
里見恵理「おかやんが?」
ファルコン香月「なんだか様子がへんだったぞ。家族にあんまり心配かけるなよ。」

 >電話
里見恵理「ウチや。どうしたんや、おかやん?」
里見母「実は…昨日の今日な話なんやけど、家へ帰ったらおとやんが倒れとってな。」
里見恵理「ええっ!? また急やな! それで、大丈夫なんか?」
里見母「すぐお医者様へつれてったんやけど…」
里見恵理「そ、それで?」
里見母「過労らしいわ。」
里見恵理「仕事、忙しかったんか?」
里見母「いや…そうでもないで。」
里見恵理「じゃ、なんで?」
里見母「心労やろ…」
里見恵理「・・・・・。」
里見母「恵理、わかってーな。ウチもつらいんや。だけどおとやんは…」
里見恵理「…わかった。でも返事は、12日まで待ってな。」
里見母「真剣に考えてくれるんか?」
里見恵理「うん。つまり何やろ、ウチが勝てばおとやんも安心できるんやろ?」
里見母「そうやけど…」
里見恵理「11日に試合があるんや。そのとき勝てなんだら…見合いする。」
里見母「(喜)そうしてくれるか!?」
里見恵理「うん。約束や。ウチは約束は守る。」
里見母「(涙声)ありがとね、恵理…ありがと!」
里見恵理「ただし、勝てたら見合いはせえへんで。勝てたらウチは、信戦組の正選手に出世や。どっちにしてもおとやんを安心させることはできるわけやろ。」
里見母「(涙声)それでええわ、恵理…ありがと!」
里見恵理「・・・・・。」

 >DIA-J 選手寮の一室
シュトローム乙姫「お母さんから電話だったの?」
里見恵理「うん…」
シュトローム乙姫「里見ちゃん…なんだか元気ない。」
里見恵理「えっ…そ、そんなことあらへんよ! えーと、消灯まですこし時間あるな。トランプでもせえへん、乙っちゃん? せや、双葉ちゃんや木葉ちゃんたちも呼んでこよか!」

 >茨城県、里見家
里見父「どこか電話しとったんか?」
里見母「ちょっとね。(ペロッ)」
里見父「ええ相手がみつかってよかったで。家は山陰でちと遠いけど、いづれ河内へ帰れば向こうのほうが近い。」
里見母「どんな人なんや?」
里見父「恵理より6つか7つ上。身長が177で3cmほど不満やけど、恵理とならまあ釣り合うやろ。和菓子屋はんの長男坊らしいで。」
里見母「結婚したら恵理は和菓子屋はんの御新蔵はんか?」
里見父「いや、姉夫婦が後を継ぐそうや。親御はんもなかなか進歩的な人のようやな。本人は鳥取でなんぞ会社を経営しとるらしいで。」
里見母「さよか? やり手なんやねえ。」
里見父「性格も至って真面目で、ギャンブルとか変な娯楽はほとんどやらず、清潔でサッパリした男やそうや。こら、楽しみやな〜」
里見母「あんた…恵理はまだ見合いを承知しとらんで?」
里見父「えっ!? お前、話してきたんとちゃうんか!?」
里見母「話してきたけど、そんな急に言われてはいそうですかとはなかなかいかんで。」
里見父「急やないやないで! 先週からワシら、駆けずり回ってムコはんさがして…」
里見母「あんたには先週からでも恵理には今日いきなりや。返事は木曜まで待ってほしいそうや。」
里見父「木曜? でも、もう来週会うことに決めてしもうたで?」
里見母「またあんたは気が早い…(溜息)。恵理は水曜までは決められないそうや。」
里見父「水曜日に何かあるんか?」
里見母「試合や。試合に負けたら見合いする言うてたで。」
里見父「負けたらやて!(涙) なんちうこっちゃあっ! ワシは恵理に勝って欲しい、だけど負けなんだら見合いには来ないのか!? そんな、殺生なぁっ! どうしたらええんや、天はワシに何をさせたいんやあああっ!」
里見母「何もさせたくないんやろ。家でおとなしく待つことや。ホレ、お澗、あがったで。古女房の酌で飲み飲みしいしい待ちなはれ。待てば海路の日よりあり、やで。」
  ・・・・・。

[188] 里見ちゃん、ついにお見合い! 投稿者:阿僧祇 投稿日:01/07/20(Fri) 14:57 <URL>
 7/11のウェンズデーバトルで黒星を記録した里見ちゃんは、おかやんとの約束通りお見合いすることになりました。

 ==========================

 >銀座、某高級レストランの奥まった予約席。

太田垣父「おう、来た来た。あれ? そちらは?」
太田垣社長「母さんは知ってるよね、仕事仲間の松井くん」
松井香織「はじめまして、PWPの松井香織です。」
太田垣父「なんでまた…?」
太田垣社長「仕事の話なら、彼女も居てくれた方が説明し易いからだけど。」
太田垣父「あ…それで連れてきちゃったのか。」
太田垣母「だけど何もこんな日に…」
太田垣父「まあ、来ちゃったものは…」
松井香織「…なんだかご迷惑だったみたいですね? 社長、私、はずしてましょうか?」
太田垣社長「いや…それはかえってよくないでしょ。同席しても構わないよね?」
太田垣父「う〜ん…まあ、しかたなかろう。」

   そこへやってくる湯滝老人。

湯滝典五郎「いやあ、ひさしぶりだね、太田垣君。」
太田垣父「ああ、これは湯滝会長…」
湯滝典五郎「いやいや、もう甥に譲って引退したから。」
太田垣父「失礼しました、湯滝さん。」
湯滝典五郎「そちらが噂の『まーくん』?」
太田垣社長「太田垣昌哉です、はじめまして…(名刺を)」
湯滝典五郎「ああどうも…(こっちも名刺を出しながら)…そちらの女性は?」
太田垣社長「今日は、なんでも私のやってる事業についてお話がということでしたので。彼女は仕事上の…」
太田垣父「こらっ、昌哉…すみません、湯滝さん」
湯滝典五郎「…ん〜? ああ、そうかそうか、そういう話だったっけ。ま、そのことは後で。」
太田垣社長「は? はあ。」

   席について、ワインなど傾けながら世間話を始める太田垣両親と湯滝老人。

松井香織「(小声)…何だか反応が変ですよ。」
太田垣社長「(小声)松井君もそう思うか?」
松井香織「(小声)私たち、なにか大きな間違いをしてるんじゃ…?」
太田垣社長「(小声)とにかく様子を見てもう一度切り出してみるよ。」
松井香織「・・・・・。」

   しばらくして現れた正装の里見親子三人連れ。
   里見恵理は紫っぽいワンピ姿で薄らとルージュを引き、トレードマークの三つ編みは解いて、ショートカットに一房だけ毛がたれた形になっている。

湯滝典五郎「おお、里見さん、こっちこっち」
里見父「いや〜、遅れましたかな、こら。失敬失敬。」
湯滝典五郎「いや、だいたい時間通りですよ。こちら、太田垣さん」
里見父「はじめまして、里見です。」
太田垣父「太田垣です。どうもこの度は…」
里見恵理「・・・・・。」

   最初は太田垣社長を見て首を捻っていたが、ふと松井の方が気になりはじめた里見恵理。
   その視線に気がつく松井香織。

松井香織「?」

湯滝典五郎「まあとにかく、お席に。」
里見父「ほら、恵理、座らんかい。」
里見恵理「慌てることないって、おとやん。」
太田垣社長「(心の声:里見恵理? どこかで聞いたような名前…顔も見たことあるような…ええと…)」

   一同が席につくと、給仕さんがオードブル(前菜)を運び始める。その時

里見恵理「あっ!」
給仕さん「わっ!」
   給仕さんがずっこけ、引っくり返るお盆。
里見父「な、なんじゃい、いきなり突拍子もない声を!」
里見恵理「松井選手! 松井選手ととちゃいまっか? 元、大日本海女子にいた…」
松井香織「ええ、そうですけど…」
里見恵理「うわ〜、こんなとこで会えると思ってなかったわあ! 握手してくらはい!」
松井香織「え? ええ。」
   握手握手。
里見父「な、なんじゃ一体?」
里見恵理「おとやん、知らんやろ? この人は松井香織選手ちゅうて、西日本の有名な女子格闘家なんや。」
湯滝典一郎「なんだ、知ってる人だったんですか?」
里見母「宅の娘は、プロレスとか格闘技とかが大好きで…」
太田垣父「そうですか〜。それは話が合いそうですね。うちの息子、実は女子プロレスの団体を経営してて…」
里見恵理「松井選手がいるってことは…思い出したで! 日海の社長はん!」
太田垣社長「あっ!」
里見恵理「ひゃっ!」
   腰が浮いてたため椅子からころがり落ちる里見ちゃん。
太田垣社長「里見恵理って…信戦組の里見ちゃんか!」
松井香織「ああ、そういえば」
   納得した、というように頷く松井香織。
太田垣社長「この前会った時とは雰囲気が違うからわからなかった。いや〜、里見ちゃんだったのか! 奇遇奇遇」
太田垣母「なに、知り合いなの?」
太田垣社長「茨城や横浜の団体で活躍してる新人選手だよ。半年くらい前に鳥取に来たことがあって、一度会ってるんだ。」
湯滝典一郎「いやあ、こりゃあいいや。最初から御縁があったわけだ。」
太田垣社長「は? 御縁?」
太田垣父「あっ…いや…」
松井香織「(心の声:も、もしかしてこの席は…)」

   しばらく、食事しながら談笑。主に経済関係の話が続く。
   里見恵理と太田垣社長も、女子プロレスの話でそれなりに盛り上がる。
   松井香織は次第に口数が少なくなってくる。
   フィッシュ(魚料理)が下げられてソルベ(口直しのシャーベット)が出て来た頃…

太田垣父「そうですか、じゃあ湯滝さんは現役を離れて…」
湯滝典一郎「もう金儲けで走り回ってる歳でもないからね。若い者に席をゆずらないと。」
里見父「そうでもないですやろ。こないだも台湾に投資して一儲けしたとかいう話やないですか。」
湯滝典一郎「これこれ、そのことはオフレコだ(苦笑)。とにかく、これからは昌哉君のような若い人たちの時代だからね。」
里見父「昌哉はんは、プロレスの社長はんなんでしたな。」
太田垣社長「ええ。(心の声:チャンスだ。) それで湯滝さん、見ていただきたい物が」
湯滝典一郎「なんでしょう?」
太田垣社長「松井君、資料を。」
松井香織「はい。」
   松井香織、間髪をいれず、すでにスタンバイ状態にしてあったノーパソを出す。
太田垣社長「これをご覧頂きたいと。」
里見母「へ〜! 今はもう、そういう物を持ち歩く時代になったのねえ。それでインターネットとかもできるんでっか?」
里見父「いやあ、ええパソコンでんなあ。こら高そうやで。ほれ、恵理、お前も拝見させてもらわんかい。」
太田垣社長「いえあの、、、画面をご覧ください。機械自体はその、旧式の安物ですから。(汗)」

   液晶画面には、WWPLの興行のハイライトシーンを編集したプロモーション動画が。

湯滝典一郎「なるほど、なかなか激しくやってるようだね。」
太田垣社長「わがWWPLは、西日本のいくつかの女子プロレス系団体が提携しているグループでして、主に中国・北九州を中心に、四国や九州南部でも興行してます。所属の選手は…」
湯滝典一郎「はあ、なるほど、なるほど。」
松井香織「(心の声:…湯滝氏、あんまり興味なさそうだけど…)」
   それでも一生懸命説明してる太田垣社長。
   心配そうに見守る松井香織。

   そして、メインディシュも終り、フルーツ、デザートと進んだころ…

里見父「えっと、昌哉はん、なんでっしゃろ、その…うちの恵理って、女子プロレスではけっこういい線いってるんでっしゃろか?」
太田垣社長「いい線もなにも…シュトローム乙姫選手との友情や、覆面集団Sitto団せぴあとの抗争は、毎週のようにファンを湧かせてますよ。私も、直接は見に行かれないけれど新聞や雑誌の速報は楽しみにしてるんです。」
里見恵理「お、おおきに。(にこっ)」
里見父「…ほんとでっか? 恵理がそんなに有名とは知らんかった。」
里見母「だから言うたやろ、引退させるのは勿体無いって。」
太田垣社長&松井香織「引退!?」
里見恵理「おとやん! ウチは結婚はしてもええ言うたけど、引退するとは言ってないで!?」
太田垣社長「結婚!? 里見ちゃん、結婚するのか?」
里見恵理「え!?(驚)」
   気まずくなってオロオロバタバタし始める一同。
   ついに確信をもった松井香織。
松井香織「…やはりそういう席でしたか、ここは。」
太田垣社長「ま、松井君?」
松井香織「大変失礼しました。私はこれで…。社長、あとで携帯に電話入れて合流しますから、ご心配なく。」(席を立ってしまう)
太田垣社長「ちょっと松井君!」
   後を追おうとした太田垣社長の機先を制し
湯滝典一郎「昌哉君! しばらく恵理さんのお相手をお願いします。太田垣君、里見君、奥様方も、ちょっと…」
   両親たちは去り、あとに太田垣社長と里見恵理だけ残されてしまう。
里見恵理「太田垣はん、今日の話…聞いてなかったんでっか?」
太田垣社長「お祝いの食事をかねて、仕事の話だと…でもこれって…」
里見恵理「・・・・・(涙)」
太田垣社長「え? ちょっと、里見ちゃん?」
里見恵理「せやなあ。社長はんみたいな人が、ウチなんかとつりあうなんて、思うてくれるわけあらへんもんなあ。」
太田垣社長「ま、まってよ! 泣く事ないだろ?」
里見恵理「ごめん。社長はんええひとやったし、ウチ、この人となら結婚してもええかな、なんて考え始めちゃってたから…」
太田垣社長「え…?」
里見恵理「ごめんなはい。今、少しだけ、ふられて失恋したような気分になっとるんや。勝手にそうなっとるだけやから、気にせんといてくらはい。(ニコッ☆涙)」
太田垣社長「あの、じゃ…これはお見合いだったわけだ?」
里見恵理「(こくん。)」
太田垣社長「えっと…それなら里見ちゃん、この場でふられるなんてことはないよ。見合いなら『返事は後日』ってのがならわしだからさ。」
里見恵理「え…」
太田垣社長「仲人さんから返事を伝えれるまでは結論は出ない。だから、今日そんな気分になることないんだよ。第一、僕は君のこと、好きとも嫌いともまだ言ってないんだ。だから涙拭いて…ほら。ふたりして赤い目をしてたら変じゃないか?」
里見恵理「そういや社長はんも…どして?」
太田垣社長「いや、てっきり仕事の話だと思ってたから、昨日、プレゼンテーション用の資料を徹夜でまとめてて…寝てないんだ。」
里見恵理「ぷっ…(笑)」
太田垣社長「そうそう、笑ってる方がかわいいよ、里見ちゃん。」
里見恵理「や、やだあっ…(赤面)」

   ・・・・・。

 >1時間後、東京駅

   黙って立ってる、松井香織。
太田垣社長「…親父もお袋も、そういうことならそうだと言ってくれればいいんだ。松井君にまで無駄足をふませてしまって、もうしわけなかった。」
   一生懸命話かけ続けてみたが、松井香織はなんだか沈んだまま。
   太田垣社長、諦めて口を閉じ、溜息を吐く。
松井香織「里見ちゃん、か…」
太田垣社長「!」
松井香織「…かわいいコだったわね。」
太田垣社長「そうだね。」
松井香織「・・・・・。」
太田垣社長「・・・・・。」
松井香織「・・・・・。」
太田垣社長「・・・・・、、、」
松井香織「…あっ!」
駅員さん「うわっ!」
   たまたま前を通りかかって線路に落ちる駅員さん。
太田垣社長「ど、どうした、いきなり?」
松井香織「ノーパソ…忘れてきちゃった」

(*このエピソードは、WWPL担当のbadman氏に承認を得て掲載しました。)

[189] それから一週間後… 投稿者:阿僧祇 投稿日:01/07/27(Fri) 04:19 <URL>
里見恵理「あっ☆」

   がんがらがっしゃーーーんっ!!

沢田朱美(MJストロンガー)「里見のやつ、なんか前にも増してドジが多くなってきた気がするっス…?」

[168] 練習生達の野望 投稿者:阿僧祇 投稿日:01/07/11(Wed) 23:48
2001/07/11

 >信戦組事務所
   バタン。
徳川亜理寿(事務員)「あら、烏丸さんに羽鳥さん…石上さんも?」
西町珠理「あ、今日の練習は終り?」
石上香椎「珠理さん、それに社長。実は、お話があっさて参りました。」
信戦組社長「話? なんだ? ちょうど仕事も区切りがついた所だ、いいぞ。まあ座りなさいよ。」
 応接セットに席を取る一同。亜理寿が気を利かせ、冷えた中国茶を出す。
烏丸典江「社長はん、里見や沢田がDIAへ出るようになってから、もう8ヶ月やねえ。」
信戦組社長「せやねえ。」
西町珠理「京言葉に合せなくてもいいです。(汗)」
烏丸典江「ウチら、練習生になってからもう1年3ヶ月や。」
信戦組社長「…長いねえ。」
烏丸典江「社長はん、里見を正選手にしよなんて発言、した聞きまひたけど?」
信戦組社長「…したけど。」
烏丸典江「社長はん。それに珠理はん。チャンスは公平にあってしかるべき思いまへんか?」
信戦組社長「せやねえ。」
西町珠理「だから、京言葉に合せなくてもいいです。(汗)」
信戦組社長「相手が使ってるとつい出ちゃうんだってば、喋り易いから。」
ソフィア羽鳥「ええい、じれったい! YESかNOか、はっきりしやがれ!」(机をバン!)
信戦組社長「なんだ、いきなり!?」
烏丸典江「いま、交渉の駆け引きをしてるところやないの。邪魔せんでおくれやす。」
信戦組社長「交渉?」
烏丸典江「…こうなったからには単刀直入に行かせてもらいま。ウチら、ケガでデビューが遅れたけど、素材的に、里見だの沢田だの武田だのにそんなに劣ってるとは思えへん。」
   うなずく後の二人。
烏丸典江「それなのに、試合のチャンスも無くいつまでも練習生なのは納得いかへんで。」
信戦組社長「…それで、どうしたいんだ?」
烏丸典江「ウチらにもチャンスをよこせっちゅうこっちゃ。」
信戦組社長「チャンス?」
ソフィア羽鳥「里見と同じチャンスだァよ。」
信戦組社長「つまり…よその団体でシングルのリングに上げ、1勝したら正選手昇格という、アレ?」
石上香椎「そう。アレ。」
   西町珠理と顔を見合わせる信戦組社長。
信戦組社長「しかしなあ、アレは…DIAさんの方から言い出したことだからなあ、里見を使いたいって。」
西町珠理「そうね。沢田さんにしたって、Sitto団入りはこちらからお願いしたことじゃ無かったし…」
烏丸典江「社長はん。あんさんの仕事は、よそと交渉して、選手や練習生の便宜を計ることやおまへんか?」
信戦組社長「たしかにそうだけど…残念ながら君らは、まだ商品価値が武田や里見には及んでいないんだ。」
烏丸典江「社長。あんさんの好きな落語に、『はてなの茶碗』ゆうのがありまひたな。」
信戦組社長&西町珠理「!」
烏丸典江「2文の安茶碗にちょっとした物語が付いたことから、しまいには御門御製の短歌までついた1000両の骨董品になってしまう話や。商品価値なんてのは、もともとあるもんやない。物語を作って、価値を出すもの。ちがいまっか?」
信戦組社長「いや、たしかにその通り…」
烏丸典江「(ニコッ)なら話ははやい。真女はんとかA☆Fはんとまでは言わん。DIAはんか日海はんあたりに、ウチらを上手に売りこんでーな。」
信戦組社長「ひたち女子とかじゃ駄目?」
ソフィア羽鳥「なっ、なめとんのか、おんどれ!」
石上香椎「まあまあまあ…ここは烏丸ちゃんに任せようよ。」
烏丸典江「物語はうちらがあんじょう用意しま。せやから、あんさんは、ウチの舞台を用意してほしいんや。」
信戦組社長「仮に、できないと言ったら?」
烏丸典江「あんさんと珠理さんのスキャンダルが、今よりも確実な事実としていろいろ出回るだけや。」
信戦組社長&西町珠理「!」
西町珠理「(小声)単なる脅しですよね?(汗)」
信戦組社長「(小声)いや…烏丸家は政財界に太いパイプを持ってる。その気になればマスコミ操作なんかお手の物だろ(汗)」
西町珠理「(小声)そんな! じゃ、私は…(涙)」
信戦組社長「(小声)安心しろ、君を行かず後家になんかさせないから。」
西町珠理「! 誰がいかず後家ですかっ!!」 バキィィィッ!!

 === 投薬中 ===

信戦組社長「つまりなんだろ、DIAさんとかに交渉して、君らにも出番を作ればいいわけだろ?」
烏丸典江「そういうこっちゃ。簡単ですやろ?」
信戦組社長「そないなこと言うてはるけど…。」
西町珠理「ですから〜、京言葉に合せなくてもいいです。(汗)」
信戦組社長「出ちゃうんだってば。(汗) とにかく、DIAさんには最近、いろいろと無理を聞いていただいて、借りがたくさんあるからな。」
烏丸典江「別にDIAはんに拘らずとも、他の団体はんでもよろし。」
信戦組社長「日海とかだと交通費がバカにならないから。とにかく、機会を見て話を持って行って見るけど、あんまり期待はするなよ?」
   西町珠理、さりげなく胃薬を飲む。

[158] 6/23 後楽園ジオポリス 投稿者:阿僧祇 投稿日:01/07/09(Mon) 00:59
  >後楽園ジオポリス、控え室

西町珠理「マリ姉!」
ルナ=マリーナ「おおっ、珠理はんやないか! 久しぶりやな、今日は見に来てくれたんか?」
西町珠理「ええ。今日は話題の多い興行だしね。これは見ておかないと。あ、ユリも! リタ=モレナ選手への挑戦権をかけてディアナさんと対決ですって?」
相川ユリ「なーに、ホンの前哨戦ってとこよ。」
西町珠理「じゃ、二人とも! リングサイドから応援してるからね!」
   足取りもかろやかに立ち去る西町珠理。
ルナ=マリーナ「…ずいぶん上機嫌やな。例のこと、知っとるんやろか?」
相川ユリ「さあ? 武田ちゃんの話し振りからだと、知ってたらああは機嫌良くないと思うけどな…」

[159] 試合前の客席 投稿者:阿僧祇 投稿日:01/07/09(Mon) 01:01
 >アリーナ
   お客さんが入ってきている。すでにかなりの混雑具合。
   そのリングサイドで、立って見詰め合ったまま凍り付いてる男女。
西町珠理「元俳優の青年実業家って…」
信戦組社長「格闘技の心得があるロングヘアの美人って…」
   その周辺だけ時間が止まってる。(笑)

お客さんA「あれ? ファントム珠理とちがうか?」
お客さんB「あ! そういやそうかも。一緒にいる男、だれだろ?」
お客さんC「アレとちがうか、どこぞの週刊誌のゴシップ欄に書かれてた、不倫相手の妻子持ちの社長…」
お客さんB「まさか、不倫の相手とこんな目立つとこへは来ないでしょ。」
お客さんA「それにあの男、とても社長には見えん。どー見ても格闘マニアの貧乏フリーターだろ。昔の知り合いとか、顔見知りのファンとか、そんなとことちがうか?」

   そのような声は耳に入らない。(苦笑)
信戦組社長「…武田には、ペアにはしないでくれって頼んでおいたんだけど。」
西町珠理「・・・・・。」
信戦組社長「疑ってるのか? …珠理くんに妙な噂が立てられてることは僕も知ってるんだ。それを助長するようなこと、僕がすると思う?」
西町珠理「…あなたのことは、もう信じられないわ。」
   信戦組社長、ショックの表情。
信戦組社長「…わかったよ。部下に信じてもらえなくなったら終わりだ…僕はどこか別のところで見てくるから。(立ち上がる)」
西町珠理「(ハッとして)いえ。何もそこまでしなくても。」
信戦組社長「チケットを誰かととりかえれば済むことだよ。ファントム珠理の隣なら、よろこんで交換してもらえるって。」
西町珠理「…皮肉ですか?」
信戦組社長「そうじゃ無いってば。せっかく観に来たんだから、珠理くんも楽しまないといけない。ならお互い、嫌な相手と一緒に観ることはないだろ。気にするなよ、な?」
西町珠理「…私の隣の席じゃ、おやっさんは嫌ってことなんですね?」
信戦組社長「えっ!? いや、…僕はそんなことはないけど。」
西町珠理「じゃ、今日は私と一緒に試合を観てくれませんか。別に、私たちの間に隠さなきゃいけないような関係なんかないんですし。」
信戦組社長「…いいのか、僕と一緒でも?」
西町珠理「…私は嫌じゃありません。おやっさんさえよければ。」
信戦組社長「…そう。僕も、一人で見るより、珠理くんと一緒がいい。」
西町珠理「(心の声:ドキッ…この人は、なんでこう…(溜息))」
   ようやく、席に座る社長と珠理。
西町珠理「…この辺だと、場外乱闘に巻き込まれるかもしれませんね。」
信戦組社長「真●組の宮■浩▲選手は、プロレスの試合を観戦してて場外乱闘がすぐ側まで来たとき、席も立たず、『こっち来んじゃねえよ!』とかつぶやいて、怒り狂ってるはずのレスラーに『すみません』て謝らせてたよ。そんとき俺、田▼貴×選手と一緒にすぐ側の席にいて…」
西町珠理「なんですか、それ!(笑)」
信戦組社長「今日は、乱闘に巻き込まれそうになったら、頼りにしてるぜ。」
西町珠理「なんで私が」
信戦組社長「現役のプロレスラーでしょ、用心棒にぴったり」
西町珠理「立場が逆ですよ、それ! 男の人がボディガードをしないでどうするんですか、もう!(笑)」
   やっと打ち解けだした二人。

キューティ金井「あれぇ? 麗子ちゃあん、あっち側にいるのさぁ、珠理ちゃんじゃない〜?」
金森麗子「あ、…そうですね。確かに西町です。」
キューティ金井「久しぶりよねぇ♪ キューティ、ちょっと話してくるね(立ち上がりかけて)」
金森麗子「金井先輩! なんだか違う雰囲気ですよ。楽しそうにおしゃべりしてます。もしかするとデートかもしれません。今は邪魔しない方がいいんじゃないでしょうか。」
キューティ金井「えーーー? (しばらく観てて)…ほんとだぁ〜っ。珠理ちゃんてば、意外に手が早いんだもん!」

   そのころ、後ろの方の席に現れた、サイドポニーテールの子供っぽいデザインのシャツの少女と、その連れの黒いロングヘアのフォーマルな女の子。
武田晴歌「うわっ…混んでるな〜、あいかわらず、DIAは。」
竹内亜紀「WARS-Rも、正常に興行がはじまったら、きっとこんな感じになりますえ。」
武田晴歌「だろうね。…あ、悪いけど、オペラグラス貸してくれん?」
竹内亜紀「? 試合はまだ始まっとりませんえ?」
武田晴歌「いや、ちょっと確かめたいことがあるづら。」
   オペラグラスでリングサイドを眺めてる武田。
武田晴歌「あっ、いた!(心の声:…なんだ、嫌がってた割には楽しそうにおしゃべりしてるじゃんけ、社長と珠理さん…)」
竹内亜紀「?」
武田晴歌「(心の声:…あれ?、手が触ってるよ、珠理さん? …ふたりとも気付いてないの? それても気付いてて? …もしかすると…珠理さんと社長って、実は本当に…? だとしたら…ヤバいよ、今日は! 観戦で興奮した勢いでワインなんか飲んだら、場所はホテル…吊橋効果で一気に盛り上がっちゃうかも!!)」
竹内亜紀「…? 武田はん、なんや顔が青うなってきたけど…大丈夫どすか?」
武田晴歌「え? うん、大丈夫だよ。(心の声:やべー、そこまでは考えてなかった…珠理さんピンチだよ、どうしよう…(第16国戦略中)…)」
   視線を泳がす武田。
   そのオペラグラスを取り上げる竹内。
武田晴歌「あ!?」
竹内亜紀「真剣な顔して何見とるんや。ウチにも見せてえな。…ああっ!」
武田晴歌「(心の声:見つかったか?!)」
竹内亜紀「…キューティ金井選手と金森麗子選手! エルフィンかおりはんもおるやんか!?」
武田晴歌「えっ!? 見して見して!」
   竹内のオペラグラスを取り上げる武田。
武田晴歌「ほんとだ! …あっ、左の方の席にはデスピナ=リブレ選手に、ジェニー=サモアン選手もいる!」
竹内亜紀「あの人達を見てたんとちゃうんか?」
武田晴歌「いや…まあ。でもさ、やっぱすごく注目されてるんだね、今日の試合。」
竹内亜紀「…ウチら、こんな後ろの席で…って思ってたけど、これは、分相応ってとこどすな。(汗)」
武田晴歌「…そうだね。(汗)」

   スタジアムの反対側に姿を現す斎藤彰子。
   座る場所が無く、壁に寄りかかる。観客はみんな背中を向けてるので気がつかない。
斎藤彰子「・・・・・。」
   斎藤、バッグからミネラルウォーターを取り出して一口飲む。
   その瞬間、グッと目つきが鋭くなり、横へ視線を飛ばす。
   5mほど離れたパイプ椅子から、不敵な笑顔で軽く会釈する、帽子をかぶって変装した姿のサンダー龍子。
   その横に、疲れ切った顔で地図を握り締めている、やはり風体を変えた石川涼美と小川ひかる。
   斎藤、息をついて視線をリングへ戻す。


リングアナ「大変長らくお待たせいたしました。ただいまよりDIA-JAPAN主宰『D-J NEW WAVE』を開催いたします。最後までごゆっくり御観戦ください。」

[160] 菊池 VS ドラゴンキッズ 投稿者:阿僧祇 投稿日:01/07/09(Mon) 01:03
リングアナ「大変長らくお待たせいたしました。ただいまよりDIA-JAPAN主宰『D-J NEW WAVE』を開催いたします。最後までごゆっくり御観戦ください。」

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ドラゴン・キッズデビュー戦・ハンディキャップマッチ(20分1本勝負)
菊池理宇 vs ドラグーン双葉&ドラグーン木葉
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   ドラゴンキッズの入場。小さな二人がおそろいのコスチュームで、跳ねるように花道をやってくると、拍手の渦がスタジアムを包んだ。

西町珠理「すごい応援ですね。」
信戦組社長「期待の大きさがわかるってものだ。」
西町珠理「でもあのコたち、あんな小さな体で…」
信戦組社長「何かと話題を作ってたからね。13才でデビューなんて、ムエタイならともかく、日本ではまず有り得ない話だ。注目度は高いよ。」

   続いて菊池理宇の入場。凄まじい盛り上がりとなる。

観衆「うぉぉぉぉぉぉぉぉ…」
西町珠理「第一試合は興行の成否を左右するっていうけど、これは…」
信戦組社長「理っっっ宇ちゃぁ〜〜〜んっ!(はーと)」
西町珠理「・・・・・。(汗)」
信戦組社長「あっ…(汗)、、、昔さ、龍子さんのグラビア写真にひと目惚れして女子プロレスを見始めた頃、ちょうど新人で活躍してたのが理宇ちゃんでさっ…ちょっちファンだったんだよ。そのころを思い出して。…別に他意はないよ?」
西町珠理「・・・・・。」
信戦組社長「しかし、木葉ちゃん・双葉ちゃんの姉妹といい、理宇ちやんといい、スレンダーだよな。折れちゃいそうなあのカラダで、どんな戦いを見せてくれるんだろ?」
西町珠理「(リングを見たまま)…おやっさん」
信戦組社長「ん?」
西町珠理「…まさかと思ってたけど…もしかして、ポニテでない場合は、胸が小さい人が好みなんですか?(ちらっ)」
信戦組社長「いっ!?(驚愕)」
西町珠理「・・・・・・。(じーっ)」
信戦組社長「・・・・・・。(汗)」
西町珠理「・・・・・・。(じーーーーっ)」
信戦組社長「・・・・・・。(汗、汗、汗)」
西町珠理「・・・・・・。(じーーーーーーーーーっ)」
信戦組社長「(目を逸らして)…じゅ、珠理くんとちょっと似ていた前の彼女は、胸が大き目だったって話はしたっけ?(汗)」
西町珠理「…そういえばそんな話も」
信戦組社長「人それぞれだと思うよ。その人のもつ雰囲気に合った大きさが理想的なんじゃないかと。菊池理宇の場合は、イメージ的にあきらかに小さい方が似合う。珠理くんの場合は…」
西町珠理「(ドキンッ)」
信戦組社長「…大きすぎず小さすぎず、今くらいがちょうどいいんじゃないかな? てのひらよりょっと小さ目くらいで見たところ弾力もありそうで…」
西町珠理「!!(赤面) 別に私の胸のことなんか聞いていませんっ」
信戦組社長「あっ、ご、ごめんっ、、、」
西町珠理「(心の声:な、なんでこんな事で動揺しないといけないのよっ!)」

   そんなことを話している内にゴングが。
   連発の合体ドロップキックを受けきった菊池が、ロープにしがみつきながら早くも反撃開始。
   双葉をカウンターキックで吹き飛ばし、木葉を逆水平チョップ1発で場外転落に。

信戦組社長「スゲエ…」
西町珠理「格の違い、ですか。」
信戦組社長「(リングを凝視したまま)つーか、相手が子供でも容赦しない。勝負師なんだよな、理宇ちゃんは。(ニッ)」
西町珠理「・・・・・!(心の声:私とは違うから魅力がある、って言いたいわけ?)」

   菊池、双葉をロープに振り、戻ってきたところにラリアート……と想った瞬間、、双葉はかがみこんでかわした!
   双葉、素早く菊池のふところに飛びつき、モンキーフリップ!
   さらに菊池が立ち上がる前に腕を取り、腕ひしぎ逆十字!
   菊池、やむなくロープへエスケープ!

武田晴歌「素早いっっっ!」
竹内亜紀「油断してはったとはいえ、菊池選手に腕十字を極めはるなんて…」
武田晴歌「やるじゃんけ、あのコ。」
竹内亜紀「せやね。」
武田晴歌「でもどっちづら? 双葉ちゃん? 木葉ちゃん?」
竹内亜紀「…はて、どっちやろ?(汗)」

   木葉がポストに上がり、菊池の顔面にミサイルキック、そして同時に双葉がジャーマンスープレックス! 合体攻撃『ファイナルドラグーン』。
   会場は早くも興奮のるつぼと化す。

信戦組社長「すげえ…理宇ちゃん、立てーーーっ!!」
西町珠理「木葉ちゃんに双葉ちゃん、『ドラゴンキッズ』…か…。」
   眉をしかめる珠理。
信戦組社長「…どうした、考え込んで?」
西町珠理「いえ、なんでも…(心の声:なんでこのコたちに嫉妬してるんだろ…でも、どんどん遠くなる気がするな…マリ姉…。)」
   手で顔を撫でる珠理。

   双葉、フォールに入うとするが、菊池はブリッジで跳ね起きる。
   その勢いでロープへ飛び、双葉をドロップキックでリング外まで吹き飛ばす。

信戦組社長「やっぱり体重差はカパーできないか…」
西町珠理「13歳の子にそんなこと求めるのは無理ですよ」
信戦組社長「そうでもないと思うけどな」
西町珠理「無理です。」
信戦組社長「俺は21歳のとき、君と同い歳…つまり当時11歳の、格闘家の娘さんに負けたことがあるよ。体重差、実に40キロ。」
西町珠理「! ホントですか?」
信戦組社長「…ああ。」
西町珠理「…情っさけないっ!」
信戦組社長「(ズキン…)いや、体重差を技でカバーできることもあるっていう話だよ…」
西町珠理「(無視)相当弱かったんですね!」
信戦組社長「…そりゃ、今よりは弱かったけどね…でもいちおう黒帯だったし…ぶつぶつ…(心の声:そういや、ちょうど、関口彩音みたいな雰囲気の女のコだったっけなあ…今ごろどうなってるだろ?)」

   そんなことを話しているうちに、スリーパーをかけられた木葉がギブアップしていた。鳴り響く終了のゴング。

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▼ドラゴン・キッズデビュー戦・ハンディキャップマッチ(20分1本勝負)
○菊池理宇|4分42秒|ドラグーン双葉
     | 裸絞め |ドラグーン木葉●
※スリーパーホールド。ドラグーン双葉、ドラグーン木葉はデビュー戦。
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武田晴歌「負けちゃったかー、あのコたち」
竹内亜紀「でも、菊池選手を相手に、ものすごい奮戦どしたな」
武田晴歌「そうだね。デビュー戦だったんだもんね。すごかった(拍手)」

   試合後のインタビューが始まってる。
   マイクを向けられてるドラゴンキッズ。

ドラグーン双葉「強すぎるぅ〜☆★○●◎◇◆」
ドラグーン木葉「あたしら子供相手に、マジなんだもん」
ドラグーン双葉「大人げないよねぇ、菊池先輩。手加減なしなんだ、ひどいよねぇ〜」
ドラグーン木葉「体は大人でも、胸は子供だから許すっ、てか?」
ドラグーン双葉「!(脱兎のごとく逃げ出す)」
ドラグーン木葉「えっ? (ふりむいて)……あわわわ!」
菊池理宇「スコーピオンデスロック!」

   会場をつつむ笑いの渦。木葉、二度目のギブアップ。(笑)

[161] 里見ちゃんの明日はどっちだ? 投稿者:阿僧祇 投稿日:01/07/09(Mon) 01:04
   そんなこんなで次のカードがアナウンスされる。
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▼20分1本勝負
里見恵理 vs 霞月いおり
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武田晴歌「里見さんの相手は、霞月いおり…か。『乙姫の仇討ち』だって。」
竹内亜紀「パンフは大袈裟に書くやろ…って言いたい所どすけど…」

   霞月に続いて、『トライ AGAIN !』の明るい失恋ソング(笑)で入場してくる赤コーナーの里見は、愛用のオープンフィンガーグローブを着けて、いつになく気合の入った顔。

武田晴歌「里見さん、ふぁいと!」
   通りすがりに、出された武田の手を握っていく里見。

武田晴歌「気付いたかな?」
竹内亜紀「たぶんわからんかったやろ。(汗)」

   里見恵理、リングに上がる。

信戦組社長「里見ーーー! 俺達が見てるぞーっ!」
西町珠理「がんばってね、恵理ー!」

   声援に気がついたのか、リングサイドに向かって軽く拳を振ってみせる里見。しかしその表情は硬い。

西町珠理「大丈夫かしら…」
信戦組社長「かなりアガッてるよな、あいつ。」

   やがて試合開始。
   ゴングが鳴るなり、里見のラッシュ。霞月は押されながらもこれをいなして時折反撃を仕掛け、壮絶な打撃戦となる。

西町珠理「恵理っ…ばかっ、それじゃスタミナが持たない!」

   しかし里見は、もろ手刈、スリーパー、大腰、ドロップキックと果敢に攻め続け、霞月を追いつめていく。霞月、ついにダウン。

里見恵理「立てぇ!」

   霞月が立ち上がった所でもう一発ドロップキック。

里見恵理「どうしたぁ!」

信戦組社長「すげえ…話には聞いてたけど、ずいぶん経験積んでるんだな。こりゃ、ひょっとするかも!?」
西町珠理「(リングを見たまま)…ええ。」
   考え込む信戦組社長。

   リング上では、霞月がローキック連打で反撃。しかし里見、強烈な逆水平で打ち返す。

キューティ金井「すごい一方的になったよね〜。」
エルフィンかおり「この人、たしか信戦組の出身でしたよね。」
キューティ金井「じゃ、珠理ちゃんや斎藤さんのとこの人なのぉ?」
エルフィンかおり「ええ。」
キューティ金井「だからこんなに乱暴なんだ。キューティ、納得☆」
金森麗子「・・・・・(汗)」

   里見はパイルドライバーの体勢に。

武田晴歌「いいぞー、里見さーんっ!」
   場内はかなりの盛り上がり。

  しかし…里見は足に来てたのかふらついて不発、両者ダメージ。
  「里見ちゃーん!」「いおり様ー!」とはげしい声援の中で、ようやく立ち上がった二人だが、里見の掌底と霞月のローキックが相打ち!

武田晴歌「…よく頑張ったけど、だめかな、やっぱ。」
竹内亜紀「いや…立ち上がりますえ!」

   里見、喚声を浴びながらふらふらと立ち上がりかける。
   ついに、里見恵理の初勝利か!? …と思われた瞬間、前のめりに顔面からダウン!

小川ひかる「足にきてたようですね。」
吉田龍子「だいぶローをくらったからな…」

   そのままダウンカウント10、両者KO!
   観衆の残念そうな溜息の中、試合終了のゴングが鳴り響く。

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20分1本勝負
里見恵理{7分5秒 両者KO}霞月いおり
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   珍しく完全KOされた霞月。セコンドについていた双葉・木葉に運ばれて退場していく。
   一方里見は、なんとか立ち上がるが、顔は蒼白。コーナーに戻ったものの、下を向いてしまっている。
   いつのまにか出てきていたファルコン香月が気を利かせ、リングアナから里見にマイクを渡させる。
   里見はしばらく泣きそうな顔で考え込んでいる様子だったが、絞るように話し始めた。
里見恵理「なんでや…なんでここぞってとこで、ウチ、こうなるんや…(涙)」
   と、その時、リングサイドでマイクを要求して立ち上がった男が。
信戦組社長「里見くん…惜しかったな。」
里見恵理「茨城の信戦組の社長はん」(説明的なセリフ(苦笑))
   里見、顔を上げて一気に
里見恵理「…社長はんの見てはる前で勝とうと思ったんやけど、負けてもうた。…すんまへん、せっかくDIA-JAPANに留学させてもろたのに、ウチはまだ一勝も…」
信戦組社長「いや、いいんだ。DIAファンのお客さんたちは、里見くんの試合を楽しんでくれているじゃないか。君は自分の役目をはたしてるんだ。もう実質はプロの選手だよ。」
里見恵理「いや、ウチは…」
信戦組社長「信戦組では君のことをずっと練習生待遇で遇してきたが、沢田くんと里見くんは、DIA-Jさんのおかげで、経験も実績ももう充分になったと思う。どうだ、今日からウチの正選手として契約してくれないか? お客さんも認めてくれますよね?」
   沸き上がる拍手。「里見ちゃーんっ!」「がんばれよーっ」の声も。
西町珠理「おめでとう!」
ファルコン香月「よかったな、里見!」
   思わず涙ぐんで四方にお辞儀する里見ちゃん。だが…
里見恵理「(表情が変わり)…いや、やっぱだめや!」
信戦組社長「え!?」
里見恵理「それでは約束がちがいま。ウチは、試合に勝って自分の力で選手になるんや!」
信戦組社長「だから、それはもう…」
里見恵理「たしかにプロレスラーには二枚舌や嘘吐きが多い。だけどウチは、一度した約束はきちんと守るでぇ。社長はんかてせやろ。なにかといや『ヲタクの約束は希望事項、女の約束は賞味期限一週間』たら言うてはるけど、そうじゃない女もいるってこと、ウチが証明したるんや!」
観客「おおぉぉぉぉぉ…」
   思わず拍手。
   それに応え、四方にお辞儀する里見ちゃん。
信戦組社長「わかった! じゃ、まだ練習生待遇でいいんだな? 沢田くんもつきあわせるぞ?」
里見恵理「もちろんや! 沢田とウチは同期のライバルやからなぁ。あいつだけ出世されたらくやしいやんか。」
沢田朱美(MJストロンガー)の声「ちょっと待てっ! なに勝手に決めてるんスか!」
信戦組社長「いや、もう決定。業務命令だ。」
   観客たちもおもわず苦笑。
信戦組社長「じゃ、それだけだ。会場のお客さんのみなさん! でしゃばって申し訳ありませんでした。それでは次の試合をお楽しみくだ…」
   その瞬間、何かに気がついた里見ちやん、ニヤリ。
里見恵理「ところで社長はん。コシップ雑誌なんかでなんや珠理はんとの仲が話題になってはったけど、その渦中のおふたりが観戦デートちうことは、噂は真実だったんか〜?(ニヤニヤ)」
観客「おおぉぉ〜?」
ファルコン香月「本当に、ふたりはデキてたんだ…」
信戦組社長「(赤面)ばっ…なんでこっちに振るんだ!」
   珠理もあわてて信戦組社長のマイクを奪い取り
西町珠理「(赤面)私たちふたりは、そんな関係じゃありません! 今日はたまたまツーショットになっちゃっただけで…」
里見恵理「ほわあ?『私たちふたり』ぃ…?『ツーショット』やて? こら怪しわぁ…」
   どっ、と笑い。
信戦組社長「余計なこと言っとらんでとっとと退場しろ、アホ!(赤面)」
西町珠理「DIA-Jさんに迷惑でしょ! 何やってるのよ、もう!(赤面)」
里見恵理「なんやお父やんとお母やんに叱られてる気分や。(笑)」
信戦組社長「だれがお父やんだっ! 俺はまだ独身だっ!」
西町珠理「だれがお母やんよっ! 私だってまだ22歳よ、いい加減にしなさい!」
里見恵理「すんまへん、みなさん。次の第三試合が遅れてまいましたな。そんじゃ、これで!」

西町珠理「(心の声:里見ちゃんを元気づけて立ち直らせたのはさすがだけど、話をこっちに振られてどうするのよ、この隙だらけ男! 馬鹿馬鹿っ! あ〜、恥ずかしい…)」

吉田龍子「(心の声:『明るい不幸少女』里見恵理、か。ツボをこころえてるな。あるいは、武田なんかより面白い素材かも…)」

    笑いの渦の余韻の中、足早に退場していく里見ちゃんであった。

 >控え室

ファルコン香月「いいぞ、里見。あれでいいんだ。」
里見恵理「香月はん…」
ファルコン香月「プロレスラーは勝つだけが仕事じゃない。たとえKOされてもお客さんを盛り上げることができるお前は、立派にプロだよ。」
里見恵理「お、おおきにいっ!」
ファルコン香月「まさか、おたくの社長までダシにするとは思わなかったけど。」
里見恵理「あ、あはは(汗) 思わずやってもーたけど、よかったんやろか?」
ファルコン香月「うーん…西町も、あのスキャンダルでかえって人気が出てるみたいだし、あれはあれでいいんじゃないかな?」
里見恵理「だといいんやけど…」
   そこへ入ってくる斎藤彰子。
   気付いた香月と会釈を交わす。香月、さりげなく場所を譲る。
斎藤彰子「里見…惜しかったな。」
里見恵理「あっ、アキコさんっ! 見てはったんですかぁ!?」
斎藤彰子「前から思っていたんだが…お前は、格闘家としては素質があるのに才能が無い。」
里見恵理「?(汗)」
ファルコン香月「!」
斎藤彰子「もったいない奴だ。(立ち去ろうとする)」
里見恵理「あのっ!」
斎藤彰子「(立ち止まる)」
里見恵理「すんまへん、アキコはん。こういうことは自分で考えて気が付かなきゃあかんのですやろけど、ウチ、どうしてもわからへんのです! ウチはバカや。考えてもわからへん。アキコはん、助けると思って、ウチ、どーしたらいいのか、何かひとつでも教えてくんなませ!」
   床に身を投げ出し、米搗きバッタのように土下座を繰り返す里見。
斎藤彰子「…そこへ立ってみろ。」
里見恵理「?」
斎藤彰子「立て!」
   わけもわからないまま立ち上がる里見ちゃん。
   その後ろへ回り込むと、背中を小突く斎藤。
里見恵理「あっ!?」
   思わず前へよろける里見ちゃん。
斎藤彰子「もういちど立ってみろ。今度は体の力を抜き、ゆっくり息を吸って、空気が全部腹の底…へその下あたりに溜まったと想像するんだ。」
   前へ立ち、里見ちゃんの下腹にそっと拳をあてる斎藤。
斎藤彰子「この辺だ。ここだけに感覚を集中しろ。」
里見恵理「は、はい。」
   深呼吸する里見ちゃん。
斎藤彰子「いいか。そのままでいろ。」
里見恵理「はい。」
   また後ろへ回り込み、背中を押す斎藤。
   里見ちゃん、今度はよろけずに前へ2〜3歩出ただけ。
里見恵理「…え?」
   斎藤は前へ立ち、里見ちゃんの肩にそっと掌をあてる。
斎藤彰子「今度はここだ。ここに気持ちを集中してみろ。」
   また後ろへ回り込み、背中を押す斎藤。
里見恵理「あっ!?」
   里見ちゃん、前へこける。
里見恵理「こ、これって…」
斎藤彰子「…わかったようだな。『臍下丹田』という言葉がある。昔から、武道や禅の修行で、非常に重視されていたものだ。お前にはこれがまったくない。」
里見恵理「じゃ、ウチが勝てない理由って…」
斎藤彰子「…臍下丹田の使い方は一朝一夕で会得できるものではない。とくに戦ってる最中には、よほど慣れた者でないと使いこなせない。だが、知ってるのと知らないのとでは大きな差が出る。あとは鍛練しだい…まずはここからだ。」
里見恵理「斎藤はん!」
斎藤彰子「・・・・・。(背を向ける)」
里見恵理「おおきにいっ!(がばっと土下座)」
斎藤彰子「(背を向けたまま)次の試合、期待してるぞ。」

ファルコン香月「(心の声:ふ〜ん…これが斎藤彰子の教え方か…でもこのコの場合ははたしてどうかしらね?)」

[162] 中原、敗北 投稿者:阿僧祇 投稿日:01/07/09(Mon) 01:06
  >会場
   カードが進んでいく。

   第4試合を食い入るように見ている斎藤。

   中原がキックを突破口にがんがん攻めていく。

武田晴歌「おおっ、すげえ…(顔面蒼白)」
竹内亜紀「・・・・・。」

斎藤彰子「(心の声:中原のあの攻撃精神はさすがだ。が…)」

   カモン、ボディスラムで中原を投げ付け、キャノンミサイルキックをくらわせる。さらにポストにホイップし、スイングDDT。

斎藤彰子「(心の声:まだ体が気持ちについて行けないようだ…南の門下だし、そのうち自分で気がつくだろう…これ以上私の出る幕はない)」

  結局、ムーンサルトプレスでカモンが中原をフォール。
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▼30分1本勝負
○セリーヌ・カモン・ミール{8分50秒 体固め}中原千早希●
※ムーンサルトプレス
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[163] そしてディアナと相川ユリ 投稿者:阿僧祇 投稿日:01/07/09(Mon) 01:08
   そして第6試合
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▼30分1本勝負
ディアナ=アームストング VS 相川ユリ
======================================

信戦組社長「おっ、最近なにかと話題の相川選手か。注目のカードだな。」
西町珠理「・・・・・」

   青コーナー、相川ユリの入場。

西町珠理「ユリーーーーっ!」

武田晴歌「この一戦は、ユリさんに勝ってもらわないと…」
竹内亜紀「ユリはんを応援どすか。」
武田晴歌「えっ? あっ、ま、まあね。」

   試合はかなりのハイスパートとなる。
   ディアナも力技で反撃をこころみるがユリはそれをつながせず、投げ・極めを主体にディアナのスタミナをジワジワと奪っていく。

信戦組社長「さすが、理宇ちゃんが鍛えただけあるよ。いい選手だなあ!」
西町珠理「ええ。」
信戦組社長「(リングを凝視)・・・・・(心の声:こういうタイプの相手と戦いになった場合…もし俺だったらどうするだろう?)」
西町珠理「(横目でちらり)・・・・・(心の声:ずいぶん熱の篭った視線でユリを見つめてるわね…しかも嬉しそうに。)」
信戦組社長「(リングを凝視)・・・・・(心の声:絞めへの入り方も上手い。だけど、パワーを集中しすぎって気もするな。じっくり伺えば隙はまったく無いわけでもなさそうだ…)」
西町珠理「(横目でちらり)・・・・・(心の声:あっ、舌なめずりした! …まさか、おやっさん、ユリにまで目をつけてるの?)」

   リング上ではディアナがテキサスドライバー(変形みちのくドライバー2)を炸裂させ、反撃開始。ふらつくユリにフランケンシュタイナー、デスバレーボムと連撃。

武田晴歌「ああっ、ユリさん、負けちゃだめっ!」

信戦組社長「(リングを凝視)・・・・・(心の声:やっぱり…攻撃力は大きいが、隙もまた小さくない…そこが、課題と言えば課題かな?)」
西町珠理「(横目でちらり)・・・・・(心の声:うなずきながらニヤついてる…『好きな相手ほどいじめたい』っていうサディスティックな気持ちになってるのね…これは!)」

   リングサイドでの心の声のすれ違い(笑)にはまったく関わりなく試合は進む。
   両者倒れこんだ後、先に立ち上がったのは相川。ディアナを執念で引きずり起こすが、ディアナが 相川の首をとって上手く丸め込む! 1、2……3!!
   ここでゴング。

======================================
▼30分1本勝負
○ディアナ・A{10分 首固め}相川ユリ●
※スモールパッケージホールド
======================================

相川ユリ「(マットを叩きながら)納得いかない! もう1回だ、もう1回!」
   ディアナに詰め寄る相川。ディアナも
ディアナ=アームストロング「もちろん! シングルでも、タッグでも! これじゃ終われないね!」
   会場からどよめきが漏れる。

西町珠理「おやっさん、私…!」
信戦組社長「ああ、行ってこい!」
   プリプリしながら退場してゆく相川ユリを追うように、人ごみをかき分けて走り出す珠理。

 >控え室
   インタビュアーが相川ユリにマイクを向けてる。
相川ユリ「聞いての通りよ。もっかいやるわよ! こうなったら、次は意地でも落としてやる! (少し落ちついた)シングルかタッグかって?アタシはどっちでもいいけど…いっそのこと、両方やる?(笑)ディアナさん相手なら完全燃焼できそうだしね。次は稲葉ちゃんが相手か…こっちもディアナさんとは別の意味で負けらんないのよねぇ………って、弱気になってど〜するんだって、アタシ(苦笑)とにかく、次の稲葉ちゃんには絶対勝つ!ディアナさんとルナさんとリタさんも倒す。んで、その後の事はその時考える!(爆笑)これで万事めでたし、めでたしっと」

   扉の影で聞いてた珠理、「ホッ」とした表情。

西町珠理「(心の声:よかった、いつものユリだ…ちぇっ………え!?)」
   自分の心の動きに思わず戸惑う珠理。
   扉に手をかけていたが、迷った挙げ句、中に入ることなくきびすを返してしまう。
西町珠理「(心の声:ちょっと待ってよ! ユリは同期で、友達で…なんで、ユリが元気だと残念だなんて…? 一体、どうしちゃったの、私!?)」
   珠理、頭を抱えながらアリーナに戻っていく。

武田晴歌「ユリさん、負けたか。」
竹内亜紀「? 嬉しいんだか残念なんだか、複雑な表情どすな。」
武田晴歌「勝ってくれた方がいろいろと都合がよかったんだけどね〜。でもあんなすごい試合を見せれたら、同業者としてちょっと嫉妬しちゃうもん。負けてくれたくらいの方がスッとする。」
竹内亜紀「ああ、なるとほど…ウチも、すごいなあと思いながらもなんかモヤモヤしとったけど、そういうことでっか。」
武田晴歌「多分ね。」
竹内亜紀「武田はん、気を付けなあきまへんえ〜」
武田晴歌「なにが?」
竹内亜紀「こういう心理の時は、『吊橋効果』がありますえ〜」
武田晴歌「げっ! 『近くの異性と恋に落ちる』ってアレ?」
竹内亜紀「左様。」
   武田、リングサイドの方へ視線。
武田晴歌「(心の声:やっべ〜…社長も格闘者だもんね、この機会に珠理さんと相思相愛になってしまうかも…それだけは阻止しなきゃ!)」

   席へ戻ってくる珠理。
信戦組社長「相川選手と話してきた?」
西町珠理「いえ…やめました。」
信戦組社長「? なんで?」
西町珠理「ちょっと。」
信戦組社長「(心配そうに)…荒れてるのか、相川選手?」
西町珠理「! いえ! それは大丈夫です。昔から脳天気な女ですから。」
信戦組社長「そう。ならいいけど。(リングに向き直る)」
西町珠理「(心の声:…まさか、おやっさんがユリに好意を持ってるらしいことに、私、嫉妬してるの? そんな馬鹿な! 私はおやっさんのことなんかなんとも思ってないはずなのに!?)」

   そんな思惑には関係なくカードは進んで行く。

[164] その時、西町珠理は… 投稿者:阿僧祇 投稿日:01/07/09(Mon) 01:09
   そんな思惑には関係なくカードは進んで行く。
   そしてついにメインイベント。

ルナ=マリーナ「マリンアッパーやぁぁぁ!!」
   必殺の掌底アッパーが炸裂。
   倒れるリタ=モレナの両肩を両腕で押さえ込み、カウント1、2……3!!
   終了のゴング。

======================================
▼30分1本勝負
○ルナ・マリーナ{6分11秒 体固め}リタ・モレナ●
※マリンアッパー
======================================

ルナ=マリーナ「(マイクを取り)今日は、応援ありがとうございましたぁ! これがウチの闘いや! 誰でもええ、自信あるヤツはかかってこい! やるなら今のうちやで。目ぇ離したら、置いてくからな!」
観衆「ウワァァァァァァァァァ・・・・・!!」

信戦組社長「さすがだな! あのリタ=モレナをもものともしない…IWWF Jr.ベルトも取りもどして、波に乗りまくってるじゃないか、ルナ=マリーナくんは。」
西町珠理「そ、そうですね…」
信戦組社長「? どうした? 顔色が…気分でも悪いのか?」
西町珠理「! い、いえ別に…(心の声:とうしたのかしら…素直に喜べない…)」
   立ち上がる珠理。
西町珠理「ちょっとお手洗いへ行ってきます。」
信戦組社長「ん? ああ、じゃ、ここで待ってるから、気を付けて行ってこいよ。」
   珠理、興奮のるつぼの人を掻き分けて、出口へ向かう。

 >お手洗いの洗面所
   珠理、ハンカチを口に当てている。
西町珠理「(心の声:…嫉妬? 試合に出れない、トレーニングも人間関係も思うようにいってない、今の自分と…スポットライトを浴びてるユリやマリ姉を比べて、やきもちを焼いてるの?)」
   水が出つづけてる。鏡をみつめる珠理。
西町珠理「(心の声:嫌な顔してる、私…なんとかしてから戻らないとみんなに…)…ウッ!」
   珠理、あわててお手洗いに駆け込む。
西町珠理「ぐっ…げろろろろろっ!」
   嘔吐の音が響く。
西町珠理「(心の声:…もう、嫌…っ!(涙))」
   手洗所に誰かが入ってくる気配。珠理、あわてて扉を閉める。
   ふたたび吐瀉。
西町珠理「…えろろろろろっ!」
   水流の音とともに嘔吐の音が響く。

 >試合会場
   お客さんは次第に出て行って、もうほとんど残っていない。
   その中、リングサイドにポツン、と座っている信戦組社長。
ルナ=マリーナ「おっ、居ったおった。」
信戦組社長「あっ、ルナ選手…今日は大勝利、おめでとうございます。」
ルナ=マリーナ「なぁに、まだホンの序の口や。それより、奥さんどこ行ってん?」
信戦組社長「…は?」
ルナ=マリーナ「とぼけなさんなや。社長はんと珠理はん、最近、仲が良いって評判やないか。」
信戦組社長「げっ…いや、それはっ!!」
ルナ=マリーナ「隠さんでもええて。ウチら、邪魔したりせえへん。」
信戦組社長「いや、ですから、それはっ!!」
ルナ=マリーナ「しかし社長はん、アニー=ビーチはんや飯塚のリカはんにもコナかけてきたそうやな。浮気はいかんで〜。珠理はん泣かすなや。」
信戦組社長「僕と珠理くんは、そういう関係じゃないんです!」
ルナ=マリーナ「ふん?」
信戦組社長「今日もたまたまチケットのブッキングで隣になってしまったけど、これは偶然で、別にデートで来てたわけじゃないですよ。」
ルナ=マリーナ「…そうなんか?」
信戦組社長「そうです。珠理くんのためにも、変なウワサは流さない様にお願いできませんか?」
ルナ=マリーナ「でも、ウチが聞いた話では…社長はん、これから珠理はんと二人で食事なんやろ?」

 >お手洗い
   洗面所で必死にうがいしてる珠理。
西町珠理「(心の声:これからディナーだっていうのに、こんな臭いをさせていったら…ううん、それよりあの被害妄想の強い人のことだもの、私が吐いたのは自分の隣にいたせいだとか勘ぐって傷つくかも…)」
   必死に、何度も何度もうがいをする。
西町珠理「(心の声:そうね…食事は断ろう。その方がいいわよね。へんな噂を助長しちゃわないで済むし。体調が悪いって言えば…あっ、でも心配かけちゃうかも…じゃ、どうすれば…)」
   ハンカチを濡らして、服に吐瀉物が跳ねてないかどうか念入りにチェック。
   洗面所も、水を流してきれいにする潔癖さ。
   そして鏡を見る。すこし青い顔。
西町珠理「(心の声:でも…さっきよりは、いくらか…。)」
   溜息をついてお手洗いを出る。

 >試合会場
   もうほとんどお客さんは残っていない。
   そこへ出てくる珠理。
キューティ金井「あっ、いたいた、珠理ちゃ〜んっ!」
西町珠理「あっ、金井先輩! それに、エルフィンかおりさん!」
   あわてて頭を下げる受理。
キューティ金井「どこ行ってたの? 麗子が捜してたんだよ?」
西町珠理「麗子って…金森麗子ですか? 来てたんですか?」
キューティ金井「リングサイドにいたんだよ? 気がつかなかったんだ…?」
西町珠理「すっ、すみません! で、麗子は…」
キューティ金井「あっち。」

[165] 舌戦、西町 VS 相川 投稿者:阿僧祇 投稿日:01/07/09(Mon) 01:11
 >試合会場
   もうほとんどお客さんは残っていない。
   そこへ出てくる珠理。
キューティ金井「あっ、いたいた、珠理ちゃ〜んっ!」
西町珠理「あっ、金井先輩! それに、エルフィンかおりさん!」
   あわてて頭を下げる受理。
キューティ金井「どこ行ってたの? 麗子が捜してたんだよ?」
西町珠理「麗子って…金森麗子ですか? 来てたんですか?」
キューティ金井「リングサイドにいたんだよ? 気がつかなかったんだ…?」
西町珠理「すっ、すみません! で、麗子は…」
キューティ金井「あっち。」

ルナ=マリーナ「おっ、来たで。」
金森麗子「珠理、久しぶり!」
相川ユリ「今日はわざわざ、応援ありがとね!」
西町珠理「うっ、うん。」(ちょっと元気がない)
信戦組社長「どうした? また体調でも…」
西町珠理「いえ! 大丈夫です!!」
信戦組社長「そうか。ならいいんだけど…」

   麗子・ユリ・ルナ・金井・かおり・それに珠理たちでしばらく雑談。

ルナ=マリーナ「おっと、だんさんをカヤの外に置いとったな。」
信戦組社長「いや、いいですよ。久しぶりに会った同士だし、話もあるでしょう。僕は珠理くんとはいつでも話できるし…」
ルナ=マリーナ「でも、あんまり時間ないんやろ?」
信戦組社長「今から食事をしていったら、どっちにしても今日中に茨城へ帰るのは無理ですよ。」
   それを聞いてハッとする珠理。
西町珠理「おやっさん…私、これで帰ります。」
信戦組社長「え?」
西町珠理「私、寮長ですから、帰って戸締まりとかしないと…」
相川ユリ「でも、食事していく予定で出てきたんじゃないの、あんた?」
キューティ金井「え? なに、なに? 何の話〜?」
信戦組社長「(少し大きな声で)誤解がない様に言っておきます。僕は、チケットを譲ってくれた女性にお礼のつもりでディナーの席を用意したんです。それが西町くんだったのは、偶然で、僕もおどろいたくらいです。」
相川ユリ「じゃ、見ず知らずの女をナンパするつもりだったんだ?」
信戦組社長「えっ? いや、それは…」
   なんとなく目つきが険しくなってくる珠理。
信戦組社長「…つーか、ルナさんや相川さんがなんでそんなこと知ってるんですか?」
相川ユリ「それはいろいろと武田ちゃ…あっ!」
   顔を見合わせる珠理と社長。
西町珠理「シナリオが読めましたね。」
信戦組社長「また武田のいたずらか…ったく!」
西町珠理「じゃあ、それがわかったところで、私は帰ります。」
信戦組社長「食事は?」
西町珠理「いりません。コンビニ弁当でも買って食べますから。」
一同「え〜!?」
相川ユリ「夜景付きのディナーがコンビニ弁当に? なに考えてるのよあんた。」
西町珠理「事情はいまお聞きの通りよ。」
相川ユリ「もったいないな〜。珠理が行かないなら、代わりに私がゴチになっちゃうわよ?」
西町珠理「ええ、どうぞ。お譲りしますっ。」
相川ユリ「いいの? 豪華レストランで食事よ、高いのよ? もったいないわよ〜?」
西町珠理「構いません!」
相川ユリ「OっK!じゃ、珠理のダーリン、借りてっちゃうからね!」
西町珠理「だっ、だれが私のダーリンですかっ、いい加減にして、ユリ!」
信戦組社長「僕の意志を無視してるな。」
相川ユリ「あら社長さん、私じゃ不満?」
信戦組社長「いや…魅力的な女性との食事は、それ自体楽しいものだけど。」
西町珠理「…おやっさん」
信戦組社長「ん?」
西町珠理「…まさかと思ってたけど…龍子さん、理宇先輩、リカ、ユリ…それに私。もしかして、ポニテでない場合は、名前に『リ』の字がつけばそれでいいんですか?」
信戦組社長「いっ!?(驚愕)」
西町珠理「・・・・・・。(じーっ)」
信戦組社長「・・・・・・。(汗)」
西町珠理「・・・・・・。(じーーーーっ)」
信戦組社長「・・・・・・。(汗、汗、汗)」
西町珠理「・・・・・・。(じーーーーーーーーーっ)」
信戦組社長「(目を逸らして)…そ、そんな言い方は相川選手に失礼だろ(汗)! さっきも言ったように、魅力的な女性との食事は楽しいからだ!」
相川ユリ「(小声で珠理に)ダンナさん、けっこう口は廻るみたいね?」
西町珠理「(ユリを無視)そんなにユリとディナーに行きたいんですね?」
信戦組社長「君が行きたくないんじゃしょうがないだろ?」
西町珠理「わかりました! じゃあユリと行ってきてください! 私はこれでっ!」
信戦組社長「まて、夜遅いんだ、送るよ」
西町珠理「一人で帰れます! おやっさんと私と、戦ったらどっちがの方が強いと思ってるんですか!」
信戦組社長「・・・・・。」
   珠理、プイッっとして、とっとと帰ってしまう。
   そのうしろ姿を見送る一同。
ルナ=マリーナ「あ〜あ、怒らせてしもうたな…」
金森麗子「でも、珠理もあの言い方はひどいね…」
キューティ金井「珠理ちゃん、さいきん気が短くなってきたって聞いてたけど、ホントなんだねえ? キューティ、びっくりしちゃった。」
ルナ=マリーナ「ダメ押ししたのはユリはんやで。(苦笑)」
相川ユリ「つい、売り言葉に買い言葉で…ゴメンね、社長さん。」
信戦組社長「いや、しょうがないですよ。(溜息)…それじゃ相川選手、そういうわけでごいっしょに。」
相川ユリ「え? 私? いや、ありゃ勢いで言っただけで、、、」
信戦組社長「予約を取り消したらキャンセル料がかかって勿体無いです。かといって、2人で予約したのを1人で行くのも嫌なもの。でも相川選手となら楽しい食事が期待できそうですし。」
相川ユリ「そう?……でもねえ。どうしたもんだろ?」
信戦組社長「いえ、嫌なら無理にとは、、、」
金森麗子「う〜ん、港の夜景を観ながらディナー、か…」
マリ姉「えーなぁ。なかなか行けるもんやないで。」
相川ユリ「…そうね。珠理の代役ってのは気に入らないけど、おごってくれるならチャラだし。じゃ、行ってみようかな!」
金森麗子「でも社長さん、こんなコと一緒でいいんですか?」
相川ユリ「こんなコとは何よー!」
信戦組社長「僕からお願いしてるんです。相川さん、一緒に来てくれますか?」
相川ユリ「わっかりました。じゃ、行きましょか!」
信戦組社長「それじゃ、タクシーを呼んでおいてください。僕はたに社長にご挨拶だけしてきます。」

 >後楽園近く
   自販機でジュースを飲みながら
竹内亜紀「何見てるんどす?」
武田晴歌「いや、なにも。(心の声:さっき、一人で行っちゃったの、珠理さんだよねえ? 社長ってば、何やってるんだろ?)」
   そこへ出てくる、信戦組社長と相川ユリ。
武田晴歌「え!?」
   信戦組社長と相川ユリ、タクシーに乗り込んでしまう。
武田晴歌「ちょ、ちょっと、どういうことづら!?」
竹内亜紀「何かあったんか?」
武田晴歌「いや、何も…(心の声:なんでユリさんが社長と…一体どうなってんの???)」
   そのとき、
???「ちょっとお尋ねしますが、JR水道橋駅は…って、ああっ! 武田と竹内!」
竹内亜紀「どなたですやろ…って、石川はん!」
石川涼美「ちょうどよかった…龍子さんっ、このコたちは確実に道知ってますから、もう絶対に先頭に立たないで下さいね!」

[166] 桜木町の某ホテルで 投稿者:阿僧祇 投稿日:01/07/09(Mon) 01:12
 >桜木町、某ホテル
信戦組社長「まいったな…もっと道が混んでると予想してたのに…」
相川ユリ「早く着きすぎたの?」
信戦組社長「予約の時間まであと30分くらいあります。」
相川ユリ「ただ座って待ってるのもセンスないね」
信戦組社長「…どうでしょう? このホテルはブライダル・サロンがなかなか人気らしいですから、暇つぶしにちょっと覗いてきませんか?」
相川ユリ「社長さんと?」
信戦組社長「格闘技以外の僕の仕事にちょっと関係あるんですけどね。カップルを装わないと、なかなか恥ずかしくて、産業スパイ(笑)には行けないんです。」

 >ウェディングサロン
相川ユリ「えっ? ドレスの試着ができるの?」
信戦組社長「そうですね、まだ時間もありますし。ひとつ、着てみせてくれませんか。」

   更衣室に入って行く相川ユリ。
   しばらく待たされるが、出てきたときには純白のウェディングドレス姿。
   ポーズを付けさせて、カメラマンがポラロイド写真を撮り、ふたりに渡す。

   ふわりとレースを舞わせるユリ。
相川ユリ「見てこれ…キレイ!」
信戦組社長「よく似合ってますよ。」
相川ユリ「(姿見を見ながら)…でもこのデザインは…なんだか私よりも似合いそうな人が…そうだ! 珠理がこれ着たとこを見てみたいな。ねえ社長さん?(にっこり)」
信戦組社長「……な、なにを急に!? (…は、話を変えなければ!)そうそう! ウェディングドレスデスマッチとかやったら、盛り上がりそうですね! もちろん、凶器はブーケ! あ、まてよ、ケーキってのも使えるか…」
相川ユリ「へえ…おもしろそう!」
信戦組社長「よし、いっぺん企画を練ってみましょうか。(良かった、ごまかせた…)」
相川ユリ「珠理のウェディングドレスマッチ、きっと観に行くからね!(妖笑)」
信戦組社長「……っ!(汗) 、、、そ、そろそろ着替えてください、時間が…」

 >レストラン
相川ユリ「ふーん…舵輪に浮輪、丸窓、樽…昔の船室風のデコレーションか」
信戦組社長「港町のムードなんですね」

   食事が進む。
信戦組社長「じゃあ、ディアナさん/リタさんを倒したら、そのままルナさんの首を?」
相川ユリ「まあね。まがりなりにもJr.チャンピオンだし、とりあえずの目標としては悪くないんじゃないかな。」
信戦組社長「とりあえずというと、その後さらに…?」
相川ユリ「当然、理宇姉さんよ!(力説!)」
信戦組社長「なるほど…」
相川ユリ「ところで…」
信戦組社長「なんですか?」
相川ユリ「私を食事に誘うなんて、引き抜きでもかけるつもりかと思ったんだけど、全然その話が出ないわね?」
信戦組社長「ははは…」
相川ユリ「ヘンなこと言ってる?」
信戦組社長「信戦組は…普通のプロレス団体とちょっと違うんです。」
相川ユリ「?」
信戦組社長「ウチの連中は、タイトルとか個人とかを目標にしてるんじゃなく、強さそのものを追求しなくちゃならない…経営者としては相川選手のような人材は欲しいですが、貴女にはいま、目標がある。スカウトしちゃえばそれを邪魔することになる。そんなことする奴は、相川選手のいちファンとして許せません。」
相川ユリ「なによ、それ…」
信戦組社長「つまり、貴女が理宇ちゃ…菊池さんを目指すのを、観客の立場で応援したいってことですよ。」
相川ユリ「ふーん…じゃ、珠理に関してはどうなの?」
信戦組社長「どうって…」
相川ユリ「今の珠理は、上をめざそうっていう覇気が見られないのよね…まあ昔からそういうとこはあったけどさ。あれじゃ、珠理を駄目にしちゃうんじゃない?」
信戦組社長「・・・・・。」
相川ユリ「…考え込んでるところをみると、自覚はあったようね。」
信戦組社長「…まあ。」
相川ユリ「社長さん、珠理をどう思ってるの?」
信戦組社長「どうって…助かってますよ、彼女に来てもらって。」
相川ユリ「どういう意味?」
信戦組社長「新人達の面倒はよく見てくれるし、知名度から看板になるし、事務処理でも有能で、団体を経営するにはなくてはならない人材ですね。」
相川ユリ「それだけ?」
信戦組社長「まあ…こんな状態が、彼女の成長の妨げになってるんじゃないかってことは薄々感じてます。だけど、今は彼女を手放すわけにいかないですから。」
相川ユリ「将来の展望なんかはあるわけ?」
信戦組社長「もう少し人材が育ってくれれば、珠理くんの仕事を減らすことができるでしょう。彼女は格闘家としてもプロレスラーとしても、今のままで終って欲しくはないですね。」
相川ユリ「女としては?」
信戦組社長「えっ…?」
相川ユリ「彼女にしたいとか、結婚したいとか…」
信戦組社長「ははは…真面目だし細かい所に気が利くから、いい嫁さんになるでしょうね〜。」
相川ユリ「じゃ、その気はあるわけね?」
信戦組社長「彼女にするには…ちょっと避けたいタイプかな。どこか珍しい所へ遊びに行こうっていっても、『え〜〜〜?』とか言って尻込みするでしょうから。」
相川ユリ「どっちなのよ?」
信戦組社長「やめましょう…美しい女性とのディナーの席で、他の女性の話はあまりしたくないです。」
相川ユリ「・・・・・・。」

[167] 翌日…珠理様、大激怒!! 投稿者:阿僧祇 投稿日:01/07/09(Mon) 01:13

2001/06/24
 >茨城、信戦組事務所
   朝。
西町珠理「…おかえりなさい。(ジト〜〜〜)」
信戦組社長「おはよ〜…(心の声:珠理くん、なんかヤな雰囲気だな…)」
西町珠理「…ゆうべ、ユリとどこに行ったですか?」
信戦組社長「うん? ふたりでブライダルサロンを見物してから、ホテルでゆっくり…(食事を…)」
西町珠理「(驚愕)!!」
   …グワシャッッッッッ!
   思わずイス攻撃…しかも事務所用の、車輪付きスチール椅子で(汗)。
   当然、社長は失神KO。

   社長のポケットから落ちる一枚のポラロイド写真。
   拾ってみると、写ってたのは純白のウェディングドレスで微笑んでいる相川ユリ。
西町珠理「!!」
   思わず写真を、ぐしゃっ! と握り潰す。

 >信戦組事務所出口
神矢美香「すごい音がしましたけど…あれ、珠理さんお出かけですか? どちらへ?」
西町珠理「…相・川・ユ・リ〜…あいつを殺して、私も死ぬっ!(涙怒)」
神矢美香「(心の声:は、般若の顔…こわいっ(真っ青))」

 >横浜、DIA-J選手寮
蒼樹玲奈「相川さんですか? ええ、いますよ。」
   ロビーに通される西町珠理。
蒼樹玲奈「じゃあ、呼んできますから。」
   奥へひっこむ蒼樹玲奈。
稲葉ましろ「どうしたの、西町さん?」
蒼樹玲奈「さあ…なんだか思いつめた顔してましたけど。」

   珠理、深呼吸して自分を落ち着けている。
   そこへやってくる相川ユリ。
相川ユリ「よっ。昨日はどうも〜。」
   珠理、テーブルに拳を叩き付けて立ち上がりそうになるが、必死に怒りを抑えて作り笑い。
相川ユリ「(心の声:相変わらず心の動揺を隠すのが下手なやつ…)…で、何かしら? 昨日の食事代を払えとか言っても、そんな金ないわよ。」
西町珠理「そ、そんなんじゃないっ! …ユリ、昨日、ウチのおやっさんと、どこに行ったの?」
相川ユリ「桜木町の某ホテル。夜景がキレーだったわよ〜…」
   相川ユリ、珠理の拳が震えていることに気がつく。
西町珠理「…あの…本気なわけ!?」
相川ユリ「…は?」
西町珠理「お…お互いガキじゃないんだし、れ、恋愛は自分の責任で自由だから、私は干渉したくはないわ。だ…だけど、おやっさんは責任のある立場だから、無責任な遊びはしてほしくないわけ。わかる?」
相川ユリ「???(汗)」
西町珠理「ユリとおやっさんが、すっ…好き合って、ちゃんと責任とるつもりで…や…やっちゃったことなら私は何も言わない。そんな権利、どうせ私には無いもの(ぐすっ)。でも、でも、ただの遊びだったのなら…!(ぐわっ!)」
相川ユリ「ちょっと、ちょっとぉ! 食事に行くことは昨日、あんたも承認したじゃない!」
西町珠理「問題はアフター・ディナーよ!」
相川ユリ「は?」
西町珠理「ふたりで…ホ、ホテルに…泊まっ…たん…でしょっ…(涙)」
相川ユリ「(ポリポリ(汗))…何でそういう話になっちゃうの?」
西町珠理「…え?」
相川ユリ「ホテルで食事はしたけど、それでおしまい。私はここまで送ってもらっただけで、そのあと夜中にダンナがどこで何してたかは、関知しないよ。」
西町珠理「うそ…一緒に一夜を過ごし…たんじゃないの?」
相川ユリ「あのなー…(青筋)…アバンチュールに飢えた女子学生じゃあるまいし、ディナーくらいでなんで初対面の男性とそこまで行かなきゃならないワケ?」
西町珠理「じゃ、ゆうべは…」
相川ユリ「理宇姉さんと合体必殺技『断空光牙剣(仮)』の相談してたよ。嘘だと思うなら、理宇姉さん呼んでこようか?」
   珠理、ヘナヘナと崩れ落ちる。
西町珠理「な、なぁ〜んだ…」
相川ユリ「『な〜んだ』じゃないわよ、このとーへんぼく。私に疑いをかけるなんて、ひどいじゃないの! しかも、涙まで出して…(苦笑)」
西町珠理「…ご、ごめんなさい!(あわてて涙を拭く)」
相川ユリ「(溜息)納得した?」
西町珠理「…うん。菊池先輩が証人なら、何も疑うことないもんね。疑ってごめん。」
相川ユリ「わかればいいのよ。あ? もう帰るの?」
西町珠理「うん。仕事抛っぽり出して出て来ちゃったから…、、、あの…本当に、おやっさんとは何もなかったのね?」
   また溜息を吐く相川ユリ。
相川ユリ「あのねえ、珠理…アタシは他人の彼氏を食っちゃうほど飢えてないから、大丈夫よ」
西町珠理「!!?」

[157] そりゃあ、DIAの社長さんの要望だったらね 投稿者:井手たかし 投稿日:01/07/07(Sat) 02:06 <URL>
枕崎秀樹記者「お食事中すみませんって、食事しながら取材しましょうか
       って言い出したのはこっちでしたが」
菊池理宇「あはは、ここのカレー専門店、美味しいカレー出すんですね。
     祐希子さんに教えなくっちゃ」
枕崎記者「あ、いや、マイティ祐希子選手は知ってますよ。なにしろ、他
     ならぬその祐希子選手に、ここを教えてもらったもので」
菊池「あ、そうなの」
枕崎記者「それより、いよいよあす、東京・後楽園ジオポリスですね」
菊池「なにが?(苦笑)」
枕崎記者「三冠ジュニアヘビー級選手権ですよ〜ボケないでください
    (苦笑)」
菊池「で、キャプテン宝塚として初めてプロのリングに上がるお気持ちを
   お聞かせ下さい(ニヤリ)」
枕崎記者「あのぅ、取材しているのは僕の方なんですが(怒)」
菊池「あはは、冗談、冗談」
枕崎記者「(こういう師匠だから、ああいう弟子になるんだろうなぁ)」
菊池「ん? 何か云った?」
枕崎記者「……ええと、ルナ・マリーナ選手については?」
菊池「あのマスク、脱がしてみたいわね」
枕崎記者「はあ」
菊池「まだね、手の内全部見せてなくって、奥に何かあるんじゃないかっ
   て。もっと強くなると信じたいし。でも、今のままじゃあ、殻を突
   き破るところまで行くかなぁ……あたしがメヒコで、『菊池理宇』
   の名前を捨てて『ラ・ペルフェクタ』として闘って突き破った壁
   ……ルナ選手も、それに突き当たると思うよね、そろそろ」
枕崎記者「私がそうなると?」
菊池「あたしはそこまで自惚れていませんよ」
枕崎記者「ご謙遜を」
菊池「……でも、簡単に負けてあげないからね。ファンの期待にも答えな
   くっちゃならないし」
枕崎記者「僕も期待していますよ。ところで、さっきから注文の品が届く
     まで読まれているのは何ですか? 漫画の単行本みたいですが」
菊池「『モ○ダ○バー』ですか? これは、ギミックの参考にね」
枕崎記者「ああ、これが元ネタが……もしかしたら、ルナ・マリーナ相手
     の試合はその格好で登場ですか?」
菊池「そりゃあ、DIAの社長さんの要望だったらね、やっても良いけれ
   ど……一応まじめなベルト戦ですよ?」
枕崎記者「それもそうですね。では、頑張って下さい」
菊池「はい。ルナ・マリーナを倒して見せますよ」
      (7月6日午後0時30分:東京都内の某カレー専門店にて)

[156] 星に願いを 投稿者:NOG&◆K 投稿日:01/07/06(Fri) 15:37
NOG:「ども、NOGです。奈々緒と深雪のプレイヤーやってます。よろしくお願いします。」
奈々緒:「さて、今度の試合は7月7日。7月7日と言えばセタ、スーパーリアル麻雀P…」
深 雪:「森田将棋64!」

ゲシッ!(深雪、奈々緒を64カートリッジで殴る。)

奈々緒:「いったーい!NINTENDO64のカートリッジで殴るのは反則よ!」
深 雪:「間抜けなこと言ってるからよ、セタじゃなくて七夕でしょ。た・な・ば・た。」
NOG:「た・な・ぼ・た。」
奈々緒&深雪:「ツインイーグル2!!」

ギューン(戦闘機がやってくる音)
ドガガガガ…!!(NOGを機銃掃射でボロボロにする音)

NOG:「シューティングにコマンド入力は無茶だぁぁ…。」

バタッ(NOG死亡音)

深 雪:「下手なボケかますと命がなくなるわよ。」
奈々緒&深雪:「それでは本編をどうぞ〜。」


「星に願いを」

 ここはおなじみDIAジャパンの道場。今日もDIAジャパンの選手達はみんなハッピーに合同練習が終了。なぜかって? それはパワーパフ…。じゃなくてもうすぐ試合が近いから…

いずみ:「奈々緒っち、何をよそ見してんのよ。」
奈々緒:「いずみさん。あれなんですけど…。」

 奈々緒が示す物はいずみも気になっていた。なぜか今日は、入り口近くに大きくて枝ぶりがりっぱな笹が2本立てかけてある。

宮 本:「ああ、あの竹は今度の試合の時、試合のアンケート投票箱の代わりに使うそうよ。そうでしょ、深雪ちゃん。」
深 雪:「はい、『今度の試合は七夕だからそれっぽい演出を用意しよう』って言われて、私が今朝取ってきたんです。お客さんのご意見や希望を短冊に書いてもらってあの笹につけてもらうんです。」
ル ナ:「ふーん、変な事考えるんやな。」
稲 葉:「風流じゃないですか、おかしくはないですよ。」
香 月:「この後で全員、あの笹にみんなで願い事を書いておくのよ。ファンへのメッセージなんだって。」

蒼 樹:「あまり字はうまくないんだけどなぁ…。」

 その日の深夜。たまった仕事をやっと終えたたに社長が道場の戸締りをしようとして立てかけてある笹に目をつけた。笹にはいくつかの短冊が既に吊ってある。月明かりの中、つい短冊を読んでしまうたに社長。

「早くデビューしたい。 柊 深雪」
たに社長:「…頑張って。応援してるからね」

「PPDトーナメント優勝しますように 浜岡 奈々緒」
たに社長:「…(苦笑)まあ、元気なのはいいんですけどね…。」

「……… 霧月 いおり」
たに社長:「『…』って書く願い事も珍しいな。」

「木葉より強くなりますように 双葉」
「双葉より強くなりますように 木葉」
たに社長:「…やっぱり双子ですねぇ。」

「乙ちゃんと綾乃ちゃんが仲良くなりますように 」
たに社長:「名前書き忘れてるけど…解っちゃうなぁ。」

「ファンの皆さんが元気でいますように 桜 乙姫」
たに社長:「直筆だよ…ファンに盗まれるのを見越して予備を用意しなきゃ。」

「早くトップレスラーになりたい 蒼樹 玲奈」
たに社長:「うんうん。期待してますよ。」

「早くトップスタアになりたい 空白 いずみ」
たに社長:「トップスタアって一体…。」

「イナバを地祭り! ピーチ・ツリー・フィズ」
たに社長:「言いたいことはわかるが……なんか間違ってるんですが。」

「シングルでメインを張りたい 稲葉 ましろ」
たに社長:「相川選手とのシングルも良かったし……彼女も楽しみですね。」

「ファン、そしてファミリーのみんながハッピーであるように リタ・モレナ」
たに社長:「家族思いなんですね……。」

「耐えて勝つ 越後 しのぶ」
たに社長:「彼女らしいですね。」

「くらげちゃんやうさちゃんと楽しい試合ができますように セリーヌ・カモン・ミール」
たに社長:「後半はわかるんだけど……なんだろ、これ?」

「強くなりたい。トップレスラーになりたい 宮本 陽子」
たに社長:「シンプルだなぁ。まあ、そこがいいところなんですけど。」

「お客さんみんなが元気になれる、面白いプロレス! ルナ・マリーナ」
たに社長:「みんなで頑張りましょう。」

「みんな元気で暮らせますように ファルコン香月」
たに社長:「この人がいてこそのDIAジャパンです。」

 ひと通り読み終えた社長は、そばに置いてあった短冊にペンで何か書き込み、できるだけ目立たない所を選ぶと結びつけ、道場の戸締りをして出て行った。

〜終わり〜

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※このエピソードは、NOGさんが書いたものにdaiya◆K・たにが加筆修正したものです。

[155] <その頃のMAKO=CHAN> アフロ抗争、決着へ? 投稿者:◆K 投稿日:01/06/30(Sat) 05:59
2001.6.24 XLPWアリーナ定期戦・第3試合
 ……ニーリフトの連発ですでにふらふらのアフロドラゴンを、MAKOが力任せに抱え上げ、叩きつける! シュープリーム・サンダーボォォム!! アフロザウルスのカットを、レンが必死に押さえる! カウント1、2……3!!
 キュート・ドラゴンズ、またもアフロ界からの刺客を撃破!!

▼30分1本勝負
 パープル・レン|4分18秒|アフロザウルス
○MAKO=C |エビ固め |アフロドラゴン●
※シュープリーム・サンダーボム

 勝ち名乗りを受けるMAKOとレン。しかし、その時入場口にスモークが!
 アフロ界のボス、アフロA(エース)だ!!
アフロA 「ふふん、まさーか、アフロ怪獣軍団までも一蹴するとはね……いいでしょう! 次は、このアフロのなかのアフロ、アフロA様が、お相手しようじゃない!」
レン   「にゃはははは! やっと出てきたね!」
アフロA 「……このわたーしが持つ、アフロ認定無差別級ベルトを賭けて……」
レン   「……いらなーい」
アフロA 「な、なんだと! 偉そうな! ふん。ま、こんな価値のあるベルト、おまえらに賭けるのは惜しいデス。おまえらなんか、カリフォルニア認定ヘビー級ベルトで十分デース!」
MAKO 「なんでもいい! やってやるよ!」
アフロA 「ふん! 偉大なるアフロの力、思い知るがいいわ!」

 ・
 ・
 ・

〜控室にて。
レン  「じゃ、MAKOちゃんお願いね〜」
MAKO「い、いいの? レン?」
レン  「だって、レン、ヘビー級じゃないし〜。それに、MAKOちゃん最近、オーナーの評判もいいから。たぶん、そうなるでしょ。にゃはははは」
MAKO「そ、そうかなあ?」
レン  「自信持ちなって。にゃはははは」
 ガチャ。
 その時、控室の扉が開く。
リッチオーナー「グッド・ファイト! ビバ・ファイト! ブラボー・ファイト! アメイジングだよ、ミス・MAKO!! オッケー! さっそく、次の興行でアフロAと組むからな! 頑張れよ!」
 ガチャッ!
 言うだけ言って、忙しそうに去ってしまったオーナーのリッチ。
レン  「……ねっ。がんばってね、MAKOちゃん♪」
MAKO「わかった。よーーーーーし!! やるぞおおおお!!」

 アメリカ遠征以来2カ月、パワフルなファイトで頑張り続け、ついにアフロAとのシングルにこぎつけたMAKO! 果たして、抗争は終結するのか!?

[154] 奈々緒、思い悩むの巻 〜デビュー前の話〜 投稿者:◆K 投稿日:01/06/26(Tue) 02:22
2001.5.10 横浜、DIA道場
宮本  「……ということで、19日、浜岡と霞月のデビュー戦を行ないます。2人とも、頑張ってね」
霞月  「はい」
 デビュー戦決定の知らせだというのに、普通の表情で答える霞月。そして……。
浜岡  「はいっ! ……でも、あの……ひとつ、いいですか?」
宮本  「なに?」
浜岡  「深雪は……デビューじゃないんですか?」
柊   「……」
 不満そうな表情をする浜岡奈々緒と、下を向いたままの柊深雪。
宮本  「……柊は、まだ身体ができてないから。今のままじゃ、まだお客さんに見せられる試合はできません」
柊   「……」
 ちょっと困ったような表情で、しかしはっきりとした口調で答える宮本。深雪は、それを黙って聞いていた。
 3人の間に流れる気まずい雰囲気。
 ……ちなみに、霞月いおりはいつの間にかトレーニングに戻り、黙々とサンドバッグへのキック打ちをしている。
浜岡  「でも……でも! 深雪は、私なんかより一生懸命頑張ってます! 毎日のトレーニングだって真面目にやってるし、早朝のランニングだって一番に起きてるし、雑用とかリング設営だって、全力で頑張ってるし……あたしなんかより、霞月さんなんかより、よっぽど!」
宮本  「そんなことはわかってます」
浜岡  「……だったら!」
宮本  「浜岡」
浜岡  「はい」
宮本  「だからって、上げられないものは上げられない。プロレスは、そんなに甘いものじゃない。ひとつ間違えたら死んじゃう。そういう世界だから」
浜岡  「……」
宮本  「そんな甘い考えしてるんだったら、あなたのデビューを取りやめたっていいんです」
柊   「……もういいよ、ちぇる。……宮本先輩、すみませんでした。私、一生懸命、頑張りますから」
宮本  「はい。それじゃ、練習に戻る!」
浜岡&柊「はい!!」

 その夜、DIA-J寮104号室(浜岡&柊の部屋)にて。
柊   「……良かったね、ちぇる! デビューが決まって。おめでとう!」
浜岡  「……うん」
柊   「やっぱり、ちぇるを受けさせてよかった! 私は、残念だったけど、でも、友達のちぇるがデビューできるんだもん。嬉しいよ!」
浜岡  「……なんか、納得いかないよ」
柊   「え?」
浜岡  「だって、私は深雪と違って、プロレスラーを夢見てたわけじゃない。……正直、深雪がいてくれなかったら、こんなに厳しい練習に、ついて来れなかった。絶対、1日で逃げ出してた」
柊   「ちぇる……」
浜岡  「私は、深雪がいたから、いつも一生懸命な深雪といっしょに頑張ろう、って思ったから、ここまで来れた。デビューが決まったのだって……深雪のおかげだよ」
柊   「……ううん、違うよ。デビューできるのは、ちぇるが頑張ったからだよ。ブリッジだって上手だし、スタミナだって私よりずっとついてるし、基本技だって、どんどん上手くなっていくし。凄いよ、ちぇるの才能は!」
浜岡  「……私は、深雪といっしょにデビューしたかった」
柊   「……やめてよ、ちぇる」
浜岡  「深雪……」
柊   「宮本先輩だって、言ってたじゃない。プロレスは、そんなに甘いもんじゃないんだよ」
浜岡  「……」
柊   「それは、私だって、悔しいよ。……でも、私の身体じゃ、まだまだ試合なんてできない。そんなことは、自分が一番わかってる。……だから、一生懸命、トレーニングしてるんだから。……もし、ちぇるが言ってくれたからデビューが決まったって、私、全然嬉しくない」
浜岡  「……ごめん」
柊   「いいよ。その代わり、デビュー戦、頑張ってね。デビューしたら、もうひとりのプロレスラーなんだから。奈々緒は、私の一番のライバルになってほしいから……。もたもたしていたら、すぐに私だって、追いついちゃうんだから!」
浜岡  「うん。わかった。深雪のぶんも、頑張るよ。霞月なんかに、負けない。あいつ、雑用の仕事だってろくにしないし、愛想悪いし!」
柊   「……でも、いい人だよ」
浜岡  「あの霞月がぁ!?」
柊   「うん。なんとなく、だけど。彼女、悪い人じゃないよ」
浜岡  「そうかなぁ」
柊   「さ、明日も早いし、もう寝よう?」
浜岡  「そうだね。おやすみ〜」
柊   「おやすみなさい」

  ・
  ・
  ・

 翌朝。
 浜岡奈々緒は、いつもより早い時間に目が覚めた。
浜岡  「あれ? 深雪?」
 いつもより30分以上早い時間なのに、柊深雪の姿は、ベッドにはなかった。
 トレーニングウェアがないところを見ると、もう外に出ているのだろうか。
 とりあえず、奈々緒も起きて、外に出ようとするが、深雪の靴はまだ残っている。
浜岡  「道場……かな」
 道場に行き、扉の前で立ち止まる奈々緒。
浜岡  「みゆ……」
 扉に少しだけ手をかけたところで、立ち止まる奈々緒。
 中から、なにかすごい熱気を感じたからだ。
 ……そっとなかを覗くと、道場のなかでは、深雪が、ひとり真剣にスクワットをしていた。
柊  「このままじゃ……ちぇるにも……置いてかれちゃうから……頑張ら……なきゃ……」
 びっしょりかいた汗の感じからすると、もうけっこうな時間トレーニングしているはずだ。
 真剣な表情で、トレーニングに集中している深雪。
 奈々緒には、その表情が心なしか泣いているように思えた。
浜岡 「深雪……」
 私も、頑張らなきゃ。
 そう思った奈々緒は、とりあえずそっとその場を離れ外に出て、ひとり早くランニングを始めるのであった。

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※NOGさんの添削、了承済です。

[153] 乙姫の決意 〜その数日前のお話〜 投稿者:◆K 投稿日:01/06/20(Wed) 17:11
2001.6.13、夕方。横浜、DIA寮内事務室。

社長 「……それ、本当の話か?」
稲葉 「アイドル系のネット上ではけっこう有名になってます。とあるルートでウラも取りました」
社長 「うーん……」
稲葉 「やっぱり、知らなかったんですか……」
社長 「確かに、八重桜が関東進出したことで、手を伸ばしすぎた結果になって危ないとは聞いていたけど……まさかいきなり潰れるとはなあ」
稲葉 「今日突然、社員全員に解雇通知が届いて、社長は雲隠れしたらしいですよ」
社長 「解雇通知……? ってことは、乙姫にも……」
稲葉 「……あっ」
社長 「まずいんじゃな……」

ドタドタドタ、ドカッ! バターン!!

里見 「しゃ、社長はん! た、大変なんやぁ〜!」
 いきなりドアが開き、涙目の里見が立ちすくんでいる。焦りすぎて顔をドアにぶつけたようだ。
社長 「……乙姫か?」
里見 「……なんでわかるんですか? ……って、そう、乙ちゃんが、部屋に閉じこもってもうたんです!」
社長 「そうか、わかった。一緒に行く。稲葉は、いますぐ香月さんを呼んできてくれ」
稲葉 「は、はい!」

 乙姫と里見の部屋、扉前。
里見 「……乙ちゃ〜〜ん。お願いやぁ。返事してーな!」
乙姫 「……ごめんなさい……ひとりに、させて……」
里見 「乙ちゃん……」
社長 「……しょうがない。ひとまず、行こう」
  ・
  ・
  ・
里見 「……で、なんで廊下のハジでこうやって見張ってらないけないんですか? いったい、乙ちゃんに、何があったん?」
社長 「乙姫の所属芸能プロが、潰れた」
里見 「えええええ〜〜〜っ!?」

ポカ。

社長 「バカ、声が大きい!」
里見 「す、すんまへん……」
社長 「乙姫のことだ、きっと……」


 乙姫の部屋。
乙姫 「……ぐすっ……どうして……社長さんも、私を捨てたの? 私……また、ひとりになっちゃうの……?」
 その手紙を読んだときは、一瞬、何のことだかわからなかった。
 事務的な、契約解除の知らせ。
 ただ、それだけなのだが、乙姫には、それが、見捨てられた、最後通知のように思われた。
乙姫 「やっぱり……私……ダメなんだ……やっぱり……ぐすっ」
 これでもうおしまいだ。
 プロレスじゃ相変わらずいいところ見せられない。それで、歌もうたえなくなっては、もはやDIAの社長さんも、いつかは同じようにこうして自分のことを捨ててしまう。
 ……落ち込んでいた乙姫は、すっかり思考が後ろ向きになってしまっていた。
乙姫 「……もう……捨てられるのは……いや……いやなの……」
 だったら。
 捨てられる前に、自分から出ていけばいい。
 ……そう思って、乙姫は、部屋の窓を静かに開けた。

 すとっ。
 部屋は1階だから、外にはすぐに出られた。
 後は、出ていくだけだ。
 ……どこへ?
 どこでもいい。どうせ、私は……。

香月 「……どこへ行く気だ」

乙姫 「……!!??」
 あまりの驚きに、声が出なかった。
 目の前には、香月が腕を組んで立っていたからだ。
乙姫 「か……づき……さま? どう……して?」
香月 「なにがどうして、だ。乙姫こそ、どうして、こんなところに、裸足で立っているんだ」
乙姫 「……あっ……」
香月 「話は、聞いた。……また、逃げるつもりか? 何もかもから」
乙姫 「…………」
香月 「乙姫が芸能活動にどんな思い入れがあるかは、私は知らない。でも、プロレスに対する気持ちは、そんなものなのか?」
乙姫 「そんな……ちが……」
香月 「3日後には、札幌で試合がある。おまえのファンが、大勢待っていてくれている。そんなファンの気持ちは、どうでもいいのか?」
乙姫 「…………」
香月 「前から言いたかったんだが……憧れだけでやってるんだったら、もう、やめていいぞ」
乙姫 「……!」
香月 「そんなふざけた考えでやってるんだったら、もういい。私は、そんなプロ意識のないやつには用はない」
乙姫 「ち……違いま……す」
香月 「だったら、なぜ逃げようとした?」
乙姫 「…………」
香月 「いいか。逃げたらすべておしまいだ。確かに、芸能活動ができなくなるのがどうしても納得できないならいい。ただ、すべてから逃げたら、何も残らない。それは、ファンの、周りの皆への裏切りだ」
乙姫 「……逃げないと……また……捨てられる」
香月 「……捨てる?」
乙姫 「私……ダメだから。いつも、ひとりだから。今回も社長さんに捨てられたし……プロレスだって……全然勝てないし……」
香月 「……そんなこと考えていたのか」
乙姫 「…………」
香月 「……大丈夫だよ」
乙姫 「……!?」
 いきなり、香月が乙姫を抱きしめる。
香月 「……甘えるな、と言いたいところだが……今日は特別だ」
乙姫 「かづき……さま……?」
香月 「いいか。今回の件は、不幸な事故だ。それに、たとえ見捨てる人がいようとも、私ら、そして、なによりファンの皆は、見捨てないよ」
乙姫 「ファンの……みんな……」
香月 「乙姫、っていう名前をつけてくれた、そしてプロレスを始めると言っても、応援して見守ってくれたファン。彼らのことを、忘れるな」
乙姫 「……はい」
香月 「16日は、札幌だ。ずっと見守ってくれたファンに、精いっぱいのお礼と、あいさつをしなくちゃな」
乙姫 「……はい!!」


2001.6.16 DIA JAPAN札幌興行。
 試合後、リングに戻った乙姫が、香月とともに勝ち名乗りを受ける。
 ファンから乙姫に送られる、大歓声と、拍手。
 そんな声を前に、乙姫は、小さく頷き、そして笑顔で顔を上げ、マイクを取った。
乙姫  「あの……今日……は、応援、ありがとう……ござい……ました……」

[152] お騒がせキッズ、ついにデビュー 投稿者:井手たかし 投稿日:01/06/15(Fri) 13:22 <URL>
広沢支部記者 「やあ、おめでとう」
ドラグーン双葉 「……?」
記者 「いよいよデビュー戦だね。今日は、意気込みとか聞かせて貰えれ
     ばと思ったんだけれど」
双葉&木葉 「ええ〜!!!」
記者 「あ、あれ? もしかして聞かされてなかったの?」
ドラグーン木葉 「知らないわよ!」
双葉 「そっかぁ〜いよいよねぇ……」
木葉 「いつなのよ、試合は?」
記者 「6月23日とのことだけど?」
木葉 「後楽園ジオポリスでやる日ね」
双葉 「そういえば、この間ママ(ドラゴン藤子)があたし達のリングコ
     スチュームを社長さんところに持ってきてたわねぇ……」
木葉 「双葉〜そういうことはさっさと報告してよ、妹のくせに」
双葉 「あたしは『姉』だっていってるでしょ!」
記者 「まあまあ(苦笑)」
木葉 「で、相手は誰? 空白先輩?」
双葉 「宮本先生相手に2対1のハンディキャップマッチとか……」
木葉 「あ、それいい! 面白そう(ニヤリ)」
記者 「いや、話によると浜岡&霞月組らしいよ」
双葉 「妥当なところね」
木葉 「ということは、いきなりタッグ戦ね。双葉、妹のくせに足引っ張
     らないでよ」
双葉 「だ〜か〜ら〜あたしは『姉』だっていうの!」
記者 「……抱負を聞かせてよ(困り顔)」
木葉 「とにかく、誰が相手でもデビュー戦は勝たなくちゃね」
双葉 「ドラグーン姉妹の名を轟かせるための第1歩?」
木葉 「お、良いこと言うじゃないの。さすがあたしの妹」
双葉 「あたしは『姉』だ〜〜!!」

        (2001年6月14日午後5時、DIAの道場前にて)

[151] 「Sittoの穴・番外編?」 投稿者:阿僧祇(アップ係・◆K) 投稿日:01/06/13(Wed) 06:21
2001/05/30 <<Sittoの穴・番外編?>>

 DIA-J WEDNESDAY BATTLE-11が終了して、あと片づけ中のこと…

武田晴歌「お〜っす、沢田さんっ。お疲れさんです。」
MJストロンガー「おっ、方言トリオの…じゃなくてファイアー=ダンシング=チームの武田…選手と竹内選手じゃないっスか。最近見なかったけど、元気そうで。」
武田晴歌「アハハハ…(汗)。沢田さんとはなんかお互い、あらたまった関係になっちゃったですね〜。」
竹内亜紀「昔の練習生仲間のよしみどす、なんぞ手伝うことでもあったら。」
MJストロンガー「ありがたいっス。じゃ、さっそく…ところで今日はおそろいで観戦っスか?」
竹内亜紀「来月頭のKIZUNAの興行に武田はんの出場が決まったもので、龍子さんが深沢社長に挨拶に来たんどす。ウチらはそのおともで。」
MJストロンガー「武田…選手があのサンダー龍子の付き人なんて…1年ちょっと前には考えられなかったっスね。」
武田晴歌「そうですよね〜。私が先に信戦組で1軍選手になっちゃって、沢田さんや里見さんがいまだ練習生待遇ってのも…」
竹内亜紀「武田はんっ!」
武田晴歌「あ…」
MJストロンガー「・・・・・。」
竹内亜紀「気ぃ悪うせんといておくれやす。失言は武田はんの性格やすから。」
MJストロンガー「…ま、上にあがれないのは実力のせいっスし。」
竹内亜紀「でもこのところ、調子いいみたいやおまへんか。歳明けてからものすごい勝率ですえ? もう正選手になれるだけの成績は出したのと違いまっか?」
MJストロンガー「・・・・・。」
武田晴歌「それでね、沢田さん。今日来た用事の一つなんだけど…もしかするとまた、私と一緒にリングに立てるかもしれないんですよ。」
MJストロンガー「えっ! ホントっスか!?」
武田晴歌「まだ確実なことはわかりませんけど…龍子さんがちょっとそんなことを。」
MJストロンガー「そうっスか〜。いや、武田なら大歓迎っス。」
武田&竹内「…は?」
MJストロンガー「一緒に嫉妬の炎を激しく燃やすっス!」
武田晴歌「ちょっ、ちょっと待て! なんではるか様がSitto団に加わらなならんづら!?」
MJストロンガー「隠しても駄目っス。私には見えるっス。武田の心の中に燃え上がる嫉妬の炎が。」
武田晴歌「はるか様は嫉妬なんかしてないよ!」
MJストロンガー「じゃあ、飯塚リカ選手や南利美さんにしつこくラブコメ女だの老いらくの恋だの言ってるのは何故っスか? 山上あかね選手の恋路を邪魔しようと裏で画策して裏目に出て、信戦組社長が飯塚選手を意識し出すきっかけを作っちゃつたのはなぜっスか?」
武田晴歌「え! そ、それは…(汗)」
MJストロンガー「自分は彼氏いない歴そろそろ2年。それで、恋愛進行中の人に嫉妬してのことと違うっスか!?」
竹内亜紀「ああっ、そうやったんか! それであんな嫌がらせを…」
武田晴歌「こらっ、タケウチ! 本気にすなっ!」
MJストロンガー「それだけじゃないっス。去年の夏からせっかく人気が出てきたのに、冬からは戦績が振るわずまた人気が落ちてる。自分はひそかにバストに自信持ってるのに、最近は逆にないぺたの里見とかの方が人気が出てきて嫉妬してるっス!」
竹内亜紀「そうやったんか! それでないぺた系で人気がある中原はんや梓実選手にも嫉妬を…」
武田晴歌「タケウチっ! 本気にするなってば!」
MJストロンガー「さあ、もう遠慮することはないっス。この嫉妬マスクを被れば、思いっきり嫉妬の炎を燃やすことができるんス!」
武田晴歌「ちょ、ちょっと待ったらんかいっ!(後ずさり)」
MJストロンガー「実力行使してでも素直になつてもらうっス! ヘイ、みんな!(指パチン) 武田にSittoマスクを被せるっス!」
  サッと武田を取り囲むSitto団せぴあの面々。
武田晴歌「べ、別にはるか様は本心を隠してなんか…きゃ〜〜〜〜〜っ!」
  ドタドタ、バタバタ…

竹内亜紀「人間なんやから、誰でも少しは嫉妬心くらいあるもんどす。あの理屈では世界中の人がSittoマスクかぶらなあきまへんな。(汗)」
武田晴歌「タケウチ! 解説してないで助けろし〜〜〜〜っ!(涙)」
  ドタドタ、バタバタ…

蒼樹玲奈「なにやってんでしょう、あの人達…(汗)」 
ルナ・マリーナ「場外乱闘や。いーぞいーぞ、やれやれーぃ!(笑)」
稲葉ましろ「か、かたづけが進みません…(涙)」

[145] 綾乃の気持ちと、里見の気持ち 投稿者:daiya◆K・たに 投稿日:01/04/22(Sun) 21:23
〜4・21、第1試合後……。
   里見ちゃんは、ひと気の無い一室のベンチで目が覚めた。
里見 「はっ、ここは!? 予備の控え室? …そっか。うち、また負けたんやなぁ。沢田のやつ、本気でぼてくりかましてからにぃ…同期なんやから、ちっとは手加減してもええやんかぁ。…ごめん、乙ちゃん」
   手を握ってあやまる里見ちゃん。だが、その手は乙姫のものではなかった。
里見 「えッ? み、MICO…じゃなくて雪風はん!?」
   里見ちゃんの手をやさしく握り返したのは、マスクをとったマスクド・ジェラシー=スーパーMICO、黒い衣装ではあるが雪風綾乃その人であった。
里見 「じゃ、雪風はんがうちを運んでくれはったん?」
   寂しげな笑顔でうなずく雪風。
里見 「おおきにぃ…。あのね、雪風はんには機会がなくてなかなか言えへんかったけど…試合のとき、ウチ、いつもいろいろひどいこと言って、堪忍してくらはい(ペコリ)。お客はんに盛り上がってもらうためや。雪風はんのことを本気で罵っとるわけやおまへんでぇ」
雪風 「わかってるわ。私だってプロレスラーですもの」
   なんとなく打ち解けた雰囲気になって、安心する里見ちゃん。
里見 「おおきに。ほんじゃウチ、乙ちゃんの様子を…」
   雪風は、立ち上がりかけた里見ちゃんをさりげなくベンチに押しとどめる。
雪風 「お話があるの。聞いて下さないかしら」
里見 「話? (ちょっと考えてから)長くなりまっかぁ?」
雪風 「ちょっと…最初からだと長くなるかもしれないけど」
里見 「最初からって、まず最初にビックバンで宇宙が始るとこからやないでっしゃろな?」
雪風 「…は???」
里見 「…いや、こっちの話や(赤面)。できれば簡単にお願いしまっさ」
   しばらく見つめ合うふたり。耐え切れず里見ちゃんが目をそらしたところで、雪風が切り出した。
雪風 「…単刀直入に言います。里見さん。本当に、このままでいいんですか? このまま、乙姫と組みつづけることは、誰のためにも、何よりあなたのためになりません……それは、わかっているはずです」
里見 「!」
   絶句する里見ちゃん。しかし、雪風の視線は真剣そのものだ。じっと見つめたまま、反応を待っている。
里見 「ウチは…ウチはぁ…」
雪風 「私は、里見さんのことを本気で心配してるんです。里見さんがそうしろと言うなら、MICOを辞めて、雪風綾乃に戻ってもいいです」
里見 「げげっ!」
   スーパーMICOはsitto団せぴあの要である。MICOが雪風に戻るということは、団のめんぼく丸つぶれと言うか、それ以上に、ほぼ団の崩壊を意味する! なんてこった!
   これを瞬時に理解できた里見ちゃんは、その言葉の重さに思わず顔を殴られたような衝撃を受けた。
里見 「雪風はん…おおきに。ウチみたいな半端モンにそこまで言ってくれるなんて、マジ泣けてくるわぁ…。(洟をすする)」
雪風 「それじゃあ、里見さん!?」
里見 「でも…勘弁してやあ…。乙ちゃんは寂しいコなんや。それが救いを求めて手を差し伸べてきてるのを、突き放すなんて、ウチにはとてもできまへんっ…」
雪風 「乙姫は乙姫。里見さんは里見さんでしょう? ご自分が何をしにここへ来たのか考えて下さい。DIA-Jのリングに立ったのには、目的があったはずでしょう?」
   はっ、とする里見ちゃん。
里見 「そうや…香月選手がくれたチャンスを物にし、信戦組へ正選手として凱旋するために来たんや」
雪風 「その目的を後回しにして乙姫の足引っ張りにつき合うのは、里見さんを見込んでくれた香月さんに対しても失礼ではないのですか?」
   言葉につまる里見ちゃん。ものすごい葛藤に襲われているのか、額にも、手のひらにも、薄い胸の谷間にも、その白いけれど少し荒れてる肌に汗が浮き上がっている。
   しばらく考えていたが、里見ちゃんはようやく、決心したように切り出した。
里見 「…けど、こうなってしまったからには、乙ちゃんを見捨てるわけにはいかへんでぇ。雪風はんかてせやろ? 仲間を裏切った者同士で組んだところで、周りは敵だらけや。そのうえお互いも本当に信頼しあえるとは思えまへんもん。」
雪風 「……! ……それは、そうですが……」
里見 「だからね、ウチ、雪風はんの気持ちは有り難いけど、乙ちゃんはもうウチの助けは必要ないいうことになるまでは、見捨てるわけにいかんのや。友達を見捨てたら、人非人やもん。わかってくらはい。(ペコリ)」
   頭を下げる里見ちゃん。黙って見ている雪風。
   しばらく沈黙が流れた。
雪風 「…わかったわ。私にしても、里見さんを苦しめるのは本意じゃありません。しばらくは今までのままということにしておきましょう」
里見 「雪風はん!」
雪風 「その、筋を曲げないところも里見さんの魅力ですから…でもいつか、それが命取りになりますよ」
里見 「その時は…そんじゃ、雪風はんに救いを求めまっさ。雪風はんはその時ウチを助けてくれまっかぁ?」
雪風 「よろしいですとも。約束しましょう」
里見 「よろしくお願いしまっさ、雪風はん!」
   思わずまた雪風の手を取る里見ちゃん。
雪風 「でも、もし、私が救いを求めたら、その時は…」
里見 「そ、その時はもちろん見捨てたりはせえへん! 乙ちゃんと同じや、友達やないかぁ!」
雪風 「そうね、お友達ですものね。うふふ…」

   一方で控え室の窓の外。こそこそと離れていく人影があった。

鯛夜ひらめ「…大容量のデジカメ持ってきてよかった! すごい映像が撮れちゃった。『黒い密談/裏切りの約束!』ってとこかな。(再生して)うん、声もきれいに録れてる。さて、これを編集して…誰に見せよう?」


   さらに……。

乙姫 「……ん? あれ? 里見ちゃんは……どこ?」
(困惑する乙姫をよそに、怖くてとても起こったことなんて言えない周りの人たち)

沢田  「……あの、いったい、どうなってるんすか? なぜ、里見なんすか!?」
フィズ 「アタシに言われたって困るって。ま、アヤノがどうしようが、アタシはいいけどね」
船木  「……」
 控室にドアが開く。
MICO 「さ、次、試合です。行きますよ、船木さん」
沢田  「ちょ、ちょっと待ってくださいっす!」
MICO 「……話はあとで。試合ですから」
 船木がXのマスクをかぶり、MICOとXは、入場口へと向かっていった……。
-----------------------------------------
※阿僧祇さんとdaiya◆K・たにの共作エピソードです。

[146] 綾乃の気持ちと…(ディレクターズ・カット(笑)) 投稿者:阿僧祇 投稿日:01/04/23(Mon) 01:53
鯛夜ひらめ「『三国演義』に字を入れ替えて手紙の内容を変える謀略があったけど、セリフの順番を入れ替えて編集したら、この会話、sitto団せぴあのアホどもにとっても乙姫のバカにとってもショッキングな内容にできるわね。よ〜し…」

    ×    ×    ×

 で、数日後…

鯛夜ひらめ「大変なものを見ちゃったんですよ、私。思わずデジカメで撮っちゃいました。MPEGでノーパソにコピーしてあります。見てください、この映像! どうしましょう、これ? 誰に見せましょう? ねえ、どう思います高村さん…」

================================
   里見ちゃんは、ひと気の無い一室のベンチで目が覚めた。
里見「はっ、ここは!? 予備の控え室? …そっか。うち、また負けたんやなぁ。沢田のやつ、本気でぼてくりかましてからにぃ…同期なんやから、ちっとは手加減してもええやんかぁ。…ごめん、乙ちゃん。」
   手を握ってあやまる里見ちゃん。だが、その手は乙姫のものではなかった。
里見「えッ? み、MICO…じゃなくて雪風はん!?」
   里見ちゃんの手をやさしく握り返したのは、マスクをとったマスクドジェラシー=スーパーMICO、黒い衣装ではあるが雪風綾乃その人であった。
里見「じゃ、雪風はんがうちを運んでくれはったん?」
   寂しげな笑顔でうなずく雪風。
里見「おおきにぃ…。あのね、雪風はんには機会がなくてなかなか言えへんかったけど…試合のとき、ウチ、いつもいろいろひどいこと言って、堪忍してくらはい(ペコリ)。お客はんに盛り上がってもらうためや。雪風はんのことを本気で罵っとるわけやおまへんでぇ。友達やないかぁ!」
雪風「わかってるわ。お友達ですもの。」
   なんとなく打ち解けた雰囲気になって、安心する里見ちゃん。
雪風「お話があるの。聞いて下さないかしら。」
里見「話?」
雪風「…単刀直入に言います。里見さん。本当に、このままでいいんですか? このまま、乙姫と組みつづけることは、誰のためにも、何よりあなたのためになりません……それは、わかっているはずです」
里見「!」
   絶句する里見ちゃん。しかし、雪風の視線は真剣そのものだ。じっ
  と見つめたまま、反応を待っている。
雪風「ご自分が何をしにここへ来たのか考えて下さい。DIA-Jのリングに立ったのには、目的があったはずでしょう?」
   はっ、とする里見ちゃん。
里見「そうや…香月選手がくれたチャンスを物にし、信戦組へ正選手として凱旋するために来たんや。」
雪風「その目的を後回しにして乙姫の足引っ張りにつき合うのは、里見さんを見込んでくれた香月さんに対しても失礼ではないのですか?」
里見「ウチは…ウチはぁ…」
   しばらく考えていたが、里見ちゃんはようやく、決心したように切り出した。
里見「…乙ちゃんはもうウチの助けは必要ない。雪風はん…おおきに。ウチみたいな半端モンにそこまで言ってくれるなんて、マジ泣けてくるわぁ…。(洟をすする)」
   頭を下げる里見ちゃん。
雪風「それじゃあ、里見さん!(歓喜!)」
里見「できればお願いしまっさ。…けど、仲間を裏切った者同士で組んだところで、周りは敵だらけや。」
雪風「わかったわ。うふふ…。このまま、乙姫と組みつづけることは、何よりあなたのためになります。筋を曲げないところも里見さんの魅力ですから。」
   言葉につまる里見ちゃん。ものすごい葛藤に教われているのか、<中略>汗が浮き上がっている。
雪風「しばらくは今までのままということにしておきましょう。」
里見「けど、こうなってしまったからには…」
雪風「私は、里見さんのことを本気で心配してるんです。里見さんがそうしろと言うなら、MICOを辞めて、雪風綾乃に戻ってもいいです」
里見「その時は…簡単にお願いしまっさ。ウチを助けてくれまっかぁ?」
雪風「よろしいですとも。約束しましょう。」
   思わずまた雪風の手を取る里見ちゃん。
雪風「私が救いを求めたら、その時は…」
里見「そ、その時はもちろん見捨てたりはせえへん! 突き放すなんて、ウチにはとてもできまへんっ…。友達やないかぁ!」
雪風「そうね、お友達ですものね。うふふ…しばらくは今までのままということにしておきましょう。」
里見「よろしくお願いしまっさ、雪風はん!」
================================−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 さあ大変。(火暴)

 落ち着いてよく見れば、編集に気づく人もいるでしょうど、会話の順番まで変わってることに気がつかなかったら…

 この映像、はたして誰が見せられることになるのでしょうか。
 (^^;

[148] 「お前の秘密を知っている」…from飯塚リカ!? 投稿者:阿僧祇 投稿日:01/05/01(Tue) 23:29
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   里見恵理 様

   お前の秘密を知っている。

   from 飯塚リカ
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

里見恵理「な、なんや、またこんな手紙か、気色悪い!」
   ビリビリ、グシャッ。
里見恵理「しかし…ウチ、こんなに大勢から恨み買ってたんか? 最初の沢田やその次の武田のあほはまだわかるとして、珠理はん、それから高村あかねはんにルナ=マリーナはん、木葉はん、カモンちゃんはん、楠梢はんや梓実さくらはん、山上あかねはんや永田桃子はん、マイティ裕希子はんに菊池理宇はん、川部雪江はん、カムイ=カナはん、戸丸さやかはんにアラスカXはん、スマッシュ涼子はんに豊多摩奈美はん、小川ひかるはん、グラン陽子はん、愛沢美奈子はん、ジェラシー1号はん…そして今度は飯塚はん。う〜ん」
   腕組みして考えてる里見ちゃん。
里見恵理「ほとんど面識のない人もおるな〜。それにみんな同じような封筒で同じような便箋というのもなんか気になるわ〜…字ぃもなんか同じようやし。」
   丸めた手紙を見詰めてる里見ちゃん。
里見恵理「第一、アラスカXはんやカモンちゃんはんなんて、漢字仮名まじりの日本語で手紙書けたんやろか???(汗)」

  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

鯛夜ひらめ「くくくく…里見恵理め、大勢から嫌われてると思って恐くて震えてるでしょうね〜、くくくくく。次は、香月か乙姫の名前で送ってやろうかしら? ショックで立ち直れなくしてやる、ふふふ…。そうそう、人気投票で1位なんかとりやがったMICOにも脅迫状を出しておかないと…誰の名前にしようかな?」

  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

戸丸さやか「どーでも」いいけど、私をあのケダモノとセットにするの、やめてくれないかしら?(本音:てめーら、いつか弱みを掴んでいじめてやるぅ!(泣))」

[147] 綾乃の気持ちと、里見の気持ち  番外編 投稿者:TAKU@KIZUNA 投稿日:01/04/24(Tue) 04:40
〜4・21、試合後。

 里見とのことを説明して欲しいと詰め寄る沢田をなだめすかして、自室へと戻らせたああと、雪風綾乃とふたりきりとなるMJXこと船木亜矢。
 会話のないまま、時だけが過ぎ、綾乃が重い口を開く。

雪風  「船木さん、あなたはなにも聞かないんですか?」
船木  「雪風さんは話したいんですか?」

 逆に問われて、口篭もる雪風。言えない。今、里見との話しの内容を、自分が誘い、作り上げたせぴあの仲間たちに言うわけにはいかない。しかし……。
 葛藤が雪風の心のなかを嵐のように吹き荒れる。

船木  「……言えないことを聞きたいとは思いません。言えるときがくれば話してくれると思いますから」
雪風  「船木さん……」
船木  「でも……」
雪風  「でも?」
 そこで、亜矢は少しだけ考え、思い切って口を開いた。
船木  「……どんな答えがでてもわたしやフィズさんはいいですけれど、沢田さんは違います。せぴあのこと、本当に大事に思っていて、いちばんせぴあのことを気にかけているのは沢田さんです。雪風さん、そのことを忘れないでください。だから、沢田さんにはきちんとお話ししたほうがいいと思います。里見さんとのこと、今までのこともも含めて」
 それだけを告げると、船木は席を立った。
船木  「それでは、わたしは先に部屋に戻って休みます。おやすみなさい」
雪風  「ええ。おやすみなさい」
 ひとりきりになった雪風は、じっと考え込んでいた。答えは出ていた。だが……。
 そのころ、以前、叩き出した鯛夜ひらめの悪だくらみが進行していようなどとはこれっぽっちも知りもしないで……。

[144] D−Jジュニアタッグの行方 投稿者:井手たかし 投稿日:01/04/18(Wed) 20:45 <URL>
双葉「みなさんご機嫌よろしゅう」
木葉「誰に向かって話してるのよ、あんたは」
双葉「たまに出ておかないと、忘れられちゃうからねぇ(苦笑)」
木葉「ところで、いよいよ佳境ね」
双葉「何が?」
木葉「D−Jジュニアタッグよ」
双葉「ああ、その話ね」
木葉「決勝に残ったのは……Aブロックは宮本先生と天野選手のペアと、豊多摩&渡辺の日海ペアが可能性があるんだよね」
双葉「Bブロックは……永田&梓実か、ディアナ&リタ」
木葉「Cブロックは越後のおばちゃんと香月のお姉ちゃんのペアで決定ね」
越後しのぶ「誰が『おばちゃん』ですってぇ〜〜!」

 ゴン! ゴン!

木葉「いったぁい!」
双葉「……口は災いの元」
木葉「ええと、で、この5チームからどこが優勝するかってこと」
双葉「世間の本命は、永田&梓実組なんでしょうねぇ」
木葉「そうね。でも、あんたの本命は違うでしょ?」
双葉「宮本先生と天野選手のペアが本命。特にこのところの天野真琴さんは乗ってるし。シングルで梓実さくらに勝ったでしょ?」
木葉「でも、あのにくたらしいエルフィンかおりに負けちゃったよ」
双葉「まあ、そういうこともあると云うことで。木葉はどうなのよ、予想」
木葉「あんがい、越後のおばちゃんと香月のお姉ちゃんのペアが優勝なんて事になるかなぁと思うんだけれど」
越後しのぶ「ありがとう(ニッコリ)また、『おばちゃん』って言ったわねぇ〜〜!!(怒)」

 越後しのぶ直々の指導による「股割り」で、悲鳴を上げる栗田木葉であった……。

[143] JCタッグとルナ 投稿者:daiya◆K・たに 投稿日:01/04/15(Sun) 02:44
〜4月14日、横浜・DIA-J事務所。

 事務所で話し込む、たに社長とルナ。
社長 「で、やっぱりJCタッグは出たくない、と」
ルナ 「……っちゅーか、ジュニアタッグの予選でも勝ち越せんチームで、JC出るんはちょう……」
社長 「……そうか」
ルナ 「ウチはましろとのチームは大切にしとるさかい。それに、JCいうたらヘビー級の祭典やし」
社長 「……しかし、ジュニアの選手も大勢出るよ」
ルナ 「それ言われるとツライわあ」
社長 「……それなら、いっそ、若いヤツのために出てくれないか?」
ルナ 「は?」
社長 「玲奈と組んで、出てみないか、ということだ」
ルナ 「玲奈と?」
社長 「勝ち負けは度外視。要は、玲奈に大舞台、トップレスラーとの戦いという経験をやらせてみたいんだ」
ルナ 「ふうん。相変わらず、アンタは玲奈には甘いの」
社長 「……そうだなあ。彼女は、本来メジャークラスの素材だ。だから、B2Kだって結局認めた。ウチだけだと、結局、経験が限られちゃうし……」
ルナ 「しっかし、ウチと玲奈で出ても、ええんか?」
社長 「一度だけ組んだとき、越後と香月に勝ってるんだし、なんとか大丈夫だろ」
ルナ 「ま、えっか。ただ、ましろが納得せえへんかったら出えへんからな」
社長 「わかってる」
ルナ 「ほな」
    ・
    ・
    ・
ルナ 「……てなわけなんやけど」
稲葉 「いいですよ」
ルナ 「そか」
稲葉 「ちょうど、TiTiちゃんに誘われてたんですよ。GW中だけ、アメリカに出てみないか、って。なんか、まこちゃんとかがあっち行くらしいんで」
ルナ 「ああ、言っとったな」
稲葉 「じゃ、玲奈ちゃんと頑張ってくださいね。私もいろいろ見てきます」
ルナ 「ん。これですっきりしたわ」
稲葉 「ありがとうございます……わざわざ気をつかってもらって……」
ルナ 「何言うてんねん。ウチの正パートナーやさかいな」

[139] 乙姫、埼玉ヘ行く(1) 投稿者:daiya◆K・たに 投稿日:01/04/14(Sat) 03:29
〜4月12日、埼玉県某所、KIZUNAファクトリー事務所。

 すっかり温かい春の陽射し……がかなり傾くなか、乙姫と里見は、ようやくKIZUNAファクトリー事務所へとたどりついていた。
里見  「……や、や、やっと……ついたぁ……」
 当然、朝一番にDIA寮を抜け出したのだが、この2人の場合、これでもたどりつけただけマシだといえる。
乙姫  「・・・・・」
 無言のまま、思い詰めた表情でKIZUNAの事務所へと突入していく乙姫。
里見  「ちょ、ちょっと乙ちゃん!?」
 ……里見の腕をがっちりつかんで、引っ張りながら(笑)。

都鳥  「……あの、社長? ここぉ、よく、わからないんですけどぉ?」
深沢社長「どれどれ……って、あの、どうしてそんなにくっつくんですか?」
都鳥  「いいじゃないですか、べつに。ねえ、それよりぃ……」
深沢社長「あっ、ふ、太ももが脚に…胸も腕にっ。お、お願いですから、普通に仕事しましょう!」
都鳥  「いやん、社長ん…動いたら擦れて、あん、き、気持ち…」

 バターン!!

 唐突にドアが開く。
 また南さんか!? と焦るKIZUNAの深沢社長。
 ……しかし、そこにいたのは、ある意味南さんよりも厄介な人物だった。

都鳥  「お、乙姫ちゃん!?」
深沢社長「な、な、なぜ乙姫さんがここに!?」」
 驚く2人の雰囲気とは対照的に、すっかり目をうるませて入っちゃっている乙姫。
乙姫  「やっと……やっと会えました……美貴お姉さま……」
 里見をつかむ手に力が入る。
里見  「あいたたたた!」
 つかつかと、都鳥(当然深沢社長は見えていない)の前へと(里見をひきずりながら)歩み寄る乙姫。
乙姫  「お姉さま……会いたかったです……嬉しいです……」
都鳥  「そ、そうね。わたしも、会えて嬉しいわ」
乙姫  「お姉さま……どうして、あの時、乱入してきたのですか? どうして、私じゃなく、Sitto団なんかに、味方、しているんです……か? 私、それが知りたくて……お姉さまは本当はそんな人じゃないって信じているから……日本中……探し回って……それでも……見つからなくって……」
 ちょっと涙声も入りつつ、せつせつと都鳥に迫る乙姫。
都鳥  「(心の声:な、何と言ってごまかすべきか…)そ、それはね、乙ちゃん…」
乙姫  「はい。(じーーーーっ)」
都鳥  「(心の声:ううっ…この目で見られると辛いっ(汗))」
乙姫  「(じーーーーっ)」
   思わず握った手に力が入る
里見  「いたーーーーっ、あいたた、あいた!」
都鳥  「私が…徳山や戸丸にいじめられてたのは知ってるわよね?」
乙姫  「私が知らないわけがありません!」
深沢社長「え、え〜〜〜と、なにがなにやら、まったく見えないんですけど‥‥?」
都鳥  「あなたは黙っててください!」
深沢社長「は、はいっ」
 条件反射で南さんの時と同じ反応をしてしまう深沢社長。
深沢社長「(心の声:とはいっても、ここ俺の部屋だし、ここにいないと仕事になんないし‥‥。ぶつぶつ…)」
 はっと気がついた都鳥は
都鳥  「社長、申し訳ありません…私、あいつらのことを思い出すとちょっと感情的になってしまって…あの、今夜、お詫びになにかご馳走させていただきたいのですが、お受けくださいませんか?(すがるような目)」
深沢社長 「べ、別にいいですけど。あの‥‥手、握るのやめませんか?」
都鳥   「じゃあ、就業したら。約束ですよ」
深沢社長 「あの、流し目するもやめましょう。誤解されると都鳥さんもこまるでしょ?」
都鳥   「そんな誤解だなんて。私‥‥」
里見   「あ、あの〜〜コッチの話はどうなったん?」
 里見の問いに、心の中で舌打ちする都鳥。
都鳥   「(心の声:ちっ! 良いところだったのに、邪魔しやがって!)あ、ああ、ごめんなさいね。そうね、ここじゃなんだから、ちょっと出ましょうか? すみません、社長。よろしいですか?」
深沢社長 「ええ。かまいませんよ。乙姫さんとは積もる話しもあるでしょうから。ゆっくりしてきてください」

〜(2)へつづく〜
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※阿僧祇さんとdaiya◆K・たにの共作エピソードになります。また、大ちゃんも黙認してます(笑)。

[140] 乙姫、埼玉ヘ行く(2) 投稿者:daiya◆K・たに 投稿日:01/04/14(Sat) 03:30
 深沢社長に断りをいれ、乙姫、里見をひきつれて道場近くの公園へと向かう都鳥。
 まず切り出したのは里見ちゃん。
里見  「あの…都鳥さん、乙ちゃん、本当に都鳥さんのこと心配してたんです。あの…その…なんつーか…なんたらビデオ」
都鳥  「アダルトビデオ?」
乙姫  「(びくぅっ!)」
里見  「それや。そんなのに出はって、いったいどうしたんやと…」
都鳥  「(寂しそうに笑って)...仕事よ。仕方ないわ。」
里見  「そりゃそうやけど…でも仕事なんて他にもあるやないですか!」
都鳥  「私は、私を必要としてくれるところに行きたかった。それだけよ。」
里見  「アダ、アダ…(赤面)(小声で)アダルトビデオ…が都鳥はんを必要としてたって?」
都鳥  「そう。スカウトされたからね。」
里見  「でも、乙ちゃんはそれで心配したんやで! 試合をスッポカして都鳥はんを探しに行ったくらい…」
都鳥  「乙姫!」
乙姫  (びくぅっ!)
都鳥  「たとえ親の葬式があっても、スケジュールが決められてたら、プロレスラーはリングに、歌手はステージに立つ。何があってもファンをがっかりはさせない、それがプロの心得。そう教えたはずよ!」
乙姫  「だって、だって…(ぐすん、ぐすん)」
都鳥  「あなたは、プロの世界で生きていけるコだと思っていたのに…スッポカすなんて、見損なったわ。」
乙姫  「うっ…うわぁぁぁぁん!(爆泣)」
里見  「ああっ、乙っちゃん!」
 号泣する乙姫をあわてて介抱しようとする里見。
里見  「ひどいやないですか。乙ちゃんは都鳥はんのために…」
都鳥  「ファンを裏切って私を捜しに来たら喜ぶとでも思ったの?」
里見  「でもっ…!」
乙姫  「里見ちゃん、もういいの…お姉さま、私が間違ってました。」
都鳥  「…分かってくれたのね。」
乙姫  「はい。」
都鳥  「これからは、試合をスッポカしたりしないって約束できる?」
乙姫  「はい、約束します。」
都鳥  「そう…素直なコは好きよ。(ニッコリ)(心の声:どうせ『女の約束 賞味期限は一週間』だろうけどね(苦笑)。) さあ、それじゃそろそろ戻り…」
里見  「かんじんの話がまだ済んでまへん。都鳥はんはなぜ、乙ちゃんの敵のSitto団につきなはったんです?」
 涙目の乙姫も、じっと都鳥を見る。
都鳥  「(心の声:このガキ! せっかく上手く誤魔化せるところだったのに…)それはね、乙姫ちゃん…(心の声:えーと、えーと…)最初から話すとすごく長くなるんだけど…いい、ふたりとも?」
乙姫  「(コクン)」
里見  「おつきあいしま。」
都鳥  「…。まずいちばん最初、ビッグバンによって宇宙が始まり…」
里見  「最初すぎま。」
 面白くも何とも無い冗談に絶妙のつっこみ…お約束の一言である。
乙姫  「そんなに、私には話したくないんですか…話せないことなんですか?(涙)」
都鳥  「(心の声:ううっ…涙目でまっすぐ見るなっつーの!(汗))そ、それは…(心の声:なんとかしてこいつは味方にしとかないと…えーと…)」
 じーーーっと都鳥を見ている乙姫と里見。しかし二人の視線はあきらかに質の違うものだ。
都鳥  「ネオコスモスが許せないからよ!(心の声:お、嘘はついてない(笑))」
 急にその場の雰囲気が変わる。
里見  「ネオコスモス…戸丸はんと今川はん?」
都鳥  「あいつら…大宇宙女子プロレスのころ、私や允美お姉さま(時田允美)を、アイドルだからという理由で影に陽にいたぶって…お姉さまは死んでしまうし、私は落ちぶれてアダルトビデオ…(ここでハンカチを取り出し涙をポロリ)...それなのにあいつら、自分達がちゃっかりアイドル路線で売り出すなんて、許せるわけ無いじゃない! でも、私一人ではどうしょうもない…だからSitto団と共闘したのよ! ネオコスモスと宇宙軍団を(心の声:ここで一拍おいて)、のさばらせないために!」
里見  「な…なるほど! そういう理由やったのですか! それなら納得や!」
乙姫  「…お姉さま…それなら、なぜ私を頼ってくれなかったんです? なぜ味方はSitto団でなければいけなかったんですか!?」
都鳥  「そ、それは…(心の声:えーと、えーと…)あなたには、余計なエネルギーを使わず、自分のことに集中して欲しかったから。」
里見「さすが、乙ちゃんのお姉さまや! そんなところまで気ィつかってはる!」
乙姫「お姉さま、これからは私が付いていきます。Sitto団ではなく、私たちとお姉さまでいっしょに宇宙軍団と闘います!」
里見「私『たち』って、ウチも!?(驚)」
 当たり前のようにこくん、とうなずく乙姫ちゃん。
都鳥  「だっ、だめ!(心の声:あんたも潰す標的のうちなんだよ…って、それ言っちゃまずいな、、、えーと…) 乙姫ちゃんは、そんな恨みや復讐に関係なく、明るく清純なアイドルになってほしいの。」
乙姫  「で、でもお姉さまが…」
都鳥  「私は私。自分のことは自分で考えて、自分でやります。あなたを巻き込みたくないの。」
乙姫  「でも…」
都鳥  「私のお願いを聞いてくれないの? 私にはもうなることのできない、トップアイドル・レスラーの座を乙姫ちゃんが掴む姿を、私に見せてくれないの?(心の声:ここで涙をひとしずく…)」
乙姫  「お姉さま…」
里見  「…乙ちゃん! ここは、お姉さまのために、乙ちゃんがきばらな!」
乙姫  「そ、そうね、里見ちゃん! 私、がんばる! お姉さま、私、がんばります。きっと、トップ・アイドル・レスラーになります!」
都鳥  「うんうん、それでこそ私の好きな乙姫ちゃん。がんばってね。」
乙姫  「はいっ!」
都鳥  「(心の声:ふぅ…)」

〜(3)へまだつづく(笑)〜
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※阿僧祇さんとdaiya◆K・たにの共作エピソードになります。また、大ちゃんも黙認してます(笑)。

[141] 乙姫、埼玉ヘ行く(3) 投稿者:daiya◆K・たに 投稿日:01/04/14(Sat) 03:31
 乙姫と里見の追求をなんとかごまかした都鳥は事務所へ戻り、乙姫ちゃんと里見ちゃんも横浜への帰路に就いたのであった。
 だが…

深沢社長「話は終わりました?」
都鳥  「ええ、申し訳ありませんでした、ご迷惑かけまして。」
 なんだか落ち込んでしまってる都鳥。
 よく言えば女性に優しい性格、悪く言えば八方美人の気のある深沢社長は、よせばいいのにこの時もつい気を使ってしまった。
深沢社長「あの…都鳥さん、何か辛い話でもしてきたんですか?」
 びくっとする都鳥。
深沢社長「いえ、ちょっと思っただけですが…僕でよければ、相談に乗りますよ?」

都鳥  「しゃ…社長…社長…うわあああああんっ!」
 深沢社長に抱き着き、胸に顔を埋めて泣き出す都鳥!
深沢社長「み、都鳥さん!?」
都鳥  「ごめんなさい! でも、ちょっとだけ…ちょっとだけ…泣かせて! うわああああんっ!」

深沢社長「(心の声:う、ど、どうしよ‥‥。ここで突き放したら、都鳥さん傷つくよなぁ‥‥、し、しかし自分には心に決めた人が‥‥し、しかし、しかたないよな、これは‥‥)」
 鳴咽する都鳥。自問自答しながら、都鳥の背を手でさする深沢社長。
深沢社長「あの…落ち着いてきました?」
都鳥  「ごめんなさい…こんな汚れた女に抱き着かれて、迷惑ですわよね…」
深沢社長「えっ!?」
都鳥  「事情があったとはいえ、AVに出てたような女に…ごめんなさい…」
深沢社長「い、いや、そんなことないですよ。AVとかそんなのあなたという人には関係ないことじゃないですか。どんな形で歩いてきたかじゃなくて、今、ここにいるあなたが都鳥美貴でしょう?」
都鳥  「でも、私みたいな、汚な…」
深沢社長「汚れたとか汚いなんて、自分で言ったらいけませんよ。人がなにを思おうと、あなたはあなたでいいじゃないですか」
都鳥  「でも…」
深沢社長「汚れは、洗えば落ちます。大切なのは心です。」
都鳥  「でも…私みたいに魅力の無い女は…」
深沢社長「都鳥さんは充分に魅力的ですよ。じゃなかったら乙姫さんがあんなにあなたのこと慕うわけないじゃないですか。ボクはそれを信じます。」
都鳥  「社長…じゃあ、私のような女でも、拓海さんの…い、いえ、なんでもありません。」
 顔を離す都鳥。
都鳥  「申し訳ありませんでした、つい取り乱して…。仕事にもどります、ごめんなさい。さ、働かなくっちゃ!」
  涙を拭いて無理に笑顔を作る都鳥に、ちょっと心臓をどきどきさせてしまって自責の念を感じている深沢社長であった。

都鳥  「(心の声:多少のイレギュラーはあったけど、また一歩、野望に近づいたわね。里見ってコは単純で利用できそうだし、深沢社長も自分から一手詰められてくれたし。まるで詰め将棋ね。楽しみ、楽しみ…うふふ)」

 だが、そのころ、近所の自販機で、思いつめた顔をしながらのほ○ん茶を飲む姿があった。
鯛夜ひらめ「(心の声:KIZUNAから再デビューを志願しようと思って来てみたけど…とんでもないこと聞いちゃった。あきらかに、お姉さまは乙姫を騙す気ね。同期のよしみで教えてあげてもいいんだけど…乙姫だけ人気が上昇してくのは気にいらないなあ…さて、どうしよう…)」
 しばらく考えてから携帯を取り出し…

鯛夜ひらめ「…あっ、高村あ××さんですかぁ? お久しぶり、鯛夜ひらめですぅ。はい、私は元気ですぅ。え? なぜこの番号をって? 手間取ったんですよ、中原さんの口を割らせるの。あ、そんな話じゃくて、実はですねぇ、…」


To be continued...
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※阿僧祇さんとdaiya◆K・たにの(もはや◆Kはほとんど加わってませんが^^;)共作エピソードになります。また、やっぱり大ちゃんも黙認してます(笑)。

[142] 乙姫、埼玉ヘ行く 〜おまけの番外編〜 投稿者:daiya◆K・たに(UP) 投稿日:01/04/14(Sat) 03:32
 鯛夜ひらめさんの電話の相手。

 KIZUNAファクトリー選手寮 レクリエーションルーム

 選手たちのコミュニケーション用の部屋で、神田とオセロをしている高村。意外なほど強い神田との対戦成績は通算7勝23敗だった。
 今も、ゲーム盤の上では白が四隅全てをキープし、全体の8割を真っ白に染めていた。もちろん、神田が白で高村が黒だ。
 その時、神田の後ろの窓際に置いてある高村の携帯の呼び出し音が響いた。着メロ音は「も〜〜っと! おジャ魔女どれみ」だったが、誰もKIZUNAでは気づく者はいなかった。
 かかってきた携帯の呼び出しに乗じて、ゲーム盤をひっくり返そうとした高村だったが、神田は高村の動きよりも早く、ゲーム盤を動かし、高村の野望をくじいていた。
神田  「‥‥鳴ってるぞ。でなくていいのか、高村」
高村  「さっちゃんのいけず〜〜〜!」
神田  「なにがいけずだ」
高村  「もう、いいもん! ‥‥は〜〜〜い、高村でっす! って、誰? ああ、久しぶり、元気だった? うんうん。あ、でも、なんであかねのケータイの番号知ってるの? え、千早希? 千早希がどーしたの? え? なになに? ふ〜〜〜ん、へ〜〜〜、で? あかねに用ってなに? え、会うの? う〜ん、どうしよっかな‥‥、え? 晩ご飯おごってくれるの? じゃあ行く。いつにする? また、連絡? わかった。じゃあ、待ってるね、じゃあね!」
神田  「どうした?」
高村  「ん? あのね、昔の知り合いからの電話。なに行ってるのかよくわかんなかったんだけど、ごはんおごってくれるっていうから。あ、さっちゃんも一緒にいく?」
神田  「断る。‥‥で、お前の番だ、早くしろ」
高村  「え〜〜、もうちょっと待ってよ。‥‥ねえ、ねえ、まーちゃん。まーちゃん一緒に行かない?」
天野  「わたし、ですか?」
 高村、神田から少し離れたテレビセットの前で、新女のビデオを見ていた天野に声をかける高村。
天野  「でも、高村さんのお友だちなんでしょう?」
高村  「うん。だけど、あんまりひとりで会いに行きたくないんだな、これが」
天野  「?」
高村  「悪いコじゃないんだけどね。ちょっと思いこみ激しいっていうか‥‥。絶対に、なにか悪だくみしてる感じなんだもん」

神田  「そんなヤツと会うのに、私や天野をさそうのか、お前は」
  あきれたように言う神田。当の高村はまったく悪気のない顔を向ける。
高村  「だって〜〜〜〜〜。まーちゃんかさっちゃんいないと、あかね、わるだくみに乗っちゃうんだもん。また、面白そうなわるだくみするんだ、あのコ」
 と言ってニコニコと笑顔になる高村。その笑顔からも、大した悪だくみをたくらむわけではなさそうだった。
神田  「しょうがない。天野、行ってやったらどうだ?」
天野  「そんな話聞いて、即答できるわけないじゃないですか」
高村  「ごはんおごってくれるって言うしさ、行こうよ」
神田  「私はゴメンだ」
高村  「え〜〜〜〜?」
神田  「‥‥だったら、このオセロで高村が逆転勝ちできたら、考えてやろう」

高村  「そんなのムリに決まってるじゃん。さっちゃんはもう誘ってあげない!」
神田  「最初から行かないと言っているだろう」
高村  「じゃ、まーちゃん行こ?」
 キラキラとした瞳で天野を見つめる高村。
 そんな高村の目に、天野は軽くため息をついた。
天野  「‥‥わかりました」
高村  「わ〜〜〜い! ありがと! だからまーちゃん大好き!」

  と、言う謎の会話がKIZUNAレクリエーションルームで盛りあがる。
  が、高村の携帯に電話をかけてきたのはいったい‥‥(爆)。

------------------------------------------------
※このエピソードに関しては、大ちゃんが書いたものです。

[137] 知りすぎた里見ちゃん(笑) 投稿者:daiya◆K・たに 投稿日:01/04/13(Fri) 21:25
〜4月11日、試合前、控室前にて。

蒼樹 「……そうなんだあ。KIZUNAファクトリーも大変だね……」
中原 「べつに、今のところ何かあったわけじゃないからいいけどさあ……」

 控室のなかで2人きりで話す蒼樹玲奈と中原千早希。その扉の前を、偶然通りかかった者がいた。
 御存知“明るい不幸少女”里見恵理である。
里見 「……ん? なんやろ……」
 いけないいけない、と思いつつも、ついつい立ち聞きしてしまうのが人のさが。

蒼樹 「……それで、どうするの、中原は?」
中原 「いや、とりあえずはいいかなあ、って。……ただ、乙姫ちゃんに言うべきかどうかが……」
蒼樹 「そうだよねえ。KIZUNAに都鳥さんが入ったって聞いたら、その瞬間飛んでいきそうだもんね……」

里見 「……都鳥ぃ!?」
 思わず声を上げかけた里見。

蒼樹 「誰か、いるの?」

里見 「ま、まずい……!」
 よく考えたら別にまずいわけでもないのだが、つい本能で逃げてしまう里見。
 蒼樹がドアを開けたときには、すでに誰もいなかった……が。

 ドンガラガッシャーン!!!
里見 「ひえええええええ!!??」

 角の向こうでスゴイ音と、聞きなれた悲鳴が響く。
蒼樹 「……里見ちゃん、だよね」
中原 「……聞かれた、かな?」
蒼樹 「……たぶん」

   ・
   ・
   ・

里見 「あいたたたたた……危なかったぁ……あやうくバレるとこやった」
 ……もうバレてます(笑)。
里見 「……しっかし、あの都鳥姉はんが、KIZUNAに行ったやて……? う〜〜ん、乙姫ちゃんに言うべきか……でもなあ、今言うと、な〜んかややこしいコトになりそうっちゅーか、イヤ〜な予感がするんやよなあ……どないしょ……」
乙姫 「……イヤな……予感?」
里見 「うおわああああああああああ!?」

 ドンガラガッシャーン!!

 いつの間にか背後に立っていた乙姫に必要以上に驚き、勢い余ってずっこけて廊下のバケツに頭を突っ込んでもん絶する里見。
里見 「あいたたたたた……お、乙ちゃん? もうすぐ、試合なんじゃ……?」
乙姫 「……そうだけど……里見ちゃんがいなかったから……」
里見 「あ、ご、ごめんな……じゃ、戻ろか」
 そそくさと立ちあがって、乙姫の控室へと戻る里見。
里見 (……良かった。とりあえず、聞かれてへんみたいやな……)
乙姫 「ところで、お姉さまがKIZUNAに、って、本当?」

 ドンガラドガラカガッシャーン!!

 またも前につんのめって、消火器と正面衝突する里見。
里見 「え……あ、いや……」
乙姫 「里見ちゃん……」
里見 「……はい?」
乙姫 「……いっしょに、行って、くれるよね?」
 と言いつつも、すでに乙姫の手は里見の腕をがっちりと握り締めていた。
里見 「は、はいな……」

To be continued...

[136] 宇宙軍団に異変 投稿者:阿僧祇 投稿日:01/04/12(Thu) 11:46
戸丸「徳山さん、徳山さん、たいへんです!(本音:つーか、笑えます)」
徳山様「なにぃ? 都鳥美貴がKIZUNAに?」
一同「うわっ、波乱の予感…」
徳山様「・・・・・で、都鳥って誰だい?」
  ズドドドド…

 <中略;;;>

徳山様「なるほど。でもまあ、そんなに脅威にゃならないだろ。なんせあたしらは、大宇宙スケールの軍団なんだからな。」
戸丸「ま、まあ、そうかもしれませんけど。(本音:すでにあたしたち(ネオコスモス)ゃあ、やられて、脅威になってるんだよ!)」
猫山「そんなことより、もっと大変なことがありますのぉ。天城の芽亜理ちゃんが真女の試合に無断で出てますのぉ。」
徳山様「なにっ、天城芽亜理が真女にっ!?」
一同「なんてこと!」
徳山様「・・・・・で、天城って誰だっけ?」
  ズドドドド…

 <中略;;;>

徳山様「こいつは一発、思い知らせて、都鳥や天城のバカどもの野望を粉々に打ち砕いてやらなきゃならんなぁ…KIZUNAの深沢とDIAのたに、それから真女の山上に連絡とっとけ。乱入するにもいちおう仁義は通しとかないといかんからな。」
戸丸「わかりました。(本音:ほっといても勝手に自滅して思い知ると思うけどね…。)」

[135] 悩める星野と意外な電話 投稿者:daiya◆K・たに 投稿日:01/04/07(Sat) 01:29
星野 「社長! お願いです!」
社長 「そう言われてもなあ……」
 だいぶ春めいてきた昼下がり、DIA-J事務所では、星野真琴が社長に土下座していた。
星野 「わかってます。あたしが会社に、みんなに甘えてるってこと。でも、このままじゃダメだって……なんか、何を考えても気持ちが入らなくって……」
社長 「うん……でもな、ウチだっていっぱいいっぱいなんだ。本当なら海外修業のひとつも行かしてあげたいけど、現状じゃやっぱり無理なんだよ」
星野 「………そう……ですか……なら……」
香月 「しばらく休ませてください、とでも言うのか?」
 星野がはっと振り返ると、いつのまにかそこにいた香月が、怖い顔をして立っていた。
香月 「ったくどいつもこいつも……自己主張は結構だが、そんなことでプロとしてやっていけると思ってるのか!?」
 静かだが、かなり厳しい口調で香月がにらみつける。
星野 「でも……」

 パァン!!

 星野が何かを言いかけた瞬間、香月の平手が星野の頬を叩いた。
香月 「……もう1度、自分でよく考えるんだな」
星野 「……は、はいっ!」
 目に涙を浮かべながら、星野が声をふりしぼる。
 堪え難い沈黙が部屋を覆い、空気がおそろしく重苦しいものになる。

 プルルルルルル……プルルルルルル。

 沈黙に押しつぶされ、弱り果てていた社長を救ったのは、電話の呼びだし音だった。
社長 「は、はい、もしもし、DIA JAPAN事務所です。え、あ、ミス・アフロディーテ! はい、はい……ええっ!? ……あ、なるほど……」
 しばらく社長が電話で話す間も、じっと立ち尽くす星野。
社長 「……はい、了解しました。とりあえず、そちらが来てから詳しい話はあらためて……はい。それでは……」
 複雑な表情をしながら、社長が電話を切る。
社長 「どうしたものかなあ……」
 ため息をひとつついた社長が、ちょっと考えた後、口を開く。
社長 「……星野。どうしても、外、出たいか?」
星野 「……は、はい!」
社長 「じつはな。今、XLPWのアフロディーテ女史から、プロレス交換留学の話が来た」
星野 「交換……留学ですか?」
社長 「先月、タッグリーグで来たTiTi選手っていただろ? 彼女が、なにやらウチのリングがとても気に入ったらしくてな。しばらくウチで上がりたいって言ってるらしいんだ。……でな、XLPWとしても、彼女には日本のプロレスをもっと経験させたいらしいので、ぜひお願いしたいということらしい」
星野 「……」
社長 「それで、TiTiの代わりに、誰か若い選手をひとり、交換留学として寄越してくれないか、と。そういう申し出が今、あった」
星野 「そ、それならあたしを……!!」
社長 「ただし」
星野 「……なんですか」
社長 「先方の希望は、できれば乙姫を、ということだった」
星野 「……!!」
 星野の表情に動揺と悔しさが浮かぶ。
社長 「ただし、あくまでできれば、という話だ。向こうとしても、実際に選手を見てから最終決定をしたい、という話があった。……そこで」
星野 「……」
社長 「11日の調布、13日の千葉で、とりあえずおまえと乙姫のシングルを2つ組む。そこで、精いっぱいアピールしなさい」
星野 「……社長!!」
社長 「いいか。あくまで選手を決めるのは向こうだ。私は、誰を出してくれ、ということは言わない。……もし、本当に海外に行きたいのなら、自分の力でつかみとってみせろ」
星野 「ありがとうございます!」
 涙声で深々と頭を下げる星野。
社長 「勘違いしないでほしい。おまえと乙姫の試合がつまらなかったら、向こうはきっと別の選手を指名するか、あるいはこの話自体を白紙にするかもしれない」
星野 「頑張ります!」
社長 「単に勝ち負けじゃなく、向こうのハートに伝わるファイト……そんなファイトを見せてほしい。頼んだよ」
星野 「はい! 頑張ります! ……ありがとうございましたぁ!」

To be continued...

[138] 悩める星野の意外な外伝 投稿者:阿僧祇 投稿日:01/04/13(Fri) 21:59
 開かれているのは、「SPAR!」の女子プロレス特集選手名鑑ページ。
 その女性は、静かにスポーツドリンクをすすりながら、ページをめくる手を止めた。

 ページの見出しは「DIA−JAPAN」。
 宮本陽子、ファルコン香月、ルナ=マリーナなどの大写真が載せられているが、視線はもっと下にそそがれる。

??「“パワフルサンダー”星野真琴、か…」

 じーーーーーっ、とそそがれる視線。口元には静かな笑みが。

 そこへやってきたのは石川涼美。
石川「竜子さん、そろそろ時間です。武田たちがジムで待ってますよ。」
龍子「ああ、いま行く。」
 サンダー龍子は、もう一度、星野真琴の写真を一瞥し、そして雑誌をテーブルに投げ置いた。

[134] アンチ宇宙軍団・燃え上がる嫉妬の炎!? 投稿者:阿僧祇 投稿日:01/04/03(Tue) 02:37
2001/02/13

  >福島県、原ノ町の飲み屋、4:00A.M.ごろ

女性客「へぇ〜…おニィさん、プロレス好きなんだ。」
若主人「そりゃね。新日とかいつもTVで見てますよ。」
女性客「女子プロレスは?」
若主人「新日本女子と淀川女子がくっついてまたふたつ団体ができたでしょう。」
女性客「くわしい!」
若主人「ははは…」
女性客「私もね、こう見えてもプロレスラーだったのよ。」
若主人「へえ〜…淀女? WARS?」
女性客「いや…もっとマイナーな…小さな団体だけどさ。」
若主人「へえ…」
女性客「…信じてないわね?」
若主人「いやあ、信じますよ。お客さん、奇麗なだけじゃなくて意外に強そうだし。」
女性客「お上手。でも身長が低いでしょう。」
若主人「何ですね、プロレスラーってのは身長サバ読むんですよね、意外に小さかったりするから。リングでは大きく見えても、入場のときにはね。」
女性客「そうね、リングの上では…青コーナーに立ってこう赤コーナーを見るとね…でっかい女がこっちを睨んでるのよ。恐くなって帰りたいんだけど、そうもいかないから睨み返したりしてね。」
若主人「いや〜、プロレスは見るもので、やるものじゃないです。」
女性客「ははは…たしかに。」
若主人「再デビューはしないんですか? まだやれるでしょう?」
女性客「ははは…どうかな?」
若主人「またリングに立ったら、応援しますよ。」
女性客「ははは、そのときはよろしく。あ、もう4時か…そろそろお勘定。」
   金を払って出て行く女性客。
別の客「なんだ、あのねーちゃん、女子プロレスラーだって? そうは見えないけどなあ…」
若主人「ははは…夢を見たいんですよ。人はだれでも。」

  >原ノ町のコンビニ前
   ビタミン2000を煽りながら、とどいたばかりのスポーツ新聞を見ている女性客。
女性客「…ブーーーーーッ(吹き付けてしまう。)…(怒)と…と・く・や・ま・ぁっ!」
見出し「宇宙軍団、真女に乱入!」
小見出し「アイドルユニット『ネオコスモス』鮮烈なデビュー」
小見出し「超新星となるか? 14日にはDIA-Jに参戦!」

 この女。三島里子。今はしがないセールスレディをしているが、実は戸丸さやかと同期デビューで、大宇宙女子の主力選手だったことがある。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  >5:00A.M.、東京、鴬谷のラブホ
デイレクター「おつかれー。よし、撤収!」

  >鴬谷のコンビニ。
  撮影班が朝食を調達中。
  スポーツ新聞を見てる女優。
AV女優「(怒)と…と・ま・る・さ・や・か〜っ!!」
デイレクター「? どうしたの、美貴ちゃん?」
AV女優→美貴「あの…このビデオの撮影はもう終わりですよね?」 
ディレクター「うん?」
美貴「ちょいと用ができたので、今夜の打ち上げは欠席します。」

 この女。都鳥美貴。いまはしがないAV女優をしているが、実はアルタイル女子のエースだったことがある。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  >3:00P.M.、京王線、本厚木駅
  ショートカットでジーンズ姿の女、売店でリポDを買う。
女「はぁ…また仕事みつからなかった…結婚相手探した方が早いかなあ。」
  リポDを飲みながら、なんとなく広げるスポーツ新聞。
女「ぶーーーっ!」
  吹き付けて周囲に顰蹙
女「う…宇・宙・軍・団、メジャーに進出ですと!?!?」

 この女、中原美早希。今はしがないプータローをしているが、実は大宇宙女子で反乱軍を率いてウォホーク高村やコメット徳山(当時)を追いつめたことがある。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  >9:00P.M.、ロス=アンジェルス、サンフェルナンドバレー
  アパートの一室。ネットにアクセスしてる、白人女性。
白人女性「Nooooo!」
白人少女「どうしたの、叔母さん?(英語)」
白人女性「ファ○ーファッ○ング・トクヤマめ、ついにメジャーに出てきやがった…(英語)」
白人少女「この醜い女、叔母さんの知り合い?(英語)」
白人女性「こうしちゃおれん、日本へ行くわよ!(英語)」
白人少女「仕事は? 急に辞めると違約金をとられるんでしょ?(英語)」
白人女性「う…(英語)」

 この女、ブレンダ=ショーン。今はしがないスーパーのレジ係をしているが、実はフロストサラマンダーYYの覆面をつけ悪役レスラーとして大暴れしたことがある。

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 ビッグバン徳山様が率いる宇宙軍団の真女乱入は、引退を余儀なくされていた女たちに嫉妬の炎を次々と点火していったのであった…。

[149] SPACE WARS2〜帝国の逆襲 投稿者:阿僧祇 投稿日:01/05/10(Thu) 07:27
「もしもしー。あっ、お忙しいとこ失礼します。サンダー龍子さん? 私、中原といいます。いえ、KIZUNAの中原千沙希じゃなくて、以前、太陽系女子プレスとか大宇宙女子プレスというところにいましたキティホーク中原…え? そんな新興宗教みたいな団体名聞いたこと無い? そ、そうですか、、、いえ、あったんです、そういうどマイナー団体が。え、あ、そうです、関係はあります。宇宙軍団はウチの過激派の馬鹿どもが残党化したものでして…はい? ええ、今日お電話したのはですね。実は私、このたび、新しい団体を作って復帰しようと考えてまして…『皆宇宙女子プロレス』という名前にしようと思ってるんですが。それでですね、ちょっと小耳に挟んだんですけど、なんでもWARS-Rでは今度…」

[132] KIZUNA選手 必殺技名鑑! その1 投稿者:TAKU@KIZUNA 投稿日:01/03/28(Wed) 14:00
● NHK教育番組のりのテーマ M〜〜〜〜〜〜〜〜〜

高村あかね 「あかねと!」
中原千早希 「千早希の!」
2人    「教えて? KIZUNA選手の必殺技!」

   道場でお話中の2人

中原千早希 「ねえねえ、あかねお姉さん!」
高村あかね 「なに、千早希?」
中原千早希 「TNGがはじまって結構たつけれど、選手たちの必殺技とかオリジナル技って、文字だけじゃよくわかんないんだけど」
高村あかね 「そだね。いろいろオリジナルの名前がついてるのも多いし、実際にある技でも見たことない技とか雑誌に載ったことのない技とか、特に女子プロレスの必殺技なんてテレビで見てても仕掛けが複雑でわかりにくいものが多いものね」
中原千早希 「じゃあさ、せめてKIZUNA選手のオリジナル技くらい文章で解説して見ようよ!」
高村あかね 「書いてるぼんくらの文才でどこまで解説できるかそこはかとなく不安だけど、とりあえずやってみよっか!」

中原千早希の場合
BGM〜〜〜「OVA 覚悟のススメ主題歌 覚悟完了! 歌:影山ヒロノブ」

高村あかね 「さて、まずは千早希だね」
中原千早希 「うん! ‥‥って、普通に戻しますね。あたしの必殺技は2つ。ライトニングスープレックス(変形キャプチュードホールド)とライトニングキック!!」
高村あかね 「まずはライトニングキックなんだけど‥‥」
中原千早希 「これは単純明快! コーナーポストからのダイビング延髄斬りです」
高村あかね 「コーナーポスト最上段から、相手の後頭部めがけての延髄キックだから、上手く当たれば一撃必殺でKOできる技だよね」
中原千早希 「最近は当たりが浅くて、全然ですけど。コーナーポストから素直にダイビングすることもありますし、場外の相手にコーナーから蹴ることもあるし、エプロン走って蹴るとか、パターンはいろいろありますから。最近、開発したのがコーナーに相手に背を向けながら立って、ひねりを加えながらのダイビングキックです。名づけてスーパーライトニングキック!」
高村あかね 「で、次はライトニングスープレックスだけど‥‥」
中原千早希 「これは、変形のキャプチュードでそのままホールドするってやつなんですけど‥‥」
高村あかね 「普通のキャプチュードは、相手の首を取って、もう片方の手で相手の片足を掬い上げて、ブリッジを効かせながら一気に投げる技なんだけど‥‥」
中原千早希 「あたしのライトニングは、新生UWFが新日に帰ってきたころの前田日明さんが使ってた初期型(というより未完成版の)キャプチュードがモデルなんですよ。左手を相手の首じゃなくて、相手の脇の下からまわして、右手で相手の片足を掬い上げながらホールドして、斜めに叩きつけるんじゃなくて、ブロックバスターやブリザードホールドみたいに一気にブリッジしてホールドするんです!」
高村あかね 「見た目はそんなに感じないけど、実はかなりのブリッジ力が必要なんだよね」
中原千早希 「ええ。あたしブリッジには自信ありますから!」

船木亜矢の場合
BGM〜〜〜「機動戦艦ナデシコ主題歌 YOU GET TO BURNING歌:松澤由美」

高村あかね 「じゃあ、次はマスクド・ジェラシーXこと亜矢の裏閂式鷹羽絞めなんだけど‥‥」
中原千早希 「結構、複雑なんですよねこれ。対戦相手の左腕をチキンウィングフェイスロックの要領でロックして、相手の右わきの下から腕を差し入れて、顔面絞めする技なんですけど‥‥」
高村あかね 「座った相手にかけたり、そのまま胴締めしたりとバリエーションは多いよね」
中原千早希 「ビジュアル的には片羽絞めとチキンウィングフェリスロックの複合技なんですけどね。片腕を巻き込んでるからそこに三角締めの要素も加わりますけれど」
高村あかね 「これ、胴じめと一緒に完全に決ると脱出不能でギブアップするしかないんだよね。両腕と顔面と胴じめと頚動脈が一緒に極まって、足バタバタするくらいしかできないんだよね」
中原千早希 「でも、亜矢の両手よりも相手の身体が大きいとロックできないんですよね。そういうときは、竜虎固めの要領でチキンウィイングとリバースフルネルソンの複合技でギブアップ取るんですけど」
高村あかね 「実際、関節技のみのスパーリングならウチで相手できるの南さんぐらいだもんね」
中原千早希 「そこが亜矢の強みなんですけどね」

高村あかねの場合
 BGM〜〜〜「テレビ映画キャプテンパワー主題歌 ふりむけばdanger! 歌:堀江美都子」

中原千早希 「次は高村さん!」
高村あかね 「あかねの必殺技は、ジェットスクランダー(ダイビングセントーン)にファイアーボンバー(さんだーファイヤー式ライガーボム)!」
中原千早希 「ジェットスクランダーはまんまダイビングセントーンなんですけれど‥‥」
高村あかね 「あかねがコーナーから飛ぶとき、両手を広げながら飛ぶからそうつけたんだけど‥‥」
中原千早希 「誰もそうは呼んでくれませんね」
高村あかね 「うん‥‥」
中原千早希 「続いて、ファイアーボンバーなんですけど。ビジュアル的には井上美香選手のナイアガラドライバーに似てますけど‥‥」
高村あかね 「それを言い出したらどんな技でも似たり寄ったりだよ。実はモデルにしたのはカモンちゃんのカモンキャノンボムなんだけどね」
中原千早希 「あの技ですか‥‥めちゃめちゃ痛いんですよね、あれ」
高村あかね 「プエルトリコでカモンちゃんのあの技見たときにこれだって思ったんだ。で、あかねにはあそこまでのパワーないから、肩に担いでパワーボムにしようと思ったの。で、こっからがオリジナルなんだけど、普通は相手を持ち上げてから尻餅をつくようにしてボムに行くでしょ」
中原千早希 「ええ」
高村あかね 「あかねの場合はね、相手を担ぎ上げる勢いを使って、そのままジャンプするのね。で、落差とスピードとパワーをアップさせながらボムに持っていくんだ。あと、相手の両手をあかねの足でフックして叩きつけるんだけど」
中原千早希 「よく聞くと、けっこういろんな要素が入ってる技なんですね」
高村あかね 「まーね!」

神田幸子の場合
 BGM〜〜〜「テレビアニメ「バーチャファイター」主題歌 愛がたりないぜ 歌:光吉猛修」

高村あかね 「次はさっちゃん(神田幸子)だけど‥‥」
中原千早希 「神田さんのカミソリ掌底は見たまんま、読んだままですから‥‥」
高村あかね 「ようはジャブ、フック、アッパー、ストレートだもんね」
中原千早希 「こんなところですよね」

[133] KIZUNA選手 必殺技名鑑! その2 投稿者:TAKU@KIZUNA 投稿日:01/03/28(Wed) 14:01
天野真琴の場合
 BGM〜〜〜「テレビ映画 魔拳! カンフーチェン主題歌 カンフーチェン 歌:高木淳也」

中原千早希 「さて、折り返しになりましたね」
高村あかね 「後半戦ひとり目は、まーちゃん(天野真琴)!」
中原千早希 「天野さんといえば、欧州式ツームストンパイルドライバーとサイクロンクラッチ(変形ストレッチプラム)なわけですけど‥‥」
高村あかね 「まーちゃんの真骨頂はその試合の組みたてにあるからね。必殺技はその流れで決まるっていう感じが強いよね」
中原千早希 「最近は欧州式ツームストンパイルドライバーで流れを自分に持って行くことが多いから、サイクロンクラッチよりも欧州式の方が必殺技っていう感じがしますけど」
高村あかね 「そだね。普通のツームストンって相手の胴をロックして向かい合うように逆さにして、相手の頭を膝でロックしてマットに突き刺すんだけど、欧州式って、相手をボディスラムの形で抱え上げて、逆さにして、そのまま一気にマットに突き刺すんだよね」
中原千早希 「初代ブラックタイガー(マーク・ロコ)が使ってましたよね。最近だと天山ドライバーって名前で新日の天山広吉選手とか。あとは中島半蔵選手とかサスケ選手!」
高村あかね 「どっちかって言うとクラシカルテクニックだからね。でも、欧州式って流れで仕掛けるとスパッて感じで決まるから、受ける側にとっては意外に逃げにくいんだよ」
中原千早希 「じゃあ次はサイクロンクラッチ(変形ストレッチプラム)」
高村あかね 「これは、単純に腕取り式のストレッチプラムなんだよ。普通のストレッチプラムの場合、たとえば、自分の左手で相手の顔をロックしてひねるときに、右手は相手の右手を押さえてるだけでしょ。でもサイクロンの場合、相手の右手を押さえながら、相手の背中の方に自分の右手を回して、相手の左腕を掴んでロックしちゃうんだよね。だから、受けてる方は、身体をさらにひねらなきゃならないから、身体がカタイとあっという間にギブアップしちゃう」
中原千早希 「天野さんも言ってましたけど、実はその形に入るのが難しいから、最近は決め技にならないって」
高村あかね 「永田の桃子ちゃんをギブアップにとったんだからりっぱな必殺技だよ」
中原千早希 「はい、高村さん質問! なんで、極め技なのにクラッチって固め技みたいな名前なんですか?」
高村あかね 「うん、これはあかねもずっと疑問だったから聞いたことあるだけど、なんでもね、相手の身体を完全に固めてからひねるんで、クラッチってつけたらしいよ」
中原千早希 「でも、わかりにくいですね」
高村あかね 「まーちゃんも同じこと言ってたよ(笑)」

荒谷久美の場合
BGM〜〜〜「OVA重戦機エルガイム フルメタルソルジャー主題歌 COOL 歌:ひろえ純」

高村あかね 「ではでは続いて、ヘビー級にいきま〜〜す!」
中原千早希 「まずは荒谷さんですけど、パワーボムと低空高速ムーンサルトプレスというビジュアル的にすごくわかりやすい必殺技ですね」
高村あかね 「そだね。まあ、久美ちゃん的にこだわってるのは、ムーンサルトを低く早く飛ぶことなんだって」
中原千早希 「?」
高村あかね 「高くキレイに飛ぶこともできるんだけど、久美ちゃんの場合はハイスピードで勢いのままにプレスすることで威力を上げてるんだって!」
中原千早希 「いろいろこだわりってあるんですね」

永原ちづるの場合
 BGM〜〜〜「テレビ映画ウルトラマンティガ主題歌 TAKE ME HIGHER 歌:V6」

中原千早希 「さて次は永原さんですけど‥‥」
高村あかね 「必殺技は文句なくジャーマンだよね」
中原千早希 「そうですね。あとはちづるエッジとちづるスタナーですか‥‥」
高村あかね 「ちづるエッジは、変形の裏投げ。形はロックボトムだもんね。相手の脇を差して、一気に持ち上げて叩きつけるんだけど。後ろ頭から思いっきり叩きつけられるからダメージめちゃめちゃ大きいんだよね」
中原千早希 「スタナーはフロントヘッドロックに取って、そのまま持ち上げて、尻持ちつくように叩きつける技。三四郎スタナーなんですよね、形としては。最近だとFMWの黒田選手が哲ちゃんバスターとして使ってますよね」
高村あかね 「首そのものに大ダメージがくるからね。この技でダメージ与えてからジャーマン決めるとほぼ確実にフォールとれるって、永原さん言ってたし」

南 利美の場合
 BGM〜〜〜「ワールドヒーローズ2 イメージアルバムより 異冠の女剣士〜ジャンヌのテーマ」

高村あかね 「最後はKIZUNAの鬼総帥こと、南さん」
中原千早希 「南さんといえばサザンクロスアームロック!」
高村あかね 「これはチキンウィングアームロックなんだけど、相手の身体に対して南さんの身体がクロスする感じになってるから、南十字星ということでサザンクロスなんだよね」
中原千早希 「基本技のチキンウィングアームロックでさえ、南さんの手にかかれば必殺技になっちゃうんですよね」
高村あかね 「基本技を怠るなっていうのが南さんの口ぐせだもんね」

● NHK教育番組のりのテーマ M〜〜〜〜〜〜〜〜〜

高村あかね 「千早希ちゃん、どうだった?」
中原千早希 「うん、あかねお姉さん。やっぱり解説してもらうと違うね!」
高村あかね 「まあ、書き手の文才でどこまで通じたか不安もあるけどね!」
2人    「じゃあ、まったね〜〜〜〜〜〜!」

●  NHK教育番組のりのテーマ M〜〜〜〜〜〜〜〜〜フェードアウト

[128] バレンタイン狂奏曲!? その1 投稿者:TAKU@KIZUNA 投稿日:01/03/12(Mon) 00:32
●2001年 2月13日 KIZUNAファクトリー 選手寮

 真女2月の2連戦を終え、久々のオフを楽しんでいるKIZUNAファクトリーの面々。
 中原千早希はレンタルで観てはまったがためについに買ってきてしまったホラービデオ『呪怨』と『呪怨2』を観まくり、神田幸子は南のジムでの自主トレ、荒谷久美は永原ちづると一緒に、朝早くから海へ、趣味の釣りに出かけていた。南利美と深沢社長は事務仕事に追われ、高村あかねは部屋でごろごろしながら、録画しておいた『時空戦隊タイムレンジャー』と『仮面ライダークウガ』、それに『仮面ライダーアギト』を今朝、自分で焼いたクッキーをつまみながら観ていた。どこにでもある休日、のはずだった‥‥。

 アンノウンと戦うために今まさに、G3が登場という瞬間、ドアをノックする音が響く。

天野  「高村さん、ちょっといいですか?」
高村  「ん、まーちゃん? 開いてるよ」

 テレビモニターから目を離さず、あかねは答えた。
 その声を合図に、ひょっこりと天野真琴が顔をだし部屋のなかに足を踏み入れる。
 たいていの人があかねの部屋を見た瞬間に驚きを隠さない。ほとんどがきっと足の踏み場もないほど散らかしているんだろうなと想像しながら部屋のドアをノックするためだ。
 当のあかねはというと、意外なほどきれいに整頓された部屋の真ん中で、ピカチュウのイラストが描かれた大きなクッションの上にうつぶせに寝転がりながらビデオを見ていた。
 30インチのテレビモニターとビデオデッキ。テレビに並べるように置いてある、背を抜いたカラーボックスにはドリームキャストにプレイステーション、ニンテン64、PS2などのゲーム機器が並び、本棚にはコミックとゲームソフトとCDが並んでいる。そして、棚の上には、今一番の趣味であるアメコミフィギュアが飾られている。
 物が多いわりに、雑然とした感じがしないのはベッドとガラステーブル、それにクッション以外の物がキチンと整頓されてボックスや棚に収まっているからだ。床がひろびろとしているために乱雑感を感じさせないあかねの収納上手ぶりには、部屋を訪れるたびに感心させられる。

高村  「どうしたの?」
天野  「あの、ちょっと借りたい本があって‥‥」

 本棚にはマンガばかりではない。料理のレシピ本やミステリー、ラブロマンスやファンタジー等々が並んでいる。最近は『ハリーポッター』シリーズがお気に入りらしかった。荒谷などは、読書のための本ほとんどをあかねの部屋から借りているほどだ。
 
高村  「ふ〜ん、てきとーに持っていっていいよ」
天野  「ありがとうございます」
高村  「あ、まーちゃんも食べる?」

 ビデオの一時停止ボタンを押し、むくりと起きあがったあかねは、そばに置いた籐カゴをさしだした。クッキングペーパーがしかれたカゴのなかには、ブラウンとホワイトのマーブル模様の格子が描かれた四角いクッキーがたくさん入っている。これまた意外だが、あかねの趣味にはちゃんと料理という項目があり、KIZUNAファクトリーの料理番としてその腕を振るっている。お菓子作りも得意であり、休日のたびになにか作っては皆から好評を博しているのだ。

天野  「おいしそう。いただきます‥‥」

 そういって、天野はカゴのなかのクッキーに手を伸ばす。サクサクとした歯応えと、甘さ抑え目の味が絶妙だ。

天野  「おいしい‥‥。朝から作ってたんですか?」
高村  「ううん。前に生地だけつくっといたから焼いたんだけど。冷蔵庫のなかでゆっくり生地をなじませるクッキーだから、アイスボックスクッキーっていうんだよ」
天野  「へえ‥‥。高村さんはお料理だけじゃなくて、お菓子作りもホントに上手で、うらやましい‥‥」
高村  「まーちゃんだって、やれば上手になるよ、きっと‥‥」

 その立ち居振舞いと性格から家事が得意そうに見える天野だったが、家事全般においてあかねに遠く及ばない。そのなかでも料理は全滅に近く、KIZUNAの料理当番から外される始末だった。ちなみに、ほかの選手も天野ほどではないにしろ、料理に関してはあかねほどの腕を持ったものはなく、自然と料理番はあかねの仕事となっているのだ。
 ひとしきり、クッキーとアイスティーを囲んでのお茶会を楽しんだあと、あかねはビデオの続きを観るために寝っころがり、天野は本棚から一冊の本を借り部屋を後にした。

 30分後。ビデオを観終わり、う〜〜んと伸びをしたあかねは、ふと本棚に目をやった。天野がなんの本を借りていったのかみょうに気になりだしたのだ。

高村  「まーちゃんはなに持っていったのかな‥‥」

 マンガはキライではないらしいがそんなに読むほうではないし、ミステリーにはまりだしたという話も聞かない。そんな天野がわざわざ借りに来た本にあかねは興味をもった。そして、本棚をじっと見ていたあかねは小首をかしげた。想像もしなかったタイトルの本が本棚から消えているのだ。

高村  「‥‥‥まじ?」

 その本は『サンデー・パッフェーシェフの簡単お菓子くっきんぐ』といった‥‥。

                       つづく

[129] バレンタイン狂奏曲!? その2 投稿者:TAKU@KIZUNA 投稿日:01/03/12(Mon) 00:33
●2001年 2月13日 KIZUNAファクトリー 選手寮 

 PM 1:00
 寮の食堂兼キッチンで、天野真琴はかしゃかしゃとボウルの中身を泡立てていた。

天野  「う〜〜ん‥‥。ツノが立つってどういうことなのかしら‥‥」

 なにを作っているのかはまだ謎だが、天野が作ろうとしているものが完成するのはまだまだ時間がかかりそうだった‥‥。


●KIZUNAファクトリー 事務所

 選手はオフでもフロントにはオフはない。深沢社長と南利美は、朝から事務仕事に追われていた。
 
深沢社長「‥‥終わらねえ!」

南   「‥‥口を動かす前に手を動かしましょうね、社長」

深沢社長「だいたい、なんで去年の未処理分がこんなに残ってるんですか!」

南   「あなたが辞めるとか言って、処理してないからです」

深沢社長「あの時、一時しのぎとは言え南さんに引き継いだじゃないですか!」

 その瞬間、凛とした瞳が深沢社長の目を見据えた。

南   「私のせいだとでも?」

深沢社長「‥‥う‥‥そうは、言ってません‥‥けど‥‥」

南   「だから、私も手伝ってるじゃありませんか。なにかそれに不満でも?」

深沢社長「‥‥ありません‥‥」

南   「さ、続けますよ。後もう少しやれば、あとはなんとかなるんですから」

深沢社長「‥‥はい‥‥」

 年末の一件以来、さらに南に頭が上がらなくなっている深沢社長だった。


● KIZUNAファクトリー 選手寮  

 PM:4:00
 悪戦苦闘していた天野のクッキングも難関を超え、やっとオーブンから焼きあがった型を取り出すところまで来ていた。
 そんな、天野の姿をうかがう2つの人影が‥‥。

高村  「チェックメイトキングツー、チェックメイトキングツー! こちら高村あかね、ターゲットはまだこちらに気づいた様子はありません、オーバー」

中原  「‥‥そんなネタだれもわかりませんよ。すぐ隣にいるんだから、トランシーバーなんて使わなくてもいいじゃないですか。それにこんなカッコさせるし‥‥」

 右手にトランシーバー、左手に双眼鏡を持ち、どこから引っ張り出したのか迷彩服姿の高村あかねと中原千早希がドアの隙間から、キッチンの中をのぞいている。

高村  「もうっ! こういうのは気分なの! そんなこと言ったら楽しくないじゃない!」

中原  「気分って‥‥」

高村  「だいたい、まーちゃんの料理だよ。お菓子っていったってどんな被害がでるか‥‥」

中原  「その意見には少しだけ賛成しますけど‥‥」

 中原の脳裏に以前、天野が作ったカレーとは名ばかりの恐ろしいシロモノがよぎった。
 口にした選手全員が、青ざめたあの瞬間は思い出すだけでも冷や汗がでる。

高村  「市販のルー使ってできたのがアレだよ」

中原  「あかねさん、あの時、天野さんも上手くなるよって慰めてませんでしたっけ?」

高村  「お料理を続ければって言ったもん。やってればそれなりになってくるけど、まーちゃん、あれから食事当番から外れちゃったし、ほとんど作ったことないはずだもん」

中原  「‥‥て、ことはあのときから全然、上達してないってわけですね」

高村  「そう。それに、バレンタインの前日にお菓子つくるってことは‥‥ねえ?」

 ニヤリと悪魔ちっくな笑みを浮かべ中原を見るあかね。

中原  「やっぱりそうですよね。くくくっ」

 同じく悪魔チックな笑みを浮かべる中原。

高村  「だ〜〜れに上げるんだろうね〜〜〜」

中原  「あかねさん、顔にやけてますよ」

高村  「千早希だって」

 向かい合って不敵な笑みを浮かべつつ、2人は天野の観察を続けた。

                             つづく

[130] バレンタイン狂奏曲!? その3 投稿者:TAKU@KIZUNA 投稿日:01/03/12(Mon) 00:34
●2001年 2月13日 KIZUNAファクトリー 選手寮 

 PM 4:30

 いそいそとキッチンで作業を続ける天野真琴。どうやら、ケーキを焼いていたらしく天野がおぼつかない手で型からスポンジを抜いている。

中原  「どうやらココアケーキみたいですね‥‥」

高村  「‥‥千早希、よく見ようね。あれ、ココア生地じゃなくて、焦げてる‥‥」

中原  「え‥‥」

 思わず絶句する中原千早希。確かにココア生地にしては、炭の光沢を放っている個所があるように思えるが、まさかと中原は思う。

中原  「あ、あれが焦げだとするとふつう失敗したって騒ぎません?」

高村  「あれが失敗だって、まーちゃん気づいてないんだよ、きっと」

 高村あかねのその言葉に、背筋に冷たいものが流れ落ちる中原。

中原  「あ、チョココーティングするみたい‥‥」

高村  「ああ! ダメだって、いきなり‥‥。チョココーティングをキレイにするには、レードルに乗っけたスポンジのほうを動かさなきゃならないのに‥‥」

 あかねの悲鳴じみた解説が続く。

高村  「うわ〜〜〜、チョコも焦げてる‥‥。湯煎じゃなくって、直接おなべ火にかけたんだ‥‥」

 そんなあかねの様子を知る由もなく、ニコニコと機嫌よく天野がデコレーションを続けている。

中原  「なんか、楽しそうですね」

高村  「‥‥これは誰にあげるのか、調べる必要があるね!」

中原  「ええっ! そ、それはさすがにプライバシーの侵害になるんじゃ‥‥」

高村  「だって、誰に上げるのかわかんなきゃ、胃薬あげられないでしょ」

中原  「え? そ、そうかも知れませんけど‥‥」

高村  「それに、誰がアレをもらうのか千早希も気にならない?」

中原  「確かに‥‥」

高村  「よ〜〜〜し! 作戦開始!!」

中原  「ら、らじゃー!」

 迷彩服姿の2人は、なぜか匍匐前進しながらキッチンを後にした。


●KIZUNAファクトリー 事務所

 PM 5:00

 一心不乱に書類と格闘し、やっとひと段落ついた深沢社長と南利美がそろって顔を上げた。

深沢社長「‥‥とりあえず、去年の未処理分がお、終わった‥‥」

南   「ごくろうさまでした」

深沢社長「‥‥今年分からは明日以降に回しませんか?」

南   「後の残りはどんなにゆっくりやったとしても今月中にはカタがつきそうですからね。お疲れさまでした」

深沢社長「ありがとうございます‥‥」

南   「さて、と。コーヒーでも入れます?」

深沢社長「そうですね。あ、だったら食堂のほうに行きましょう。どっちにしろ、新しい豆持ってこないと」

南   「そう。それじゃ、久しぶりに豆を轢くところから始めましょうか」

深沢社長「いいですね」

 南と深沢社長は事務所を出、食堂へと向かった。

● KIZUNAファクトリー 選手寮

 PM 5:00

 午後いっぱいを使った天野真琴のチョコレートケーキ作りもやっと終わりが見えた。
 ホイップクリームとチョコスプレーで最後の飾りつけを終え、ラッピングをし、全ては終わったはずだった。そう、あの2人が来るまでは‥‥。

天野  「さて、と。後片付けも終わったし。お鍋がこげちゃったけど、このくらいなら大丈夫だと思うんだけど‥‥」

 いそいそとラッピングされたケーキを手にキッチンを後にしようとした瞬間、天野の前に高村と中原のふたりが立ちふさがった。

高村  「ま〜〜〜〜〜ちゃん。そのケーキ、明日のバレンタイン用だよね? だ〜〜れにあげるのかな〜〜〜〜?」

中原  「あげるんです〜〜〜?」

天野  「え、ええ!? そ、それは‥‥」

 悪魔ちっくな笑みを浮かべつつ、迫るあかねと中原の2人の異様な迫力に、思わず後じさる天野。じりっ、じりっと追い詰められて行く。

天野  「あ、あの、これはただたんに、去年、迷惑をかけた社長に‥‥」

高村  「それにしては手が込んでるし、すっごく楽しそうだったけど〜〜〜」

中原  「ですよ〜〜〜〜〜〜」

天野  「み、見てたんですか!? あれは、ただ‥‥、あ、あの、最初はチョコにしようと思ったんですけど、高村さんに借りた本に“簡単チョコケーキ”ってあって、作って見てるうちに楽しくなってきただけです!」

高村  「ふ〜〜〜ん? ホント〜〜〜?」

天野  「ホントです!」

高村  「千早希! 後ろ!!」

中原  「はい!」

 高村の言葉に中原が天野のバックを取る。

天野  「きゃああああ!!」

 天野のかわいい悲鳴を合図に、キッチンのなかを駆けまわる鬼ごっこが始まった。

天野  「なんで追いかけてくるんですか!!」

高村  「誰にあげるのか、教えてくれたら追っかけないってば!」

天野  「だから、社長にですってば!」

中原  「天野さんって、社長が本命なんですか?」

天野  「違います!!」

 壮絶な追いかけっこのなか、スキを見つけた天野が食堂の出入り口へと走る。

高村  「まてえ!」

 逃げ切った。そう天野が思った瞬間。

荒谷  「たっだいま〜〜〜!」

天野  「きゃあ!」

 釣果を置きに食堂へと入ってきた荒谷久美と永原ちづるの2人に、天野は思いっきりぶつかった。そして、かわいくラップピングされた箱はひゅるると宙を舞い、ぐしゃっと床に落ちた。

天野  「あーーーっ!」

高村  「あ〜〜〜〜〜あ‥‥」

中原  「ぐしゃって言いましたよね、今‥‥」

 涙目になった天野が、慌てて箱の中身を確認する。そこには見事にひしゃげたケーキが入っていた。まあ、人によっては箱に入れる前と大差がないと言うかもしれないが。

天野  「‥‥生まれて初めて、焼けたケーキが‥‥」

 天野のほうもプレゼントするためのケーキが、というよりも初めて自分で焼いたケーキがぐしゃっとなったことのほうがショックだったようだ。

永原  「‥‥いったいなんの騒ぎなの?」

 帰ってきたばかりで、事の次第がまったく理解できない永原と荒谷の頭にハテナマークが飛び交う。そんななか、足下に落ちているカードに荒谷が気づいた。

荒谷  「‥‥? えっと、『去年はご迷惑をおかけしました。今後ともよろしくお願いします』って、社長あてのカード?」

永原  「ああ、明日はバレンタインだから‥‥」

 荒谷の言葉にあっちゃあという顔になるあかねと中原。

高村  「‥‥ホントだったんだ‥‥ゴメンね、まーちゃん」

中原  「す、スミマセンでしたあ!」

 と、脱兎のごとく逃げ出しかけるあかねと中原。

天野  「‥‥だから、最初っからそうだって言ってるじゃないですか!!」

 怒った天野は意外にコワイ。去年、一緒に起こっていたあかねには一番それがわかっていた。

天野  「高村さんっ!!」

 逃げるあかねに向かって、ひしゃげたケーキを天野は投げた。

高村  「うひゃあ!!」

  思わずしゃがみケーキの直撃を避けるあかね。

深沢社長「どわっ!」

高村  「どわ?」

 あかねの頭上を越えたケーキは、運悪く食堂へと足を運んだ深沢社長の顔面にジャストミートしていた。かなりの勢いで顔面を箱ごと直撃したケーキのおかげで、足をすべらせた深沢は、そのまますっ転びしたたかに後ろ頭を撃ちつけた。
 少し鈍めの音が響く。

南   「あなたたち、いったいなにをやってるの!!」

 南の声が食堂に響きわたる。
 
 その後、たっぷりと南にお説教を、なぜか永原と荒谷までくらうこととなり、2月13日の夜はふけていくのだった。

                                  終わり

[131] バレンタイン狂奏曲!? 後日談〜〜14日の話 投稿者:TAKU@KIZUNA 投稿日:01/03/12(Mon) 00:36

● 2001年 2月14日 KIZUNAファクトリー 事務所

 バレンタインデー当日。でっかいたんこぶを作ったもののとりあえずみなからバレンタインのチョコレートをもらうことができ、少しうれしい深沢社長だった。
 が、夕方。南利美からもらった、キャラメル味のチョコボール(市場価格60円なり)を前に、このチョコボールをバレンタインのチョコと思っていいのかどうか思案にくれていた。
 ちなみに、チョコボールのくちばしには『銀のエンゼル』が輝いていた。
 そのエンゼルが、またもの悲しかった。
                           終わり                       

[123] 『ファイナルドラグーン』誕生秘話(その1) 投稿者:井手たかし 投稿日:01/03/08(Thu) 21:18 <URL>
宮本陽子「さ、それが終わったら、縄跳び5分間よ」
栗田双葉「は〜い、宮本先生!」
宮本「木葉ちゃんは、股割りと腕立て伏せね☆」
栗田木葉「ええ〜っ、股割り嫌いよう」
宮本「つべこべ言わないの! それっ、ギュッ、ギュッ!」
木葉「ぎゃあ! 痛い痛い、死ぬぅ〜っ!」
双葉「大丈夫よ木葉。死に水は取って上げるから(クスッ)」

 まもなく小学校の卒業式を終えて、4月からは晴れて中学生となる栗田
双葉と木葉の双子の姉妹。ドラゴン藤子の娘で『DIA JAPAN』の
お騒がせキッズは、宮本陽子を『先生』と呼ぶ。はじめのうちは、そんな
呼ばれ方は恥ずかしいのでやめるように言い聞かせた宮本陽子だが、この
双子がいつまでたっても先生と呼ぶのをやめないせいか、この頃は平気に
なってきた。

 もちろん、宮本陽子はこの双子の専属コーチというわけではなく、新人
・練習生全体のコーチ役なのだが。

 そんな『宮本先生』の指導の元、この双子は少しずつ基本を身につけて
いった。スリーパーホールドやボディスラム、エルボー、逆水平チョップ、
ドロップキックといった基本的な技とそれらの受け身がしっかり身に付い
て来たようだ。

 それと共に、それぞれの決め技の練習にも余念がない。双葉は投げ技、
木葉は飛び技に興味を持っていて、丸めたマット相手にジャーマンスープ
レックスとミサイルキックを浴びせる。まあ、140p、40sの体格で
は、まるで威力はないが……。

[124] Re: 『ファイナルドラグーン』誕生秘話(その2) 投稿者:井手たかし 投稿日:01/03/08(Thu) 21:21 <URL>
 その日も、ふたりで道場のリングに上がって練習していた。

木葉「う〜ん……」
双葉「どうしたの?」
木葉「双葉のジャーマンにあたしのミサイルキックを同時に浴びせたら、合
   体技になって威力も増すかなぁって思ったんだけれど」
双葉「あ、あたしそれね、いつだったか忘れたけれどプロレスで見たことあ
   るわよ」
木葉「やってみよっか?」

 おもむろに双葉が、丸めたマットをジャーマンに担ぎ上げる。すかさず、
木葉がコーナーポストからマットの上部にミサイルキックを浴びせた。ダー
ン!!と、大きな音を立てて丸めたマットがリング中央に叩きつけられる。

双葉「うん、我ながら、いい感じね」
木葉「凄い凄い。おもしろ〜い!」

 2回、3回と繰り返す打ちに、すっかり呼吸も合ってきた。このあたりは
さすが双子である。

木葉「この合体技さ、『ファイナルドラグーン』って名前にして、あたしと
   妹の双葉のフィニッシュ技にしよ!」
双葉「だから、あたしはあんたの『姉』だっつ〜の!」

 しかしながら、こうなってみるとこの技が実際どれぐらい効果的というか、
威力があるのかを、双子は知りたがった。

双葉「乙姫先輩がいるといいんだけれどなぁ」
木葉「打たれ強いから、実験台にもってこいなんだけどなぁ。あ、この際あ
   れでいいわね」

 双葉が『あれ』呼ばわりした空白いづみが、ちょうどそのとき、ロードワ
ークから道場に戻ってきたところだった。

双葉「あんたねぇ、先輩に向かって『あれ』呼ばわりはないでしょ、もう。
   ……あ、空白せんぱ〜い、いづみ先輩!!」
空白いづみ「んっ? 何なに?」
双葉「ちょっと来て下さ〜い!」

 呼ばれて、空白いづみはリングに上がった。

木葉「先輩、実はですねぇ……」

 そういいながら、木葉は空白いづみの注意を引きつけつつコーナーポスト
によじ登る。双葉はそっと背後に回って……。

双葉「それっ!」
木葉「てりゃああ!」
空白「えっ? うわああああっ!?」

双葉が、空白いづみの腰に背後から手を回してぶっこ抜きジャーマン! 
同時に、木葉がコーナーポストから顔面目がけてのドロップキック! 
 ズダーン!!とばかりにリング中央に強烈に叩きつける。

双葉・木葉「やった〜っ、大成功!!」

 ハイタッチで喜び合う双子。

 肩から後頭部を思いっきり叩きつけられた空白いづみは、その時すかさず、
鼻血を垂らしながら鬼のような形相で、ムクッと起きあがった。

空白「あんたたち〜お仕置きですぅ!!」
木葉「やばい! 怒った!」
双葉「逃げろ!(苦笑)」
空白「待ちなさいですぅ〜!」

 その後、ロードワークを兼ねた鬼ごっこが、横浜の山中でおこなわれまし
たとさ(笑)。

     【DIAのHPに掲載、◆K・たに様確認済み】

[125] Re^2: 『ファイナルドラグーン』誕生秘話(その2) 投稿者:阿僧祇 投稿日:01/03/10(Sat) 03:04
里見恵理「いずみちゃん、不幸や!(涙)」

[122] 逃げたんじゃないのか? 投稿者:井手たかし 投稿日:01/03/05(Mon) 14:21 <URL>
 現地時間で3月4日の午後2時頃、メキシコ・バハ・カリフォルニア州
ラ・パス市内のデスピナ道場にて、ゼロ・ファイターこと真壁早苗とのイ
ンタビューを行った。以下にその内容を掲載する。

初島純一記者 「ども、トレーニング中すみません」
ゼロ・ファイター 「いえいえ。ちょうど、ソネット(注:デスピナ道場
の練習生。6月頃のデビューを目指している)のスパーリングの相手をデ
スピナ(・リブレ)さんに替わってもらったところだから」

初島記者 「こちらは長いんですか?」
ゼロ・ファイター 「そうですね、一昨年のデビューからずっとこのメキ
シコにいますから。ほとんど日本に帰っていないし」
初島記者 「ルチャ・リブレの本場でやろうと思われたきっかけは?」
ゼロ・ファイター 「えへへ、まあその、当時の新日本女子プロレスには
入れそうになかったし、こっちなら何とかなるかなって。甘かったですね、
ある意味。毎日大変ですよ」
初島記者 「というと?」
ゼロ・ファイター 「何でも自分の責任でやらなくちゃならないし……フ
ァイトマネーなんて雀の涙ですよ。こっちじゃあ、スペルエストレージャ
クラスでなければ、ルチャ・リブレだけでは食べていけないし……親は猛
反対でしたから、仕送りなんかないしねぇ。でも、好きなことをしてるん
だから、がんばらなくっちゃね」

初島記者 「そういえば、ゼロ・ファイター選手はラ・ペルフェクタつま
り菊池理宇選手を目標にされているそうですね」
ゼロ・ファイター 「凄いですよね、菊池さんは。試合でのテクニックと
か、もちろん、観衆の乗せ肩も含めた意味でですよ。あこがれています」
初島記者「今シリーズは、その菊池選手もTMLLの試合に参戦されるよ
うですね。対戦してみたいですか?」
ゼロ・ファイター 「そりゃあ、シングルで当てていただければ最高なん
ですが、タッグでもいいから、組んでもいいから一緒に試合をしたいです
ね。デスピナさんもそうだけど、テクニックを盗みたいですし。上手い人
と一緒に試合をさせてもらえると、色々勉強になります」
デスピナ・リブレ(リングの上から声をかける)「早苗〜! そんなに誉
めても何も出ないわよ〜!!」
ゼロ・ファイター 「あはは、そんなつもりはありませんよぅ(苦笑)」

初島記者 「(苦笑)ところで、3月10日には、日本でタイトル戦です
ね」
ゼロ・ファイター 「はい! TMLLライト級シングルベルトに挑戦で
す。『DIA JAPAN』という団体にはちょっと興味があるので、一
度リングに上がってみたかったし。丁度いい機会ですから」

初島記者 「話によると、対戦相手の王者・シュトローム乙姫は現在失踪
中だとか……」
ゼロ・ファイター 「そうなんですか? うふふふ、あたしの強さにおそ
れをなして逃げたな(クスッ)」
デスピナ・リブレ(ソネットに逆エビを決めながら再び、リングの上から声をかける)「そんな分けないでしょ!!」
ゼロ・ファイター 「あははは……でも、オーナーのセリフじゃないけれ
ど、団体ベルトを取り返すんだという意気込みで、頑張りますよ。別に対
戦相手がシュトローム乙姫選手でなくても、暫定王者を立ててくれればい
いですから。誰が相手でも精一杯頑張りますからね!」
初島記者 「ご健闘をお祈りいたします」

[121] 霞月いおりの一日 投稿者:◆K(UP) 投稿日:01/03/01(Thu) 02:00
AM4:00

 いおりの朝は早い。
 眠気覚ましにブラックコーヒーを飲もうとするが、
 あまりにも苦いので角砂糖を三つ入れる。

AM4:15

 新聞配達のアルバイト。
 今日は広告が少ないので手間が省けて
 ちょっとラッキー。
 郊外の住宅街を新聞を持ってとにかく走る。
 配達が終わっても更に走る。
 朝のマラソンは10キロがノルマ。

AM8:00

 朝食。
 半熟卵が固ゆでになってしまったのに不満顔。
 仕方ないので潰してサラダにする。
 ご飯一合、味噌汁二杯。
 体が資本なので、朝からしっかり食べる。

AM9:00

 DIA−Jの道場へ。
 まだ誰も来ていない道場で、一人練習を始める。
 9時半ごろ社長が姿を現すが知らん顔。
 しかし、いおりの鬼気迫る表情に社長は声すらかけられず
 スゴスゴと退散。

AM10:00
 選手たちがやってくる。
 しかし、挨拶もせず練習を続けるいおり。
 普通なら大問題なのだが、
 乙姫という前例があるせいか、香月以外はあまり気にしていないようだ。
 そして香月が怒るが完全無視。
 宮本が霞月を注意してようやく場が落ち着く。
 少しだけ道場に緊張が走るが、いつものことなので、最近は皆も慣れてきてしまっているらしい。
 社長と香月の悩みの種である。

PM0:00

 昼食。
 道場横の庭で、朝作ってきた弁当を食べる。
 今日はデザートに好物の杏仁豆腐付き。
 ちょっと嬉しい。

PM3:00

 他の練習生たちがやってくるが、
 ほんの少し顔を合わせただけでいおりは帰宅。
 新聞配達(夕刊)のバイトがあるためだ。
 いつの間にかいなくなったいおりに対し、
 香月が再び激怒。
 でもいなくなったことを知ったのは一時間後だったりするし、
 これもいつもの風景だったりする。

PM3:30

 新聞配達。
 夕刊は部数が少ないため、遠回りして走る。
 午後のジョギングノルマは12キロ。

PM5:30

 銭湯へ。
 「とらばぁ湯」という名前に、
 なんとかならないものかと思案する。

PM6:30

 買い物をして、ビデオ屋に寄って帰宅。
 
PM7:00

 夕食。
 鶏肉入りの卵雑炊と朝食で残ったサラダ、味噌汁を食べる。
 おやつには、実家から送ってもらった温州みかん。
 明日、宮本に持っていってあげようと思う。

PM8:00

 借りてきたビデオを見る。
 「極真空手の系譜」「卵半熟先生の卵料理」
 「フランダースの犬」の三本。
 
PM10:00

 就寝。
 明日も良い一日でありますように。
-----------------------------------------
※霞月いおり担当・秋草さんの原稿をdaiya◆Kが加筆・修正したものです。

[120] 2/7  奈々緒、真剣勝負 投稿者:◆K(UP) 投稿日:01/03/01(Thu) 01:59
やはりプロレスラーの戦場といえばリングの上だ。
しかし、時はまさに休憩時間!
練習生の奈々緒と深雪はリングから少し離れた長机の前で真剣勝負の真っ最中だった。

「ただいまこちらではパンレット、生写真、キャラクターグッズを発売しております。」
練習で鍛えた大声をはりあげ、お客さんを呼び込む大決戦…。

客1 :「あの、乙姫選手のプロマイドをお願いします。」
奈々緒:「はい、400円になります。400円ちょうどいただきます。」
深雪 :「ありがとうございました〜。」
奈々緒:「…ねぇ、深雪。『乙姫プロマイド』ってホント良く売れるよね。」
深雪 :「うん、男の人に人気あるよね。」
奈々緒:「乙姫さんだけは芸能プロの関係で生写真の販売できないしね。」

説明しよう。シュトローム乙姫の肖像権は芸能プロダクションで管理されているため
プライベートな部分を写真に撮って勝手に売ることはできないのだ。
他の選手には何枚かあるプライベートな生写真がほとんど無いのも売上トップの原因だ。

深雪 :「でももうこのプロマイドはファン全員に行き渡ったんじゃないのかなぁ…」
奈々緒:「第2段も作って欲しいよね。売れ筋だし。」

売上が落ち着いてきたシュトローム乙姫のプロマイドに代わり今、人気上昇中なのは
ファルコン香月の生写真である。今までは女性層の購入が主であったが最近になって
男性客の購入が増えているのである。

客2 :「すみません、生写真はどこですか?」
深雪 :「はい、生写真はあちらの展示で番号をご指定下さい。どれを選んでも
     1枚150円になります。」
客3 :「あのぅ、生写真の37番と40番と43番お願いします。」
奈々緒:「申し訳ありません。37番と43番は売り切れているんですが…」
客3 :「…じゃ40番だけでいいです。」
深雪 :「それでは、150円になります。ありがとうございました。」
奈々緒:「これで40番も売り切れちゃったよ、香月先輩の生写真、すごいね。」
深雪 :「売り切れた生写真の見本を外しといて。注文がきちゃうとまずいから。」
奈々緒:「オッケー」

奈々緒が写真の見本を外すために売り場を離れると同時に、サングラスにマスクという
いかにも変装してます風の男が一人、売り場にやってきた。
男  :「…生写真の28番、お願いします。」
深雪 :「はい?28番ですか、少々お待ちください。」

28番の写真を取り出す深雪、それは前回のシリーズで売れ残っていた
「大宇宙軍団」のビッグバン徳山の写真だった。
男はあたりを気にしながら金を払い、写真を受け取ると
「ビッグバン徳山最強…」とつぶやいていそいそと去っていった。

深雪 :「あの写真買う人もいるのねぇ。でもどっかで見たような気がするけど…」

男の去ったのとは反対の方向から生写真を見本の展示から外してきた奈々緒が
その写真を見てしきりにうなずきながら帰ってくる。

深雪 :「どうしたの?写真になにかあったの?」
奈々緒:「うん…。売り切れになった理由が解ったよ。」
深雪 :「理由!?」
奈々緒:「ほら、ここ。」

深雪が写真をのぞくと、ファルコン香月が写っているバックの道場の窓から
シュトローム乙姫が小さく顔をのぞかせている。
売り切れた写真(ファルコン香月の写真ばかり)には必ず乙姫の影がバックに映っていた。
通な客がファルコン香月の生写真を漁り、扉の影などにちょこっと写っている
乙姫ねらいで購入していたのだ。

奈々緒・深雪:「マニア恐るべし…」
-----------------------------------------
※奈々緒・深雪担当・NOGさんの原稿をdaiya◆Kがアップしたものです。

[118] 斎藤彰子、中原千早希に塩を送る その1 投稿者:TAKU@KIZUNA(アップ係) 投稿日:01/02/24(Sat) 09:45
●2月11日 後楽園ホール、控え室
   信戦組の三人が入って来る。
田中貴子「真女の控え室は、さすがに広いな〜!」
神矢美香「リングももうできてるみたいですね。」
田中貴子「よっしゃ。挨拶もすんだし、着替えてとっととアップ始めようか。」
斎藤彰子「・・・・・。」

   それぞれ、オレンジの水着に黄色のシャツ(神矢)/黒のスパッツ(田中)/空手着(斎藤)に着替えて出てきた三人。
   周囲では、本日の出場選手たちがウォームアップを始めている。
関口彩音「アキコさんっ、おタカさん、神矢さーん!」
武田晴歌「お久しぶりでっすぅ〜☆ お元気でした!?」
   あいかわらずジーンズ上下でピンクのセーターを着た関口と、ちょっとよそいきな赤いスカートをはいた黒いジャケットの武田が近づいてくる。
田中貴子「おっ、関口に武田。今日は試合に?」
武田晴歌「(首を横に振り)竹内のセコンドで来ました。」
田中貴子「あ、新人王リーグか。」
武田晴歌「張り切ってるんですよ、竹内ってば。」
田中貴子「…うーん、私もそっちにすればよかったな。」
武田&関口&神矢「反則!」
田中貴子「なぜ!? プロデビューの日はお前達といっしょだぞ?」
神矢美香「田中さんを新人なんて思ってる人はいませんよ…」
田中貴子「なんか不公平だな。」
   そこへやって来たのは黒いリンコスに『WARS』のジャケットを羽織った…
竹内亜紀「あれ? お久しぶりどす〜!」
神矢美香「あ、竹内さん。今日は、がんばってね!」

   離れたところにいる、KIZUNAの選手達。
天野真琴「向こうが少し騒がしいですね?」
高村あかね「え? ああ、WARSの方言トリオとかいう新人のコたちでしょ。それと信戦組の…」
神田幸子「…高村、柔軟を頼む。」
高村あかね「ほ〜〜い! (柔軟の手伝いをしながら)そういや千早希は?」
天野真琴「(準備運動しながら)すぐ戻ってくるって言ってどこか行きましたよ」
高村あかね「な〜〜んだ。千早希がいたらおもしろかったのに〜〜」
天野真琴「あの武田さんとの一件ですか? かわいそうですから、かんべんしてあげましょう。それより今日の試合なんですけど、作戦どうします?」
高村あかね「う〜〜ん、難しい話はあかねパス」
天野真琴「気持ちはわかりますけど、今日は初戦ですから」
高村あかね「わかったよ〜〜。じゃ、さっちゃん、どうする?」
神田幸子「さっちゃんは止めろといってるだろう。‥‥まあいい。そうだな、まず山上(あかね)だが…」

   近くまで戻ってきた中原千早希。
中原千早希「あちゃあ〜〜。アップしながらミーティングしてる…邪魔しちゃ悪いな」
   軽くため息をつき、一人でシャドーを始める中原。

   信戦組
田中貴子「よし。神矢、ミット頼む。竹内も蹴ってけよ。」
竹内亜紀「お言葉にあまえさせていただきま。」
関口彩音「あっ、試合は出ないんだけど、わたくしも蹴っていかっぺか?」
田中貴子「おう、いいぞ。竹内の後でな。」
   あちこちでのアップの物音にまざり、ズバン、ズバン、と響き始めるキック音。

武田晴歌「あの…アッコさん?」
   座ったまま顔だけ向ける斎藤彰子。
武田晴歌「どこか調子でも悪いんですか?」
斎藤彰子「いや。何故だ?」
武田晴歌「アッコさんはいつもアップのとき静かですけど、今日はまた一段と無口な気がして…」
斎藤彰子「フ…私だって緊張するときはある。」
武田晴歌「えっと、今日の相手は…」
斎藤彰子「中西葵だ。」
武田晴歌「あっ、中西選手ですか。アッコさん、きっと勝ってくださいね。私がフォールしたことのある相手なんですから、負けたら罰ゲームですよ♪」
斎藤彰子「…何をやらせる気だ。」
武田晴歌「そうですねぇ…それじゃ、もし負けたらぁ…、今夜は私たちのパシリ! ってのはどーですか?」
斎藤彰子「(苦笑)...まあいいだう。そうだ、武田。ウォームアップを…」
   そのとき、はっ、と何かに気がつき、顔がこわばる武田。
斎藤彰子「? どうした」
武田晴歌「あっ、あの…トっ、トイレ、トイレ行ってきます!」
   あわてて逃げるように走り去っていく武田。
   斎藤、疑問顔で武田が見ていた方を見る。

   スイサイド・ガールズがミーティングしながら軽くスパーしている。
   少し離れたところで、一人キックの練習をしている中原千早希。
   反対側では田中の持つキックミットに竹内の蹴りが飛ぶ。
田中貴子「おっ、前よりパワーがあるぞ、竹内!」

   斎藤、スッと立ち上がるとKIZUNA勢の方へ向かう。

斎藤彰子「中原千早希…選手だな。」
中原千早希「(空蹴りを止めて)え? はい。」
斎藤彰子「すまんが、一人なら、アップの相手を頼めるか?」
中原千早希「‥‥え、あ、その、あたし‥‥ですか?」
斎藤彰子 「ああ」
中原千早希「(うわ〜〜斎藤選手に声かけられちゃった‥‥)‥‥あ、こ、こちらこそよろしくお願いします!」

   斎藤と中原、ごく軽いライトスパーを始める。
   打撃主体の展開。
   緩やかな速度で二人の掌底とキックが、何度も交錯する。
   何発目か、中原のミドルが飛んだとき…
斎藤彰子「・・・・・。」
中原千早希「・・・?」
   何か気になった風だったが、斎藤が何も言わないのでスパーはつづく。
   しかし、しばらくしてまたミドルを放つと
斎藤彰子「・・・・・。」
中原千早希「? あの…」

   が、その時、
田中貴子「斎藤さーん、ちょっとお願いしまーす!」

斎藤彰子「…。中原選手、ありがとう。」
中原千早希「あっ、こちらこそ…」
   ゆっくりと去っていく斎藤。
   そのうしろ姿を見送りながら、なんとなくひっかかるものがある中原千早希だった。

 >第4試合(竹内亜紀vsカレン=ファレス)
レフリー「ワンッ、トゥーッ、…!」
   竹内亜紀、くわっと目を見開きカウント2.8で跳ねる。
   カレン=ファレスが飛び離れると、竹内は頭をぶんっと振りながら起き上がる。
竹内亜紀「不覚。でも、まだまだどすっ!」
   身構えたカレン=ファレスに、叫び声を挙げながら強引につかみ掛かる竹内。
竹内亜紀「よろしうおますか! いきますえーっ!」
   さらに強引に持ち上げ、ブレーンバスター。
   ダーーーン!

 >リングサイド
武田晴歌「よしっ! よく投げた、タケウチ!」
関口彩音「逆転だァよっ! 延髄、極めろーっ!」

 >第4試合(竹内亜紀vsカレン=ファレス)の続き
   バキィッ、と大きな弧を描いて入る、竹内の延髄斬り。
   場内喚声。
   顔をしかめてるたカレン=ファレスに飛び乗りフォールする竹内。

  >控え室
   響く試合終了のゴングの音。
田中貴子「竹内が勝った。」
神矢美香「私、あと3試合ですね。」
田中貴子「その次が私か。」

  >花道
武田晴歌「やったじゃんけ、タケウチぃ!」
関口彩音「得意の延髄も切れまくって、快調だっぺな!」
竹内亜紀「まだまだ緒戦どす、油断はあきまへんえ〜」
   といいつつ、鼻がふんっ、と獅子吼。(笑)
武田晴歌「あっ!」
   いきなり、こそこそ竹内や関口の影に隠れる武田。
関口彩音「どしたんだっぺ?」
武田晴歌「シッ!」
   そのまま、入場口から控え室へと入っていく三人。
武田晴歌「(心の声:よかった、次の試合に集中してて、こっちに気づかなかったみたい…)」


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※阿僧祇さん執筆のエピソードに、TAKUこと大ちゃんが中原のセリフなど加筆したものです。

[119] 斎藤彰子、中原千早希に塩を送る その2 投稿者:TAKU@KIZUNA(アップ係) 投稿日:01/02/24(Sat) 09:47
●2月11日 真女興行 第5試合

リングアナの声「赤コーナーより、絆ファクトリー・中原千早希選手の入場です!」
   観客の喚声と拍手。

  >第5試合(中原千早希vs畑中将子)
中原千早希 「くっ‥‥‥」
 畑中将子のレフトハンドラリアートをもろにくらい、ダウンする中原。
 フォールにきた畑中の身体をカウント2で跳ね上げ、左右のキックで流れを引き戻そうとする中原だった。が、ローからミドルへのコンビネーションキックを放った瞬間、絶妙な力とタイミングで放ったはずのミドルキックが、なんなく畑中に見切られ、しかもキャッチされてそのままアキレス腱固めへと移行されてしまう。
中原千早希 「くああああああっ!」
 なんとかロープへ逃げ、スタンド状態から再度、中原はキックで切りこんで行った。
 
  >試合後、控え室
   帰り支度をしてる一同。
田中貴子「まいったなぁ…信戦組は全滅か。」
斎藤彰子「相手は真女、格が違う。私はともかく、お前達は善戦したと言っていい。」
神矢美香「おタカさんなんか、あのビューティー市ヶ谷選手を追いつめましたもんね。すごかったですよ。」
田中貴子「いや…市ヶ谷選手はベテラン中のベテランだからね。試合を盛り上げるために多少は技を受けてくれるよ。」
神矢美香「そうでしょうか?」
斎藤彰子「・・・・・。」
田中貴子「じゃ、何か食ってからホテルへチェックインしましょう。」
神矢美香「せっかくだから市ヶ谷のパク森カレーへでも行きます?」
田中貴子「ちょっと遠回りにならないか? 水道橋にも黒豚餃子とかあるよ…」
   そのとき突然、
中原千早希「‥‥あの。」
   おどろいてふりかえる斎藤彰子。
中原千早希「ちょっとお話したいことがあるんですが、いいですか斎藤さん。」
田中貴子「なんだなんだ、ケンカか?」
中原千早希「あっ、いや、そうじゃなくて…ちょっと気になることがあるんでお話ししたいんです。」
斎藤彰子「・・・・・。」
中原千早希「時間はとらせません。5〜6分、時間いただけませんか。」
斎藤彰子「…田中、悪いが先に行っててくれ」
田中貴子「はい。じゃ、神矢…」
   田中と神矢、先に出て行く。
斎藤彰子「話とは?」
中原千早希「‥‥あの、今日の試合前の練習であたしのキックを見て、斎藤さん少し顔をしかめましたよね。それが、なんだったのか聞きたくて‥‥」
斎藤彰子「…別に、たいしたことじゃない。」
中原千早希「でも! 一度じゃなく2度も‥‥そりゃあ、あたしのキックなんて斎藤さんから見ればお遊戯みたいなものかも知れませんけど、あたしにとってキックはいちばん大事な武器なんです! だから‥‥」
斎藤彰子「…『敗軍の将は兵を語らず』と言う。言うことは何もない。」
中原千早希「あたし‥‥打撃は独学に近くて‥‥でも一生懸命練習してきました。でも、DIAで里見さんや信戦組の人たちと戦わせてもらって‥‥、あたしのキックが全然まだまだだって思い知らされて‥‥」
 そこで言葉を切り、言葉を飲みこむ中原。
 じっと見ている斎藤。
 中原は意を決したように斎藤の瞳をまっすぐにみつめ言葉を切り出した。
中原千早希「あたし、里見さんにも竹内さんにも、武田さんにも負けたくない! あたしの実力じゃおこがましいのはわかってますけど‥‥。だからこそ、あたしが学ばなきゃならないもの、あたしに足りないものがあるのならそれを克服しなきゃならないんです! だけど、今のあたしじゃそれが見つけられない。お門違いなのはわかってます。斎藤さんが、もし、それを見つけられたのならヒントをください。それを克服するために!」
斎藤彰子「…たいしたことではない。腰は充分に切れてるのに、足がついていくのが少し遅いと感じただけだ。」
中原千早希「足が…遅い?」
斎藤彰子「威力のある蹴り方に、体全体で蹴るというのがある。上体が倒れ、腰は切られ、足は鞭のようにしなってヒットする。ここまでは正しい。だが、鞭を伝わる力の波が少し遅かったんだ。」
中原千早希「力の…波…」
斎藤彰子「そのため、フルパワーの蹴りほど相手に見切られて裏をかかれる。」
中原千早希「!」

  >第5試合(中原千早希vs畑中将子)の回想
 中原が、ローからミドルへのコンビネーションキックを放った瞬間、絶妙な力とタイミングで放ったはずのミドルキックが、なんなく畑中に見切られ、しかもキャッチされてそのままアキレス腱固めへと移行されてしまう。
中原千早希 「くああああああっ!」

  >試合後、控え室(続き)
中原千早希「それで…」
斎藤彰子「竹内にも似た癖があり、威力はあるがヒットが常に遅い。」
中原千早希「竹内さんも…?」
斎藤彰子「里見は手は早いがガードが甘く脚は威力が無い。(急に厳しい目になり)武田の突き蹴りなど論外、別の奴と掴み合いしながらでも倒せる。(表情が戻り)この二人に比べれば、中原選手の蹴りにはパワーもキレもある…だがここ一発のときには反撃される。武田などは特にそうだ。心がけておいて損はないだろう。それだけだ。」
中原千早希「・・・・・。」

 >出口
田中貴子「何があったんですか?」
斎藤彰子「…たいしたことじゃない。」

   遠くに方言トリオ。
武田晴歌「あっ、アキコ・さぁぁぁ〜んっ☆(ニヤリ)」
竹内亜紀「武田はんから聞きましたえ〜(ニヤリ)」

斎藤彰子「・・・・・。」

 >夜、ホテルの近くの公園横
   ビニール袋を提げた斎藤が、不服そうに歩いている。
   車が通りすぎていき、ライトが一瞬だけ斎藤の影を照らす。
   その後はまた、暗い街灯の明かりだけ。
   斎藤、ふと何かを感じて立ち止まる。ゆっくりと公園を見る。

   公園の水銀灯の下、ひとり空蹴りを続ける、トレーナー姿の中原千早希。
   白い息が中原を包んでいる。
   雪が降りそうな寒さの中で、その頬にはうっすらと汗が。

   斎藤、厳しい顔でしばらく見てから、足早に立ち去る。

 >ホテルの一室、トリプルルーム。
   田中貴子はすでに寝ている。
   ノックの音で神矢美香が扉を開ける。
斎藤彰子「今戻った。」
   斎藤の方を一斉に見る、ソファーやベッドに座っていた方言トリオと神谷。
   斎藤の顔を見た瞬間、それまで談笑していた武田たちの顔がみるみる青ざめて…
武田晴歌「さ、斎藤さんっ、申し訳ありませんっ!」
斎藤彰子「? どうした。お前の言ってた『から○げクンRED』も『カルシ○ムパーラー』も揚げたじゃが芋も、ちゃんと買ってきたぞ?」
武田晴歌「い、いえっ、あ、ありがとうございます! こんな罰ゲーム、二度と言い出しませんから、許してくださいぃっ!」
   泣きはじめながら、土下座する武田。
斎藤彰子「かまわん。約束は約束、試合に負けたのは私だ。」
   斎藤彰子、テーブルにビニール袋を置くと、バッグからキックミットを出す。
神矢美香「どちらへ?(ついていこうとする)」
斎藤彰子「…来なくていい。ちょっと出てくる。先に寝てていいぞ。特に武田、明日は大阪だろう、早く寝とけ。」
   部屋を出ていく斎藤。一気に融けた緊張。
関口彩音「すげー殺気だったっぺな…(汗)」
武田晴歌「…こ、殺されるかと思った…(涙)」
竹内亜紀「でも、怒ってはるようには見えへんかったけど?」
神矢美香「一人でキックミット持って、どこ行くんでしょうね。」

 >夜、ホテルの近くの公園横
中原千早希「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
   膝に手をついて息を整えている中原。
中原千早希「なんでできないんだろ‥‥。くっそー、くやしいなぁ‥‥」
   水銀灯の柱に、がんっ、と拳槌を叩き付けるが、気を取り直して構えをとり、また空蹴りを始める。その後ろから…
斎藤彰子「中原選手」
中原千早希「あ、斎藤さん! どうしたんですか? こんな時間に‥‥」
斎藤彰子「明日も試合のはず。早く休まなくていいのか?」
中原千早希「…そうですね。でも…、でも『鉄は熱いうちに打て』です!」
斎藤彰子「・・・・・。」
   無言のまま、キックミットのベルトを口にくわえ腕に装着する斎藤彰子。
中原千早希「? …斎藤さん?」
斎藤彰子「(ミットをパンッと叩き合わせ)その鉄に火を入れたのは私だろ。責任をとって、つきあわせてもらう。」
中原千早希「え…」
斎藤彰子「…不服か?」
中原千早希「い、いえとんでもない! お願いします!」
   瞳に炎が宿る中原。


   その夜、遅くまでミットを蹴り込む音が公園に響いていた。

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※阿僧祇さん執筆のエピソードに、TAKUこと大ちゃんが中原のセリフなど加筆したものです。

[112] またも乙姫、失踪!! 投稿者:daiya◆K・たに 投稿日:01/02/19(Mon) 17:09
2001.2.15朝 横浜・DIA-J寮

星野 「乙姫ちゃーん、里見ちゃーん、朝だよー。起きないと香月さんに起こられるよー」
里見 「……うう、もうちょっと寝かせてーな……ってぇ〜〜〜!?」
 珍しく寝坊していた里見が、ガバッ、と慌ててベッドから跳ね起きる。
 ゴン。
 その勢いで、2段ベッドの2階下部の板に頭をぶつける。
里見 「あいたーーーー!!??」
 朝からたんこぶ作って頭をおさえる里見。まあ、これくらいの不幸はいつものことである。
星野 「だ、大丈夫!? ……ってあれ、乙姫ちゃんは?」
 部屋に入ってきた星野が、頭を押さえている里見に向かって言う。
里見 「……へ? あれ、そういや、いつもなら一緒に香月さんとロードワーク行く時に起こしてくれるのに……」
星野 「さっき香月さんが帰ってきたけど、今日はひとりだった、って言ってたけど……」
里見 「え、ええ!? ま、まさか……」
 2段ベッドの2階部の、乙姫のベッドを慌ててのぞき込む里見と星野。
 そこには、予想はしていたが、あっては欲しくないものが置かれていた。
“香月さま、里見ちゃん、ごめんなさい。探さないでください。 乙姫”
里見 「うわーーーー! ど、ど、どないすればええんやぁ!?」
星野 「と、とりあえず、あたし、皆に報告してくる!」

     ・
     ・
     ・

2001.2.15朝 横浜・DIA-J事務所

社長 「ああ……しまった……まさか、里見まで置いていなくなるとは……」
星野 「そういえば、昨日、ずっっと落ち込んでましたからね……」
空白 「なんか心ここにあらず、って感じだったですぅ」
里見 「……“お姉さま”や……」
宮本 「お姉さま?」
里見 「昨日、Sitto団のなかにいたマネージャー。写真でしか見たことないから自信ないけど、たぶん、あれは乙ちゃんがずっと探しとった、都鳥美貴やったと思います」
社長 「あ、そういえば。……どこかで見たような、とは感じたけど、思い出せなかった」
里見 「乙ちゃん、必死に探しとったから……」
宮本 「それであんなに落ち込んでいたんだ……」
空白 「ただでさえ、里見ちゃんとのタッグ解消があって、落ち込んでいたはずですぅ」
稲葉 「捜索願い、出しましょうか?」
社長 「……いや、とりあえず様子を見よう」
宮本 「でも、確か来週には試合が……」
社長 「今までも、何だかんだ言ってギリギリには帰ってきた。ひとまず、私は彼女を信じたい」
里見 「もし、来なかったら……?」
社長 「その時は、その時だ」
空白 「あのぉ、社長?」
社長 「なにかな?」
空白 「考えたんですけどぉ、乙姫ちゃん、都鳥って人を探してたんですよねぇ?」
里見 「そうです」
空白 「で、その人が昨日、Sitto団と一緒に現れたってわけですよねぇ?」
社長 「そうだけど……あ」
宮本 「まさか……」
里見 「いや、乙ちゃんならやる。鳥取くらい、平気で行くと思います……」
蒼樹 「だって、お金持ってないはずじゃ!?」
里見 「ヒッチハイクとか」
一同 「・・・・・・・」
里見 「……きっと、あてのないヒッチハイクになるから、迷惑をかけたくないと思って、ひとりで行ったんやと思います」
社長 「……まあ待て。これはあくまで推測に過ぎない話だ。とりあえず、PWPさんの方には連絡しておくけどね。あと、念のため綾乃にも」
里見 「……乙ちゃん……どこ行ったんや……」

社長 (しかし困ったなあ……来月10日には、TMLLライト級ベルトの防衛戦も予定していたのに……)

[110] 亜矢の決心 番外編〜〜〜12月17日夜の話 投稿者:TAKU@KIZUNA 投稿日:01/02/18(Sun) 18:16
● 2000年12月17日 KIZUNAファクトリー 南道場

 船木亜矢の『Sitto団』入り。
 DIAでの試合前に上映されたビデオに天野真琴は動揺を隠せなかった。
 それはスイサイドガールズとして行動を共にしていた高村あかねにしても同じだった。
 真女参戦組が帰ってくるまで、じっと押し黙ったまま天野真琴は道場で待ちつづけた。
 そして、日付が変わろうとしたとき、永原ちづる、荒谷久美、中原千早希と一緒に、南利美と社長が戻ってきた。

高村  「……だから、どういうことなのってあかねは聞いてるの! 社長は知ってたんでしょ! あんなビデオ、DIAで流してるんだから。DIAのたに社長となにたくらんでるの!」

社長  「いや、あれは……」
 
 高村の剣幕にしどろもどろな社長。
 ことの経緯を聞いた中原は、ショックを受け半放心状態となっていた。

高村  「亜矢にどんなこと言って、あんな形でだましたの!!」

社長  「だます? だますってどう言う意味なんだ、あかね」

高村  「読んで字の如くに決まってるじゃない! じゃなかったら、亜矢があんな行動するわけないもん!」

天野  「‥‥社長。わたしからも質問があります。社長はこのことを知っていたんですか?」

   まっすぐに社長をみすえる天野の瞳の奥には隠しようのない動揺があった。

天野  「知って‥‥いたんですか?」

社長  「知っていたよ」

   その言葉に激昂する高村。

高村  「ほら! 知ってたんじゃなくて仕掛けたんだよ!」

  顔を真っ赤にして怒っている高村をせいして、天野が社長に問い掛けた。

天野  「‥‥知っていて、なにも言ってくれなかったんですか?」

社長  「亜矢の歩む道について、キミたちに伺いをたてなければならないのか?」

高村  「むっか〜〜〜〜っ! どう言う意味よ、社長!」

社長  「それこそ、あかねの言葉じゃないが読んで字の如くだ」

    真っ赤になって怒る高村を、荒谷が押さえつける。

荒谷  「あかね、落ちついて!」

高村  「これが落ちついてられるか〜〜っ!」

天野 「‥‥社長。どうして、亜矢を行かせたんです? わたし、情けないです。悩んでいた亜矢を‥‥」

社長 「‥‥それが、亜矢をダメにしていたのがわからないのか?」

    その言葉にショックを受ける天野。

天野 「‥‥っ! わたし‥‥‥」

高村 「なに? それじゃ亜矢が悩んでたのはあかねたちのせいだっていうの!?」

社長 「そうじゃない。そうじゃないが、周囲がちやほやしてやることが亜矢にとって良いこととは限らない」

高村 「なんだと〜〜!」

   さらに激昂する高村。
   必死に止める荒谷。

社長 「どっちにしろ、もう話は終わりだ。解散」

高村 「そんなんで、納得できるか〜〜〜!」

 さっさと道場をあとにした社長に向けて、怒鳴り声をあげる高村。
 自分自身、社長の言葉にショックを受けている天野だったが、よりショックを受けている中原を気遣い、寮へと連れて行く。

 そんななか、少し離れたところからことの成り行きを見守っていた南へ、永原が近づき声をかける。

永原 「少し、突然すぎたんじゃないですか?」

 一瞬、視線だけを永原に向け南が口を開く。

南  「‥‥永原。あなたはどう思っているの?」

永原 「‥‥そうですね。少しショックではあります。天野の言葉じゃないですけど、亜矢が相談もできないほど、情けない先輩だったってことは事実ですし‥‥でも‥‥」

南  「でも?」

永原 「亜矢の気持ちもわかります。武者修業以外で海外に行くときは、そんなもんですよね。だからと言って、亜矢の行動、そして社長のあの言葉に100パーセント納得しろと言われても‥‥」

    永原の言葉に、南は視線を下げ少し考えてから口を開く。

南  「‥‥あの人も、不器用だから」

永原 「不器用? ああ、社長のことですか?」

南  「どっちにしろ、サイは投げられてしまったわ。‥‥どっちに転ぶにしろ‥‥ね」

永原 「‥‥南さん‥‥」

 20世紀最後の年。KIZUNAファクトリーにとって、最も長い10日間がこの日から始まった。

[111] KIZUNAファクトリー崩壊!? 投稿者:TAKU@KIZUNA 投稿日:01/02/18(Sun) 18:18
●2000年 12月22日 KIZUNAファクトリー事務所
 
 クリスマスイブまであと2日となり、街は赤と緑に染まっているなか、KIZUNA事務所では、ひとりTAKUこと深沢拓海社長が私物の整理をしていた。

社長  「‥‥う〜〜ん、少ないと思ってたんだけど、意外に私物って多いもんだな‥‥」

南   「ホントに辞めるつもりなんですか?」

    デスクの側で、その様子をじっと見ていた南が口を開く。

社長 「そうですね。まあ、辞表は出しましたし」

南  「私は受理した覚えはありませんよ」

 KIZUNAファクトリーは新女崩壊後、南利美が始めていたスポーツジムの一部門として存在している。そのため、母体となるジムの代表を努める南がオーナーとなる。
 深沢はKIZUNAの社長ではあるが南のジムの社員ということになるのだ。
 
 12月17日に発覚した船木亜矢の『Sitto団』入り。それから始まったフロントと選手の確執は日を追うごとに深まっていった。
 いつしかそれは、選手とフロントの絆までをも侵食しはじめ、団体そのものが崩壊する前に社長が辞職するということで、一応の平穏を見ていた。

社長 「‥‥まあ、どっちでも」

   南の言葉に肩をすくめ、私物の整理を再開する社長。

南  「‥‥あなたが辞めれば丸く収まるとでも思ってるんですか?」

社長 「少なくとも僕が辞めれば、選手の離散はないですよね。KIZUNAファクトリーの存続にはなると思いますけれど」

南  「それは問題からの逃げで、解決じゃないでしょう」

社長 「それでも南さんを中心とした選手同士の絆は切れません。その絆があれば、KIZUNAファクトリーは必ず大きくなると思っています」

南  「それは、あなたもいてこそじゃないんですか? そもそも私に団体作れってそそのかしたのはあなたじゃないですか」

社長 「そそのかしたって、そんな人聞きの悪い。‥‥そりゃ僕だってこの団体には思い入れありますよ。当たり前じゃないですか。でも、僕と選手の絆はもう‥‥」

南  「まだ切れたわけじゃありませんよ」

社長 「切れる寸前ですよ。遠からず切れるでしょうね、このままなら」

南  「でも‥‥」

社長 「いいですか、南さん。僕が残るか、選手が残るか。どちらかを取るならば、僕は迷わず選手が残る道を選びます。選手がいてこその団体です。そしてフロントの仕事は、選手が選手らしくプロレスができるようにサポートすることです。今、僕がこの団体にいることで選手が選手らしくプロレスをできなくなっているのなら、社長としてフロントとして僕が選手にしてあげられることは僕が辞めることなんですよ」

南  「あなたが辞める前にできることがあるでしょう。亜矢のことが亜矢の意思だってことを選手たちに伝えれば‥‥」

社長 「それは絶対に止めて下さい。それは亜矢の自主性に水を差すことになる。今の亜矢に必要なことは自分自身を変えることだって、南さんだってわかっている事じゃないですか」

南  「だからと言って、あなたが辞めたことを知れば悔やむのは亜矢です」

   そんな南の言葉に、まっすぐ南の瞳を見返しながら、社長はきっぱりと言った。

社長 「そんなことは船木亜矢というプロレスラーにとって些細なことです」

   じっとお互いの視線を受け止める南と社長。
   しかし、先に目をそらしたのは南のほうだった。

南  「‥‥とにかく、私はあなたの辞職を認めません。ここまできてあなたがいなくなってどうするんですか。少なくとも新女がああなった後、引退しようと思っていた私はあなたの言葉でこのKIZUNAファクトリーを作る事、現役を続けることを決めたんです。その責任はとってもらいますよ」

社長 「南さん‥‥」

南  「いいですね、私が代表でいるうちはあなたの辞職、退職、休職すべて認めません。どんなことを言ってきてもKIZUNAファクトリーの社長は深沢拓海、あなたです」

 そう言い残して事務所を出て行く南の後姿を、頭をかきながら見送る社長だったが、ひとつため息をつくと私物の整理を再度、始めていた‥‥。

[113] KIZUNAファクトリー崩壊!? その2 投稿者:TAKU@KIZUNA 投稿日:01/02/21(Wed) 06:49
● 2000年 12月25日 KIZUNAファクトリー 南道場

 PM:14:30 
 ジングルベルが流れる街。
 恋人たちの笑顔が輝くクリスマスだというのに道場で練習に明け暮れるKIZUNAファクトリーの面々。だが、その練習にはまったくと言っていいほど身が入っていなかった。

高村  「ねえねえ、まーちゃんは?」

 Tシャツとスパッツ姿で、トレーニングマシンの上にあぐらをかいた高村あかねが、ジャージ姿で黙々と縄跳びをしている神田幸子に声をかけた。

神田  「朝から横浜だ」

高村  「横浜ってDIA?」

神田  「ああ」

 会話が続かなくなりぴしぴしと神田の縄跳び用ロープが床を打つ音だけが道場ないに響く。そんな雰囲気のなか、永原ちづる、荒谷久美、中原千早希が道場へとやってきた。みな、その雰囲気は暗く落ちこんでいる。

永原  「なにやってるの? 集中してやんなきゃ練習の意味ないじゃない」

高村  「だって〜〜〜」

 いつしか、練習するでもなく高村の座りこんでいるトレーニングベンチに、永原、荒谷、中原が集まっていた。
 神田の跳ぶ縄跳びの音が響くなか、重苦しい雰囲気が道場全体を包み始める。

荒谷 「とにかく練習しましょう。あかねたちは27日にDIAで年内最後の試合があるんだから。きちんとトレーニングしとかないと‥‥」

  場の雰囲気を変えようと明るく荒谷が提案するが、誰も動こうとしない。
  そのとき、ぽつりと高村がつぶやいた。

高村 「‥‥社長‥‥ホントに辞めちゃうのかなあ‥‥」

  高村の言葉に、いつの間に輪に加わったのか神田が応える。

神田 「『社長が辞めなきゃあかねが辞める』とか叫んだ張本人のセリフじゃないな」

永原 「神田!」

荒谷 「神田さん!」

   ぐさっときたのか、高村の目が涙目になる。

高村 「さっちゃん、ひどいよ〜〜〜」

神田 「ひどいもなにも事実だろう。‥‥まあ、なにも言わなかった私も高村に同調したのと同じだがな」

 その言葉に、一言も返す言葉のない一同。
 2日前、この道場で社長辞職の話が全員の前で出された。
 南にとっても寝耳に水の話だったらしく、一言「辞める」と言って道場を去って行った社長を追って行き、残された選手一同に動揺が走った。
 売り言葉に買い言葉。
 今回、選手側が引けなくなったのはこの一言につきた。
 高村たちにしてみれば、一言「相談もなしにすまん」という言葉があればここまでムキになることはなかったのだから。

高村 「あかねだって、あんな風に言うつもりなんてなかったもん‥‥」

  目に涙をいっぱいにためながらあかねがつぶやく。

荒谷 「あかね‥‥」

高村 「社長がホントに辞めちゃったら、KIZUNA終わっちゃうのかな‥‥」

永原 「‥‥うじうじ悩んでてもしかたがないでしょう、今は。南さんだっていろいろ手を尽くしてるんだから‥‥」

高村 「‥‥でも‥‥このままだと、KIZUNAはKIZUNAじゃなくなっちゃうよね」

荒谷 「‥‥そうですね。なんだかんだ言ってKIZUNAがKIZUNAらしくあった部分って社長が担っている部分が大きかったですからね」

永原 「確かに。選手には試合と練習以外の団体経営には一切負担をかけられないって、フロント業務、他団体との交渉から選手派遣にまつわる仕掛けとかなにからなにまで社長がやってたからね。誰かにすぐ引き継ぐとかそういうわけにもいかないだろうから‥‥」

 永原の言葉にさらに落ちこむ高村。しかし、そこに神田の言葉が重くのしかかる。

神田 「そう言いながら、まだわだかまりは残っている、違うか?」

  神田の言葉にみな、一様に表情を曇らせた。

高村 「‥‥うん。‥‥あかね、どうしたらいいのかわかんないよ‥‥」

  選手たちのKIZUNAへの思い入れは強い。それは、これまで団体を切り盛りしていた社長に対しても同じだ。しかし、あのときの社長との間に生まれたささいな溝を、みな引きずっていた。

荒谷 「信じてますけど‥‥」

南  「割り切れないものがある?」

  いつの間に、道場に現れたのか南利美が会話に入ってくる。

永原 「南さん‥‥」

高村 「南さん、社長、やっぱり辞めちゃうの?」

南  「選手が残るか、自分が残るか。どちらかを取るのなら団体を活かすために選手が残るべきだそうよ」

永原 「やっぱり‥‥」

   重苦しい雰囲気が道場全体を包み込む。

南  「‥‥現時点ではKIZUNAファクトリーがどうなるのかは私にもわからないわ。あなたたちがどうしたいのかも」

永原 「南さん‥‥」

荒谷 「‥‥それは、私たちの自主性にまかせると言う事ですか?」

南  「今までも私と社長‥‥いえ、今は辞職するわけだから‥‥深沢さんは、あなたたちの自主性を尊重してきたわ。それはこれからも変わらない。続けるのも辞めるのもあなたたち次第よ。ただ言えることは、私が社長を引き継ぐことはできないし、そのための新しい人選をしていられる状況でもないということね。あの人は私が社長になればと考えてるみたいだけど」

高村 「‥‥南さんは社長にならないの?」

南  「そうね。前にも言ったとおり私が社長になるつもりはないし、あの人が辞めるのならこのまま団体を終わらせても、と思っているわ」

 南のその言葉に全員に衝撃が走る。

荒谷 「南さん、それは‥‥」

南  「もともとこの団体はあの人が私と永原の話を聞いて、もっとも良い形にするために立ち上げたものだっていうのはみんなも知ってるわよね。だからと言うわけじゃないけれど、自分で仕掛けたものに対する責任はあの人も負うべきだと思ってるわ。少なくとも、あなたたちもその位の覚悟があって、あの人とケンカしたんでしょう?」

 団体終了、そして崩壊の構図が全員の脳裏によぎる。
 高村がはんべそをかきはじめた時、天野真琴が息せき切って道場へと駆け込んできた。

天野 「‥‥あの! ‥‥って、みんなそろっているんですね‥‥」

   荒い息を吐きつつ、私服姿の天野真琴が道場内を見まわしながら、つぶやいた。

高村 「まーちゃん‥‥」

天野 「み、南さん、社長は今日は来ていらっしゃいますか?」

南  「そうね、さっきまでは事務所で引継ぎ資料をまとめていたようだったけど‥‥」

天野 「そうですか‥‥。悪いんですけど千早希‥‥、ちょっと社長を呼んで来てもらえます? みんなの前で話がありますからって‥‥」

中原 「あ、はい‥‥」

  それまで、ずっとうつむいていた中原がその言葉に、顔を上げ道場を出ようとする。
  それを南が、止める。

南  「‥‥あなたたちが行ったんじゃあの人と話しづらいでしょ。私が行ってくるわ」

   皆を残して道場をあとにする南。

天野 「すみません、よろしくお願いします‥‥」

 永原から渡されたペットボトルのミネラルウォーターを飲み、乱れた呼吸を正そうとする天野。

高村 「まーちゃん、いったいどうしたの?」

天野 「‥‥すみません、もう少し‥‥。駅から、ずっと全力で走ってきたので‥‥」

 いくら駅から道場まで徒歩で30分近くの距離があるとはいえ、天野真琴はプロのレスラーだ。普通に走ってくるくらいならこんなに息が上がるはずがない。
 よほどペースを無視したダッシュをしたきたのだろう。
 真冬の最中だというのに、汗だくになっていた。

高村 「まーちゃん、いったいどうしたの?」

天野 「‥‥DIAの事務所でたに社長にホントのことを聞きました‥‥」

荒谷 「ホントのことって?」

天野 「亜矢の行動のです‥‥」

[115] Re: KIZUNAファクトリー崩壊!? その3 投稿者:TAKU@KIZUNA 投稿日:01/02/22(Thu) 06:16
● KIZUNAファクトリー事務所
  
 DIAへ行っていた天野真琴が帰ってきた。
 そして、社長を呼んでいるという南の言葉に資料の整理をやめて頭をかかえているTAKUこと、深沢拓海社長。

社長 「しまった‥‥」

南  「天野のあの勢いだと、ことの真相をたに社長から聞いたみたいですね」

社長 「口止めするの忘れてた‥‥」

南  「まあ、実際は大した内容のことじゃないし、聞かれればしゃべるでしょうね。あの日に私たちがお願いした内容とか、ことの経緯とか」

社長 「まあ仕方ないですね‥‥。さらに気まずくなる気がしますけど」

南  「どうします? 天野の雰囲気だとあなたに対するわだかまりは、すぐになくなりそうですよ。みんな天野と高村の剣幕に引っ張られたような部分がありましたから」

社長 「予想外なことにばかりおこるな。厄年じゃないんだけどなあ‥‥」

南  「そうそう。私が社長を継ぐ気がないことはさっき選手に伝えましたから」

  南の言葉にいっそう頭が痛くなる深沢社長。

社長 「‥‥とりあえず、道場にみんないるんですよね。行きますか‥‥」

● KIZUNAファクトリー 道場

  社長を待つ間にことの顛末を天野から聞いている選手たち。

荒谷 「‥‥じゃあ、亜矢の『Sitto団』入りって本人の意思だったんだ‥‥」

天野 「ええ。‥‥MICOさん‥‥えっと雪風さんからたに社長が聞いた話だとそういうことになります。南さんと社長も、全部事後承諾だったみたいですね」

永原 「‥‥て、ことは高村も天野も見当違いな怒りかたをしてたってわけね。まあ、私たちもだけど」

天野 「そうなります‥‥」

高村 「なら、なんで言わないの? おかしいじゃない!」

 高村の問いに神田が応えた。

神田 「船木の決断に水をさしたくなかったんだろう。それに、どっちにしろ事実を言ったところで高村と天野のあの剣幕では聞く耳を持たなかったんじゃないか?」

高村 「う‥‥」

 痛いところをつかれて黙ってしまう高村。

神田 「とっかかりは些細かも知れないが、団体としては存続の瀬戸際までくるほどの問題になってしまったんだ。ただ謝ればすむ問題じゃないと思うが?」

 神田の言葉に一同を思い空気が包む。
 そんななか、南と社長が道場へと現れた。
 気まずい空気の中、天野が口を開く。

天野 「‥‥ことの次第は全部、DIAでたに社長から聞きました‥‥」

社長 「‥‥で?」

天野 「‥‥‥‥‥‥」

 言葉を続けることのできない天野。
 沈黙が道場を包み込む。

高村 「‥‥ごめんなさい‥‥」

  あかねがぐずぐずと半べそをかきながらつぶやく。
  その言葉に天野も意を決したかのように頭を下げた。

天野 「事情も知らずに‥‥すみませんでした」

社長 「用はそれだけか? それなら、引継ぎ資料作りが忙しいんだ。戻らせてもらうよ」

 そう言って、背を向ける社長。
 その行動に驚きを隠せない高村。

高村 「社長、どうしたらあかねたちを許してくれるの? KIZUNA辞めないでいてくれるの?」

社長 「許すも許さないも、もともと僕が選手である君たちに不満を持ったわけじゃない。僕自身のミスで君たちの信頼を失ったから辞める。それだけだよ」

高村 「でも、あかねたち、もう‥‥」

社長 「‥‥感情の部分は問題ないのかも知れない。時間もたったしね。だからといって君たちとの絆が切れるような事態になったのは事実だ。KIZUNAファクトリーはその名のとおり、選手と団体に関わるすべての人々との絆が団体の根幹を成していなければならない。その絆から外れた者は去る。そうじゃないとKIZUNAがKIZUNAらしく在ることはできない」

 社長の言葉に返す言葉のない高村。
 そしてそれはほかの選手にしても同じだった。
 誤解とはいえ、絆を結ぶなかで最も重要な信頼をさきに忘れたのは自分たちだったのだから。

天野 「‥‥ですが、まだ絆そのものは切れてないと思います。なら、わたしたちに‥‥いえ、わたしにチャンスをください!」

社長 「チャンス?」

天野 「今回の件は、わたしが一時の感情で引き起こしたものです。ですから‥‥」

高村 「違うよ、まーちゃんだけの責任じゃないよ」

天野 「‥‥いえ、わたしです‥‥」

  そこで一旦言葉を切り、天野は軽く深呼吸をした。

天野 「わたしはこのKIZUNAファクトリーが好きです。だから‥‥わたしが社長の信頼を失ったわけじゃないことを証明してみせます」

社長 「証明するってどうやって?」

天野 「‥‥27日のDIAでのインディージュニアタッグの防衛戦。わたしと宮本さんがベルトを防衛できたら、KIZUNAの社長辞任を撤回してもらいます」

 論理的でも整合性もない、天野の言葉。
 だがプロレスラーとして天野真琴が宣言したその言葉には不思議な説得力があった。

 そして、運命の日。
 2000年12月27日。
 運命のゴングは鳴り、23分55秒勝負はついた。
 天野真琴は賭けに勝ち、そしてKIZUNAがファクトリーにとって長かった10日間は終わった。
 

[109] 乙姫の悲しみ、里見の決意、香月の思惑 投稿者:daiya◆K・たに 投稿日:01/02/06(Tue) 22:13
2000.2.5 横浜・DIA-J寮/道場

ストロンガー「ぅうりゃあああ!」
 必死の形相で、ストロンガーが乙姫を巻き込み倒しでマットに沈める。
 1、2……3!!
 カンカンカンカーン!
MICO 「……は、ははっ! 乙姫! これであなたもおしまいですわ! ざまあみなさい!」
   ・
   ・
   ・
 ……いや。
 ……いやだ。
 ……またひとりになっちゃうのは、もういやだ……。
   ・
   ・
   ・
 時間は、すでに昼の12時を回っていた。
 しかし、乙姫はいまだ部屋でふとんをかぶったままであった。
 ……時折、身体を震わせながら。
乙姫  「……ぐすっ……これで……また、ひとりに戻っちゃうんだ……」

 一方、里見恵理もまた、練習には出ていなかった。
 寮の裏手にある神社の境内に、力なく腰掛け、ぼんやりと宙を見つめていた。
里見  「そういや、最初にここで乙ちゃんを見た時は、驚いたなあ……」
 まだ里見がここに来て間もないころ、夜こっそり抜け出す乙姫を追いかけ、乙姫がワラ人形を打っているところを見てしまった里見。
 そんな乙姫との思い出を振り返ることも、今ではちょっと悲しい気分になってしまうことに過ぎない。
 ……あの部屋には、何となくいられなかった。
 でも、練習に出る気にも、なれなかった。
里見  「……結局、ウチは、何にも、できんかった……」
 里見は、下を向いて唇を噛みしめた。
里見  「……そうや。乙ちゃんの足を引っ張ってたのはウチや……ないか!」
 静かだ。
 時折、聞こえるカラスの声と、風の音以外は、何も聞こえない。
 そんななか、思い詰めた表情の里見が、ゆっくりと立ち上がる。
里見  「……やっぱり、帰ろう」
 本当に、力ない小さな声で、そうつぶやきながら。

香月  「おい! 里見と乙姫はどうした!!」
 一方、DIA-J道場では、普段通りの練習が行われていた。
星野  「部屋に、いるんじゃないかと思います……。呼んでも、出てこなかったので……」
香月  「……ったく。誰か、呼んでこい!」
星野  「は、はい!」
 凄い剣幕で怒る香月に言われ、道場の外に飛びだした星野。
 どかっ!
 いきなり、何かにぶつかった。
里見  「ひょええええ!?」
星野  「うわああああ!? ……って、里見ちゃん!?」
 どうやら星野は、道場の扉の前でに立っていた里見と、正面衝突したようである。
 目の前で、尻餅をついた格好でびっくりしている里見。
星野  「ちょうど良かった。香月さんが、呼んでいるよ。早く行かないと、まずいよ」
里見  「は、はいな……」
 どこか元気のない様子で、里見が星野と一緒に道場に入る。
里見  「す、すみません、遅れました! あ、あの、それで、香月さんにお話しが……」
香月  「……里見か。乙姫はどうした?」
里見  「……え!? あ、たぶん、いないなら、まだ部屋かと……」
香月  「とっとと連れてこい」
里見  「あ、いや……」
香月  「聞こえなかったのか!?」
里見  「は、はい!」
 すごい表情で怒っている香月に逆らえず、あわてて道場を飛びだす里見。
里見  「……はあ。しゃあないなあ」

 コンコン。
里見  「入るで〜?」
 里見が部屋に入ってみると、案の定乙姫はまだふとんの中だった。
里見  「乙ちゃん?」
乙姫  「…………」
里見  「香月さんが、呼んでるで」
乙姫  「……香月、さま……が?」
 香月の名前を聞いて、乙姫がようやく起き上がる。
 その瞳は、真っ赤になっていた。

香月  「……来たか」
 とりあえず顔を洗った乙姫とともに、里見が道場に戻ってくる。
 道場には、リング上に香月がいる以外は、誰もいなかった。時間的に、おそらく昼のロードワークなのだろう。
 道場に入ったところで、立ち止まる2人。
香月  「何やってる。とっとと上がれ」
 普段よりも、さらに低い声。厳しい口調。そんな香月に逆らえるワケもなく、2人がリングに上がり、香月と向かい合う。
香月  「……若手の分際で練習をさぼるとは、いい度胸だ」
里見  「す、すみませんでした!」
乙姫  「……ごめんなさい」
 深々と謝る2人。
 しかし、その後、里見が意を決したかのように、香月に向かい合う。
里見  「あ、あの、香月さん。お話が、あります」
香月  「何だ?」
 香月の迫力にびびる里見。しかし、再び厳しい表情に戻り、ゆっくりと、言葉を紡ぎだす。
里見  「いままで、ながらくお世話になりました。ウチ、レスラーは諦めて田舎へ帰ろうかと…」
乙姫  「……!?」
 乙姫が、驚いた様子で顔を上げる。
 一方、顔色ひとつ変えずに里見をにらみつける香月。
 静かで、重苦しい雰囲気が、道場のリング上を覆っていく。
香月  「……乙姫、ちょっと下がってろ」
乙姫  「……は、はい」
 香月ににらみつけられた乙姫が、静かにリングを下りる。
 ぱあぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!
乙姫  「……!!??」
 それと同時に、香月の張り手が里見に入った。
 さらに、乙姫のことなどお構いなしに、里見にボディスラム、ドロップキックなどを繰り出す香月。
香月  「……ふざけんなよ!? お前のプロレスに賭ける気持ちはその程度!?」
 次々と里見を投げ飛ばしていく香月。
香月  「斎藤が率いてる信戦組ってのは、そんなに甘っちょろいことで通用する団体だったのか!?」
 さらにはスリーパーで里見を締め上げる。
香月  「お前に見込みがあるかもしれないと見た私の目が節穴だったって言いたいのかよっ!? 馬鹿にするな!」
 そして再び、里見をボディスラムで叩きつける。
香月  「……乙姫もだ」
乙姫  「…………」
香月  「また、突然失踪したり、里見とコンビが組めなくなったからって、やめようとしたりしてるんだろ? 違うか?」
 否定できず、ただうつむく乙姫。
香月  「プロレスをなめんなよ。やられたらやりかえせばいいだろうが。いくら力があろうと、やる気がなければ何の意味もない。そんなのはお客さんに失礼だ。帰りたければ帰れ」
 今まで見せたことのないような厳しい表情で、里見と乙姫をじっと見つめる香月。
 立ち尽くす乙姫と、上半身だけ起こしてうつむく里見。
里見  「……う……」
 その時、里見が立ちあがった。
里見  「ウチが間違ってましたぁっ! お願いや、あいつらに勝つまでウチを置いてーな!」
 泣きながら、里見が香月に土下座する。
香月  「本当にわかったのか?」
里見  「はい!」
香月  「もうこんなこと言うなよ」
里見  「はい!」
香月  「よし。じゃ、さっそく練習だ。ロードワーク、行ってこい」
里見  「はいな!」
 里見が、リングを下りる。
里見  「……乙ちゃん? さ、ロードワーク、行こ」
 乙姫が、里見の前で立ち尽くす。
乙姫  「……いいの?」
 と言って、香月の方を見る。
香月  「何言ってんだ。とっとと行け」
乙姫  「でも、里見ちゃんとは、もう……」
香月  「またワケの分からないことを……確かに、試合でのタッグ結成は当分認めない。ただ、誰も練習を一緒にするな、なんて言ってないだろ。いいから、とっとと行け」
乙姫  「は、はい」
 そして、里見と乙姫は、2人で道場を出て、ロードワークに行くのであった。

 一方、道場。
越後  「……香月」
 裏口から、越後が出てくる。
香月  「なんだ、聞かれちゃったか」
越後  「すまない。入るわけにも行かず……。だが、こういうことを言うのも何だが、あの2人、特に里見はまだしも、乙姫はレスラー向けの性格じゃないと思う」
香月  「だから?」
越後  「……えっ」
香月  「……確かに、乙姫の性格は、明らかにレスラー向けじゃない。ただ、それを補って余りある、何かがある」
越後  「……人気か」
香月  「いや。それもあるが、それだけでもない。越後だって、薄々気づいているんじゃないのか?」
越後  「確かに。しかし……」
香月  「まあ、これからのことは、また考えていくよ。……じゃ、練習しよっか」
越後  「そうだな」

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※このエピソードは阿僧祇さんのプロットを元に、daiya-kが書いたものです。